オーストラリアのレアアース(希土類)最大手ライナスがマレーシアで、高性能磁石や光学ガラスの原料となる重希土類の生産に乗り出している。5月から6月にかけてジスプロシウムとテルビウムの分離・精製の工程に着手した。これまで重希土類の商業規模での生産は、中国国内に限られていた。ライナスは脱中国を模索する日本や欧米の需要を取り込む考えだ。
ジスプロシウムを初めて分離したライナス・マレーシアの作業チーム(ライナス・レアアース提供)
西オーストラリア州のマウント・ウェルド鉱山で採掘した鉱石をマレーシアへ輸送。現地子会社のライナス・マレーシアがパハン州の工場で分離・精製し、5月にジスプロシウム、6月にテルビウムの生産を始めた。
どちらもレアアースの中で特に希少性が高い「重希土」に分類される。磁石に耐熱性を持たせる特徴があることから、電気自動車(EV)のモーターや風力発電設備に用いる高性能磁石の原料になる。ライナスは6月発表の声明文で「電動モーターに使われる永久磁石の製造に必要な2種類の重希土類を供給できるようになった」と成果を強調した。
デロイトトーマツ戦略研究所の平木綾香・研究員は、「中国による4月の輸出制限を受け、一国への過度な依存に対する危機感が世界的に高まっている。マレーシアで重希土類の生産が始まったことは大きなインパクトだ」と話す。
世界で流通するレアアースは、採掘の約7割、精製の約9割を中国が占める。その中国が今年4月、米国による関税措置への報復としてレアアース7種の輸出を制限したことで、各国の製造業に影響が及んだ。スズキは小型車の生産を一時停止。欧州の自動車部品工場も操業が停滞した。
調達先の分散が急務となる中、マレーシア工場には強い引き合いがありそうだ。ライナスは声明文で「マレーシアでの生産はサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化において重要な一歩」とし、日本や欧米の顧客と供給について交渉していると説明した。
ライナスの重希土類を巡っては、すでに日本勢が取り込みに動いている。同社には双日と日本政府系のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が共同で出資する。2社は2023年、マレーシアでの生産分を含めマウント・ウェルド鉱山由来のジスプロシウムとテルビウムの最大65%を日本向けに供給する契約をライナスと締結している。
■マレーシア、自国の産業発展に期待
レアアースはレアメタル(希少金属)の一種で、鉱物に混じり合って含まれる17種類の元素の総称をいう。世界に広く分布する軽希土類と一部の国に偏在する重希土類に大きく分かれる。鉱石の採掘・選鉱、分離・精製、加工の工程を経て、磁石や触媒、光学ガラスなどの原料になる。
ライナス・マレーシアで分離処理された後のジスプロシウム(ライナス・レアアース提供)
生産が過度に中国に集中しているのは、コストの面で競争力が高いためだ。鉱石から個々の元素を取り出す分離の作業は高い技術が求められるほか、工程の途中で有害な廃液が発生する。このため、環境規制が緩いことで処理コストが低い中国への依存が進んだ。
また、レアアースの中でもジスプロシウムやテルビウムといった重希土類は、中国をはじめ一部の国に埋蔵量が偏っており、他国が取り扱うのはさらに難しい。
ライナスは12年にマレーシア・パハン州で工場を稼働し、軽希土類、重希土類の混合物を生産してきた。高い技術とコストが求められる重希土類の分離・精製に乗り出した背景には、脱炭素への移行に伴いEVなどに使われる高性能磁石の需要が高まっていることがある。
デロイトの平木氏は重希土類の生産開始について、「欧米ほど環境規制が厳しくなく、人件費も安いことがマレーシアと中国の共通点」と分析。環境汚染のリスクはあるが、「マレーシアとしては先進国から資金とともに技術を取得し、自国の産業発展につなげたい思惑がある」とみる。
マレーシアの複数の州は、レアアースを通じて海外投資を誘致する方針を掲げる。マレー半島東海岸部のクランタン州とライナスは5月、ライナスの工場への混合希土類炭酸塩(MREC)の供給で覚書を結んだ。「マレーシアで調達・分離するレアアース製品の開発」(ライナス)を視野に入れた動きで、レアアースを成長産業として育てたいマレーシアの意向がうかがえる。
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どちらもレアアースの中で特に希少性が高い「重希土」に分類される。磁石に耐熱性を持たせる特徴があることから、電気自動車(EV)のモーターや風力発電設備に用いる高性能磁石の原料になる。ライナスは6月発表の声明文で「電動モーターに使われる永久磁石の製造に必要な2種類の重希土類を供給できるようになった」と成果を強調した。
デロイトトーマツ戦略研究所の平木綾香・研究員は、「中国による4月の輸出制限を受け、一国への過度な依存に対する危機感が世界的に高まっている。マレーシアで重希土類の生産が始まったことは大きなインパクトだ」と話す。
世界で流通するレアアースは、採掘の約7割、精製の約9割を中国が占める。その中国が今年4月、米国による関税措置への報復としてレアアース7種の輸出を制限したことで、各国の製造業に影響が及んだ。スズキは小型車の生産を一時停止。欧州の自動車部品工場も操業が停滞した。
調達先の分散が急務となる中、マレーシア工場には強い引き合いがありそうだ。ライナスは声明文で「マレーシアでの生産はサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化において重要な一歩」とし、日本や欧米の顧客と供給について交渉していると説明した。
ライナスの重希土類を巡っては、すでに日本勢が取り込みに動いている。同社には双日と日本政府系のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が共同で出資する。2社は2023年、マレーシアでの生産分を含めマウント・ウェルド鉱山由来のジスプロシウムとテルビウムの最大65%を日本向けに供給する契約をライナスと締結している。
■マレーシア、自国の産業発展に期待
レアアースはレアメタル(希少金属)の一種で、鉱物に混じり合って含まれる17種類の元素の総称をいう。世界に広く分布する軽希土類と一部の国に偏在する重希土類に大きく分かれる。鉱石の採掘・選鉱、分離・精製、加工の工程を経て、磁石や触媒、光学ガラスなどの原料になる。
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生産が過度に中国に集中しているのは、コストの面で競争力が高いためだ。鉱石から個々の元素を取り出す分離の作業は高い技術が求められるほか、工程の途中で有害な廃液が発生する。このため、環境規制が緩いことで処理コストが低い中国への依存が進んだ。
また、レアアースの中でもジスプロシウムやテルビウムといった重希土類は、中国をはじめ一部の国に埋蔵量が偏っており、他国が取り扱うのはさらに難しい。
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