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ミャンマーの日本語熱冷めず安全と安定求め、軍政の制限警戒

ミャンマー人の日本語学習熱が冷めない。同国で昨年に実施された日本語能力試験(JLPT)への応募者数は18万人近くに上った。過去最多だった2023年の20万人超から減ったものの、引き続き高水準。国軍による4年前のクーデター以降、安全と安定を求めて国外に脱出する若者が急増していることが背景にある。今年は軍事政権が海外就労目的の出国制限を強める傾向が出ており、訪日の道が狭まることを危ぶむ声が出る。【小故島弘善】
24年7月、12月の2回に分けてミャンマーで実施されたJLPTの応募者数(12月は速報値)は計17万9,658人で、国・地域別で首位の中国(約33万5,000人)に続く2位を維持した。
東南アジア諸国連合(ASEAN)各国で昨年に実施された試験への応募者数は計36万人強で、このうちミャンマーが5割を占めて首位。昨年10月末時点の日本における外国人労働者数では国籍別首位のベトナムをはじめ、フィリピン、インドネシアの方が多いが、日本の少子高齢化に伴う労働力不足を補う外国人材の供給国としてミャンマーが今後台頭してくる可能性がある。
同試験には5つのレベルが存在する。ミャンマーで昨年7月に実施されたJLPTの応募者数の内訳を見ると、半分以上が技能実習生や特定技能労働者として来日するための目安となる「N4」(基本的な日本語を理解することができる)取得を目指す人だった。
最大都市ヤンゴンの日本語教師は「N4合格が当たり前となってきており、日本で働くための面接突破のためにより上のレベルに挑戦する生徒が増えている」と話す。日本語学習だけに集中できる環境ならば1年でN3(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる)以上に達する人もいるという。
ASEAN各国で昨年7月に実施されたJLPTの応募者数約17万人のうち、「幅広い場面で使われる日本語」の理解が問われる上級(N2、N1)レベルでは、ミャンマーよりもベトナムの方が多かった。

■学習速度重視、若年化も
日本での留学・就労を目指す人の多さが議題に上る際、「親日」「日本への憧れや期待」などが理由として挙げられることもあるが、日本語を学ぶミャンマー人の急増の要因は同国の混迷だ。日本語を学ぶ複数のミャンマー人に聞くと、「とにかく早く出国したい」という焦りの色が強く、消去法で日本を選んだという人もいる。
ヤンゴンの日本語教師は「最近の授業はスピード重視で、授業内容を詰め込んで期間を短縮している」と話す。生徒の多くは地方出身者で、寮費や生活費を切り詰めたい若者が多い。軍政が昨年2月に実施を発表した徴兵制の対象となることへの恐怖が膨らんでいることも大きい。
若い生徒も増えており、同教師が働く学校の生徒は最年少が15歳。地方の高校に進学せず、日本語習得に専念して日本で働こうとしているという。各地への紛争の広がりや、軍政下の教育システムを信用しない人の増加などが外国語の学習意欲を高めている。
日本の介護職で内定をもらった20代前半の女性は「日本への興味はなかったが、(クーデター後の混乱の中で)家族から安全で収入が多いと勧められ、日本語の勉強を始めた」と話す。ミャンマー人出稼ぎ労働者が多いタイやマレーシアでは仕事が本当にあるのかどうか事前情報が不明瞭だったり、待遇面で不安があったりするという。
■出国制限リスク鮮明に
ただ、多くの若者が国外逃避を目指す中、ミャンマー軍政は就労目的の出国の制限を強めている。昨年5月からは23~31歳の男性に対する一部の手続きを停止。人材の送り出し機関関係者の間では昨年、海外で働くミャンマー人への課税や自国送金義務の導入など「正規ルート」を整備するまでの一時的な措置にとどまるとの期待もあった。ただ、今年1月末からは制限の対象が18~35歳の男性に広がった。
軍政は公式に発表していないが、労働者を受け入れる国外企業のデマンドレター(求人票)と海外労働許可証「スマートカード(OWIC)」の承認・発給手続きが制限されている。軍政は海外就労には専用のパスポート(PJ)とOWICがそろっていなければならないとしており、技能実習生や特定技能労働者などの受け入れ手続きでは企業が求める人員の属性(性別、人数など)や仕事内容などを記載した求人票の当局承認を事前に得る必要がある。
在日本ミャンマー大使館が審査のために毎週発表している求人票リストをまとめたところ、2月(同大使館の発表日ベース)には日本企業833社が2,764人分の求人票を提出。このうち男性に対する求人の割合は21%で、昨年1月以降で最も低かった。
25日の発表分では、男性に対する求人が100人を割り込み、割合は12%に急落。従来は日本で働くミャンマー人の約3割を男性が占めていたが、下落基調が続いている。
日本語を学ぶ10代後半の男性は「訪日を諦めたくない。奨学金が支給される留学制度を探している」と話した。
女性はまだ徴兵の対象とはされておらず、就労目的の出国に対する制限もないとされる。ただ、「いつ出国できなくなってもおかしくない」(20代女性)という不安が日本語習得を急ぐ原動力となっている。

