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【リサイクル義務化/課題と商機】「ウチは義務の対象なのか」法令あいまい、企業は困惑

ベトナムで2024年1月から「拡大生産者責任(EPR)」制度の運用が始まる。増え続けるごみの排出に歯止めをかけることが目的で、対象となる製品と包装類を生産、輸入する事業者は一定比率のリサイクル、もしくは金銭的負担が義務付けられる。ただ根拠法令となる政令8号(08/2022/ND—CP)は、義務を負う主体が誰なのかなど不明確な点が多く、政府に規定の明確化を求める声が上がっている。

スアンソン処分場。風向き次第で悪臭が数キロ先にまで届くという=5月、ハノイ

車を降りると生ごみの悪臭が鼻を突いた。ハノイ中心部から西に約60キロメートルの郊外にある同市ソンタイ町。農地に挟まれた曲がりくねった道を行くと、黒いシートに覆われた丘が現れる。1日1,500トンの一般ごみなどを受け入れ、埋め立てているスアンソン処分場だ。
3キロ離れた飲食店の店主は、「風向きによっては、窓を開けられないほど臭くなる」と嘆く。環境の悪化に耐えかねてトラックの処分場への乗り入れを阻止する抗議運動がしばしば起き、市のごみ収集に混乱を引き起こしてきた。
■ごみの量、日本以上に
スアンソンの隣接地では廃棄物発電所の建設が進んでおり、完成すればごみの一部は焼却されるため、埋め立てられるごみの量は減ることが期待されるが、増え続けるごみは焼却量を超え、根本的な解決にはほど遠い。
世界銀行などの報告書によれば、ベトナムの家庭ごみは年率4.7%で増え、30年には年5,406万トンに達する見通しだ。19年度の日本の一般ごみの総排出量を2割余り上回る規模となる。ごみの急増に危機感を強めた政府が導入を決めたのが、国内に拠点を置く企業に廃棄・リサイクルに責任を持たせるEPR制度だ。
EPRを規定した政令8号は、循環型経済への移行を目指して20年に制定された改正環境保護法(72/2020/QH14)の施行細則として22年に公布された。対象は包装用品や電気製品など6分野38品目のごみで、販売後に一定比率のリサイクルを義務付けている。リサイクルをしない場合は、政府の「環境保護基金」に拠出金を支払う必要がある。
各分野で品目ごとに定められたリサイクル率は、◇包装用品=10~22%◇電気製品=5~15%◇潤滑油=15%◇電池=8~12%◇チューブ・タイヤ=5%◇車両=0.5~1%——。リサイクルの義務は、包装用品、電池、潤滑油、チューブ・タイヤの4分野が24年1月1日、電気製品が25年年初、車両が27年年初から発生する。リサイクル率は4年目以降3年ごとに改定され、段階的に上昇していく仕組みだ。
ただ、政令8号にはいまだに大きな不備がある。最大の問題は、リサイクル義務を負う主体がはっきりしていないことだ。同政令では「(対象製品を)ベトナム国内市場で販売するために製造・輸入する」一定規模以上の組織・個人と規定しているが、北部でプラスチック容器を生産する日系サプライヤーの社長は、「誰が、何を、どこまでやればいいのかいまだに分からない」と頭を抱える。
同社が生産する容器には取引先が製造する化学品が充塡(じゅうてん)され、取引先メーカーのブランド名で出荷されている。一つの製品でも、原材料の調達から加工製造、販売に至るサプライチェーン(供給網)で、義務を負う主体は実際の製造業者か、同社から製品をOEMで調達しているブランド企業か、それとも販売店なのか。「責任の分担が曖昧なため、準備のしようがない」(同社長)のが実態だ
社長は同社の容器はそもそもリサイクル対象品目ではないと法令を解釈しているが、確信を持てないでいる。地域の環境当局にも問い合わせたが、回答は得られていないという。
■産業界、拠出金の基準に反対
リサイクルの範囲と義務の主体が不明確なことから、多くの企業は環境保護基金への拠出で義務を果たすことを検討している。
基金への拠出額は、対象品目の「輸入もしくは生産した重量」と「最低リサイクル率」に、政府が別途定める「キロ当たりのリサイクルコスト」を掛け合わせて算出する。
品目ごとに規定されるリサイクルコストは、天然資源・環境省が4月末に草案を公表したが、産業界からは早速反発が起きている。食品やプラスチック、自動車などの14の業界団体は連名の意見書で、草案に盛り込まれたサイクルコストは「信頼性に欠ける」と再検証を提唱した。拠出額の水準は生産コストに直結するだけに、産業界にとって気が気ではない。
天然資源・環境省の草案によると、重さ100キログラムの家庭用冷蔵庫の拠出金は、当初1台当たり約4万7,000トン(約2米ドル、286円)と規定された。5,000円程度する日本の家電リサイクル料金より大幅に安いが、業界関係者は「利益ベースでは圧迫要因になる」と警戒感を示す。最低リサイクル率が3年ごとに引き上げられることを踏まえれば、将来的な負担は増していく。
意見書を公開した14団体は、リサイクルコストの見直しとともに、制度導入から2年は罰則を適用しないことや、リサイクルと基金への拠出の双方を組み合わせて義務を履行できるようにすること、部品メーカーの責任の明確化などを求めた。
ベトナムではこれまでも企業に影響が大きい新制度を導入するたびに、法令解釈を巡る混乱や直前の見直しなどが繰り返されてきた。規定に関する不明点が多いことに対しては、早急な明確化を求める声がある一方で、制度導入を延期すべきだとの声もささやかれ始めている。

