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労務紛争解決手段の概要

1.日本

(1) 労働紛争解決手段について

日本において、労働紛争が発生した場合、同紛争の解決のためには、主に、裁判外での交渉(行政機関によるあっせん手続きを含む)、労働審判、民事訴訟の手続きを採ることが考えられます。

(2) 各手続きの概要

ア 行政機関によるあっせん手続きについて

紛争調整委員1名により実施され、事業主と労働者の双方が話し合いによる合意を目指します。もっとも、同話し合いはあくまで当事者の任意によるものであり、片方当事者が不参加の場合には、同手続きは終了することになります。

仮に双方で合意がなされた場合、同合意は法的には民事上の和解契約と位置付けられ、同合意のみを理由に強制執行等を行うことはできません。

イ 労働審判について

労働審判とは、労働審判委員会(労働審判官(裁判官)1名、労働審判員(労使)2名)により実施され、事業主と労働者の双方が、主張・立証をしつつも、話合いによる合意を目指して、3回以内の期日で終結することを想定した手続きです。民事訴訟に比べて、早期かつ柔軟な解決ができるため、労働者や事業者双方にとって重要な手続きであるといえます。また、合意内容は裁判上の和解と同じ効力を持ち、強制執行を行うことも可能です。

労働審判手続中に調停が成立しない場合には、労働審判が下されることになり、当事者のどちらかから異議が出される場合には訴訟手続きに移行します。

ウ 民事訴訟について

労働紛争を最終的に解決する手段として、民事訴訟を提起することが考えられます。

行政機関によるあっせん手続きや労働審判と異なり、両当事者の主張・立証を踏まえて、裁判官による最終的な結論が出されることが大きな特徴といえます。

民事訴訟においては、両当事者が期日までに、準備書面や反論の書面を提出し、場合によっては証人尋問を行うこともあるため、紛争解決が長期化するケースも多いです。

なお、民事訴訟に移行した後であっても、必ずしも判決まで行われるわけではなく、裁判の進行中に裁判から和解勧告を受けることもあります。そのため、この段階に至った場合であっても、当事者間で和解を行うことは可能です。

(3) その他の手続きについて

その他、労働紛争においては、仮処分の申し立てが考えられます。具体例として、労働者から従業員として賃金を受けとることができる地位の申し立てを行うこと、事業主からは元従業員が、競業避止義務に違反して競業行為を行っている場合に、同競業行為を止めるよう仮処分の申し立てを行うこと等が考えられます。

また、労働組合による団体交渉手続きも考えられます。労働組合による団体交渉は、労働者の労働条件の向上を目指して行われることが多く、事業主が正当な理由なく団体交渉を拒否、または不誠実な対応をした場合には、違法とされます。

2.タイ

(1) 労働紛争解決手段について

タイの労働紛争解決手段のうち、労働者が労働問題に関する申立てを行う手段としては、労働監督官への申立て、労働関係委員会への申立て、労働裁判所への提訴の3つが考えられます。

(2) 各手続きの概要

ア 労働監督官への申立て

使用者が労働者保護法に定める金銭の受領にかかる権利について違反または履行しなかった場合において、労働者は、労働者の就業場所または使用者の居住地の労働監督官に対し、申し立てを行うことができます。同申立てが行われた後、労働監督官による事実調査が行われ、労働者に金銭を受領する権利があると判断した場合には、監督官は使用者に対し、当該金銭を支払うよう命じることになります。

 

使用者が同命令に不服がある場合には、命令を知った日から30日以内に労働裁判所に訴訟を提起することが可能です。

イ 労働関係委員会への申立て

使用者が労働者の労働組合員としての活動を不当に妨害した場合において、労働者は当該行為があった日から60日以内に労働関係委員会に申し立てを行うことができます。当該申立てを行った後、労働関係委員会は審理を行い、使用者に命令を下すことになります。

同命令に対し、不服がある場合には、同委員会に異議申し立てを行うことができ、同異議に対する委員会の決定に不服がある場合に、労働裁判所への異議申し立てを行うことが可能です。

ウ 労働裁判所への提訴

タイでは、一般民事を取り扱う裁判所は別に労働裁判所が設置されています。タイの労働裁判は、裁判官と補助官によって実施されます。補助官とは、裁判官とともに職務を遂行するため特別に選任された者であり、日本の労働審判員と似た制度です。補助官は使用者側、従業員側に区別され、必ず同数とされます。

したがって、タイの労働裁判は、通常、裁判官1名、補助官2名(使用者側1名、従業員側1名)合計3名という構成で実施されることが一般的です。訴訟提起後、第1回期日では、和解の機会が持たれることが通常であり、和解がまとまりそうであれば、その後、第3回期日までは、和解期日として設定されることが一般的です。

なお、タイでは、労働裁判所への提起が無料であり、かつ法律の知識が無い者に対しては、裁判所の職員が訴状作成の手助けをしてくれるため、労働者にとっては労働裁判を提起することへのハードルは低く、使用者にとっては訴訟を提起されるリスクは日本に比べて高いといえます。

(3)その他の手段

その他の労働者が取りうる手段として、団体交渉があります。

同手続きは、労働者または使用者が相手方に対し、要求書を提出することから開始します。その後、3日以内に交渉が合意に達しなかった場合には、労働争議が発生したとみなされ、労働争議調停官への通知を行います。労働争議調停官は5日以内に合意のために調停を行い、調停が成立しない場合には、労働争議仲裁やストライキやロックアウト等の争議行為に移行することになります。

3.マレーシア

マレーシアにおいて、労務紛争を扱う手続としては、主に、1955年雇用法(Employment Act 1955)に基づく労働裁判所(Labour Court)、1967年労使関係法(Industrial Relations Act 1967)に基づく人的資源省労使関係局の斡旋及び産業裁判所(Industrial Court)があります。

(1) 労働裁判所

労働裁判所は、雇用法に基づき、労働者に対する賃金の支払い等を取り扱う、人的資源省労働局が所管する準司法機関です(雇用法69条)。労働者は、労働裁判所において、職場における差別に関する請求を行うこともできます(同法69F条)。労働裁判所では、労働局担当官が裁判官の役割を果たします。労働裁判所は、労働組合による苦情処理制度を持たない労働者の権利を保護する役割を担っています。

(2)人的資源省労使関係事務局の斡旋

使用者又は労働組合は、労務紛争が存在し、又はそのおそれがある場合において、解決されない場合には労使関係事務局長に報告することができます(労使関係法18条(1))。また、労使関係局長は、労務紛争が存在し、又はそのおそれがある場合において、公共の利益のために必要と判断した場合には、紛争解決のための必要な手続きをとることができます(同法18条(3))。労働関係局長は、紛争が解決できないと思料する場合は、人的資源省相に通知します(同法18条(5))。人的資源省相は、適切であると思料する場合には、案件を産業裁判所に付託します(同法20条(3))。

(3) 産業裁判所

産業裁判所は、労使関係法21条に基づいて設置された、労使間の紛争、労働組合と使用者間の紛争及び同法に基づく権利義務関係違反に関する紛争等の労働紛争を扱う特別裁判所です。産業裁判所の審理においては、個別の案件ごとに、裁判官と労使委員2名で構成されます(同法22条(1))。

産業裁判所は、下級裁判所としての機能を有しているため、産業裁判所の判決に不服の場合には、高等裁判所に上訴することができます(同法33A条(1))。

4.ミャンマー

(1) 労働紛争解決法の概要

労働紛争法(The Trade Disputes Act, 1929)を改定する形で、2012年3月28日に労働紛争解決法が制定されました。その後、2019年6月3日、労働紛争解決法第2次改正法(以下、「改正法」という。)が成立しました。同法は労働紛争の解決方法や職場調整委員会などについて規定しています。

