1、ベトナム子会社における不正リスク
ベトナム司法委員会による2024年調査(2023年10月1日から2024年7月31日まで)によれば、業務上の不正件数は前年比で50.7%増え、年々増加しているとのことです。
公認不正検査士協会(ACFE)のFraud Tree(不正の体系図)によれば、業務上の不正とは大きく「汚職」「資産の不正流用」「財務諸表等不正」に分かれています。
・「汚職」は、利益相反(購買関連や販売関連など)、贈収賄(不正なキックバックや不正入札など)、違法な謝礼、利益供与の強要に類型化されています。
・「資産の不正流用」は、現金預金を勘定処理前に横領するケース・勘定処理後に横領するケース・不正支出するケース、資産を横領するケース・不正使用するケースに類型化されています。
・「財務諸表等不正」は、財務にかかる過大ケースと過小ケース・各種資料における虚偽に類型化されています。
ベトナムでは「資産の不正流用」が多く、「汚職」については依然、投資案件や建設にかかる入札案件の増加に伴う贈収賄が目立つものの全体としての割合は減ったとの報告文書があります。
国としては、公職における「資産の不正流用」「汚職」の撲滅が最優先課題であり、民間における不正行為は(上場企業以外は)、全て民事で解決してくれ(各自で解決してくれ)という雰囲気を感じます。
筆者は、ベトナムの日系企業を舞台に行われた業務上の不正を見つけ出し、証拠収集などを行った上でベトナムの警察(公安)に直接押し込んだことが何度もあり、ベトナムにおける刑事訴訟、民事訴訟、仲裁訴訟、調停など全てを経験しておりますので、「海外子会社の管理(ベトナム編)」とテーマ付けし、業務上の不正がどのように行われるのか、どのように解決していくべきなのかなど、複数回に分けて書かせていただきます。
2、関連者間取引とは
今回は、関連者間取引を取り上げます。
移転価格税制やグローバルミニマム課税を検証する際、親子間、グループ間などの取引を意識します。取引の各当事者が関連者である取引・契約(関連者間取引)は、取引当事者間の価格操作ができてしまうからです。
では、これがなぜ国際税務上の取り扱いだけではなく、ベトナム国内の業務上の不正に繋がるのでしょうか。
まずは語句の定義からです。
・関連者とは、2020年企業法の第4条23項に次のように定義されています。
「企業と直接又は間接に関係を有する以下の各ケースにおける個人、組織をいう。
a)親会社、親会社の管理者及び法定代表者、親会社の管理者を任命する権限を有する者。
b)子会社、子会社の管理者及び法定代表者
c)株式や持分の所有や集約を通じて、或いは会社の決定を通じて企業活動を支配することができる個人、組織、又は個人や組織によるグループ
d)企業の管理者、法定代表者、監査役
e)会社の管理者、法定代表者、監査役、支配的な株式や持分を有する出資者の配偶者、実父母、養父母、義父母、実子、養子、子の配偶者、実兄弟姉妹、姉や妹の夫、兄や弟の妻
f)本項a号、b号、c号に定められた会社、組織の委任代表者である個人
g)本項a号、b号、c号、d号、e号、f号に定められた個人、会社、組織が、会社の決定を支配できる程度にオーナーとなっている企業」
・また、ベトナム語では少し違う語句が使われているものの2019年税管理法の第3条22項にも次のように定義されています。
「企業の管理、監査、出資において直接又は間接に関係を有する者同士、一つの組織或いは個人によって直接又は間接に管理、監査を受ける者同士、出資に参加している同じ一つの組織或いは個人を有する者同士、一つの家族の中で近親関係にある個人よって管理、監査される企業同士」
・例えば、以下のようなケースは関連者間取引に配慮すべきケースと言えます。
1、対象企業の資本に対して25%以上となる貸付を行い、且つ当該企業の借入総額の50%を占める場合
2、対象企業の資本の10%以上となる貸付、借入を、当該企業を管理、監督する個人の両親、子ども、兄弟姉妹などと行う場合
3、対象企業の25%以上の資本について、所有、譲渡、譲受の関係にある者がいる場合
