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重大災害法の実効性に疑問符死亡者数横ばい、政府は規制強化

労働災害事故が発生した際に経営者を処罰できる「重大災害処罰法(重大災害法)」の実効性に疑念の声が高まっている。2024年の労災における死亡者数は589人と、前年に比べて横ばい水準で改善がみられない。深刻な状況とみる韓国政府は、対象企業に経済的な制裁など厳しい規制を導入する方向で検討に入った。規制強化が進めば企業にとって対応コストの増加が懸念される。

事故が多い新築マンションの建設現場=25年8月、ソウル(NNA撮影)

重大災害法は、相次ぐ労災事故を受けて、企業と経営者の安全意識を高めて事故を抑制する目的で2022年1月に施行された。従業員の死傷事故が発生した場合、事業主や現場の責任者、企業の経営者に対して懲役または罰金を科すことができる。
雇用労働省によると、労災死亡者数は重大災害法が施行した22年の644人から、23年は598人と前年比で7%ほどの減少をみせた。ただ、24年は589人とほぼ横ばいにとどまり、今年も6月末までで287人と通年ベースで昨年と同水準になる見込みだ。
死亡事故の多くは建設業で発生している。24年は建設業の労働者が272人と全体の46%を占め、2番目の製造業146人を大きく上回った。近年、新築マンション需要の低下で建設件数が減少しているにもかかわらず、死亡者が減っていないことに重大災害法の実効性に懸念が残る。
建設現場では下請け業者の職人などの事故が多発している。昨年の死亡者のうち約7割が50人未満の事業体で雇われた労働者だった。重大災害法の施行以降、大手企業は安全対策に費用をかけて死亡事故を減らしているが、資金力のない下請け業者などの中小企業は対応が進んでいないという課題がある。
■入札停止処分や損害賠償など
韓国メディアのニューシスによると、重大災害法が施行した22年から今年3月末まで同法に関して、捜査入りした事故は計1,091件あったが、そのうち送致された事故は236件、令状発付された事故は55件にとどまった。実際に罰則を受けるケースが少ないことも法の実効性に関わっているようだ。
事故の減少に向けて、韓国政府は規制強化を進める方針だ。まずは重大災害が発生した企業に情報開示を義務付ける。李在明(イ・ジェミョン)大統領は7月末の閣議で「労災死亡事故が常習的に発生すれば、その都度開示することになり株価を暴落させる(こともできる)」と言及した。
重大災害の有無を金融機関の融資審査の基準に含めて、企業に不利益を与えることも検討する。さらに入札資格の停止処分に加え、懲罰的な損害賠償や課徴金の納付といった厳しい制裁も導入する方向で調整する。
■規制で経済成長下押しも
一方、企業にとっては対応コストが負担となる。韓国経営者総協会が昨年5月に実施した調査によると、中小企業(従業員50人以下の466社対象)のうち77%は重大災害法の履行義務を順守していないことが分かった。専門人材の不足や安全設備費用が負担になっていることが原因で、政府からの支援を求める声も高まっている。
規制が強化されれば、最も打撃を受けるのが建設業だ。市況悪化と建設費用の上昇を受けて、今年1~7月に廃業届けを出した総合建設会社は計309社(韓国国土交通省調べ)に上った。韓国の建設業は約200万人の雇用を担い、国内総生産(GDP)の約14%を占める。規制により、倒産企業が相次ぐようだと経済成長にも悪影響を及ぼしそうだ。

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建設現場では下請け業者の職人などの事故が多発している。昨年の死亡者のうち約7割が50人未満の事業体で雇われた労働者だった。重大災害法の施行以降、大手企業は安全対策に費用をかけて死亡事故を減らしているが、資金力のない下請け業者などの中小企業は対応が進んでいないという課題がある。
■入札停止処分や損害賠償など
韓国メディアのニューシスによると、重大災害法が施行した22年から今年3月末まで同法に関して、捜査入りした事故は計1,091件あったが、そのうち送致された事故は236件、令状発付された事故は55件にとどまった。実際に罰則を受けるケースが少ないことも法の実効性に関わっているようだ。
事故の減少に向けて、韓国政府は規制強化を進める方針だ。まずは重大災害が発生した企業に情報開示を義務付ける。李在明(イ・ジェミョン)大統領は7月末の閣議で「労災死亡事故が常習的に発生すれば、その都度開示することになり株価を暴落させる(こともできる)」と言及した。
重大災害の有無を金融機関の融資審査の基準に含めて、企業に不利益を与えることも検討する。さらに入札資格の停止処分に加え、懲罰的な損害賠償や課徴金の納付といった厳しい制裁も導入する方向で調整する。
■規制で経済成長下押しも
一方、企業にとっては対応コストが負担となる。韓国経営者総協会が昨年5月に実施した調査によると、中小企業(従業員50人以下の466社対象)のうち77%は重大災害法の履行義務を順守していないことが分かった。専門人材の不足や安全設備費用が負担になっていることが原因で、政府からの支援を求める声も高まっている。
規制が強化されれば、最も打撃を受けるのが建設業だ。市況悪化と建設費用の上昇を受けて、今年1~7月に廃業届けを出した総合建設会社は計309社(韓国国土交通省調べ)に上った。韓国の建設業は約200万人の雇用を担い、国内総生産(GDP)の約14%を占める。規制により、倒産企業が相次ぐようだと経済成長にも悪影響を及ぼしそうだ。
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