一般社団法人のアジア自立支援機構(GIAPSA=ジアプサ、茨城県つくば市)は、タイなどで少数民族の生活レベルの向上を目的とした支援を行っている。北部チェンライ県では、2018年からコーヒー農家の支援プロジェクトを始動。電気や水道などのインフラ整備が不十分な山奥にあるアカ族の村を訪れ、コーヒー栽培による持続可能な発展に向けた取り組みを探った。
GIAPSAは17年に設立された。現在、タイでは3つの長期プロジェクトを展開している。チェンライでのコーヒー農家の支援のほか、北部チェンマイ県で山岳民族の女性の所得向上に向けた手作り工芸品販売の支援や、南部トラン県ででんぷんが採れるサゴヤシの保護・有効利用に向けた活動を行っている。
標高1,400メートルの山奥に位置するメーチャンタイ村には42世帯のアカ族が住んでおり、コーヒー栽培で生計を立てている=11日、タイ・チェンライ県(NNA撮影)
チェンライでは、迫害などにより200年以上前に中国雲南省からミャンマーなどを経由して移り住んできたアカ族の村の自立支援に取り組んでいる。同県の標高1,400メートルの山奥に位置するメーチャンタイ村では、現在アカ族が42世帯(229人)生活している。
メーチャンタイ村を含むタイとミャンマー、ラオスの国境が接する地域では、古くから貧困から逃れるためにアヘンの原料となる「ケシ」が栽培されており、違法ビジネスの温床となっていた。メーチャンタイでも2000年台初頭まで違法であったケシが栽培されていたが、当時のプミポン国王の支援の下、国有林でコーヒーの栽培が許可された。
ケシ栽培をやめるという条件と引き換えに受けた支援と村人の熱心な意欲により、質の高いアラビカ種のコーヒー豆の生産が可能となった。しかし、メーチャンタイ産のコーヒー豆の知名度は低く、販売網も限られていたため、品質や味の良さに反して市場で安く買いたたかれていた。当時、世界のコーヒー相場が下落していたこともあり、16~17年時点の村人の平均年収は約10万バーツ(当時のレートで約33万円)と困窮した状態が続いていた。
■ブランド確立に向けて組合設立
メーチャンタイは標高が高く、昼夜や季節による寒暖差が大きいことに加え、肥沃(ひよく)な森林土壌に恵まれているため、味わいが凝縮した品質の良いアラビカ種のコーヒー豆が育ちやすい。村が一体となりブランドを確立させれば持続可能な収入増加が望めるため、GIAPSAは生産組合の立ち上げから支援を始めた。
GIAPSAの小沼廣幸代表理事は、「以前は各農家が個別に仲買人と取引していたこともあり、言い値で買われたりメーチャンタイの名前を出すことなくアラビカ種として販売されたりしている状況だった」と当時を振り返る。
まずは村人が自主的に生産組合を設立できるよう支援し、その組合と経費を半々で負担してコーヒーの共同加工場を建設した。GIAPSAが建材や生豆に加工する脱穀機や焙煎(ばいせん)機を提供し、村人は建設にかかる労働力を提供することで人件費を負担した。
脱穀機の使用時には、村人は利用料金としてコーヒー豆1キログラム当たり3バーツ(約14円)、焙煎機は同50バーツを村の共同基金に納める必要がある。22年度(22年4月~23年3月)の徴収額は計12万7,989バーツ。23年度は、コーヒー果実の取引相場が高騰し、生豆などに加工されないで果実のまま売買されたため、脱穀機や焙煎機の使用が減り、徴収額は計5万7,725バーツに減少した。24年度は22年度に近い徴収額に戻ると期待されている。徴収金は共同基金として、機械の維持管理費やオペレーターの給料だけでなく、村のインフラ整備や社会福祉事業に充てられた。今までコーヒー豆の加工のために外部委託していた出費も節約することができた。
■収益の7~8割がコーヒー豆
自然保護区に位置するメーチャンタイ村では、山の斜面で自然に生える木のスペースを埋めるように各世帯がコーヒーの木を植えて栽培している。自然に寄り添ったコーヒー農園は、環境や生態系を保全する持続可能なコーヒー生産地として注目を集めている。
山の斜面にある農園でコーヒーの実を丁寧に摘み取るスラポンさん=12日、タイ・チェンライ県(NNA撮影)
