中国は今、空前の「新エネルギー車(NEV)」ブームだ。現在人気のNEVには、共通する見た目の特徴がある。まずは外観がシャープなデザインであることが多い。車内をのぞくと、インパネ(フロントガラス下の内装部品)に大型ディスプレーが取り付けてあるのも目を引く。内装と外観の両面の特徴に焦点を当てながら、ブームをけん引する消費の主力軍となった中国の若者が好む「今どきの新エネ車」を探る。【広州・川杉宏行】
中国系メーカーのEVの内装。インパネ周りが整理されており、スッキリ感が生まれている=17日、広州市
中国では近年、NEV市場が急成長を遂げた。2022年のNEV販売台数は前年比9割増の約689万台で、8年連続で世界1位となった。新車販売の4台に1台がNEVとなる計算。現在の売れ行きを見ると、今年は3台に1台の比率に上がる見通し。
そのNEVの購入を押し上げているのは若い世代だ。調査サイト「巨量算数」によると、NEVの年齢別購入層は、18~30歳が購入者全体の36.4%を占め、潜在的に購入する可能性がある消費者で見ても18~30歳は全体の41.7%を占める。対象を18~40歳まで広げると、購入者の78.0%、潜在消費者の74.2%までそれぞれ比率が上がる。
中国の自動車事情に詳しい日本人業界関係者は、「今の中国の若者はNEVしか目に入っていない」と話す。若い世代が購入対象として考えているクルマはガソリン車ではないと言い切った。
若者を魅了するNEVはガソリン車(従来車)と何が違うのか。そこで、実際に現在人気の中国新興メーカーの電気自動車(EV)に試乗してみると、はっきりと違いがあることに気づく。大きなポイントの一つが車内の「スッキリ感」だ。
まずドアを開けて助手席に座ってみる。座った瞬間に従来車とは全く異なる感覚に陥る。まるで整理整頓された部屋にいるかのような気持ちになるのだ。
車内を見回して、まず大きく違うのは、スマート化が進んだ最新のNEV(新興車)には調整つまみやスイッチなどの操作ボタンがほとんどないことだ。従来車はセンタークラスター(運転席と助手席の間にあるインパネの中央部分)にエアコンやオーディオの操作ボタンがずらりと並ぶが、新興車にはほぼない。新興車ではエアコンなど機器はセンタークラスターに設置された大型ディスプレーの画面を使って操作する。これまで必要とされた操作ボタンがない分、車内にスッキリ感が生まれている。
助手席に座って周囲を眺めると、従来車には必ずあるエアコンの吹き出し口がすぐに見当たらず、実にさりげなく配置してあった。不思議なことに吹き出し口が目立たないというだけで、車内のスッキリ感が大幅に増す。
日本人関係者は、大型ディスプレーの操作性も若者にとって大事な要素だと指摘する。新興車の大型ディスプレーの操作感はスマートフォンそのもので、画面上にアプリがずらりと並ぶさまも、各種の設定画面の操作感もスマホと何も変わらない。ふだんスマホで使っている地図アプリを連動させ、大型ディスプレー上でカーナビとして使うことも可能だ。
■“走り”より“居心地”
関係者によると、中国の若い世代がクルマに求めているのは“高い走行性能”ではなく、“居心地の良さ”だという。
自分の部屋にいるかのような安らぎを覚える車内空間に座り、大型ディスプレーをスマホ感覚で操作する。若者は新興車のこうした要素に引き寄せられるというのが関係者の見立てだ。
日系や欧米系の自動車メーカーはこれまで「乗り味」を追求し、「走る、曲がる、止まる」というクルマの基本性能に磨きをかけてきた。メカニカルな部品の集合体がクルマで、エアコンやオーディオの操作ボタンもメカニカルな雰囲気を醸し出す役目を担ってきた。だが中国NEV市場では大型ディスプレーの登場で、インパネ周りの風景が一変。居心地の良さを優先し、メカニカルな雰囲気を一掃した。
関係者は「中国の多くの若者はクルマに乗り味を求めていない」ともみる。
■デジタルの操作感が肝か
自動車業界では近年、ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)という言葉が注目を集めている。
SDVとは「ソフトウエアによって定義されるクルマ」の意で、車載ソフトウエアがクルマの機能や価値を決定づけることを指す。新興車の大型ディスプレーはこのSDVの象徴のような部品で、搭載された多様なソフトウエアがクルマの価値を高めている。
試乗したEVでは、大型ディスプレーのタッチパネルに触れるだけで、座席のリクライニングができたり、スピーカーの音量を調整できたりする。音声認識機能を使えば、タッチパネルに触れる必要もなく、口頭の指示で車内機器の操作が可能だ。
