ベトナム南部ホーチミン市で、地場初の100%資本による半導体後工程請負企業(OSAT)が本格稼働する。不動産や小売り事業を手がける複合企業CTグループ傘下のCTセミコンダクター(CTS)は市内の工業団地で研究開発(R&D)拠点を設立。クリーンルーム付きの組み立て・パッケージ工場を年内に完成させる。2027年には国産チップの量産体制を確立し、設計から後工程まで一貫して担うことで、ベトナムが世界の半導体産業のバリューチェーンで果たす役割を高める狙いだ。成長戦略と今後の展望について、ワン・アズミ・ビン・ワン・フシン最高執行責任者(COO)に聞いた。
「ベトナム初のOSATになる意義は大きい」と話すワンCOO=7月10日、ホーチミン市
ワン氏はマレーシア出身。後工程の世界最大手、台湾の日月光投資控股(ASEテクノロジー・ホールディング)やマレーシア後工程大手イナリ・アメルトロンといった大手半導体企業で約33年にわたり現場と経営の両面を経験。アジア各地で先端パッケージ工場の立ち上げや人材育成にも携わってきた。ワン氏との主なやりとりは以下の通り。
——ホーチミン市内で進めているOSAT工場の概要は。
まず第1期として、ホーチミン市ソンタン工業団地(旧ビンズオン省)のCTグループ・ハイテク開発センター内にR&D拠点を設立した。続いて第2期では約1億米ドル(約147億円)を投じて、クリーンルーム面積1万平方メートルの組み立て・パッケージ工場を建設中だ。
第4四半期(10~12月)の完工を目指し、11月の試作サンプル製造、26年2月からの量産、27年には年産1億個の生産体制を計画している。工場は物流・人材確保に有利なホーチミン市、旧ビンズオン省、ドンナイ省からなる三角地帯にあり、強い産学連携も実現可能だ。今後はホーチミン市直属トゥードゥック市のサイゴン・ハイテクパーク(SHTP)にも新工場を建設予定だ。
——どのようなパッケージ技術・製品分野に対応しているのか。主な顧客層は。
端子(リード)が外側に出ている一般的な集積回路(IC)パッケージだけでなく、ノーリード型やICを1つのパッケージにまとめた「システム・イン・パッケージ(SiP)」、端子がパッケージの底面に格子状に配列された「ピン・グリッド・アレイ(PGA)」、半導体チップをウエハーの状態(ウエハーレベル)でパッケージングする「ウエハーレベルチップサイズパッケージ(WLCSP)」など、多様なパッケージ技術に対応可能だ。スマートフォンや車載機器、無人航空機(UAV)など幅広い用途に対応している。
売上高の10%超をR&Dや先端パッケージ分野への投資に充てて次世代技術も強化する。顧客は国内外のIC設計企業や(自社で工場を持たない)ファブレス、垂直統合型メーカー(IDM)が中心で、グループ内の無人航空機関連企業も重要なパートナーとなる。
■国策を意識、政府から後押しも
——なぜCTグループは半導体分野に本格参入したのか。
CTグループは長年、不動産を中心に事業を展開してきたが、24年12月のベトナム共産党政治局によるデジタル変革推進政策「決議57号(57/NQ—TW)」発表と、コロナ禍で浮き彫りとなった世界的な半導体不足が大きな転機となった。
不動産市況の悪化も重なり、事業の多角化と次世代産業への布石として半導体分野への本格参入を決断した。目標は30年までに設計から製造・検査まで一貫した半導体エコシステム(生態系)を構築し、国家の技術安全保障と産業発展に寄与することだ。
——ベトナム初のOSAT企業として参入した意義と、その強みは。
これまでベトナムには本格的なOSAT企業がなかった。CTグループがOSATに参入したことで、国内で半導体の付加価値を創出し、産業全体の高度化や技術自立を後押しできる。
業界初の存在として多くの企業やパートナーから協業打診があり、UAVやモノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)といった自社内の異分野技術と組み合わせることで、設計から製品化まで一貫対応できる点も大きな強みだ。ベトナム政府の設備投資支援、大学連携による人材育成体制なども、競争力の核となっている。
■ベテラン技術者、各国から誘致
——人材育成や組織体制で重視していることは。
半導体事業の持続的成長には人材確保と育成が不可欠だ。CTグループはマレーシア、台湾、韓国、フィリピンなど多国籍のベテラン技術者と、地元ベトナム人の若手を融合させた組織体制を敷いている。大学や研究機関との連携を深め、トレーナー育成や職場内訓練(OJT)、最新技術の知見共有など、多層的な育成策を展開中だ。
