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中国車市場の淘汰戦進む新技術競う、外資はシェア縮小へ

中国自動車市場の生き残り競争が激しくなっている。競争の軸が電動化から自動運転などの「智能化(スマート化)」に移り、米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーは「今後1~2年内に適性なスマート電動車を投入できない自動車メーカーは淘汰(とうた)戦を勝ち残ることができない」と指摘した。中国の新興ブランドが力を付ける中、外資ブランドは一層厳しい立場に立たされている。

小米が2024年3月に発売したEV「SU7」は1年足らずで13万台以上を売り上げた=24年5月、北京市

「智能化が乏しく、研究開発(R&D)能力など核心的な競争力を持たない自動車メーカーは成長の機会を失う」。新興電気自動車(EV)メーカーの広州小鵬汽車科技(Xpeng)の何小鵬・最高経営責任者(CEO)は昨年末、従業員向けの声明でこう危機感を示した。
電動化や智能化の分野で長期間成果を上げられない自動車メーカーが淘汰されていくとの見方は、業界全体に広がっている。EVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)の李斌CEOも昨年11月、「中国のスマート電動車市場は最も激しい競争の段階にあり、2~3年後には少数の優秀な企業のみが生き残る」と指摘していた。
マッキンゼーは、特に外資の生き残りが厳しくなるとの見方だ。「かつては先進的な技術やブランド影響力で圧倒的な優位性があったが、電動化と智能化の波の中でこうした優位性を失った」と指摘した。
実際、日系を含む外資メーカーは中国市場で厳しい立場に立たされている。中国自動車工業協会によると、2024年の外資メーカーの中国シェアは約35%。中国メーカーの値下げ競争が広がる中、トヨタ自動車とホンダ、日産自動車の日系自動車大手3社は、24年の中国市場での新車販売をいずれも前年に比べて減らした。
マッキンゼーは、外資メーカーを巡る状況が25年にさらに厳しくなると予測し、「中国乗用車市場での外資のシェアは25年に30%程度まで低下する可能性が高い」とみている。
中国の大手自動車メーカーは、市場動向を見渡した上で最先端技術を搭載したモデルを急ピッチで開発・投入し、シェアを急速に拡大している。マッキンゼーは「少なくともいまの段階では伝統的な外資メーカーが対抗できるとは考えられない」とし、市場シェアが3割を下回れば中国事業の存続問題に直面するとの見方を示した。
■競争は電動化の先へ
24年の中国新車販売にEVなどの「新エネルギー車(NEV)」が占める比率は40.9%に高まった。中国自動車工業協会は同比率が25年に5割に迫ると見通す。
競争の鍵を握るのはインテリジェンス機能だ。英調査会社オムディアは「中国消費者の間では、車両とスマートフォンのシームレスな接続や充実したエンターテインメント機能を備えたスマートカーの需要が高まり続けている」と指摘した。
この分野で人気を集めるのが、昨年市場に参入したスマホ世界大手の小米科技(シャオミ)のEV「SU7」だ。SU7はスマホと共通でアップデート可能な基本ソフト(OS)を搭載し、スマホで車内環境の設定ができる。音声でカーナビの設定ができる人工知能(AI)アシストといった先端技術も搭載している。
通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が手がけるスマホと車載機器を連動させるシステム「HiCar(ハイカー)」や、ファーウェイのスマホと同じOS「鴻蒙(ハーモニー)」を搭載する車も増えている。
外資メーカーも中国の自動車大手との技術協力を通じて、中国の先進技術の導入を進める考えだ。24年に開かれた北京モーターショーで日系各社は中国企業との協業を発表。トヨタは中国IT大手の騰訊控股(テンセント)との提携でソフトウエア分野での競争力を高める考えで、日産はインターネット検索の中国最大手、百度(バイドゥ)のグループ企業とAI技術の活用で協業を検討する。
マッキンゼーは、中国の技術をベースにした外資ブランドの新型モデルが26~27年に市場に投入されるとみている。
■利益度外視でも投資加速
中国メーカーは将来的な市場シェアの確保を目的に、利益を度外視しても投資を加速させている。結果として業界全体の利益率は低下が続いている状態だ。
国家統計局によると、自動車製造業の利益率は17年の7.8%から年々低下し、23年には5.0%まで下がった。24年は4.3%と過去最低水準。業界の利益規模の縮小も目立ち、17年が6,833億元(約14兆2,000億円)だったの対し、24年は4,622億元にまで減らした。
マッキンゼーは、「中国自動車業界の利益縮小の主な要因は研究開発投資を急速に増やしていることにある」と指摘。欧州連合(EU)欧州委員会が世界の企業の研究開発投資状況を分析したスコアボードによると、中国の自動車メーカー(外資・合弁の中国事業除く)の研究開発投資は23年に254億7,000万ユーロ(約4兆円)となり、ドイツメーカーを上回った。17年時点と比べて4倍以上の規模だ。
研究開発に巨額資金をつぎ込み、中国メーカーはすさまじいスピードで技術刷新を実現してきた。マッキンゼーは「一部のメーカーは週単位でスマート運転機能を向上させており、従来の自動車大手も追いつけなくなっている」と指摘した。
マッキンゼーは、電動化と智能化の急速な発展で、世界の自動車産業の再編が加速しているとも指摘。30年には中国の自動車メーカーが世界販売上位10社の半数近くを占めるとの見方を示した上で、「今年はこの大きな変革の鍵を握る年になる」と強調した。