今のクルマは「ソフトウエアの塊」といわれるが、デジタル感覚で車内機器を操作すると、そのことを強く実感する。
関係者は、「一度デジタル操作の感覚を味わった若者は、もうアナログ的な操作が受け入れられなくなるのではないか」との見方。クルマのスマート化の進捗(しんちょく)度合いが若者の消費行動に影響を与えるとの指摘だ。
この指摘が正しければ、中国NEV市場ではスマート化の遅れが企業のシェア低下につながる可能性がある。
<メモ>
「新エネルギー車(NEV)」:NEVは「New Energy Vehicle」の略。中国政府の規定では、NEVはEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を指し、ハイブリッド車(HV)は含まない。中国ではEVを主力とするNEVメーカーが多い。
object(WP_Post)#9817 (24) {
["ID"]=>
int(16799)
["post_author"]=>
string(1) "3"
["post_date"]=>
string(19) "2023-11-23 00:00:00"
["post_date_gmt"]=>
string(19) "2023-11-22 15:00:00"
["post_content"]=>
string(7692) "中国は今、空前の「新エネルギー車(NEV)」ブームだ。現在人気のNEVには、共通する見た目の特徴がある。まずは外観がシャープなデザインであることが多い。車内をのぞくと、インパネ(フロントガラス下の内装部品)に大型ディスプレーが取り付けてあるのも目を引く。内装と外観の両面の特徴に焦点を当てながら、ブームをけん引する消費の主力軍となった中国の若者が好む「今どきの新エネ車」を探る。【広州・川杉宏行】[caption id="attachment_16800" align="aligncenter" width="620"]中国系メーカーのEVの内装。インパネ周りが整理されており、スッキリ感が生まれている=17日、広州市[/caption]
中国では近年、NEV市場が急成長を遂げた。2022年のNEV販売台数は前年比9割増の約689万台で、8年連続で世界1位となった。新車販売の4台に1台がNEVとなる計算。現在の売れ行きを見ると、今年は3台に1台の比率に上がる見通し。
そのNEVの購入を押し上げているのは若い世代だ。調査サイト「巨量算数」によると、NEVの年齢別購入層は、18~30歳が購入者全体の36.4%を占め、潜在的に購入する可能性がある消費者で見ても18~30歳は全体の41.7%を占める。対象を18~40歳まで広げると、購入者の78.0%、潜在消費者の74.2%までそれぞれ比率が上がる。
中国の自動車事情に詳しい日本人業界関係者は、「今の中国の若者はNEVしか目に入っていない」と話す。若い世代が購入対象として考えているクルマはガソリン車ではないと言い切った。
若者を魅了するNEVはガソリン車(従来車)と何が違うのか。そこで、実際に現在人気の中国新興メーカーの電気自動車(EV)に試乗してみると、はっきりと違いがあることに気づく。大きなポイントの一つが車内の「スッキリ感」だ。
まずドアを開けて助手席に座ってみる。座った瞬間に従来車とは全く異なる感覚に陥る。まるで整理整頓された部屋にいるかのような気持ちになるのだ。
車内を見回して、まず大きく違うのは、スマート化が進んだ最新のNEV(新興車)には調整つまみやスイッチなどの操作ボタンがほとんどないことだ。従来車はセンタークラスター(運転席と助手席の間にあるインパネの中央部分)にエアコンやオーディオの操作ボタンがずらりと並ぶが、新興車にはほぼない。新興車ではエアコンなど機器はセンタークラスターに設置された大型ディスプレーの画面を使って操作する。これまで必要とされた操作ボタンがない分、車内にスッキリ感が生まれている。
助手席に座って周囲を眺めると、従来車には必ずあるエアコンの吹き出し口がすぐに見当たらず、実にさりげなく配置してあった。不思議なことに吹き出し口が目立たないというだけで、車内のスッキリ感が大幅に増す。
日本人関係者は、大型ディスプレーの操作性も若者にとって大事な要素だと指摘する。新興車の大型ディスプレーの操作感はスマートフォンそのもので、画面上にアプリがずらりと並ぶさまも、各種の設定画面の操作感もスマホと何も変わらない。ふだんスマホで使っている地図アプリを連動させ、大型ディスプレー上でカーナビとして使うことも可能だ。
■“走り”より“居心地”
関係者によると、中国の若い世代がクルマに求めているのは“高い走行性能”ではなく、“居心地の良さ”だという。