ベトナムの半導体技術者は5,000~6,000人程度とまだ少ないが、若年層の柔軟性や積極的な産学連携で今後の成長を見込んでいる。(下に続く)
現在建設中のソンタン工場の模型図=7月10日、ホーチミン市
<会社概要>
CTグループ:1992年設立。非上場。ホーチミン市にグループ本社を置き、68の企業を傘下に持つ。主力の不動産、小売り、建設、金融、旅行などに加え、近年は半導体やAIなどのハイテク分野への進出が目立つ。
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——ホーチミン市内で進めているOSAT工場の概要は。
まず第1期として、ホーチミン市ソンタン工業団地(旧ビンズオン省)のCTグループ・ハイテク開発センター内にR&D拠点を設立した。続いて第2期では約1億米ドル(約147億円)を投じて、クリーンルーム面積1万平方メートルの組み立て・パッケージ工場を建設中だ。
第4四半期(10~12月)の完工を目指し、11月の試作サンプル製造、26年2月からの量産、27年には年産1億個の生産体制を計画している。工場は物流・人材確保に有利なホーチミン市、旧ビンズオン省、ドンナイ省からなる三角地帯にあり、強い産学連携も実現可能だ。今後はホーチミン市直属トゥードゥック市のサイゴン・ハイテクパーク(SHTP)にも新工場を建設予定だ。
——どのようなパッケージ技術・製品分野に対応しているのか。主な顧客層は。
端子(リード)が外側に出ている一般的な集積回路(IC)パッケージだけでなく、ノーリード型やICを1つのパッケージにまとめた「システム・イン・パッケージ(SiP)」、端子がパッケージの底面に格子状に配列された「ピン・グリッド・アレイ(PGA)」、半導体チップをウエハーの状態(ウエハーレベル)でパッケージングする「ウエハーレベルチップサイズパッケージ(WLCSP)」など、多様なパッケージ技術に対応可能だ。スマートフォンや車載機器、無人航空機(UAV)など幅広い用途に対応している。
売上高の10%超をR&Dや先端パッケージ分野への投資に充てて次世代技術も強化する。顧客は国内外のIC設計企業や(自社で工場を持たない)ファブレス、垂直統合型メーカー(IDM)が中心で、グループ内の無人航空機関連企業も重要なパートナーとなる。
■国策を意識、政府から後押しも
——なぜCTグループは半導体分野に本格参入したのか。
CTグループは長年、不動産を中心に事業を展開してきたが、24年12月のベトナム共産党政治局によるデジタル変革推進政策「決議57号(57/NQ—TW)」発表と、コロナ禍で浮き彫りとなった世界的な半導体不足が大きな転機となった。
不動産市況の悪化も重なり、事業の多角化と次世代産業への布石として半導体分野への本格参入を決断した。目標は30年までに設計から製造・検査まで一貫した半導体エコシステム(生態系)を構築し、国家の技術安全保障と産業発展に寄与することだ。
——ベトナム初のOSAT企業として参入した意義と、その強みは。
これまでベトナムには本格的なOSAT企業がなかった。CTグループがOSATに参入したことで、国内で半導体の付加価値を創出し、産業全体の高度化や技術自立を後押しできる。
業界初の存在として多くの企業やパートナーから協業打診があり、UAVやモノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)といった自社内の異分野技術と組み合わせることで、設計から製品化まで一貫対応できる点も大きな強みだ。ベトナム政府の設備投資支援、大学連携による人材育成体制なども、競争力の核となっている。
■ベテラン技術者、各国から誘致
——人材育成や組織体制で重視していることは。
半導体事業の持続的成長には人材確保と育成が不可欠だ。CTグループはマレーシア、台湾、韓国、フィリピンなど多国籍のベテラン技術者と、地元ベトナム人の若手を融合させた組織体制を敷いている。大学や研究機関との連携を深め、トレーナー育成や職場内訓練(OJT)、最新技術の知見共有など、多層的な育成策を展開中だ。
ベトナムの半導体技術者は5,000~6,000人程度とまだ少ないが、若年層の柔軟性や積極的な産学連携で今後の成長を見込んでいる。(下に続く)
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