スアンソン処分場周辺の道路に投棄された廃棄物=5月、ハノイ
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3キロ離れた飲食店の店主は、「風向きによっては、窓を開けられないほど臭くなる」と嘆く。環境の悪化に耐えかねてトラックの処分場への乗り入れを阻止する抗議運動がしばしば起き、市のごみ収集に混乱を引き起こしてきた。
■ごみの量、日本以上に
スアンソンの隣接地では廃棄物発電所の建設が進んでおり、完成すればごみの一部は焼却されるため、埋め立てられるごみの量は減ることが期待されるが、増え続けるごみは焼却量を超え、根本的な解決にはほど遠い。
世界銀行などの報告書によれば、ベトナムの家庭ごみは年率4.7%で増え、30年には年5,406万トンに達する見通しだ。19年度の日本の一般ごみの総排出量を2割余り上回る規模となる。ごみの急増に危機感を強めた政府が導入を決めたのが、国内に拠点を置く企業に廃棄・リサイクルに責任を持たせるEPR制度だ。
EPRを規定した政令8号は、循環型経済への移行を目指して20年に制定された改正環境保護法(72/2020/QH14)の施行細則として22年に公布された。対象は包装用品や電気製品など6分野38品目のごみで、販売後に一定比率のリサイクルを義務付けている。リサイクルをしない場合は、政府の「環境保護基金」に拠出金を支払う必要がある。
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ただ、政令8号にはいまだに大きな不備がある。最大の問題は、リサイクル義務を負う主体がはっきりしていないことだ。同政令では「(対象製品を)ベトナム国内市場で販売するために製造・輸入する」一定規模以上の組織・個人と規定しているが、北部でプラスチック容器を生産する日系サプライヤーの社長は、「誰が、何を、どこまでやればいいのかいまだに分からない」と頭を抱える。
同社が生産する容器には取引先が製造する化学品が充塡(じゅうてん)され、取引先メーカーのブランド名で出荷されている。一つの製品でも、原材料の調達から加工製造、販売に至るサプライチェーン(供給網)で、義務を負う主体は実際の製造業者か、同社から製品をOEMで調達しているブランド企業か、それとも販売店なのか。「責任の分担が曖昧なため、準備のしようがない」(同社長)のが実態だ
社長は同社の容器はそもそもリサイクル対象品目ではないと法令を解釈しているが、確信を持てないでいる。地域の環境当局にも問い合わせたが、回答は得られていないという。
■産業界、拠出金の基準に反対
リサイクルの範囲と義務の主体が不明確なことから、多くの企業は環境保護基金への拠出で義務を果たすことを検討している。
基金への拠出額は、対象品目の「輸入もしくは生産した重量」と「最低リサイクル率」に、政府が別途定める「キロ当たりのリサイクルコスト」を掛け合わせて算出する。
品目ごとに規定されるリサイクルコストは、天然資源・環境省が4月末に草案を公表したが、産業界からは早速反発が起きている。食品やプラスチック、自動車などの14の業界団体は連名の意見書で、草案に盛り込まれたサイクルコストは「信頼性に欠ける」と再検証を提唱した。拠出額の水準は生産コストに直結するだけに、産業界にとって気が気ではない。
天然資源・環境省の草案によると、重さ100キログラムの家庭用冷蔵庫の拠出金は、当初1台当たり約4万7,000トン(約2米ドル、286円)と規定された。5,000円程度する日本の家電リサイクル料金より大幅に安いが、業界関係者は「利益ベースでは圧迫要因になる」と警戒感を示す。最低リサイクル率が3年ごとに引き上げられることを踏まえれば、将来的な負担は増していく。
意見書を公開した14団体は、リサイクルコストの見直しとともに、制度導入から2年は罰則を適用しないことや、リサイクルと基金への拠出の双方を組み合わせて義務を履行できるようにすること、部品メーカーの責任の明確化などを求めた。
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