日本で業務用焼きのりのトップシェアを持つ小浅商事(名古屋市)が中国コンビニ業界からの引き合いを高めている。地方の地場コンビニブランドが店舗網を拡大し、市場競争が激しくなる中、差別化商品として“おにぎり”に力を入れるブランドが増えているためだ。競争の結果として新しい市場が形成され、小浅は中国最西部の新疆ウイグル自治区を含む各地でのりの新規需要をつかんだ。同社は地方都市の市場が今後も伸び続けるとみて、積極的に需要を取り込む考えだ。
中国の地方都市にはまだまだ知らないローカルコンビニブランドがたくさんある——。小浅商事の中国法人、小浅(上海)貿易(上海市)の鈴木涼介運営部長は実感を込めてこう語る。
業界団体の資料からも同様のことが見えてくる。中国チェーンストア業界団体の中国連鎖経営協会(CCFA)によると、コンビニ上位100社を合わせた2024年末の店舗数は前年末比約8%増の19万6,000店。ただ100社の顔触れを見ても沿海部に住む日本人にはなじみのない名前がほとんどだ。中国のコンビニ総数は23年末時点で32万1,000店とされ、地方にはあまたのコンビニブランドが存在していることが分かる。
しかし、店舗数の拡大に伴い市場競争も激化。商品・サービスの拡充に各ブランドがしのぎを削る中、現在は多くのローカルコンビニが差別化を図る商品の一つとしておにぎりに着目している。
「地方のコンビニの間では現在、中食の強化に向けて、プライベートブランドの食品をつくる工場を自前で設ける動きが活発化している」と鈴木氏。中でもおにぎりを取り扱いたいブランドは多いが、おいしいおにぎりの作り方が分からない。
小浅にはのりの供給依頼とともに、おいしいおにぎりの作り方を教えてほしいとの問い合わせが相次ぐ。そこで、小浅はコメの炊き方から具の提案まで、おにぎりの作り方をレクチャーすることから始める提案型営業でのりを売り込んでいる。
中国の地方都市にはさまざまなローカルコンビニブランドが存在する。写真はウルムチ市を中心に400店展開する「毎日毎夜」。同店の商品棚にもおにぎりが並ぶ
既存顧客からの紹介で新規の問い合わせが入ることも多い。同社が新疆ウイグル自治区のローカルコンビニと取引を始めたのも既存顧客からの紹介だった。新疆では首府のウルムチ市を中心に同エリアの2大コンビニブランドが各400店を展開。今では双方のブランドと取引をしている。
ある意味、のりはおにぎり文化とともにあり、いかに文化を定着させていけるかがのり需要拡大の鍵を握る。小浅は定着策の一環として、日系食品メーカーとともに「おにぎり会」を立ち上げ、中国全土におにぎり文化を広める取り組みを行っている。
■「コスパの良さ」に引き
小浅商事の中国進出は1992年。まだ中国で四角いのり(板のり)の生産・消費がほぼなかった時期に江蘇省連雲港市に養殖場を設け、ノリの一次加工から二次加工まで手がけた。その後、日本の入札制度を持ち込み、中国でののりの流通網を確立した。
小浅は、板のりを産業として中国に根付かせた功労者として知られ、中国でののり供給はナンバー1で、ベストサプライヤーともいわれる。
現在は一次加工を行わず、生産者が作ったのりを焼いてカットしたり、包装したりする二次加工を手がける。鈴木氏によると、中国の板のりの生産量は今年50億枚を超え、日本と同規模の水準になるとみられている。
ノリは緯度や海水温の関係で、日本、韓国、中国の3カ国でしか養殖されていない貴重な商材。中国での生産時期は12~4月と、主に冬にしか取れないデリケートな商材でもある。
収穫されたノリの品質を見極め、適切な入札価格で買いつけていく。専用の冷凍庫で保存し、品質を担保した上で、顧客の用途に合わせた形で1年を通じて安定供給する。それが小浅を含むのり商社の役目だ。
小浅がベストサプライヤーといわれる理由は、進出当初から継続して顧客に安心、安全で、安定的に供給し続けてきた実績があるからだ。その上で「中国で求められるのはコストパフォーマンスの良さだ」と鈴木氏は強調する。中国では価格が高いと見放されてしまう。品ぞろえの良さと、確かな目利きで納得感のある価格を提示できるのが小浅の強みだと胸を張る。
■ベーカリー向けに提案
各種の取り組みが奏功して、中国コンビニ業界に卸されるおにぎり向けのりのうち、小浅は現在トップシェアを誇る。さらに、鈴木氏は「コンビニ向けののりの需要は今後の伸びしろが大きい」とみる。
地方コンビニの顧客は若い人が多く、日本のアニメや漫画を見て育った世代でもある。「アニメなどを通じて、おにぎりを知る人もおり、手に取ってもらいやすい」と期待を込める。
地方ではコンビニに加え、回転ずしの業態が今後大きく伸びるとみられることも追い風要因だ。
新しい市場の創造にも動き出そうとしている。小浅が次に狙うのはベーカリー市場だ。
不景気で消費が伸び悩む傾向にあるものの、人口14億人の中国市場は魅力的。カフェが中国で急増したように、ベーカリー市場は今後も成長が見込まれている。ベーカリーに少し使ってもらうだけでも、定着すれば一定の市場が生まれる可能性はある。
既に上海市にはのりを使ったパンを売る店がある。鈴木氏の知人が営むベーカリーでは、おにぎりの形をしたパンにのりを巻いた「のりパン」を商品展開。2年以上販売し、じわりとファンを増やしている。今月上海で開催されるアジア最大のベーカリーの見本市でも、のりパンを売り込む予定だ。
