シンガポールは今年、新車販売に占める電気自動車(EV)の割合が4割に達した。購入者向けの減税制度に加え、手ごろ感のある中国・比亜迪(BYD)と米テスラの販売拡大が普及を後押ししている。政府は2040年までにガソリンやディーゼル燃料の車両を段階的に廃止する方針を掲げており、買い替え需要を狙ってぞくぞくと参入する中国ブランドが今後のEV市場をけん引していきそうだ。【Nixon Tan】
スポーツタイプ多目的車(SUV)「シーライオン7」などが並ぶBYDの販売店=19日、中心部(NNA撮影)
陸上交通庁(LTA)の統計によると、乗用車の新車販売(新規登録台数、並行輸入車など含む)に占めるEVの割合は、23年の18%から24年は34%、25年1~6月期は41%に上昇した。
ブランド別では世界大手のBYDとテスラがシンガポール市場でも優勢だ。BYDは25年1~6月期に前年同期比80%増の4,661台のEVを販売。乗用車販売全体の19%、EV販売の47%を占めた。米テスラは46%増の1,419台で、シェアは乗用車全体が6%、EVが14%だ。
人気の理由は、価格と性能のバランスが取れた手ごろ感にあるようだ。両社はともに充実した運転支援機能を備えながら、欧州の高級ブランドより低い販売価格を強みとする。公式ウェブサイトを比較すると、BYDとテスラの車両は独BMWやメルセデス・ベンツのEVより4割ほど安い。

シンガポール社会科学大学(SUSS)経済学科教授のウォルター・テセイラ氏(46)は、21年に初めてEVを購入した。内燃機関(ICE)車からEVへの乗り換えは簡単な決断だったと振り返る。「21年当時、購入したテスラの『モデル3』はシンガポール市場で最もコストパフォーマンスに優れたEVだった」(テセイラ氏)。独BMWの「3シリーズ」、メルセデス・ベンツの「Cクラス」、トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」といった中級~高級のICE車と比べ、テスラのモデル3は安価な上に装備が充実し、運用コストも優位性があった。環境に優しいという点もEVを選ぶ動機付けになったという。
■上期はEV販売の65%が中国勢
ここ数年は中国ブランドの躍進がめざましい。BYDの販売台数は22年に786台、23年に1,416台、24年に6,191台と飛躍的に伸びている。このほか広州汽車集団(GAC)、奇瑞汽車(チェリー)、広州小鵬汽車科技(Xpeng)なども加わり、25年1~6月期のEV販売のうち中国系ブランドの割合は65%に達する。

EV向け充電施設運営大手SPモビリティーのマネジング・ディレクター、ディーン・シェール氏は、参入ブランドの増加が選択肢を広げ、EVの普及を加速させているとみる。「中国には数百ものブランドがあり、国内で成功したところだけが海外に出て行く。厳しい競争を勝ち抜いたトップメーカーがシンガポール市場で確固たる地位を築いている」と分析する。
直近では今年7月に、重慶長安汽車(重慶市)傘下の「阿維塔(アバター)」と第一汽車集団(吉林省長春市)の「紅旗」が、EVでシンガポール市場に進出するとそれぞれ発表した。報道によると、来年1~3月には上海蔚来汽車(NIO)が、小型車「蛍火虫(ファイアフライ)」の投入を通じてシンガポールで販売を始める計画だ。
2025年1月開催の「シンガポール・モーターショー2025」でBYDは大型展示ブースを設けて力強くアピールした=中心部(NNA撮影)
■優遇措置の周知が必要
中国勢が相次ぎ参入する理由の一つに、今後もシンガポールでEVの普及が見込まれることがある。政府は21年に持続的な環境維持を目指す方針「シンガポール・グリーンプラン2030」を策定。30年以降は、乗用車とタクシーの新規登録はEVやハイブリッド車(HV)、水素燃料車など環境に優しい車両のみとし、40年までに段階的にICE車を廃止する。
ICE車からの乗り換えを促すための財政支援も用意している。新規購入を促す「電気自動車早期購入報奨(EEAI)」制度は最大1万5,000Sドル(約173万円)、環境適合車の優遇制度「車両の排出ガス・スキーム(VES)」は最大2万5,000Sドルの減税措置となり、両方が適用されると購入時に支払う追加登録料(ARF)から最大4万Sドルが割引される。
SPモビリティーのシェール氏は、「こうした手厚い支援があることを国民は十分に理解していない」と指摘。優遇措置を広く周知し、申請手続きを簡素化することでEV市場のいっそうの拡大が見込まれる。
*(下)に続く
object(WP_Post)#9819 (24) {
["ID"]=>
int(28336)
["post_author"]=>
string(1) "3"
["post_date"]=>
string(19) "2025-08-21 00:00:00"
["post_date_gmt"]=>
string(19) "2025-08-20 15:00:00"
["post_content"]=>
string(6693) "シンガポールは今年、新車販売に占める電気自動車(EV)の割合が4割に達した。購入者向けの減税制度に加え、手ごろ感のある中国・比亜迪(BYD)と米テスラの販売拡大が普及を後押ししている。政府は2040年までにガソリンやディーゼル燃料の車両を段階的に廃止する方針を掲げており、買い替え需要を狙ってぞくぞくと参入する中国ブランドが今後のEV市場をけん引していきそうだ。【Nixon Tan】[caption id="attachment_28337" align="aligncenter" width="620"]
スポーツタイプ多目的車(SUV)「シーライオン7」などが並ぶBYDの販売店=19日、中心部(NNA撮影)
[/caption]
陸上交通庁(LTA)の統計によると、乗用車の新車販売(新規登録台数、並行輸入車など含む)に占めるEVの割合は、23年の18%から24年は34%、25年1~6月期は41%に上昇した。
ブランド別では世界大手のBYDとテスラがシンガポール市場でも優勢だ。BYDは25年1~6月期に前年同期比80%増の4,661台のEVを販売。乗用車販売全体の19%、EV販売の47%を占めた。米テスラは46%増の1,419台で、シェアは乗用車全体が6%、EVが14%だ。
人気の理由は、価格と性能のバランスが取れた手ごろ感にあるようだ。両社はともに充実した運転支援機能を備えながら、欧州の高級ブランドより低い販売価格を強みとする。公式ウェブサイトを比較すると、BYDとテスラの車両は独BMWやメルセデス・ベンツのEVより4割ほど安い。

