インドは今、クリーンエネルギー技術の世界拠点として急成長している。電池分野でも、強靭(きょうじん)で安定的なサプライチェーン(供給網)の確保を目指す。中国に依存しない調達ルートをいかにつくるか——。その成否は、日本やオーストラリアとの協力が鍵を握りそうだ。
「インドの電池製造能力は今後飛躍的に伸びる」と話したインド科学技術省で科学部門を統括するアニタ・グプタ氏(右端)=2日、首都ニューデリー(NNA撮影)
「インドの電池製造能力は今後、飛躍的に伸びる。これまでに15社が生産能力の確立または拡張を発表している」。インド科学技術省で科学部門を統括するアニタ・グプタ氏は、首都ニューデリーで2日に開かれた会議でこう述べた。会議は、電池と鉱物産業における日印連携を強化しようと、日本政府と日本貿易振興機構(ジェトロ)が主催。日印の政府・企業関係者ら約200人が参加した。
グプタ氏によると、インドでの電池製造能力の確立・拡張は、地場財閥からスタートアップ、グローバル企業に至るまで、さまざまなプレーヤーが動き出している。さらに少なくとも10中央省庁が、原材料や完成品、充電インフラなど、電池エコシステムの構築支援に取り組んでいる。
同じ会議で、インド重工業省のビジャイ・ミッタル次官は、特定国への依存を減らしつつ、強固な電池供給網をつくるため、インドと日本が協力するべきだと強調。インド鉱山省のディネシュ・マフル次官も、インド政府が「国家重要鉱物ミッション(CMM)」を2025年1月に閣議決定し、電池製造に必要な鉱物の自給体制づくりを推進していると説明した。
インドでの電池製造能力の確立・拡張に向け、さまざまな企業が動き出している=2日、ニューデリー(NNA撮影)
■印企業、製造関連で大型投資
インドの電動二輪車メーカー、オラ・エレクトリック・モビリティーや石油化学事業を主力とする地場財閥リライアンス・インダストリーズ(RIL)は、ギガファクトリー(巨大電池工場)の建設に動いている。
鉄鋼事業が主力の地場JSWグループも、正極活物質(CAM)や負極活物質(AAM)、セパレーター(絶縁材)など電池素材製造への大型投資を決めた。JSWエナジーの電池技術部門で幹部を務めるヤショダン・ゴカレ氏は会議で、「世界的な電池メーカーと提携し、グローバル水準の施設をインドで建設する方針だ」と話した。
オラ・グループのシニア・ディレクター、プラシャント・クマル氏は会議で、同社グループの状況を報告した。リチウムやコバルト、ニッケル、黒鉛の国際市況について、それぞれの価格変動が調達各社のコスト不安定化と利益圧迫を招いていると指摘。また、インドで各素材の精製工程が不足していることが、国外企業への依存を強めていると説いた。クマル氏は「資源の自国優先主義や関税、資源国の輸出量制限が、長期にわたる調達戦略を複雑にしている」と述べた。
電池材料のリサイクルを手がける地場ロハム・クリーンテック幹部のプラティユシュ・シンハ氏は会議で、技術開発に関する日印協力や第三国での鉱物探査、投資、合弁事業の必要性を訴えた。シンハ氏は「インドは市場規模や製造コスト、人材の点で中国に対抗できる唯一の国。日本にとっては魅力的なパートナーだ」と語った。
■リチウム精製、中国に集中
日本・経済産業省の青木洋紀・電池産業課長も会議で、電気自動車(EV)向け電池の調達戦略などについて説明した。
日本を含む世界各国は、電池供給網の「上流」に当たるリチウムの入手を、オーストラリアやチリ、中国に依存している。加えて、入手したリチウムを精製する「中流」は、インフラとコスト面で優位に立つ中国に集中。この集中が世界各国にとって調達リスクになっている。
調達リスクを軽減するため、日本はインドやオーストラリアと協力し、中国に頼らない電池供給網の構築を目指す。電池材料のリサイクルや次世代電池の本命とされる全固体電池の技術開発にも力を注ぐ。経産省の青木氏は会議で、「あらゆる産業や用途の変化に対応するため、多様な電池のイノベーションが必要だ」と話した。
日本の民間企業もインドとの連携に期待を寄せる。住友金属鉱山の田中勝也顧問は会議で、「インドの電池市場は巨大な可能性を持つ。中国との直接競合も少ない。日本企業がインドに進出するには、インド政府による情報提供とビジネスマッチング支援が不可欠だ」と述べた。
オーストラリアは、豊富な鉱物資源と政治的な安定を売りに、電池供給網で重要な地位に立とうとしている。
鉱山開発を手がけるオーストラリアのキャッスル・リソーシズのマーク・ヘプバーン社長によると、アフリカは鉱物資源が豊富だが、鉱山の国有化が進んでいる上、駐在員の拘束や紛争発生のリスクがある。オーストラリアは鉱物資源がアフリカ同様に多くあり、政治的にも安定している。ヘプバーン氏は会議で、「今、オーストラリアの鉱物を確保しなければ、将来の調達機会を失う」と各企業に呼びかけた。