(2) 労働紛争解決の流れ

30人以上の労働者がいる事業所の場合、使用者は職場調整委員会を設置しなければなりません。職場調整委員会の構成は労働組合の有無によって異なります。

労働組合が設置されている場合には、組合から3名の代表者及びこれと同数の使用者代表から委員を選出する必要があります。

労働組合が設置されていない場合、労働者が選出した労働者代表3名及び使用者代表3名を選出する必要があります。

労働者が、30名未満であるために職場調整委員会が設置されていない場合、使用者が労働者の苦情について対応しなければなりません。労働者が、使用者に対し、苦情を申し立てた場合、使用者は7日以内に解決しなければなりません。

職場調整委員会において解決できない場合、紛争解決の流れは以下のとおりです(図1参照)。

労働紛争解決法に基づく団体紛争解決の流れ
当事者は、本法に基づく機関において審理中であっても、刑事または民事裁判を提起することを妨げられません 。

5.メキシコ

(1) 概要

メキシコの労働紛争は、原則、連邦労働調停登録センター(Centro Federal de Conciliación y Registro Laboral; CFCRL)または州の調停センターによる調停を行い、それでも解決できない場合に、労働裁判所にて審判を図り解決します。ただし、以下に関連する事案は、調停を経ることなく、労働裁判所での裁判による解決を図ることとなります。

  • 妊娠を理由とした雇用や就業に関する差別、性別、性的指向、人種、宗教、民族的出身等による差別や嫌がらせ
  • 労働者が死亡した場合の受益者の指名
  • 労災、出産、病気、障害、育児に関する社会保障の利益
  • 団結の自由、団体交渉権の保障、労働者の人身売買や強制労働、児童労働に関連する基本的権利と公共の自由の保護
  • 労働協約の所有権をめぐる紛争
  • 労働組合規約やその修正への異議申立

なお、調停センターにはCFCRLと州調停センターがあり、労働裁判所も連邦労働裁判所と州労働裁判所あります。連邦機関が管轄する産業は次のとおりです。

繊維業、電気産業、映画産業、ゴム産業、製糖産業、鉱業、冶金及び鉄鋼業、炭化水素産業、石油化学産業、セメント産業、石灰産業、電子・機械部品を含む自動車産業、製薬化学・医薬品を含む化学産業、紙パルプ産業、植物油脂産業、食品製造・加工業、飲料水製造業、鉄道、製材・合板・集成材の製造を含む伐採産業、鍛造ガラス版やガラス容器製造に係る焼き付けガラス産業、たばこ産業、銀行業、貸付業

このほか、連邦政府が管理する企業や、連邦政府調達先企業等における紛争、上述以外の産業にかかる事案であって2つ以上の州にまたがる事案や労働者に対する教育訓練、安全衛生に関する事案は、連邦機関の管轄となります。

(2) 調停

調停は、CFCRLまたは州調停センターへの書面または電子的方法による申立によって開始されます。調停センターは申立の受理から15営業日以内に調停を実施しなければならず、調停期日は使用者に対して5営業日前までに通知されます。なお、調停が、両当事者によって調停センターに直接申し立てられた場合、調停は即日行われるか、または申立から5営業日以内に調停期日が定められ通知されることとなります。

調停では、調停人によって、和解合意案が提案され、これに両者が合意した場合は、和解合意書が作成され、両当事者には認証謄本が渡されます。また、調停議事録の認証謄本も提供されます。両者が合意に至らない場合、十分な調停が尽くされたとする証明書が発行されます。

調停期日に当事者の一方または両方が正当な理由によって出席しない場合は、期日はその日から5営業日以内の間で延期され、新たな期日が通知されます。正当な理由なく被申立人が欠席した場合、十分な調停が尽くされたとする証明書が発行され、正当な理由なく申立人が欠席した場合は、手続が中止されます。いずれの場合も、労働者は再度調停を申し立てる権利を有します。

(3) 労働裁判

労働裁判は、大きく通常手続と特別手続に分けられ、以下に関する紛争は特別手続が、それ以外の紛争は通常手続が取られます。

  • 非人道的で過度な長時間労働
  • メキシコ国外での労務の提供においてメキシコ国内で締結された雇用契約書の承認
  • 使用者が労働者に賃貸する住居、使用者が労働者に提供する教育・訓練、労働者の勤続年数や勤続手当
  • 船員における予め定めた場所への移送、船舶の押収や毀損等による雇用関係の終了の際の船員の権利や補償、船舶の残骸や貨物の回収を船員が行う場合の給与等
  • 航空機乗務員の異動に伴う費用負担や航空機が使用できなくなった場合の移動にかかる賃金や費用
  • 労働災害による障がいや死亡への補償や産業医の選任に起因する紛争
  • 給与3カ月分を超えない額の給付や福利厚生に関する紛争
  • 死亡または失踪時の給与等の受取人に関する紛争
  • 社会保障に関する紛争

通常手続は、次の流れで進められます。

  • 提起

原告は、原告や被告に関する情報、要求の内容、要求の根拠となる事実等を記した書面を提出します。なお、一部の例外を除き、当該書面には、調停センターが発行した「十分な調停が尽くされたとする証明書」を添付する必要があります。

  • 答弁及び反訴

労働裁判所は、当該書面の受理から5営業日以内に被告を召喚し、書面や添付された証拠の写しを提供します。被告は、写しの受領から15営業日以内に正確に事実を押さえ原告の主張に全て答える内容の答弁書と十分な証拠を提出しなければなりません。また、被告は、この時、反訴を提起することもでき、労働裁判所は、反訴を認める場合、15営業日以内に原告を召喚し、反訴原告の反訴状や証拠の写しを提供します。この場合、原告は、15営業日以内に答弁書と証拠を提出しなければなりません。

  • 異議等の申立

提出された答弁書や証拠の写しは、原告に提出され、原告は8営業日以内に、これに対する異議やその証拠を書面で提出しなければなりません。提出された異議等は、その写しが被告に提出されます。被告は、5営業日以内にこれに対する異議やその証拠を書面で提出します。反訴が提起された場合、その反訴についても同様となります。

  • 予備審理

異議や証拠の提出期間を経過すると、10営業日以内に予備審理の期日が設けられます。予備審理では、手続の正当性の検証や証拠の確定、争いのない事実の確定、審問期日の決定等が行われ、合意書が作成されます。

  • 審理

合意書の作成から20営業日以内に審理の期日が設けられます。審理では、証拠の開示と確定、当事者の弁論を行い、判決が下されます。

なお、被告が原告の主張を認める場合、その日から10営業日以内に審理の期日が設けられ、判決が下されます。

特別手続の流れも、通常手続と同様ですが、答弁書の提出期間は10営業日、被告の答弁書に対する原告の異議等の提出は、答弁書等の写しの受領から3営業日以内に設定されています。労働裁判所は、異議や証拠の提出期間経過後15営業日以内に、証拠や論点を確定するための命令を出します。また、必要がある場合には、10営業日以内に予備審査を設定することができます。

(4) 経済的性質の集団紛争

労働協約(contrato colectivoやcontrato-ley)における新しい労働条件の実施や労働条件の変更(正当化する経済的要因がある場合や、生活費の上昇が収入と労働に不均衡をもたらす場合に認められ)、集団的労働関係の中断や終了(不可抗力や使用者の死亡に起因する場合、使用者に帰責事由のない原材料の不足、資金不足や破産等の事由がある場合に認められる)を目的とする紛争は経済的性質の集団紛争として扱われ、労働協約を締結している労働組合、労働者の過半数または使用者が提起することができます。

この場合の労働裁判は、ⅰ)書面による提起、ⅱ)被告による答弁(15営業日以内)、ⅲ)原告による応答(答弁から5日営業日以内)、ⅳ)審問(25営業日以内)期日より10日前までに専門家による証拠や意見を提出させることができる。ⅴ)判決(30営業日以内)と進められます。