自分の部屋にいるかのような安らぎを覚える車内空間に座り、大型ディスプレーをスマホ感覚で操作する。若者は新興車のこうした要素に引き寄せられるというのが関係者の見立てだ。
日系や欧米系の自動車メーカーはこれまで「乗り味」を追求し、「走る、曲がる、止まる」というクルマの基本性能に磨きをかけてきた。メカニカルな部品の集合体がクルマで、エアコンやオーディオの操作ボタンもメカニカルな雰囲気を醸し出す役目を担ってきた。だが中国NEV市場では大型ディスプレーの登場で、インパネ周りの風景が一変。居心地の良さを優先し、メカニカルな雰囲気を一掃した。
関係者は「中国の多くの若者はクルマに乗り味を求めていない」ともみる。
■デジタルの操作感が肝か
自動車業界では近年、ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)という言葉が注目を集めている。
SDVとは「ソフトウエアによって定義されるクルマ」の意で、車載ソフトウエアがクルマの機能や価値を決定づけることを指す。新興車の大型ディスプレーはこのSDVの象徴のような部品で、搭載された多様なソフトウエアがクルマの価値を高めている。
試乗したEVでは、大型ディスプレーのタッチパネルに触れるだけで、座席のリクライニングができたり、スピーカーの音量を調整できたりする。音声認識機能を使えば、タッチパネルに触れる必要もなく、口頭の指示で車内機器の操作が可能だ。
今のクルマは「ソフトウエアの塊」といわれるが、デジタル感覚で車内機器を操作すると、そのことを強く実感する。
関係者は、「一度デジタル操作の感覚を味わった若者は、もうアナログ的な操作が受け入れられなくなるのではないか」との見方。クルマのスマート化の進捗(しんちょく)度合いが若者の消費行動に影響を与えるとの指摘だ。
この指摘が正しければ、中国NEV市場ではスマート化の遅れが企業のシェア低下につながる可能性がある。
<メモ>
「新エネルギー車(NEV)」:NEVは「New Energy Vehicle」の略。中国政府の規定では、NEVはEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を指し、ハイブリッド車(HV)は含まない。中国ではEVを主力とするNEVメーカーが多い。"
["post_title"]=>
string(72) "インパネ周りが様変わり今どきの中国新エネ車(上)"
["post_excerpt"]=>
string(0) ""
["post_status"]=>
string(7) "publish"
["comment_status"]=>
string(4) "open"
["ping_status"]=>
string(4) "open"
["post_password"]=>
string(0) ""
["post_name"]=>
string(198) "%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%91%e3%83%8d%e5%91%a8%e3%82%8a%e3%81%8c%e6%a7%98%e5%a4%89%e3%82%8f%e3%82%8a%e4%bb%8a%e3%81%a9%e3%81%8d%e3%81%ae%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e6%96%b0%e3%82%a8%e3%83%8d%e8%bb%8a%ef%bc%88"
["to_ping"]=>
string(0) ""
["pinged"]=>
string(0) ""
["post_modified"]=>
string(19) "2023-11-23 04:00:05"
["post_modified_gmt"]=>
string(19) "2023-11-22 19:00:05"
["post_content_filtered"]=>
string(0) ""
["post_parent"]=>
int(0)
["guid"]=>
string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=16799"
["menu_order"]=>
int(0)
["post_type"]=>
string(4) "post"
["post_mime_type"]=>
string(0) ""
["comment_count"]=>
string(1) "0"
["filter"]=>
string(3) "raw"
}
- 国・地域別
-
中国情報
- 内容別
-
ビジネス全般人事労務