中国は変化が激しく、何が起こるか分からない市場。自社の商品が1つでも市場に入り込むことができれば、ヒット商品に化ける可能性はある。鈴木氏はこう指摘する。
上海のベーカリーが販売するおにぎりの形をした「のりパン」。小浅が次に狙うのはベーカリー市場だ
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中国の地方都市にはまだまだ知らないローカルコンビニブランドがたくさんある——。小浅商事の中国法人、小浅(上海)貿易(上海市)の鈴木涼介運営部長は実感を込めてこう語る。
業界団体の資料からも同様のことが見えてくる。中国チェーンストア業界団体の中国連鎖経営協会(CCFA)によると、コンビニ上位100社を合わせた2024年末の店舗数は前年末比約8%増の19万6,000店。ただ100社の顔触れを見ても沿海部に住む日本人にはなじみのない名前がほとんどだ。中国のコンビニ総数は23年末時点で32万1,000店とされ、地方にはあまたのコンビニブランドが存在していることが分かる。
しかし、店舗数の拡大に伴い市場競争も激化。商品・サービスの拡充に各ブランドがしのぎを削る中、現在は多くのローカルコンビニが差別化を図る商品の一つとしておにぎりに着目している。
「地方のコンビニの間では現在、中食の強化に向けて、プライベートブランドの食品をつくる工場を自前で設ける動きが活発化している」と鈴木氏。中でもおにぎりを取り扱いたいブランドは多いが、おいしいおにぎりの作り方が分からない。
小浅にはのりの供給依頼とともに、おいしいおにぎりの作り方を教えてほしいとの問い合わせが相次ぐ。そこで、小浅はコメの炊き方から具の提案まで、おにぎりの作り方をレクチャーすることから始める提案型営業でのりを売り込んでいる。[caption id="attachment_26407" align="aligncenter" width="620"]
中国の地方都市にはさまざまなローカルコンビニブランドが存在する。写真はウルムチ市を中心に400店展開する「毎日毎夜」。同店の商品棚にもおにぎりが並ぶ[/caption]
既存顧客からの紹介で新規の問い合わせが入ることも多い。同社が新疆ウイグル自治区のローカルコンビニと取引を始めたのも既存顧客からの紹介だった。新疆では首府のウルムチ市を中心に同エリアの2大コンビニブランドが各400店を展開。今では双方のブランドと取引をしている。
ある意味、のりはおにぎり文化とともにあり、いかに文化を定着させていけるかがのり需要拡大の鍵を握る。小浅は定着策の一環として、日系食品メーカーとともに「おにぎり会」を立ち上げ、中国全土におにぎり文化を広める取り組みを行っている。
■「コスパの良さ」に引き
小浅商事の中国進出は1992年。まだ中国で四角いのり(板のり)の生産・消費がほぼなかった時期に江蘇省連雲港市に養殖場を設け、ノリの一次加工から二次加工まで手がけた。その後、日本の入札制度を持ち込み、中国でののりの流通網を確立した。
小浅は、板のりを産業として中国に根付かせた功労者として知られ、中国でののり供給はナンバー1で、ベストサプライヤーともいわれる。
現在は一次加工を行わず、生産者が作ったのりを焼いてカットしたり、包装したりする二次加工を手がける。鈴木氏によると、中国の板のりの生産量は今年50億枚を超え、日本と同規模の水準になるとみられている。
ノリは緯度や海水温の関係で、日本、韓国、中国の3カ国でしか養殖されていない貴重な商材。中国での生産時期は12~4月と、主に冬にしか取れないデリケートな商材でもある。
収穫されたノリの品質を見極め、適切な入札価格で買いつけていく。専用の冷凍庫で保存し、品質を担保した上で、顧客の用途に合わせた形で1年を通じて安定供給する。それが小浅を含むのり商社の役目だ。
小浅がベストサプライヤーといわれる理由は、進出当初から継続して顧客に安心、安全で、安定的に供給し続けてきた実績があるからだ。その上で「中国で求められるのはコストパフォーマンスの良さだ」と鈴木氏は強調する。中国では価格が高いと見放されてしまう。品ぞろえの良さと、確かな目利きで納得感のある価格を提示できるのが小浅の強みだと胸を張る。
■ベーカリー向けに提案
各種の取り組みが奏功して、中国コンビニ業界に卸されるおにぎり向けのりのうち、小浅は現在トップシェアを誇る。さらに、鈴木氏は「コンビニ向けののりの需要は今後の伸びしろが大きい」とみる。
地方コンビニの顧客は若い人が多く、日本のアニメや漫画を見て育った世代でもある。「アニメなどを通じて、おにぎりを知る人もおり、手に取ってもらいやすい」と期待を込める。
地方ではコンビニに加え、回転ずしの業態が今後大きく伸びるとみられることも追い風要因だ。
新しい市場の創造にも動き出そうとしている。小浅が次に狙うのはベーカリー市場だ。
不景気で消費が伸び悩む傾向にあるものの、人口14億人の中国市場は魅力的。カフェが中国で急増したように、ベーカリー市場は今後も成長が見込まれている。ベーカリーに少し使ってもらうだけでも、定着すれば一定の市場が生まれる可能性はある。
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