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、2006年バングラデシュ労働法(以下「労働法」という)と、EPZに適用されるEPZ労働法にて、労務紛争解決について定められています。

(1) 2006年バングラデシュ労働法

労働者・使用者は、労働法に基づく権利について争いがある場合、書面において相手に通知しなければなりません(210条1項)。本通知を受領して15日以内に、使用者と労働者との間で会議を開く必要があります。

(a) 調停・仲裁手続

会議が開かれない場合、又は、最初の会議から1か月経過しても和解に至らない場合は、調停手続きを申し立てることができます(210条4項)。調停に付された場合、10日以内に調停が開始されます(同条6項)。調停による和解が30日以内に成立しない場合、調停人は、当事者に対し、仲裁に進むよう説得し、両当事者が仲裁に合意した場合、調停を仲裁に付するよう請求します(同条9項,同条12項)。

仲裁に付された場合は、30日以内に、仲裁人が裁定を下さなければなりません(同条14項)。裁定は最終的なものとし、上訴はできません(同条16項)。

(b) 労働裁判所による手続き

各当事者は、労働裁判所に権利の執行を求めて訴えることができます(213条)。労働裁判所は、訴訟が提起されてから10日以内に、相手方に供述書または反論書を提出するよう指示します(216条3項)。相手方が、定められた又は延長された期間内に供述書または反論書を申し立てなかった場合、当事者の一方だけで審問し、処理されます(同条5項)。相手方が審理に欠席した場合も同様です(同条8項)。労働裁判所は、当事者が書面にて延長に合意しない限り、訴訟が提起されてから60日以内に判決、決定または裁定をします(同条12項)。

労働裁判所の判決に異議がある場合は、60日以内に労働上訴審判所に訴訟を提起することができ、労働上訴審判所の決定が最終判決となります(217条)。審理については、民事訴訟法の規定に従います(218 条7項)。労働上訴審判所は、申し立てに基づき、労働裁判所の決定を確定、変更、棄却または再審理のために労働裁判所に差し戻すことができます(同条10項)。労働上訴審判所は、訴訟が提起されてから60 日以内に判決を下します(同条11項)。

(2) EPZ労働法

(a) 調停・仲裁手続き

調停・仲裁手続きまで、労働法と同様ですが(124条1項、2項)、15日以内に使用者と労働者で和解に至らなかった場合、調停を依頼することができます(126条)。15日以内に調停人による和解が成立しなかった場合、使用者又は団体交渉人は、30日の事前通知にて、ストライキ又はロックアウトを実施することができます(127条1項)。同通知は、調停人にも送付されるものとし(128条1項)、調停人は、ストライキまたはロックアウトを実施が、法律が定める要件を満たしていると判断した場合(同条(2))、調停を開始します(129条1項)。ストライキ又はロックアウトに記載した期間内に調停による和解に至らなかった場合、調停人は、当事者に対し、仲裁に進むよう説得し、両当事者が仲裁に合意した場合、調停人と当事者が仲裁を請求します(130条1項、2項)。労働法と同様に、仲裁に付された場合は、30日以内に、仲裁人が裁定を下さなければならず(同条3項)、裁定は最終的なものとし、上訴はできません(同条5項)。

(b) EPZ労働裁判所による手続き

労働法にて、政府は、EPZの労使紛争に対応するEPZ労働裁判所を設立することが出来ると規定されていますが(133条1項)、現時点で設立されておらず、EPZでの労使紛争も、上記の労働裁判所と同様の手続きになると解されます。なお、EPZ裁判所では、申立てが提起されてから、25日以内の決定、異議がある場合は、30日以内にEPZ労働上訴審判所に訴訟を提起することができます(135条2項、3項)。

実務では、労働者が、調停・仲裁手続きを経ずに、労働裁判所に訴える例は少なく、基本的に労働雇用省の傘下の工場・事業所監督局(Department of Inspection for Factories and Establishments(DIFE))に相談し、同局による調停手続の通知が来ることになります。なお、通知が発行されてから会社による受領まで数日要することが多く、通知が来てから、必要書類の提出や聴聞の期日まで準備の余裕がない場合が多くみられます。

労働訴訟は非常に件数が多いにもかかわらず裁判所が少ないこと、当事者の欠席、労働裁判所への出席者の欠席で期日が遅延することから、労働法で定められた期間では終わらないことが課題となっています。

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける労務紛争解決手段の概要

フィリピンにおいて使用者と労働者の間で紛争が生じた場合は、まず、フィリピン労働雇用省(Department of Labor and Employment 以下「DOLE」といいます。)における解決を試み、DOLEにおいて解決できない場合は、フィリピンの裁判所で労働裁判を実施するという流れで解決するのが一般的です。以下では、DOLE及び裁判所における労務紛争の解決手続きについて解説いたします。

(2) DOLEにおける紛争解決手続

DOLEは、フィリピンにおける雇用関係について規制や監督を行う官庁組織に位置づけられます。DOLEの主要な役割のひとつとして、労働者保護が挙げられており、フィリピンの労働者が権利侵害を主張する窓口としても機能しています。

DOLEにおいては、シングルエントリーアプローチ(the Single Entry Approach 以下「SEnA」といいます。)と呼ばれる手続から開始されます。SEnAは、労働問題が本格的な紛争に発展するのを防ぐことを目的として、効率的、迅速、安価、かつアクセスしやすい方法で労働問題を解決する仕組みです。労働者は、最初にSEnAプログラムの目的と手順について面接を受け、必要なRFAフォームに記入します。フォームが提出された後、シングルエントリーアシスタンスデスクオフィサーと呼ばれる職員(以下「SEADO」といいます。)が、論点を整理します。SEADOは、和解合意を促進するために、必須の30日以内に必要な数の会議を開催することができ、この30日間の期間は、当事者の相互の合意により最大7日間延長することが可能となっています。

SEnAにおいて紛争が解決できなかった場合は、次の手段として、労働仲裁人選任を申し立て、解決を図ります。仲裁人は、すでに提出された証拠や当事者の主張に基づいて、決定を下すことができます。

労働仲裁人の決定は、受領から10日以内に、全国労働関係委員会(National Labor Relations Commission 以下「NLRC」といいます。)に不服申立てをすることができます。不服申立てを行わない場合は、労働仲裁人の決定が確定し、執行力をもつ場合があります。

(3) 裁判手続による紛争解決

DOLEでの判断に不服がある当事者は、訴訟へ移行して紛争解決を図ります。フィリピンにおける裁判所に対して訴えを提起し、高等裁判所において審理されます。通常の訴訟手続と同様に、不服がある場合は上級審への申立てを行います。

8.ベトナム

(1)ベトナムの法規制における「労働紛争」の定義と分類

労働紛争とは、労働関係の成立、履行又は終了の際に生じる各当事者間の権利、義務、利益に関する紛争や、各労働者代表組織間の紛争、そして労働関係に直接関連する事態に関わる紛争をいいます。ベトナムの労働法規において、労働紛争は以下の3つの類型に分類されています。

①個人労働紛争
労働者と使用者、契約により海外へ派遣される労働者と派遣団体、派遣労働者と派遣先使用者との間の紛争

②権利に関する集団的労働紛争

労働者代表組織と使用者、又は労働者代表組織同士の間での、(a)集団労働協約、就業規則、その他使用者と労働者間の合意の解釈や履行に関する意見の相違がある場合、(b)労働法規の解釈や運用に関する意見の相違がある場合、又は(c)使用者の労働者に対する差別、労働者代表組織への干渉や影響、交渉の誠実な遂行に対する違反といった違法行為に起因する場合における紛争