シンガポール社会科学大学(SUSS)経済学科教授のウォルター・テセイラ氏(46)は、21年に初めてEVを購入した。内燃機関(ICE)車からEVへの乗り換えは簡単な決断だったと振り返る。「21年当時、購入したテスラの『モデル3』はシンガポール市場で最もコストパフォーマンスに優れたEVだった」(テセイラ氏)。独BMWの「3シリーズ」、メルセデス・ベンツの「Cクラス」、トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」といった中級~高級のICE車と比べ、テスラのモデル3は安価な上に装備が充実し、運用コストも優位性があった。環境に優しいという点もEVを選ぶ動機付けになったという。
■上期はEV販売の65%が中国勢
ここ数年は中国ブランドの躍進がめざましい。BYDの販売台数は22年に786台、23年に1,416台、24年に6,191台と飛躍的に伸びている。このほか広州汽車集団(GAC)、奇瑞汽車(チェリー)、広州小鵬汽車科技(Xpeng)なども加わり、25年1~6月期のEV販売のうち中国系ブランドの割合は65%に達する。

EV向け充電施設運営大手SPモビリティーのマネジング・ディレクター、ディーン・シェール氏は、参入ブランドの増加が選択肢を広げ、EVの普及を加速させているとみる。「中国には数百ものブランドがあり、国内で成功したところだけが海外に出て行く。厳しい競争を勝ち抜いたトップメーカーがシンガポール市場で確固たる地位を築いている」と分析する。
直近では今年7月に、重慶長安汽車(重慶市)傘下の「阿維塔(アバター)」と第一汽車集団(吉林省長春市)の「紅旗」が、EVでシンガポール市場に進出するとそれぞれ発表した。報道によると、来年1~3月には上海蔚来汽車(NIO)が、小型車「蛍火虫(ファイアフライ)」の投入を通じてシンガポールで販売を始める計画だ。
[caption id="attachment_28339" align="aligncenter" width="620"]
2025年1月開催の「シンガポール・モーターショー2025」でBYDは大型展示ブースを設けて力強くアピールした=中心部(NNA撮影)[/caption]
■優遇措置の周知が必要
中国勢が相次ぎ参入する理由の一つに、今後もシンガポールでEVの普及が見込まれることがある。政府は21年に持続的な環境維持を目指す方針「シンガポール・グリーンプラン2030」を策定。30年以降は、乗用車とタクシーの新規登録はEVやハイブリッド車(HV)、水素燃料車など環境に優しい車両のみとし、40年までに段階的にICE車を廃止する。
ICE車からの乗り換えを促すための財政支援も用意している。新規購入を促す「電気自動車早期購入報奨(EEAI)」制度は最大1万5,000Sドル(約173万円)、環境適合車の優遇制度「車両の排出ガス・スキーム(VES)」は最大2万5,000Sドルの減税措置となり、両方が適用されると購入時に支払う追加登録料(ARF)から最大4万Sドルが割引される。
SPモビリティーのシェール氏は、「こうした手厚い支援があることを国民は十分に理解していない」と指摘。優遇措置を広く周知し、申請手続きを簡素化することでEV市場のいっそうの拡大が見込まれる。
*(下)に続く"
["post_title"]=>
string(81) "中国ブランドが市場けん引新車のEV販売、いま4割(上)"
["post_excerpt"]=>
string(0) ""
["post_status"]=>
string(7) "publish"
["comment_status"]=>
string(4) "open"
["ping_status"]=>
string(4) "open"
["post_password"]=>
string(0) ""
["post_name"]=>
string(198) "%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e3%83%96%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%89%e3%81%8c%e5%b8%82%e5%a0%b4%e3%81%91%e3%82%93%e5%bc%95%e6%96%b0%e8%bb%8a%e3%81%ae%ef%bd%85%ef%bd%96%e8%b2%a9%e5%a3%b2%e3%80%81%e3%81%84%e3%81%be"
["to_ping"]=>
string(0) ""
["pinged"]=>
string(0) ""
["post_modified"]=>
string(19) "2025-08-21 04:00:03"
["post_modified_gmt"]=>
string(19) "2025-08-20 19:00:03"
["post_content_filtered"]=>
string(0) ""
["post_parent"]=>
int(0)
["guid"]=>
string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=28336"
["menu_order"]=>
int(0)
["post_type"]=>
string(4) "post"
["post_mime_type"]=>
string(0) ""
["comment_count"]=>
string(1) "0"
["filter"]=>
string(3) "raw"
}
- 国・地域別
-
シンガポール情報
- 内容別
-
ビジネス全般人事労務