23年度のコーヒー果実の収穫量は、前年度比約20%増の600トン。24年度の収穫量は同等以上になる見通し。
果実の収穫時期は12~翌年3月で、全て手作業で行われる。収穫日は1人当たり5キロを、ものの数時間で摘み取る。熟練の農家となれば1時間以内に7キロを超えるという。丁寧に摘み取られた果実は、各世帯で天日干しなどの加工処理が施される。
メーチャンタイでは主に3種類のプロセスで加工したコーヒーを生産している。最も一般的な精製方法で味に癖がないウォッシュドプロセス(水洗式)は、村全体の生産量の約7~8割を占める。この製法では、コーヒーの果肉を全て取り除き、残りの殻付きのコーヒー豆を洗った後、天日乾燥させる。このほか、コーヒーの果実のまま天日乾燥し、果肉を発酵させることにより濃厚でコクのある風味が出るナチュラルプロセス(ドライプロセス)と、加工処理も味もウォッシュドとナチュラルの中間に当たるハニープロセスがそれぞれ1~1.5割ずつとなる。さらに村では、嫌気性発酵(ASD:アナエロビック・スロードライ・ファーメンテーション)と呼ばれる、コーヒー果実を密閉された容器で発酵させる精製方法など、最新の技法を積極的に取り入れている。
殻付きのコーヒー豆を天日干しするアカ族の女性=12日、タイ・チェンライ県(NNA撮影)
また、脱穀機や焙煎機といった機械の導入により、各プロセスで多様な種類や価格帯の豆を生産できる体制を構築できた。アカ族男性スラポンさん(27)はNNAに対し、「品質向上に向けた継続的な取り組みやブランディングにより、収益が2~3倍となった」と笑顔で説明した。GIAPSAの活動報告によると、23年時点の村人の平均年収は25万バーツと推定される。
メーチャンタイ村のサンティクール村長は「コーヒー生産が村の収益の7~8割を占めている。GIAPSAの協力の下、インフラ整備も自分たちで手がけている」と話す。
「GIAPSAの支援もあり、本当に少しずつだがインフラが整ってきた」と笑顔を見せるメーチャンタイ村のサンティクール村長=12日、タイ・チェンライ県(NNA撮影)
道路整備などには行政から予算が拠出されることもあるが、電気や水道を含め全ての費用を賄うことはできない。現在は村の人口増加に伴い、GIAPSAと共同出資して貯水槽を建設している。既存の貯水槽の2倍の容積となり、水を多く使用する村のコーヒー精製能力を倍増する目的だ。
また、各世帯では自家消費用に太陽光パネルを設置し、生活に必要な電力を自給自足している。サンティクール氏は、村人が一丸となり献身的な努力を重ねてきたことを強調。今後も生活レベルの向上を目指し、持続可能な発展に向けた取り組みを促進していく考えを示した。
次回は、首都バンコクで展開するメーチャンタイコーヒーのアンテナショップでの支援活動を取り上げる。
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メーチャンタイ村を含むタイとミャンマー、ラオスの国境が接する地域では、古くから貧困から逃れるためにアヘンの原料となる「ケシ」が栽培されており、違法ビジネスの温床となっていた。メーチャンタイでも2000年台初頭まで違法であったケシが栽培されていたが、当時のプミポン国王の支援の下、国有林でコーヒーの栽培が許可された。
ケシ栽培をやめるという条件と引き換えに受けた支援と村人の熱心な意欲により、質の高いアラビカ種のコーヒー豆の生産が可能となった。しかし、メーチャンタイ産のコーヒー豆の知名度は低く、販売網も限られていたため、品質や味の良さに反して市場で安く買いたたかれていた。当時、世界のコーヒー相場が下落していたこともあり、16~17年時点の村人の平均年収は約10万バーツ(当時のレートで約33万円)と困窮した状態が続いていた。
■ブランド確立に向けて組合設立
メーチャンタイは標高が高く、昼夜や季節による寒暖差が大きいことに加え、肥沃(ひよく)な森林土壌に恵まれているため、味わいが凝縮した品質の良いアラビカ種のコーヒー豆が育ちやすい。村が一体となりブランドを確立させれば持続可能な収入増加が望めるため、GIAPSAは生産組合の立ち上げから支援を始めた。