③利益に関する集団的労働紛争

団体交渉の過程で生じる紛争、又は、一方の当事者が交渉を拒否した場合や法定期限内に交渉を行わなかった場合に生じる紛争

(2) 労働紛争の解決手段

①省レベル人民委員会主席が任命する労働調停人による調停

労働紛争を法的手続により解決しようとする場合、当事者は、まず、労働調停人による調停手続を申し立てなければなりません。但し、以下に該当する場合は、調停手続を申し立てる必要はありません。

  • 懲戒解雇、雇用契約の一方的解除に関する紛争
  • 雇用契約終了時の損害賠償および手当に関する紛争
  • 家事従事者と使用者との間の紛争

なお、家事従事者とは、1世帯または複数の世帯のために、定期的に仕事(料理、家事、ベビーシッター、看護、年長者の介護、運転、園芸、その他の家庭のための仕事であって、商業活動に関連しないもの)を行う人のことをいいます。

  • 社会保険、健康保険、失業保険、労働災害保険、職業性疾病保険に関する規定に関する紛争
  • 契約に基づいて海外に派遣された労働者と派遣団体との損害賠償に関する紛争
  • 派遣労働者と派遣先使用者との間の紛争

②省レベル人民委員会主席の決定による多数の委員(最少15名)からなる労働仲裁評議会への申立て

労働調停人による調停手続を行なっても関係当事者が紛争に関して相互に合意に達することができない場合、又は労働調停人が調停を行うよう要請を受けた日から5営業日以内に調停を開始することができない場合には、労働仲裁評議会による決定を求めることができます。

③人民裁判所を通じた解決

利益に関する集団的労働紛争の場合を除き、当事者は、労働仲裁評議会による解決の代わりとして、又は労働仲裁評議会が定められた期間内に紛争を解決できない場合に、労働紛争について裁判所に訴えを提起することができます。

④ストライキの実施

利益に関する集団的労働紛争が、労働調停人又は労働仲裁評議会によっても解決できない場合、労働者はストライキを行うことができます。合法的なストライキは、労働者代表組織によって組織及び主導され、法定の手続に従う必要があります。

9.インド

(1) 概要

インドにおいて労働紛争手続は、産業紛争法(The Industrial Disputes Act,1947)に規定しています。労働争議(産業紛争)(Industrial dispute)とは、使用者同士、使用者と労働者(ワークマン)、労働者(ワークマン)同士の間での雇用条件等についての争議をいいます(産業紛争法2条)。産業紛争法では、解決手段として調停、仲裁、労働審判、労働裁判を規定しています。

なお、経営や監督を行うポジション等のノンワークマンについては、産業紛争法の労働者には該当せず、同法に基づく紛争解決手続は適用されません。

(2) 仲裁手続について

使用者及び労働者は書面での合意により労働争議を仲裁廷に付託することができます(産業紛争法10A条1項)。ただし、労働審判又は労働裁判が申立てられた後は、仲裁を行うことができません。一般的に、労働審判や労働裁判は、労働者側に有利な判断がなされやすいといわれており、使用者側としては、これら審判や裁判を避けるために仲裁を選択することも考えられます。

仲裁人は、仲裁において法律上の問題を労働審判所に付託し当該法律上の問題について判断を得ることができ、この場合、仲裁廷は当該労働審判所の判断に従う必要があります(産業紛争法10E条)。

(3) 労働審判・労働裁判の申立てについて

労働争議の当事者は、共同又は個別に所定の方法で当該紛争を労働裁判所(Labour Court)、労働審判所(Tribunal)又は全国労働審判所(National Tribunal)に申立てることができます(産業紛争法10条2項)。労働審判の場合、当事者や事業場等が複数の施設にまたがる場合等は、全国労働審判所が利用されます。

労働裁判は、関係当局によって任命される1名の裁判官により構成されます(産業紛争法7条2項)。労働審判も関係当局により任命される1名の審判官により構成されます(産業紛争法7A条2項)。

(4) 調停について

産業紛争法では、労働争議の解決手段として調停手続における和解を規定しています。調停委員は、委員長1名と関係当局が適当と考える員数2名又は4名で構成されます(産業紛争5条2項)。

(5) 調停官・労働審判官・労働裁判官の権限について

調停官、労働審判所の審判官、労働裁判所の裁判官は、労働争議に関する調査のために、合理的な通知を行った後に、当該労働争議が関係する事業場に立ち入ることができます(産業紛争法11条2項)。また、調停官、審判官及び裁判官は、民事訴訟法に基づき文書の提出の強制や証人尋問等を行うことができます(産業紛争法11条3項)。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)では、労働争議に関して、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)第54条乃至第56条、連邦労働法の施行に関する内閣令(2022年内閣令第1号。以下「内閣令」と言います。)第31条及び32条、並びに労働争議及び申立の解決手続きに関する人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation。以下「MoHRE」と言います。)令(2022年MoHRE省令第47号。以下「省令」といいます。)によって、個別と集団に分けて、概略以下のような紛争解決枠組みが規定されています。なお、連邦労働法は、アブダビ首長国のAbu Dhabi Global Market及びドバイ首長国のDubai International Financial Centerを除き、フリーゾーンを含める全域には適用されます。

(1) 個別争議

労働者または雇用者はいずれも、雇用契約または労働法にかかる違反行為につき、その解決のためMoHREに申立をすることができます。申立は、違反行為から30日以内に行われなければなりません。MoHREは、申立から14日以内に両者の協議を進めて、和解を促進します。

MoHREによる協議で和解が成立しない場合、MoHREから事件記録一式がMoHREの意見とともに管轄の労働裁判所に移送されます。労働者の申立が移送された場合、労働者は、移送から14日以内に裁判所に審理の申立をする必要があります(省令第47号3条)。申立後3日以内に期日が設定され、当事者に通知されます。ただし、違反行為から1年経過した問題については審理を受け付けられません。

なお、連邦労働法第54条の改正(2023年連邦令第20号)の2024年1月1日の施行に伴い、MoHREは、請求が5万UAEディルハム以下、または訴額にかかわらず従前に同省が決定した和解の不履行に関する申立について、最終決定することができることとなります(修正第54条第2項)。このMoHREの決定は執行力を有するものとされますが、不服の当事者は、通知を受けてから15日以内に控訴裁判所に抗告することができ、抗告によってMoHREの決定の執行は停止され、控訴裁判所は3営業日以内に期日を定め、抗告から15日以内に決定を行い、この決定が最終となります(修正第54条第3項)。

(2) 集団争議

労働者の全部またはその一部の集団(100人以上(省令第9条))との間での争議の場合、労働者及び雇用者は、MoHREに申立ができます(労働法第58条)。申立は争議の発生から2週間以内にしなければなりません(内閣令第32条)。労働者側は、3人以上5人以下の代表を選出して協議に参加し、MoHREは申立から30日以内に和解を促進します(省令第10条)。和解が成立した場合には、労働者代表と雇用者代表が署名した議事録が作成されなければならず、和解内容は、議事録の日から90日以内に履行されなければなりません(省令第10条)。

MoHREにおける協議が不調となった場合、または当事者の一方がMoHREでの和解協議に出頭しない場合、集団労働争議委員会が内閣決定によって組織され、事件を審理します。MoHREでの協議の記録は同省の意見とともに同委員会に移送されます(省令第11条)。

