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【勃興 半導体】長瀬産業、販売拠点を新設へ26年中に、西部グジャラート州で

インド半導体産業の勃興に合わせ、化学商社の長瀬産業は西部グジャラート州で販売・サービス拠点を2026年中に新設する方針だ。設立時期により前後するが、インド子会社ナガセインディアとして国内5~6拠点目の販売・サービス拠点になる見通し。半導体関連を含め、長瀬が扱う商材の販売拡大を期待する。長瀬の大岐英禄(おおき・えいろく)インド最高経営責任者(CEO)がNNAの単独取材で明らかにした。【鈴木健太】

半導体産業の展示会「セミコン・インディア2025」(9月2~4日)で設けた長瀬産業のブース=9月、インドの首都ニューデリー(NNA撮影)

インドでは現在、大規模な半導体工場は一つも稼働していないものの、前工程1工場と後工程9工場の新設計画が進む。特にモディ首相の出身地の西部グジャラート州は4工場(前工程1、後工程3)が本格稼働に向けて準備中で、州別で最多だ。
長瀬はグジャラート州で、半導体関連以外の取引先をすでに多く持つ。新拠点を設立すれば、今後の半導体関連はもちろん、既存事業の強化につながると考えている。
ナガセインディアは今、北部グルガオン、西部ムンバイ、南部のベンガルール、チェンナイで販売・サービス拠点を有する。長瀬は新拠点の設立に加え、半導体関連の製造に関わる新会社設立や出資も検討する。
■取りまとめて納入が強み
長瀬の半導体事業は現在、化学品を中心にさまざまな材料・装置を日本など世界各地から調達。前工程から後工程に至るまで、台湾、韓国、米国、中国、日本など各地の半導体メーカーや材料メーカーに納入している。
長瀬は商社機能に加え、メーカー機能を持つ。液状エポキシなど半導体用封止材を製造するナガセケムテックスや化学メーカー米セイケムのアジア事業(半導体製造時に使う現像液の回収・再生など)をグループ会社として有する。
インドでも、自社製品を含め、多岐にわたる商材を調達・納入する考えだ。半導体産業が集積する台湾では、材料・装置メーカーが半導体メーカーに製品を直接納めることができる。インドでは、半導体メーカーが台湾の工場と同じ材料・装置を使う場合も、国内供給の仕組みがまだなく、輸入に頼らざるを得ない。長瀬なら、輸入の段取りや輸送の規制対応、在庫・納期の管理を含め、材料・装置を提供できる。個別納入に加え、複数の材料・装置を取りまとめて納入できるのが強みだ。
長瀬は前工程から後工程まで幅広い商材を扱い、特定の工程だけでなく、その工程の前後で使う材料の情報を提供できる。半導体メーカーが材料メーカーから製品を直接調達すると、その材料中心の情報しか入手できない。長瀬から調達すれば、他に何が必要かなど、特定の工程の前後も情報を得ることができる。
特にインドは半導体産業が立ち上がる段階で、業界事情に精通した国内人材が少ない。例えば、半導体メーカーが利益を上げるに当たり、材料・装置1つずつを安く調達するより、歩留まり(良品率)をいかに上げるかの方が大事だ。長瀬は半導体メーカーに対し、そうした業界の知見を丁寧に伝えるつもりだ。
長瀬は実際、納入の見通しが立ち始めている。グジャラート州サナンドの後工程関連向けではナガセケムテックス製の材料、同州ドレラの前工程関連向けでは製造プロセス装置(日系メーカー製)の正式注文を待っている。

NNAの単独取材に応じた長瀬産業の大岐英禄・インドCEO(中央)とナガセインディアの沼田佳朗マネージング・ディレクター(右)=9月、ニューデリー(NNA撮影)