GIAPSAの小沼廣幸代表理事は、「以前は各農家が個別に仲買人と取引していたこともあり、言い値で買われたりメーチャンタイの名前を出すことなくアラビカ種として販売されたりしている状況だった」と当時を振り返る。
まずは村人が自主的に生産組合を設立できるよう支援し、その組合と経費を半々で負担してコーヒーの共同加工場を建設した。GIAPSAが建材や生豆に加工する脱穀機や焙煎(ばいせん)機を提供し、村人は建設にかかる労働力を提供することで人件費を負担した。
脱穀機の使用時には、村人は利用料金としてコーヒー豆1キログラム当たり3バーツ(約14円)、焙煎機は同50バーツを村の共同基金に納める必要がある。22年度(22年4月~23年3月)の徴収額は計12万7,989バーツ。23年度は、コーヒー果実の取引相場が高騰し、生豆などに加工されないで果実のまま売買されたため、脱穀機や焙煎機の使用が減り、徴収額は計5万7,725バーツに減少した。24年度は22年度に近い徴収額に戻ると期待されている。徴収金は共同基金として、機械の維持管理費やオペレーターの給料だけでなく、村のインフラ整備や社会福祉事業に充てられた。今までコーヒー豆の加工のために外部委託していた出費も節約することができた。
■収益の7~8割がコーヒー豆
自然保護区に位置するメーチャンタイ村では、山の斜面で自然に生える木のスペースを埋めるように各世帯がコーヒーの木を植えて栽培している。自然に寄り添ったコーヒー農園は、環境や生態系を保全する持続可能なコーヒー生産地として注目を集めている。
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山の斜面にある農園でコーヒーの実を丁寧に摘み取るスラポンさん=12日、タイ・チェンライ県(NNA撮影) [/caption]
23年度のコーヒー果実の収穫量は、前年度比約20%増の600トン。24年度の収穫量は同等以上になる見通し。
果実の収穫時期は12~翌年3月で、全て手作業で行われる。収穫日は1人当たり5キロを、ものの数時間で摘み取る。熟練の農家となれば1時間以内に7キロを超えるという。丁寧に摘み取られた果実は、各世帯で天日干しなどの加工処理が施される。
メーチャンタイでは主に3種類のプロセスで加工したコーヒーを生産している。最も一般的な精製方法で味に癖がないウォッシュドプロセス(水洗式)は、村全体の生産量の約7~8割を占める。この製法では、コーヒーの果肉を全て取り除き、残りの殻付きのコーヒー豆を洗った後、天日乾燥させる。このほか、コーヒーの果実のまま天日乾燥し、果肉を発酵させることにより濃厚でコクのある風味が出るナチュラルプロセス(ドライプロセス)と、加工処理も味もウォッシュドとナチュラルの中間に当たるハニープロセスがそれぞれ1~1.5割ずつとなる。さらに村では、嫌気性発酵(ASD:アナエロビック・スロードライ・ファーメンテーション)と呼ばれる、コーヒー果実を密閉された容器で発酵させる精製方法など、最新の技法を積極的に取り入れている。
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また、脱穀機や焙煎機といった機械の導入により、各プロセスで多様な種類や価格帯の豆を生産できる体制を構築できた。アカ族男性スラポンさん(27)はNNAに対し、「品質向上に向けた継続的な取り組みやブランディングにより、収益が2~3倍となった」と笑顔で説明した。GIAPSAの活動報告によると、23年時点の村人の平均年収は25万バーツと推定される。
メーチャンタイ村のサンティクール村長は「コーヒー生産が村の収益の7~8割を占めている。GIAPSAの協力の下、インフラ整備も自分たちで手がけている」と話す。
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また、各世帯では自家消費用に太陽光パネルを設置し、生活に必要な電力を自給自足している。サンティクール氏は、村人が一丸となり献身的な努力を重ねてきたことを強調。今後も生活レベルの向上を目指し、持続可能な発展に向けた取り組みを促進していく考えを示した。
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