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1.日本

(1) 労働紛争解決手段について 日本において、労働紛争が発生した場合、同紛争の解決のためには、主に、裁判外での交渉(行政機関によるあっせん手続きを含む)、労働審判、民事訴訟の手続きを採ることが考えられます。 (2) 各手続きの概要 ア 行政機関によるあっせん手続きについて 紛争調整委員1名により実施され、事業主と労働者の双方が話し合いによる合意を目指します。もっとも、同話し合いはあくまで当事者の任意によるものであり、片方当事者が不参加の場合には、同手続きは終了することになります。 仮に双方で合意がなされた場合、同合意は法的には民事上の和解契約と位置付けられ、同合意のみを理由に強制執行等を行うことはできません。 イ 労働審判について 労働審判とは、労働審判委員会(労働審判官(裁判官)1名、労働審判員(労使)2名)により実施され、事業主と労働者の双方が、主張・立証をしつつも、話合いによる合意を目指して、3回以内の期日で終結することを想定した手続きです。民事訴訟に比べて、早期かつ柔軟な解決ができるため、労働者や事業者双方にとって重要な手続きであるといえます。また、合意内容は裁判上の和解と同じ効力を持ち、強制執行を行うことも可能です。 労働審判手続中に調停が成立しない場合には、労働審判が下されることになり、当事者のどちらかから異議が出される場合には訴訟手続きに移行します。 ウ 民事訴訟について 労働紛争を最終的に解決する手段として、民事訴訟を提起することが考えられます。 行政機関によるあっせん手続きや労働審判と異なり、両当事者の主張・立証を踏まえて、裁判官による最終的な結論が出されることが大きな特徴といえます。 民事訴訟においては、両当事者が期日までに、準備書面や反論の書面を提出し、場合によっては証人尋問を行うこともあるため、紛争解決が長期化するケースも多いです。 なお、民事訴訟に移行した後であっても、必ずしも判決まで行われるわけではなく、裁判の進行中に裁判から和解勧告を受けることもあります。そのため、この段階に至った場合であっても、当事者間で和解を行うことは可能です。 (3) その他の手続きについて その他、労働紛争においては、仮処分の申し立てが考えられます。具体例として、労働者から従業員として賃金を受けとることができる地位の申し立てを行うこと、事業主からは元従業員が、競業避止義務に違反して競業行為を行っている場合に、同競業行為を止めるよう仮処分の申し立てを行うこと等が考えられます。 また、労働組合による団体交渉手続きも考えられます。労働組合による団体交渉は、労働者の労働条件の向上を目指して行われることが多く、事業主が正当な理由なく団体交渉を拒否、または不誠実な対応をした場合には、違法とされます。

2.タイ

(1) 労働紛争解決手段について タイの労働紛争解決手段のうち、労働者が労働問題に関する申立てを行う手段としては、労働監督官への申立て、労働関係委員会への申立て、労働裁判所への提訴の3つが考えられます。 (2) 各手続きの概要 ア 労働監督官への申立て 使用者が労働者保護法に定める金銭の受領にかかる権利について違反または履行しなかった場合において、労働者は、労働者の就業場所または使用者の居住地の労働監督官に対し、申し立てを行うことができます。同申立てが行われた後、労働監督官による事実調査が行われ、労働者に金銭を受領する権利があると判断した場合には、監督官は使用者に対し、当該金銭を支払うよう命じることになります。   使用者が同命令に不服がある場合には、命令を知った日から30日以内に労働裁判所に訴訟を提起することが可能です。 イ 労働関係委員会への申立て 使用者が労働者の労働組合員としての活動を不当に妨害した場合において、労働者は当該行為があった日から60日以内に労働関係委員会に申し立てを行うことができます。当該申立てを行った後、労働関係委員会は審理を行い、使用者に命令を下すことになります。 同命令に対し、不服がある場合には、同委員会に異議申し立てを行うことができ、同異議に対する委員会の決定に不服がある場合に、労働裁判所への異議申し立てを行うことが可能です。 ウ 労働裁判所への提訴 タイでは、一般民事を取り扱う裁判所は別に労働裁判所が設置されています。タイの労働裁判は、裁判官と補助官によって実施されます。補助官とは、裁判官とともに職務を遂行するため特別に選任された者であり、日本の労働審判員と似た制度です。補助官は使用者側、従業員側に区別され、必ず同数とされます。 したがって、タイの労働裁判は、通常、裁判官1名、補助官2名(使用者側1名、従業員側1名)合計3名という構成で実施されることが一般的です。訴訟提起後、第1回期日では、和解の機会が持たれることが通常であり、和解がまとまりそうであれば、その後、第3回期日までは、和解期日として設定されることが一般的です。 なお、タイでは、労働裁判所への提起が無料であり、かつ法律の知識が無い者に対しては、裁判所の職員が訴状作成の手助けをしてくれるため、労働者にとっては労働裁判を提起することへのハードルは低く、使用者にとっては訴訟を提起されるリスクは日本に比べて高いといえます。 (3)その他の手段 その他の労働者が取りうる手段として、団体交渉があります。 同手続きは、労働者または使用者が相手方に対し、要求書を提出することから開始します。その後、3日以内に交渉が合意に達しなかった場合には、労働争議が発生したとみなされ、労働争議調停官への通知を行います。労働争議調停官は5日以内に合意のために調停を行い、調停が成立しない場合には、労働争議仲裁やストライキやロックアウト等の争議行為に移行することになります。

3.マレーシア

マレーシアにおいて、労務紛争を扱う手続としては、主に、1955年雇用法(Employment Act 1955)に基づく労働裁判所(Labour Court)、1967年労使関係法(Industrial Relations Act 1967)に基づく人的資源省労使関係局の斡旋及び産業裁判所(Industrial Court)があります。 (1) 労働裁判所 労働裁判所は、雇用法に基づき、労働者に対する賃金の支払い等を取り扱う、人的資源省労働局が所管する準司法機関です(雇用法69条)。労働者は、労働裁判所において、職場における差別に関する請求を行うこともできます(同法69F条)。労働裁判所では、労働局担当官が裁判官の役割を果たします。労働裁判所は、労働組合による苦情処理制度を持たない労働者の権利を保護する役割を担っています。 (2)人的資源省労使関係事務局の斡旋 使用者又は労働組合は、労務紛争が存在し、又はそのおそれがある場合において、解決されない場合には労使関係事務局長に報告することができます(労使関係法18条(1))。また、労使関係局長は、労務紛争が存在し、又はそのおそれがある場合において、公共の利益のために必要と判断した場合には、紛争解決のための必要な手続きをとることができます(同法18条(3))。労働関係局長は、紛争が解決できないと思料する場合は、人的資源省相に通知します(同法18条(5))。人的資源省相は、適切であると思料する場合には、案件を産業裁判所に付託します(同法20条(3))。 (3) 産業裁判所 産業裁判所は、労使関係法21条に基づいて設置された、労使間の紛争、労働組合と使用者間の紛争及び同法に基づく権利義務関係違反に関する紛争等の労働紛争を扱う特別裁判所です。産業裁判所の審理においては、個別の案件ごとに、裁判官と労使委員2名で構成されます(同法22条(1))。 産業裁判所は、下級裁判所としての機能を有しているため、産業裁判所の判決に不服の場合には、高等裁判所に上訴することができます(同法33A条(1))。

4.ミャンマー

(1) 労働紛争解決法の概要 労働紛争法(The Trade Disputes Act, 1929)を改定する形で、2012年3月28日に労働紛争解決法が制定されました。その後、2019年6月3日、労働紛争解決法第2次改正法(以下、「改正法」という。)が成立しました。同法は労働紛争の解決方法や職場調整委員会などについて規定しています。 (2) 労働紛争解決の流れ 30人以上の労働者がいる事業所の場合、使用者は職場調整委員会を設置しなければなりません。職場調整委員会の構成は労働組合の有無によって異なります。 労働組合が設置されている場合には、組合から3名の代表者及びこれと同数の使用者代表から委員を選出する必要があります。 労働組合が設置されていない場合、労働者が選出した労働者代表3名及び使用者代表3名を選出する必要があります。 労働者が、30名未満であるために職場調整委員会が設置されていない場合、使用者が労働者の苦情について対応しなければなりません。労働者が、使用者に対し、苦情を申し立てた場合、使用者は7日以内に解決しなければなりません。 職場調整委員会において解決できない場合、紛争解決の流れは以下のとおりです(図1参照)。 労働紛争解決法に基づく団体紛争解決の流れ 当事者は、本法に基づく機関において審理中であっても、刑事または民事裁判を提起することを妨げられません 。

