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【偽装品との攻防】相次ぐ摘発、根絶は遠くトランプ関税回避へ猛アピールも

ベトナムで模倣品の摘発が加速している。南部ホーチミン市の中心部にある商業施設「サイゴン・スクエア」では5月29日、高級ブランド品の模倣品数千点が押収、今月13日にも模倣品約400点が押収された。摘発強化の動きは他の都市にも広がっている。背景にあるのは、米トランプ政権が掲げる相互関税だ。政府は知的財産権侵害への対処姿勢を示すことで、米との通商交渉を円滑に進める考えだ。摘発強化は「一過性のものではない」とアピールするが、専門家は「騒ぎが収まれば元通りになる可能性もある」と指摘する。

模倣品の摘発強化により、サイゴン・スクエアは緊張感に包まれた様子だ=9日、ホーチミン市

摘発から10日経過したサイゴン・スクエアを訪れると靴や旅行かばん、バッグなどを扱う店の多くは臨時閉店が続いていた。店員に話を聞くと「商品が摘発され、売るものがない」と打ち明けた。施設内での写真を撮影しようとすると「市場管理当局が検査中だ」と警備員に制止された。やりとりを見つめる店主の表情に警戒感がにじんでいた。
摘発強化の動きは全国に広がりを見せている。中部ダナン市でも5月20日、市内の店舗でバッグや衣料品など約2,000点が押収された。中南部フーイエン省で男性用衣類を販売する男性は、「模倣品の販売で2,100万ドン(約11万6,000円)の罰金を科された上、1,500万ドン相当の商品を没収された」と悲鳴をあげる。
こうした強化措置に対し、伝統市場の商人らの一部は「検査逃れ」に動いている。検査を受けそうになると一斉に営業を停止して鍵をかける店が増えている。消費者からは「営業していると思って来たのに、どこも閉まっていた」と不満の声が上がる。
ホーチミン市の弁護士は地元メディアに「検査のときだけ店を閉じるのは『偽物を売っている』と言っているようなものだ」と指摘する。

サイゴン・スクエアでは多くの店が臨時閉店している=9日、ホーチミン市

■取り締まり強化期間、3カ月に延長
摘発強化の動きには、米国が問題視する知的財産権の侵害に対処する姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。米通商代表部(USTR)は「2025年版外国貿易障壁報告書」で模倣品のまん延と知的財産権侵害の懸念対象としてサイゴン・スクエアを名指し、ベトナム政府の模倣品摘発の不徹底を問題視した。
トランプ政権で通商・製造業政策を統括するナバロ上級顧問は4月7日の米メディアとのインタビューで、ベトナムが提案した米越相互の関税撤廃提案を批判。中国製品の迂回(うかい)輸出や知財権の侵害、付加価値税(VAT)などをベトナムの「不正行為」として、「重要なのは非関税措置の不正行為だ」と指摘した。
米国からの批判を受けて、ファム・ミン・チン首相は5月15日、模倣品などの取り締まり強化月間として1カ月間の集中取り締まりを開始した。公安省は強化期間中の6月3日までに、密輸、模倣品の製造および販売、虚偽広告など全国で36件を立件、119人を起訴したと発表。当初は1カ月と設定した強化月間を3カ月に延長した。
■密輸、原産地偽装も対象に
政府は密輸や原産地偽装にも摘発対象を広げている。財務省税関局は5月末、北部ランソン省ヒューギ国境検問所で、中国からラオスに向けたトランジット貨物のファッション製品約5,000点を知財権侵害の疑いがあるとして差し止めたと発表。他の中国やラオスとの国境でも検査を強化している。
南部で操業する日系メーカーは最近になって当局から査察を受けた。査察の内容は、原産地証明書通りに輸入部品を加工しているかどうかで、関係者は「こうした取り調べは初めてだ。トランプ関税回避に向けたアピールの一環ではないか」と語る。
■「あくまで一過性」の見方も
政府は今回の取り締まりを一過性のものにとどめず、恒常的な制度に落とし込む構えだ。チン首相は違法行為の「見逃しゼロ、例外ゼロ」を徹底するよう指示文書を各行政機関向けに発布した。模倣品や偽造品を買わないよう国民の啓発活動も開始した。
One Asia法律事務所のベトナムオフィス代表の松谷亮弁護士はNNAに、「ここまで大規模な摘発は前例がなく、米国に向けたアピールの側面が強いのだろう」と語る。ただ、当局の対応は対症療法的な色合いが強いとして、「トランプ氏の通商政策への対応が一段落すれば、模倣品などの摘発も以前の水準に戻る可能性が高い」という見方を示した。

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こうした強化措置に対し、伝統市場の商人らの一部は「検査逃れ」に動いている。検査を受けそうになると一斉に営業を停止して鍵をかける店が増えている。消費者からは「営業していると思って来たのに、どこも閉まっていた」と不満の声が上がる。
ホーチミン市の弁護士は地元メディアに「検査のときだけ店を閉じるのは『偽物を売っている』と言っているようなものだ」と指摘する。
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■取り締まり強化期間、3カ月に延長
摘発強化の動きには、米国が問題視する知的財産権の侵害に対処する姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。米通商代表部(USTR)は「2025年版外国貿易障壁報告書」で模倣品のまん延と知的財産権侵害の懸念対象としてサイゴン・スクエアを名指し、ベトナム政府の模倣品摘発の不徹底を問題視した。
トランプ政権で通商・製造業政策を統括するナバロ上級顧問は4月7日の米メディアとのインタビューで、ベトナムが提案した米越相互の関税撤廃提案を批判。中国製品の迂回(うかい)輸出や知財権の侵害、付加価値税(VAT)などをベトナムの「不正行為」として、「重要なのは非関税措置の不正行為だ」と指摘した。
米国からの批判を受けて、ファム・ミン・チン首相は5月15日、模倣品などの取り締まり強化月間として1カ月間の集中取り締まりを開始した。公安省は強化期間中の6月3日までに、密輸、模倣品の製造および販売、虚偽広告など全国で36件を立件、119人を起訴したと発表。当初は1カ月と設定した強化月間を3カ月に延長した。
■密輸、原産地偽装も対象に
政府は密輸や原産地偽装にも摘発対象を広げている。財務省税関局は5月末、北部ランソン省ヒューギ国境検問所で、中国からラオスに向けたトランジット貨物のファッション製品約5,000点を知財権侵害の疑いがあるとして差し止めたと発表。他の中国やラオスとの国境でも検査を強化している。
南部で操業する日系メーカーは最近になって当局から査察を受けた。査察の内容は、原産地証明書通りに輸入部品を加工しているかどうかで、関係者は「こうした取り調べは初めてだ。トランプ関税回避に向けたアピールの一環ではないか」と語る。
■「あくまで一過性」の見方も
政府は今回の取り締まりを一過性のものにとどめず、恒常的な制度に落とし込む構えだ。チン首相は違法行為の「見逃しゼロ、例外ゼロ」を徹底するよう指示文書を各行政機関向けに発布した。模倣品や偽造品を買わないよう国民の啓発活動も開始した。
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