4、対象企業の10%以上の株式を保有し、資本に対する大株主となる者がいる場合
5、第3者である2つの企業が共に、対象企業の所有者資本の25%以上を占める場合
6、2つの事業所が外国組織や個人の本社及び恒久的施設と関連がある、或いは恒久的施設(と同一)である場合
7、ある企業の経営陣が対象企業の出資者の過半数となっている又は監督権限を有している場合、或いは1出資者として財務や営業活動の決定権を有している場合
8、2つの企業の過半数となっている出資者が同一である場合、財務や営業活動の決定権を有している出資者同一である場合
9、2つの企業が、家族関係にある個人によって管理、監督されている場合。
10、別の企業の事業体によって監督を受ける立場にある場合
3、関連者間取引がどのような犯罪を生むのか
取引の各当事者が関連者である取引・契約(関連者間取引)は、取引当事者間の価格操作ができてしまうばかりではなく、権利義務の操作もできてしまうことから、企業法、税管理法を中心として多くの規制が定められ、会計監査の規程にも具体的に定められています。
公職にある方がその関連者と取引を進めることの問題点やリスクは述べるまでもありませんので、民間企業の重要職にある方が関連者と取引を進めることに限定して考察します。
下記はベトナム刑法において該当すると考えられる罪状です。
不正会計(第221条):10億ドン以上(約4万ドル以上)の損害で10年以上20年以下の懲役から財産没収などがあり得ます。
業務上横領・業務上過失(第353条、355条、360条):こちらも10億ドン以上(約4万ドル以上)の損害で20年以上の懲役から財産没収、死刑まであり得ます。時効が適用されないと思われます。
業務上偽造(第359条1項):11通以上の偽造を行った場合は12年以上20年以下の懲役から財産没収などがあり得ます。
詐欺による横領罪(第174条)、信頼を濫用した横領罪(第175条):こちらは財産没収から終身刑まであり得ます。
その他、営業秘密漏洩(第361条、362条)、業務上での他者への影響力行使(第358条)などもあります。
****
次回は関連者間取引の不正行為を具体的に掘り下げていきます。
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公認不正検査士協会(ACFE)のFraud Tree(不正の体系図)によれば、業務上の不正とは大きく「汚職」「資産の不正流用」「財務諸表等不正」に分かれています。
・「汚職」は、利益相反(購買関連や販売関連など)、贈収賄(不正なキックバックや不正入札など)、違法な謝礼、利益供与の強要に類型化されています。
・「資産の不正流用」は、現金預金を勘定処理前に横領するケース・勘定処理後に横領するケース・不正支出するケース、資産を横領するケース・不正使用するケースに類型化されています。
・「財務諸表等不正」は、財務にかかる過大ケースと過小ケース・各種資料における虚偽に類型化されています。
ベトナムでは「資産の不正流用」が多く、「汚職」については依然、投資案件や建設にかかる入札案件の増加に伴う贈収賄が目立つものの全体としての割合は減ったとの報告文書があります。
国としては、公職における「資産の不正流用」「汚職」の撲滅が最優先課題であり、民間における不正行為は(上場企業以外は)、全て民事で解決してくれ(各自で解決してくれ)という雰囲気を感じます。
筆者は、ベトナムの日系企業を舞台に行われた業務上の不正を見つけ出し、証拠収集などを行った上でベトナムの警察(公安)に直接押し込んだことが何度もあり、ベトナムにおける刑事訴訟、民事訴訟、仲裁訴訟、調停など全てを経験しておりますので、「海外子会社の管理(ベトナム編)」とテーマ付けし、業務上の不正がどのように行われるのか、どのように解決していくべきなのかなど、複数回に分けて書かせていただきます。
2、関連者間取引とは
今回は、関連者間取引を取り上げます。
移転価格税制やグローバルミニマム課税を検証する際、親子間、グループ間などの取引を意識します。取引の各当事者が関連者である取引・契約(関連者間取引)は、取引当事者間の価格操作ができてしまうからです。