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24年7月、12月の2回に分けてミャンマーで実施されたJLPTの応募者数(12月は速報値)は計17万9,658人で、国・地域別で首位の中国(約33万5,000人)に続く2位を維持した。
東南アジア諸国連合(ASEAN)各国で昨年に実施された試験への応募者数は計36万人強で、このうちミャンマーが5割を占めて首位。昨年10月末時点の日本における外国人労働者数では国籍別首位のベトナムをはじめ、フィリピン、インドネシアの方が多いが、日本の少子高齢化に伴う労働力不足を補う外国人材の供給国としてミャンマーが今後台頭してくる可能性がある。
同試験には5つのレベルが存在する。ミャンマーで昨年7月に実施されたJLPTの応募者数の内訳を見ると、半分以上が技能実習生や特定技能労働者として来日するための目安となる「N4」(基本的な日本語を理解することができる)取得を目指す人だった。
最大都市ヤンゴンの日本語教師は「N4合格が当たり前となってきており、日本で働くための面接突破のためにより上のレベルに挑戦する生徒が増えている」と話す。日本語学習だけに集中できる環境ならば1年でN3(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる)以上に達する人もいるという。
ASEAN各国で昨年7月に実施されたJLPTの応募者数約17万人のうち、「幅広い場面で使われる日本語」の理解が問われる上級(N2、N1)レベルでは、ミャンマーよりもベトナムの方が多かった。

■学習速度重視、若年化も
日本での留学・就労を目指す人の多さが議題に上る際、「親日」「日本への憧れや期待」などが理由として挙げられることもあるが、日本語を学ぶミャンマー人の急増の要因は同国の混迷だ。日本語を学ぶ複数のミャンマー人に聞くと、「とにかく早く出国したい」という焦りの色が強く、消去法で日本を選んだという人もいる。
ヤンゴンの日本語教師は「最近の授業はスピード重視で、授業内容を詰め込んで期間を短縮している」と話す。生徒の多くは地方出身者で、寮費や生活費を切り詰めたい若者が多い。軍政が昨年2月に実施を発表した徴兵制の対象となることへの恐怖が膨らんでいることも大きい。
若い生徒も増えており、同教師が働く学校の生徒は最年少が15歳。地方の高校に進学せず、日本語習得に専念して日本で働こうとしているという。各地への紛争の広がりや、軍政下の教育システムを信用しない人の増加などが外国語の学習意欲を高めている。
日本の介護職で内定をもらった20代前半の女性は「日本への興味はなかったが、(クーデター後の混乱の中で)家族から安全で収入が多いと勧められ、日本語の勉強を始めた」と話す。ミャンマー人出稼ぎ労働者が多いタイやマレーシアでは仕事が本当にあるのかどうか事前情報が不明瞭だったり、待遇面で不安があったりするという。
■出国制限リスク鮮明に
ただ、多くの若者が国外逃避を目指す中、ミャンマー軍政は就労目的の出国の制限を強めている。昨年5月からは23~31歳の男性に対する一部の手続きを停止。人材の送り出し機関関係者の間では昨年、海外で働くミャンマー人への課税や自国送金義務の導入など「正規ルート」を整備するまでの一時的な措置にとどまるとの期待もあった。ただ、今年1月末からは制限の対象が18~35歳の男性に広がった。
軍政は公式に発表していないが、労働者を受け入れる国外企業のデマンドレター(求人票)と海外労働許可証「スマートカード(OWIC)」の承認・発給手続きが制限されている。軍政は海外就労には専用のパスポート(PJ)とOWICがそろっていなければならないとしており、技能実習生や特定技能労働者などの受け入れ手続きでは企業が求める人員の属性(性別、人数など)や仕事内容などを記載した求人票の当局承認を事前に得る必要がある。
在日本ミャンマー大使館が審査のために毎週発表している求人票リストをまとめたところ、2月(同大使館の発表日ベース)には日本企業833社が2,764人分の求人票を提出。このうち男性に対する求人の割合は21%で、昨年1月以降で最も低かった。
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