5.メキシコ

(1) 概要 メキシコの労働紛争は、原則、連邦労働調停登録センター(Centro Federal de Conciliación y Registro Laboral; CFCRL)または州の調停センターによる調停を行い、それでも解決できない場合に、労働裁判所にて審判を図り解決します。ただし、以下に関連する事案は、調停を経ることなく、労働裁判所での裁判による解決を図ることとなります。
  • 妊娠を理由とした雇用や就業に関する差別、性別、性的指向、人種、宗教、民族的出身等による差別や嫌がらせ
  • 労働者が死亡した場合の受益者の指名
  • 労災、出産、病気、障害、育児に関する社会保障の利益
  • 団結の自由、団体交渉権の保障、労働者の人身売買や強制労働、児童労働に関連する基本的権利と公共の自由の保護
  • 労働協約の所有権をめぐる紛争
  • 労働組合規約やその修正への異議申立
なお、調停センターにはCFCRLと州調停センターがあり、労働裁判所も連邦労働裁判所と州労働裁判所あります。連邦機関が管轄する産業は次のとおりです。 繊維業、電気産業、映画産業、ゴム産業、製糖産業、鉱業、冶金及び鉄鋼業、炭化水素産業、石油化学産業、セメント産業、石灰産業、電子・機械部品を含む自動車産業、製薬化学・医薬品を含む化学産業、紙パルプ産業、植物油脂産業、食品製造・加工業、飲料水製造業、鉄道、製材・合板・集成材の製造を含む伐採産業、鍛造ガラス版やガラス容器製造に係る焼き付けガラス産業、たばこ産業、銀行業、貸付業 このほか、連邦政府が管理する企業や、連邦政府調達先企業等における紛争、上述以外の産業にかかる事案であって2つ以上の州にまたがる事案や労働者に対する教育訓練、安全衛生に関する事案は、連邦機関の管轄となります。 (2) 調停 調停は、CFCRLまたは州調停センターへの書面または電子的方法による申立によって開始されます。調停センターは申立の受理から15営業日以内に調停を実施しなければならず、調停期日は使用者に対して5営業日前までに通知されます。なお、調停が、両当事者によって調停センターに直接申し立てられた場合、調停は即日行われるか、または申立から5営業日以内に調停期日が定められ通知されることとなります。 調停では、調停人によって、和解合意案が提案され、これに両者が合意した場合は、和解合意書が作成され、両当事者には認証謄本が渡されます。また、調停議事録の認証謄本も提供されます。両者が合意に至らない場合、十分な調停が尽くされたとする証明書が発行されます。 調停期日に当事者の一方または両方が正当な理由によって出席しない場合は、期日はその日から5営業日以内の間で延期され、新たな期日が通知されます。正当な理由なく被申立人が欠席した場合、十分な調停が尽くされたとする証明書が発行され、正当な理由なく申立人が欠席した場合は、手続が中止されます。いずれの場合も、労働者は再度調停を申し立てる権利を有します。 (3) 労働裁判 労働裁判は、大きく通常手続と特別手続に分けられ、以下に関する紛争は特別手続が、それ以外の紛争は通常手続が取られます。
  • 非人道的で過度な長時間労働
  • メキシコ国外での労務の提供においてメキシコ国内で締結された雇用契約書の承認
  • 使用者が労働者に賃貸する住居、使用者が労働者に提供する教育・訓練、労働者の勤続年数や勤続手当
  • 船員における予め定めた場所への移送、船舶の押収や毀損等による雇用関係の終了の際の船員の権利や補償、船舶の残骸や貨物の回収を船員が行う場合の給与等
  • 航空機乗務員の異動に伴う費用負担や航空機が使用できなくなった場合の移動にかかる賃金や費用
  • 労働災害による障がいや死亡への補償や産業医の選任に起因する紛争
  • 給与3カ月分を超えない額の給付や福利厚生に関する紛争
  • 死亡または失踪時の給与等の受取人に関する紛争
  • 社会保障に関する紛争
通常手続は、次の流れで進められます。
  • 提起
原告は、原告や被告に関する情報、要求の内容、要求の根拠となる事実等を記した書面を提出します。なお、一部の例外を除き、当該書面には、調停センターが発行した「十分な調停が尽くされたとする証明書」を添付する必要があります。
  • 答弁及び反訴
労働裁判所は、当該書面の受理から5営業日以内に被告を召喚し、書面や添付された証拠の写しを提供します。被告は、写しの受領から15営業日以内に正確に事実を押さえ原告の主張に全て答える内容の答弁書と十分な証拠を提出しなければなりません。また、被告は、この時、反訴を提起することもでき、労働裁判所は、反訴を認める場合、15営業日以内に原告を召喚し、反訴原告の反訴状や証拠の写しを提供します。この場合、原告は、15営業日以内に答弁書と証拠を提出しなければなりません。
  • 異議等の申立
提出された答弁書や証拠の写しは、原告に提出され、原告は8営業日以内に、これに対する異議やその証拠を書面で提出しなければなりません。提出された異議等は、その写しが被告に提出されます。被告は、5営業日以内にこれに対する異議やその証拠を書面で提出します。反訴が提起された場合、その反訴についても同様となります。
  • 予備審理
異議や証拠の提出期間を経過すると、10営業日以内に予備審理の期日が設けられます。予備審理では、手続の正当性の検証や証拠の確定、争いのない事実の確定、審問期日の決定等が行われ、合意書が作成されます。
  • 審理
合意書の作成から20営業日以内に審理の期日が設けられます。審理では、証拠の開示と確定、当事者の弁論を行い、判決が下されます。 なお、被告が原告の主張を認める場合、その日から10営業日以内に審理の期日が設けられ、判決が下されます。 特別手続の流れも、通常手続と同様ですが、答弁書の提出期間は10営業日、被告の答弁書に対する原告の異議等の提出は、答弁書等の写しの受領から3営業日以内に設定されています。労働裁判所は、異議や証拠の提出期間経過後15営業日以内に、証拠や論点を確定するための命令を出します。また、必要がある場合には、10営業日以内に予備審査を設定することができます。 (4) 経済的性質の集団紛争 労働協約(contrato colectivoやcontrato-ley)における新しい労働条件の実施や労働条件の変更(正当化する経済的要因がある場合や、生活費の上昇が収入と労働に不均衡をもたらす場合に認められ)、集団的労働関係の中断や終了(不可抗力や使用者の死亡に起因する場合、使用者に帰責事由のない原材料の不足、資金不足や破産等の事由がある場合に認められる)を目的とする紛争は経済的性質の集団紛争として扱われ、労働協約を締結している労働組合、労働者の過半数または使用者が提起することができます。 この場合の労働裁判は、ⅰ)書面による提起、ⅱ)被告による答弁(15営業日以内)、ⅲ)原告による応答(答弁から5日営業日以内)、ⅳ)審問(25営業日以内)期日より10日前までに専門家による証拠や意見を提出させることができる。ⅴ)判決(30営業日以内)と進められます。