「今、オーストラリアの鉱物を確保しなければ、将来の調達機会を失う」と呼びかけたオーストラリアのキャッスル・リソーシズのマーク・ヘプバーン社長=2日、ニューデリー(NNA撮影)
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グプタ氏によると、インドでの電池製造能力の確立・拡張は、地場財閥からスタートアップ、グローバル企業に至るまで、さまざまなプレーヤーが動き出している。さらに少なくとも10中央省庁が、原材料や完成品、充電インフラなど、電池エコシステムの構築支援に取り組んでいる。
同じ会議で、インド重工業省のビジャイ・ミッタル次官は、特定国への依存を減らしつつ、強固な電池供給網をつくるため、インドと日本が協力するべきだと強調。インド鉱山省のディネシュ・マフル次官も、インド政府が「国家重要鉱物ミッション(CMM)」を2025年1月に閣議決定し、電池製造に必要な鉱物の自給体制づくりを推進していると説明した。
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インドでの電池製造能力の確立・拡張に向け、さまざまな企業が動き出している=2日、ニューデリー(NNA撮影)[/caption]
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インドの電動二輪車メーカー、オラ・エレクトリック・モビリティーや石油化学事業を主力とする地場財閥リライアンス・インダストリーズ(RIL)は、ギガファクトリー(巨大電池工場)の建設に動いている。
鉄鋼事業が主力の地場JSWグループも、正極活物質(CAM)や負極活物質(AAM)、セパレーター(絶縁材)など電池素材製造への大型投資を決めた。JSWエナジーの電池技術部門で幹部を務めるヤショダン・ゴカレ氏は会議で、「世界的な電池メーカーと提携し、グローバル水準の施設をインドで建設する方針だ」と話した。
オラ・グループのシニア・ディレクター、プラシャント・クマル氏は会議で、同社グループの状況を報告した。リチウムやコバルト、ニッケル、黒鉛の国際市況について、それぞれの価格変動が調達各社のコスト不安定化と利益圧迫を招いていると指摘。また、インドで各素材の精製工程が不足していることが、国外企業への依存を強めていると説いた。クマル氏は「資源の自国優先主義や関税、資源国の輸出量制限が、長期にわたる調達戦略を複雑にしている」と述べた。
電池材料のリサイクルを手がける地場ロハム・クリーンテック幹部のプラティユシュ・シンハ氏は会議で、技術開発に関する日印協力や第三国での鉱物探査、投資、合弁事業の必要性を訴えた。シンハ氏は「インドは市場規模や製造コスト、人材の点で中国に対抗できる唯一の国。日本にとっては魅力的なパートナーだ」と語った。
■リチウム精製、中国に集中
日本・経済産業省の青木洋紀・電池産業課長も会議で、電気自動車(EV)向け電池の調達戦略などについて説明した。
日本を含む世界各国は、電池供給網の「上流」に当たるリチウムの入手を、オーストラリアやチリ、中国に依存している。加えて、入手したリチウムを精製する「中流」は、インフラとコスト面で優位に立つ中国に集中。この集中が世界各国にとって調達リスクになっている。
調達リスクを軽減するため、日本はインドやオーストラリアと協力し、中国に頼らない電池供給網の構築を目指す。電池材料のリサイクルや次世代電池の本命とされる全固体電池の技術開発にも力を注ぐ。経産省の青木氏は会議で、「あらゆる産業や用途の変化に対応するため、多様な電池のイノベーションが必要だ」と話した。
日本の民間企業もインドとの連携に期待を寄せる。住友金属鉱山の田中勝也顧問は会議で、「インドの電池市場は巨大な可能性を持つ。中国との直接競合も少ない。日本企業がインドに進出するには、インド政府による情報提供とビジネスマッチング支援が不可欠だ」と述べた。
オーストラリアは、豊富な鉱物資源と政治的な安定を売りに、電池供給網で重要な地位に立とうとしている。
鉱山開発を手がけるオーストラリアのキャッスル・リソーシズのマーク・ヘプバーン社長によると、アフリカは鉱物資源が豊富だが、鉱山の国有化が進んでいる上、駐在員の拘束や紛争発生のリスクがある。オーストラリアは鉱物資源がアフリカ同様に多くあり、政治的にも安定している。ヘプバーン氏は会議で、「今、オーストラリアの鉱物を確保しなければ、将来の調達機会を失う」と各企業に呼びかけた。
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