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電動化や智能化の分野で長期間成果を上げられない自動車メーカーが淘汰されていくとの見方は、業界全体に広がっている。EVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)の李斌CEOも昨年11月、「中国のスマート電動車市場は最も激しい競争の段階にあり、2~3年後には少数の優秀な企業のみが生き残る」と指摘していた。
マッキンゼーは、特に外資の生き残りが厳しくなるとの見方だ。「かつては先進的な技術やブランド影響力で圧倒的な優位性があったが、電動化と智能化の波の中でこうした優位性を失った」と指摘した。
実際、日系を含む外資メーカーは中国市場で厳しい立場に立たされている。中国自動車工業協会によると、2024年の外資メーカーの中国シェアは約35%。中国メーカーの値下げ競争が広がる中、トヨタ自動車とホンダ、日産自動車の日系自動車大手3社は、24年の中国市場での新車販売をいずれも前年に比べて減らした。
マッキンゼーは、外資メーカーを巡る状況が25年にさらに厳しくなると予測し、「中国乗用車市場での外資のシェアは25年に30%程度まで低下する可能性が高い」とみている。
中国の大手自動車メーカーは、市場動向を見渡した上で最先端技術を搭載したモデルを急ピッチで開発・投入し、シェアを急速に拡大している。マッキンゼーは「少なくともいまの段階では伝統的な外資メーカーが対抗できるとは考えられない」とし、市場シェアが3割を下回れば中国事業の存続問題に直面するとの見方を示した。
■競争は電動化の先へ
24年の中国新車販売にEVなどの「新エネルギー車(NEV)」が占める比率は40.9%に高まった。中国自動車工業協会は同比率が25年に5割に迫ると見通す。
競争の鍵を握るのはインテリジェンス機能だ。英調査会社オムディアは「中国消費者の間では、車両とスマートフォンのシームレスな接続や充実したエンターテインメント機能を備えたスマートカーの需要が高まり続けている」と指摘した。
この分野で人気を集めるのが、昨年市場に参入したスマホ世界大手の小米科技(シャオミ)のEV「SU7」だ。SU7はスマホと共通でアップデート可能な基本ソフト(OS)を搭載し、スマホで車内環境の設定ができる。音声でカーナビの設定ができる人工知能(AI)アシストといった先端技術も搭載している。
通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が手がけるスマホと車載機器を連動させるシステム「HiCar(ハイカー)」や、ファーウェイのスマホと同じOS「鴻蒙(ハーモニー)」を搭載する車も増えている。
外資メーカーも中国の自動車大手との技術協力を通じて、中国の先進技術の導入を進める考えだ。24年に開かれた北京モーターショーで日系各社は中国企業との協業を発表。トヨタは中国IT大手の騰訊控股(テンセント)との提携でソフトウエア分野での競争力を高める考えで、日産はインターネット検索の中国最大手、百度(バイドゥ)のグループ企業とAI技術の活用で協業を検討する。
マッキンゼーは、中国の技術をベースにした外資ブランドの新型モデルが26~27年に市場に投入されるとみている。
■利益度外視でも投資加速
中国メーカーは将来的な市場シェアの確保を目的に、利益を度外視しても投資を加速させている。結果として業界全体の利益率は低下が続いている状態だ。
国家統計局によると、自動車製造業の利益率は17年の7.8%から年々低下し、23年には5.0%まで下がった。24年は4.3%と過去最低水準。業界の利益規模の縮小も目立ち、17年が6,833億元(約14兆2,000億円)だったの対し、24年は4,622億元にまで減らした。
マッキンゼーは、「中国自動車業界の利益縮小の主な要因は研究開発投資を急速に増やしていることにある」と指摘。欧州連合(EU)欧州委員会が世界の企業の研究開発投資状況を分析したスコアボードによると、中国の自動車メーカー(外資・合弁の中国事業除く)の研究開発投資は23年に254億7,000万ユーロ(約4兆円)となり、ドイツメーカーを上回った。17年時点と比べて4倍以上の規模だ。
研究開発に巨額資金をつぎ込み、中国メーカーはすさまじいスピードで技術刷新を実現してきた。マッキンゼーは「一部のメーカーは週単位でスマート運転機能を向上させており、従来の自動車大手も追いつけなくなっている」と指摘した。
マッキンゼーは、電動化と智能化の急速な発展で、世界の自動車産業の再編が加速しているとも指摘。30年には中国の自動車メーカーが世界販売上位10社の半数近くを占めるとの見方を示した上で、「今年はこの大きな変革の鍵を握る年になる」と強調した。" ["post_title"]=> string(78) "中国車市場の淘汰戦進む新技術競う、外資はシェア縮小へ" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e8%bb%8a%e5%b8%82%e5%a0%b4%e3%81%ae%e6%b7%98%e6%b1%b0%e6%88%a6%e9%80%b2%e3%82%80%e6%96%b0%e6%8a%80%e8%a1%93%e7%ab%b6%e3%81%86%e3%80%81%e5%a4%96%e8%b3%87%e3%81%af%e3%82%b7%e3%82%a7" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2025-02-10 04:00:03" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2025-02-09 19:00:03" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=24673" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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