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、2006年バングラデシュ労働法(以下「労働法」という)と、EPZに適用されるEPZ労働法にて、労務紛争解決について定められています。 (1) 2006年バングラデシュ労働法 労働者・使用者は、労働法に基づく権利について争いがある場合、書面において相手に通知しなければなりません(210条1項)。本通知を受領して15日以内に、使用者と労働者との間で会議を開く必要があります。 (a) 調停・仲裁手続 会議が開かれない場合、又は、最初の会議から1か月経過しても和解に至らない場合は、調停手続きを申し立てることができます(210条4項)。調停に付された場合、10日以内に調停が開始されます(同条6項)。調停による和解が30日以内に成立しない場合、調停人は、当事者に対し、仲裁に進むよう説得し、両当事者が仲裁に合意した場合、調停を仲裁に付するよう請求します(同条9項,同条12項)。 仲裁に付された場合は、30日以内に、仲裁人が裁定を下さなければなりません(同条14項)。裁定は最終的なものとし、上訴はできません(同条16項)。 (b) 労働裁判所による手続き 各当事者は、労働裁判所に権利の執行を求めて訴えることができます(213条)。労働裁判所は、訴訟が提起されてから10日以内に、相手方に供述書または反論書を提出するよう指示します(216条3項)。相手方が、定められた又は延長された期間内に供述書または反論書を申し立てなかった場合、当事者の一方だけで審問し、処理されます(同条5項)。相手方が審理に欠席した場合も同様です(同条8項)。労働裁判所は、当事者が書面にて延長に合意しない限り、訴訟が提起されてから60日以内に判決、決定または裁定をします(同条12項)。 労働裁判所の判決に異議がある場合は、60日以内に労働上訴審判所に訴訟を提起することができ、労働上訴審判所の決定が最終判決となります(217条)。審理については、民事訴訟法の規定に従います(218 条7項)。労働上訴審判所は、申し立てに基づき、労働裁判所の決定を確定、変更、棄却または再審理のために労働裁判所に差し戻すことができます(同条10項)。労働上訴審判所は、訴訟が提起されてから60 日以内に判決を下します(同条11項)。 (2) EPZ労働法 (a) 調停・仲裁手続き 調停・仲裁手続きまで、労働法と同様ですが(124条1項、2項)、15日以内に使用者と労働者で和解に至らなかった場合、調停を依頼することができます(126条)。15日以内に調停人による和解が成立しなかった場合、使用者又は団体交渉人は、30日の事前通知にて、ストライキ又はロックアウトを実施することができます(127条1項)。同通知は、調停人にも送付されるものとし(128条1項)、調停人は、ストライキまたはロックアウトを実施が、法律が定める要件を満たしていると判断した場合(同条(2))、調停を開始します(129条1項)。ストライキ又はロックアウトに記載した期間内に調停による和解に至らなかった場合、調停人は、当事者に対し、仲裁に進むよう説得し、両当事者が仲裁に合意した場合、調停人と当事者が仲裁を請求します(130条1項、2項)。労働法と同様に、仲裁に付された場合は、30日以内に、仲裁人が裁定を下さなければならず(同条3項)、裁定は最終的なものとし、上訴はできません(同条5項)。 (b) EPZ労働裁判所による手続き 労働法にて、政府は、EPZの労使紛争に対応するEPZ労働裁判所を設立することが出来ると規定されていますが(133条1項)、現時点で設立されておらず、EPZでの労使紛争も、上記の労働裁判所と同様の手続きになると解されます。なお、EPZ裁判所では、申立てが提起されてから、25日以内の決定、異議がある場合は、30日以内にEPZ労働上訴審判所に訴訟を提起することができます(135条2項、3項)。 実務では、労働者が、調停・仲裁手続きを経ずに、労働裁判所に訴える例は少なく、基本的に労働雇用省の傘下の工場・事業所監督局(Department of Inspection for Factories and Establishments(DIFE))に相談し、同局による調停手続の通知が来ることになります。なお、通知が発行されてから会社による受領まで数日要することが多く、通知が来てから、必要書類の提出や聴聞の期日まで準備の余裕がない場合が多くみられます。 労働訴訟は非常に件数が多いにもかかわらず裁判所が少ないこと、当事者の欠席、労働裁判所への出席者の欠席で期日が遅延することから、労働法で定められた期間では終わらないことが課題となっています。

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける労務紛争解決手段の概要 フィリピンにおいて使用者と労働者の間で紛争が生じた場合は、まず、フィリピン労働雇用省(Department of Labor and Employment 以下「DOLE」といいます。)における解決を試み、DOLEにおいて解決できない場合は、フィリピンの裁判所で労働裁判を実施するという流れで解決するのが一般的です。以下では、DOLE及び裁判所における労務紛争の解決手続きについて解説いたします。 (2) DOLEにおける紛争解決手続 DOLEは、フィリピンにおける雇用関係について規制や監督を行う官庁組織に位置づけられます。DOLEの主要な役割のひとつとして、労働者保護が挙げられており、フィリピンの労働者が権利侵害を主張する窓口としても機能しています。 DOLEにおいては、シングルエントリーアプローチ(the Single Entry Approach 以下「SEnA」といいます。)と呼ばれる手続から開始されます。SEnAは、労働問題が本格的な紛争に発展するのを防ぐことを目的として、効率的、迅速、安価、かつアクセスしやすい方法で労働問題を解決する仕組みです。労働者は、最初にSEnAプログラムの目的と手順について面接を受け、必要なRFAフォームに記入します。フォームが提出された後、シングルエントリーアシスタンスデスクオフィサーと呼ばれる職員(以下「SEADO」といいます。)が、論点を整理します。SEADOは、和解合意を促進するために、必須の30日以内に必要な数の会議を開催することができ、この30日間の期間は、当事者の相互の合意により最大7日間延長することが可能となっています。 SEnAにおいて紛争が解決できなかった場合は、次の手段として、労働仲裁人選任を申し立て、解決を図ります。仲裁人は、すでに提出された証拠や当事者の主張に基づいて、決定を下すことができます。 労働仲裁人の決定は、受領から10日以内に、全国労働関係委員会(National Labor Relations Commission 以下「NLRC」といいます。)に不服申立てをすることができます。不服申立てを行わない場合は、労働仲裁人の決定が確定し、執行力をもつ場合があります。 (3) 裁判手続による紛争解決 DOLEでの判断に不服がある当事者は、訴訟へ移行して紛争解決を図ります。フィリピンにおける裁判所に対して訴えを提起し、高等裁判所において審理されます。通常の訴訟手続と同様に、不服がある場合は上級審への申立てを行います。

