米トランプ政権が2日に貿易相手国に対して「相互関税」を課す方針を示したことで、アジアに拠点を置く日系企業の景気や業績の見通しに深刻な影を落としている。発動前後の8~10日にNNAが実施した緊急アンケート(有効回答数876)では、8割の日系企業が「予想を上回る関税率だった」とし、大半は拠点を置く国・地域の輸出に悪影響が出るとの見通しを示した。また、自社の売り上げ見通しについて、4割が「減る」と答えた。
2日に発表された相互関税では、中国や日本、欧州連合(EU)といった「大国」だけでなく、ベトナムや韓国、台湾、タイといった同盟相手や「小国」に対しても高い税率が設定された。米国は9日に各国・地域に対する上乗せ分の関税を90日間停止すると発表。再開されたとしても米国との交渉次第では、関税の引き下げや一部品目の除外といった措置も期待できる。ただ、今後の米国の動向次第で状況は大きく変化し、不透明感が強まっていることは否定できない。
NNAのアンケートでは、2日に発表された「トランプ関税」の税率について(Q1)、78%が「予想を上回った」と回答。特に第1次トランプ政権下の「関税戦争」では中国などからの生産移管の受け皿となり、「漁夫の利」を得たといわれる国や地域では衝撃が大きかったようだ。「最大の受益者」と評されたベトナムでは97%、タイでも88%が「予想を上回った」と回答した。

これらの国は対米貿易黒字が大きいものの、「10%前後くらいの関税を予想していた。36%になるとは思わなかった」(タイ/四輪・二輪)、「東南アジアへの関税は、非常に低いと思っていた」(タイ/小売り・卸売り)というのが率直な感想だったようだ。半導体のサプライチェーン(供給網)の要である台湾も32%の関税をかけられ、「予想は最大20%だったが、それを大きく上回った」(電機・電子)と驚きの声が上がった。
また、「周辺国と比較して米国への輸出が少ないにもかかわらず、高関税を課された」(インドネシア/小売り・卸売り)、「米国の友好国であるため、本当に関税を課されると思っていなかった。トランプ政権の発言は、一種の脅しだと解釈していた」(フィリピン/四輪・二輪)など、貿易摩擦の外側にいると考えられていた内需主導型の国も対象となり、衝撃は大きい。
一方、米国にとって最大のライバルである中国の回答者からは、「おおむね予想通りだった」との回答も20%あり、織り込み済みの企業も少なくないことがうかがえた。「米中対立を踏まえると、ある程度推測できた」(四輪・二輪)、「トランプ氏は就任前から対中関税について発言しており、想定内」(電機・電子)との回答が寄せられた。一方、中国への関税はさらに引き上げられるのでは、といった懸念も示されている。
■売り上げ「減る」「大幅に減る」4割以上
「相互関税」のマクロ経済への影響(Q5、複数回答)では、「特に影響がない」との予想は16件にとどまった。輸出が減速することで国内の景気に響くことへの懸念が強く、746件が「輸出が減速・景気が減速・後退」を挙げた。悪影響が出そうな業界(Q3、複数回答)としては、「四輪・二輪」の520件が最も多く、これに「電機・電子・半導体」が493件、「機械」が320件で続いた。
自社の事業に対する影響(Q7)については、「影響はない」が18%、「現状ではなんともいえない」が39%だったが、売り上げが「減る」「大幅に減る」は合わせて4割を超えた。国・地域別で売り上げ見通しへの懸念が最も強いのは台湾で、「減る」と「大幅に減る」が合わせて57%。タイは49%、中国も46%に上った。業種別ではとりわけ「運搬・倉庫」(59%)、「電機・電子」(54%)、「貿易・商社」(48%)などで減収に対する懸念が強かった。

■事前の対策取れず「対症療法」
「トランプ関税を想定して、駐在国・地域で対応準備をしてきたか」(Q8)との質問に対しては、「特にしていない」が86%と大多数となった。「準備してきた」は4%弱。これまでの対策としては、情報収集や現地工場の生産移管、販売先を増やすことなどが検討されてきたようだ。今後は、為替予約や減産に備えた人員配置の見直しといった、自社オペレーションの整備やコスト削減を進める流れも強まると予想できる。
ただ、第1次トランプ政権の動向や2024年の大統領選以降のトランプ氏の発言を踏まえて「準備してきた」という企業からも、「東南アジアへのシフトを準備してきたが、そこにも関税が課されることになった」(香港/機械)、「米中摩擦については準備してきたが、それ以外も相互関税の対象となった」(香港/小売り・卸売り)など嘆く声が上がっており、「準備しようがない」(タイ/電機・電子)のが正直なところなのかもしれない。
今後、事態がどのように推移したとしても、関税を巡る問題は「一企業が対策できるものではない」(オーストラリア/その他製造)性質であり、「事前の対策がとれず、対症療法しかない」(中国/貿易・商社)のが実情。各国・地域の駐在員からは、「政府に一日も早く交渉をまとめてほしい」(タイ/食品・飲料)といった要望や、「日本政府がきちんと手札をそろえてディール」(インド/機械)、「ベトナムと米国の交渉が成立し、二国間の無関税が実現」(ベトナム/機械)など、政府による米国との折衝に期待する声が強まっている。