では、これがなぜ国際税務上の取り扱いだけではなく、ベトナム国内の業務上の不正に繋がるのでしょうか。
まずは語句の定義からです。
・関連者とは、2020年企業法の第4条23項に次のように定義されています。
「企業と直接又は間接に関係を有する以下の各ケースにおける個人、組織をいう。
a)親会社、親会社の管理者及び法定代表者、親会社の管理者を任命する権限を有する者。
b)子会社、子会社の管理者及び法定代表者
c)株式や持分の所有や集約を通じて、或いは会社の決定を通じて企業活動を支配することができる個人、組織、又は個人や組織によるグループ
d)企業の管理者、法定代表者、監査役
e)会社の管理者、法定代表者、監査役、支配的な株式や持分を有する出資者の配偶者、実父母、養父母、義父母、実子、養子、子の配偶者、実兄弟姉妹、姉や妹の夫、兄や弟の妻
f)本項a号、b号、c号に定められた会社、組織の委任代表者である個人
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・また、ベトナム語では少し違う語句が使われているものの2019年税管理法の第3条22項にも次のように定義されています。
「企業の管理、監査、出資において直接又は間接に関係を有する者同士、一つの組織或いは個人によって直接又は間接に管理、監査を受ける者同士、出資に参加している同じ一つの組織或いは個人を有する者同士、一つの家族の中で近親関係にある個人よって管理、監査される企業同士」
・例えば、以下のようなケースは関連者間取引に配慮すべきケースと言えます。
1、対象企業の資本に対して25%以上となる貸付を行い、且つ当該企業の借入総額の50%を占める場合
2、対象企業の資本の10%以上となる貸付、借入を、当該企業を管理、監督する個人の両親、子ども、兄弟姉妹などと行う場合
3、対象企業の25%以上の資本について、所有、譲渡、譲受の関係にある者がいる場合
4、対象企業の10%以上の株式を保有し、資本に対する大株主となる者がいる場合
5、第3者である2つの企業が共に、対象企業の所有者資本の25%以上を占める場合
6、2つの事業所が外国組織や個人の本社及び恒久的施設と関連がある、或いは恒久的施設(と同一)である場合
7、ある企業の経営陣が対象企業の出資者の過半数となっている又は監督権限を有している場合、或いは1出資者として財務や営業活動の決定権を有している場合
8、2つの企業の過半数となっている出資者が同一である場合、財務や営業活動の決定権を有している出資者同一である場合
9、2つの企業が、家族関係にある個人によって管理、監督されている場合。
10、別の企業の事業体によって監督を受ける立場にある場合
3、関連者間取引がどのような犯罪を生むのか
取引の各当事者が関連者である取引・契約(関連者間取引)は、取引当事者間の価格操作ができてしまうばかりではなく、権利義務の操作もできてしまうことから、企業法、税管理法を中心として多くの規制が定められ、会計監査の規程にも具体的に定められています。
公職にある方がその関連者と取引を進めることの問題点やリスクは述べるまでもありませんので、民間企業の重要職にある方が関連者と取引を進めることに限定して考察します。
下記はベトナム刑法において該当すると考えられる罪状です。
不正会計(第221条):10億ドン以上(約4万ドル以上)の損害で10年以上20年以下の懲役から財産没収などがあり得ます。
業務上横領・業務上過失(第353条、355条、360条):こちらも10億ドン以上(約4万ドル以上)の損害で20年以上の懲役から財産没収、死刑まであり得ます。時効が適用されないと思われます。
業務上偽造(第359条1項):11通以上の偽造を行った場合は12年以上20年以下の懲役から財産没収などがあり得ます。
詐欺による横領罪(第174条)、信頼を濫用した横領罪(第175条):こちらは財産没収から終身刑まであり得ます。
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ビジネス全般法務進出設立