8.ベトナム

(1)ベトナムの法規制における「労働紛争」の定義と分類 労働紛争とは、労働関係の成立、履行又は終了の際に生じる各当事者間の権利、義務、利益に関する紛争や、各労働者代表組織間の紛争、そして労働関係に直接関連する事態に関わる紛争をいいます。ベトナムの労働法規において、労働紛争は以下の3つの類型に分類されています。 ①個人労働紛争 労働者と使用者、契約により海外へ派遣される労働者と派遣団体、派遣労働者と派遣先使用者との間の紛争 ②権利に関する集団的労働紛争 労働者代表組織と使用者、又は労働者代表組織同士の間での、(a)集団労働協約、就業規則、その他使用者と労働者間の合意の解釈や履行に関する意見の相違がある場合、(b)労働法規の解釈や運用に関する意見の相違がある場合、又は(c)使用者の労働者に対する差別、労働者代表組織への干渉や影響、交渉の誠実な遂行に対する違反といった違法行為に起因する場合における紛争 ③利益に関する集団的労働紛争 団体交渉の過程で生じる紛争、又は、一方の当事者が交渉を拒否した場合や法定期限内に交渉を行わなかった場合に生じる紛争 (2) 労働紛争の解決手段 ①省レベル人民委員会主席が任命する労働調停人による調停 労働紛争を法的手続により解決しようとする場合、当事者は、まず、労働調停人による調停手続を申し立てなければなりません。但し、以下に該当する場合は、調停手続を申し立てる必要はありません。
  • 懲戒解雇、雇用契約の一方的解除に関する紛争
  • 雇用契約終了時の損害賠償および手当に関する紛争
  • 家事従事者と使用者との間の紛争
なお、家事従事者とは、1世帯または複数の世帯のために、定期的に仕事(料理、家事、ベビーシッター、看護、年長者の介護、運転、園芸、その他の家庭のための仕事であって、商業活動に関連しないもの)を行う人のことをいいます。
  • 社会保険、健康保険、失業保険、労働災害保険、職業性疾病保険に関する規定に関する紛争
  • 契約に基づいて海外に派遣された労働者と派遣団体との損害賠償に関する紛争
  • 派遣労働者と派遣先使用者との間の紛争
②省レベル人民委員会主席の決定による多数の委員(最少15名)からなる労働仲裁評議会への申立て 労働調停人による調停手続を行なっても関係当事者が紛争に関して相互に合意に達することができない場合、又は労働調停人が調停を行うよう要請を受けた日から5営業日以内に調停を開始することができない場合には、労働仲裁評議会による決定を求めることができます。 ③人民裁判所を通じた解決 利益に関する集団的労働紛争の場合を除き、当事者は、労働仲裁評議会による解決の代わりとして、又は労働仲裁評議会が定められた期間内に紛争を解決できない場合に、労働紛争について裁判所に訴えを提起することができます。 ④ストライキの実施 利益に関する集団的労働紛争が、労働調停人又は労働仲裁評議会によっても解決できない場合、労働者はストライキを行うことができます。合法的なストライキは、労働者代表組織によって組織及び主導され、法定の手続に従う必要があります。

9.インド

(1) 概要 インドにおいて労働紛争手続は、産業紛争法(The Industrial Disputes Act,1947)に規定しています。労働争議(産業紛争)(Industrial dispute)とは、使用者同士、使用者と労働者(ワークマン)、労働者(ワークマン)同士の間での雇用条件等についての争議をいいます(産業紛争法2条)。産業紛争法では、解決手段として調停、仲裁、労働審判、労働裁判を規定しています。 なお、経営や監督を行うポジション等のノンワークマンについては、産業紛争法の労働者には該当せず、同法に基づく紛争解決手続は適用されません。 (2) 仲裁手続について 使用者及び労働者は書面での合意により労働争議を仲裁廷に付託することができます(産業紛争法10A条1項)。ただし、労働審判又は労働裁判が申立てられた後は、仲裁を行うことができません。一般的に、労働審判や労働裁判は、労働者側に有利な判断がなされやすいといわれており、使用者側としては、これら審判や裁判を避けるために仲裁を選択することも考えられます。 仲裁人は、仲裁において法律上の問題を労働審判所に付託し当該法律上の問題について判断を得ることができ、この場合、仲裁廷は当該労働審判所の判断に従う必要があります(産業紛争法10E条)。 (3) 労働審判・労働裁判の申立てについて 労働争議の当事者は、共同又は個別に所定の方法で当該紛争を労働裁判所(Labour Court)、労働審判所(Tribunal)又は全国労働審判所(National Tribunal)に申立てることができます(産業紛争法10条2項)。労働審判の場合、当事者や事業場等が複数の施設にまたがる場合等は、全国労働審判所が利用されます。 労働裁判は、関係当局によって任命される1名の裁判官により構成されます(産業紛争法7条2項)。労働審判も関係当局により任命される1名の審判官により構成されます(産業紛争法7A条2項)。 (4) 調停について 産業紛争法では、労働争議の解決手段として調停手続における和解を規定しています。調停委員は、委員長1名と関係当局が適当と考える員数2名又は4名で構成されます(産業紛争5条2項)。 (5) 調停官・労働審判官・労働裁判官の権限について 調停官、労働審判所の審判官、労働裁判所の裁判官は、労働争議に関する調査のために、合理的な通知を行った後に、当該労働争議が関係する事業場に立ち入ることができます(産業紛争法11条2項)。また、調停官、審判官及び裁判官は、民事訴訟法に基づき文書の提出の強制や証人尋問等を行うことができます(産業紛争法11条3項)。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)では、労働争議に関して、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)第54条乃至第56条、連邦労働法の施行に関する内閣令(2022年内閣令第1号。以下「内閣令」と言います。)第31条及び32条、並びに労働争議及び申立の解決手続きに関する人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation。以下「MoHRE」と言います。)令(2022年MoHRE省令第47号。以下「省令」といいます。)によって、個別と集団に分けて、概略以下のような紛争解決枠組みが規定されています。なお、連邦労働法は、アブダビ首長国のAbu Dhabi Global Market及びドバイ首長国のDubai International Financial Centerを除き、フリーゾーンを含める全域には適用されます。 (1) 個別争議 労働者または雇用者はいずれも、雇用契約または労働法にかかる違反行為につき、その解決のためMoHREに申立をすることができます。申立は、違反行為から30日以内に行われなければなりません。MoHREは、申立から14日以内に両者の協議を進めて、和解を促進します。 MoHREによる協議で和解が成立しない場合、MoHREから事件記録一式がMoHREの意見とともに管轄の労働裁判所に移送されます。労働者の申立が移送された場合、労働者は、移送から14日以内に裁判所に審理の申立をする必要があります(省令第47号3条)。申立後3日以内に期日が設定され、当事者に通知されます。ただし、違反行為から1年経過した問題については審理を受け付けられません。 なお、連邦労働法第54条の改正(2023年連邦令第20号)の2024年1月1日の施行に伴い、MoHREは、請求が5万UAEディルハム以下、または訴額にかかわらず従前に同省が決定した和解の不履行に関する申立について、最終決定することができることとなります(修正第54条第2項)。このMoHREの決定は執行力を有するものとされますが、不服の当事者は、通知を受けてから15日以内に控訴裁判所に抗告することができ、抗告によってMoHREの決定の執行は停止され、控訴裁判所は3営業日以内に期日を定め、抗告から15日以内に決定を行い、この決定が最終となります(修正第54条第3項)。 (2) 集団争議 労働者の全部またはその一部の集団(100人以上(省令第9条))との間での争議の場合、労働者及び雇用者は、MoHREに申立ができます(労働法第58条)。申立は争議の発生から2週間以内にしなければなりません(内閣令第32条)。労働者側は、3人以上5人以下の代表を選出して協議に参加し、MoHREは申立から30日以内に和解を促進します(省令第10条)。和解が成立した場合には、労働者代表と雇用者代表が署名した議事録が作成されなければならず、和解内容は、議事録の日から90日以内に履行されなければなりません(省令第10条)。 MoHREにおける協議が不調となった場合、または当事者の一方がMoHREでの和解協議に出頭しない場合、集団労働争議委員会が内閣決定によって組織され、事件を審理します。MoHREでの協議の記録は同省の意見とともに同委員会に移送されます(省令第11条)。" ["post_title"]=> string(33) "労務紛争解決手段の概要" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(99) "%e5%8a%b4%e5%8b%99%e7%b4%9b%e4%ba%89%e8%a7%a3%e6%b1%ba%e6%89%8b%e6%ae%b5%e3%81%ae%e6%a6%82%e8%a6%81" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2023-11-02 15:18:29" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2023-11-02 06:18:29" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=16436" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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世界11か国13拠点で日系企業の進出及び進出後のサポート

世界11か国13拠点(東京、大阪、佐賀、ミャンマー、タイ、マレーシア、メキシコ、エストニア、フィリピン、イスラエル、バングラデシュ、ベトナム、イギリス)で日系企業の進出及び進出後のサポートを行っている。具体的には、法規制調査、会社設立、合弁契約書及び雇用契約書等の各種契約書の作成、M&A、紛争解決、商標登記等の知財等各種法務サービスを提供している。

堤雄史(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)、永田貴久(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)

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