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NNAのアンケートでは、2日に発表された「トランプ関税」の税率について(Q1)、78%が「予想を上回った」と回答。特に第1次トランプ政権下の「関税戦争」では中国などからの生産移管の受け皿となり、「漁夫の利」を得たといわれる国や地域では衝撃が大きかったようだ。「最大の受益者」と評されたベトナムでは97%、タイでも88%が「予想を上回った」と回答した。

これらの国は対米貿易黒字が大きいものの、「10%前後くらいの関税を予想していた。36%になるとは思わなかった」(タイ/四輪・二輪)、「東南アジアへの関税は、非常に低いと思っていた」(タイ/小売り・卸売り)というのが率直な感想だったようだ。半導体のサプライチェーン(供給網)の要である台湾も32%の関税をかけられ、「予想は最大20%だったが、それを大きく上回った」(電機・電子)と驚きの声が上がった。
また、「周辺国と比較して米国への輸出が少ないにもかかわらず、高関税を課された」(インドネシア/小売り・卸売り)、「米国の友好国であるため、本当に関税を課されると思っていなかった。トランプ政権の発言は、一種の脅しだと解釈していた」(フィリピン/四輪・二輪)など、貿易摩擦の外側にいると考えられていた内需主導型の国も対象となり、衝撃は大きい。
一方、米国にとって最大のライバルである中国の回答者からは、「おおむね予想通りだった」との回答も20%あり、織り込み済みの企業も少なくないことがうかがえた。「米中対立を踏まえると、ある程度推測できた」(四輪・二輪)、「トランプ氏は就任前から対中関税について発言しており、想定内」(電機・電子)との回答が寄せられた。一方、中国への関税はさらに引き上げられるのでは、といった懸念も示されている。
■売り上げ「減る」「大幅に減る」4割以上
「相互関税」のマクロ経済への影響(Q5、複数回答)では、「特に影響がない」との予想は16件にとどまった。輸出が減速することで国内の景気に響くことへの懸念が強く、746件が「輸出が減速・景気が減速・後退」を挙げた。悪影響が出そうな業界(Q3、複数回答)としては、「四輪・二輪」の520件が最も多く、これに「電機・電子・半導体」が493件、「機械」が320件で続いた。
自社の事業に対する影響(Q7)については、「影響はない」が18%、「現状ではなんともいえない」が39%だったが、売り上げが「減る」「大幅に減る」は合わせて4割を超えた。国・地域別で売り上げ見通しへの懸念が最も強いのは台湾で、「減る」と「大幅に減る」が合わせて57%。タイは49%、中国も46%に上った。業種別ではとりわけ「運搬・倉庫」(59%)、「電機・電子」(54%)、「貿易・商社」(48%)などで減収に対する懸念が強かった。

■事前の対策取れず「対症療法」
「トランプ関税を想定して、駐在国・地域で対応準備をしてきたか」(Q8)との質問に対しては、「特にしていない」が86%と大多数となった。「準備してきた」は4%弱。これまでの対策としては、情報収集や現地工場の生産移管、販売先を増やすことなどが検討されてきたようだ。今後は、為替予約や減産に備えた人員配置の見直しといった、自社オペレーションの整備やコスト削減を進める流れも強まると予想できる。
ただ、第1次トランプ政権の動向や2024年の大統領選以降のトランプ氏の発言を踏まえて「準備してきた」という企業からも、「東南アジアへのシフトを準備してきたが、そこにも関税が課されることになった」(香港/機械)、「米中摩擦については準備してきたが、それ以外も相互関税の対象となった」(香港/小売り・卸売り)など嘆く声が上がっており、「準備しようがない」(タイ/電機・電子)のが正直なところなのかもしれない。
今後、事態がどのように推移したとしても、関税を巡る問題は「一企業が対策できるものではない」(オーストラリア/その他製造)性質であり、「事前の対策がとれず、対症療法しかない」(中国/貿易・商社)のが実情。各国・地域の駐在員からは、「政府に一日も早く交渉をまとめてほしい」(タイ/食品・飲料)といった要望や、「日本政府がきちんと手札をそろえてディール」(インド/機械)、「ベトナムと米国の交渉が成立し、二国間の無関税が実現」(ベトナム/機械)など、政府による米国との折衝に期待する声が強まっている。
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