■「日の丸チームの旗振り役に」
インドは現在、国内で使う半導体のほぼ全量を輸入に頼る。この消費量が国内生産に順次置き換わる際、材料・装置で高い世界シェアを誇る日本各社にとって大きな商機だ。インド政府は、7,600億ルピー(約1兆3,000億円)の予算を計上した「半導体・ディスプレー製造エコシステム開発プログラム」など、巨額の補助金を準備。半導体の国内生産の開始・推進に力を入れる。
インド半導体産業は、関連インフラや製造人材の不足など課題は多い。ただ、課題が多いからこそ、長瀬の化学品の知見と取りまとめ力を生かせる場面は多い。
長瀬のインドCEO、大岐氏はNNAの取材に対し、「中国は過去20年で半導体産業が大きく育ち、米国が脅威に感じる程になった。インドも約20年またはもっと早く、それなりの規模になるのではないか」と言及。「半導体産業は日本の材料・装置がないと立ち上がらない。当社は、日の丸チームの旗振り役としてインド半導体産業の成長に貢献したい」と話した。
<メモ>
トヨタ自動車やNTTが出資するラピダスが北海道で建設中の半導体工場を巡り、長瀬は本州から北海道に材料輸送を手配する取りまとめ業者の1社に選ばれている。
北海道はインドと同様、材料メーカーが道内に集積していないため、半導体工場で必要な材料は本州から北海道に運ぶ必要がある。また、半導体関連の物流に関し、北海道は課題が多い。北海道と本州を結ぶ青函トンネルは、危険物や高圧ガス、毒劇物を輸送する際に制限がある。
そこで長瀬は、NIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)傘下の日本通運と産業用ガス製造のエア・ウォーターと協力し、各材料を本州から北海道へ計画的・効率的に運ぶ仕組みづくりに奮闘する。各メーカーの材料を神奈川県や三重県、山口県など全国数カ所のターミナル拠点にいったん集約。材料の適性に応じ、鉄道や船など輸送手段を決め、ラピダスの工場周辺の倉庫に輸送する予定だ。長瀬は、各材料メーカーが今どこに自社製品があるかを知ることができるよう、物流全体を管理するシステム構築にも取り組んでいる。
どんな材料がどれぐらいの量、必要か。その材料の輸送方法はどうするか、容器は何を使うか。長瀬はこうした北海道での知見や取りまとめ力を生かし、「インドでも物流時のさまざまな負荷や不具合、不便さに向き合う」(ナガセインディアの沼田佳朗マネージング・ディレクター)。インド企業から需要がある化学品リサイクルについても対応を検討する。
長瀬は1832年に創業し、190年以上の歴史を持つ。英国などに拠点を持つデータ分析会社ICISは、化学品の流通会社として長瀬を世界4位にランキングしている。
長瀬は1964年、駐在員事務所をムンバイで設立。以来60年以上、輸出入などインド事業に取り組む。長年の経験を生かし、半導体関連に限らず、日本企業のインド進出サポートも今後力を入れる。

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長瀬はグジャラート州で、半導体関連以外の取引先をすでに多く持つ。新拠点を設立すれば、今後の半導体関連はもちろん、既存事業の強化につながると考えている。
ナガセインディアは今、北部グルガオン、西部ムンバイ、南部のベンガルール、チェンナイで販売・サービス拠点を有する。長瀬は新拠点の設立に加え、半導体関連の製造に関わる新会社設立や出資も検討する。
■取りまとめて納入が強み
長瀬の半導体事業は現在、化学品を中心にさまざまな材料・装置を日本など世界各地から調達。前工程から後工程に至るまで、台湾、韓国、米国、中国、日本など各地の半導体メーカーや材料メーカーに納入している。
長瀬は商社機能に加え、メーカー機能を持つ。液状エポキシなど半導体用封止材を製造するナガセケムテックスや化学メーカー米セイケムのアジア事業(半導体製造時に使う現像液の回収・再生など)をグループ会社として有する。
インドでも、自社製品を含め、多岐にわたる商材を調達・納入する考えだ。半導体産業が集積する台湾では、材料・装置メーカーが半導体メーカーに製品を直接納めることができる。インドでは、半導体メーカーが台湾の工場と同じ材料・装置を使う場合も、国内供給の仕組みがまだなく、輸入に頼らざるを得ない。長瀬なら、輸入の段取りや輸送の規制対応、在庫・納期の管理を含め、材料・装置を提供できる。個別納入に加え、複数の材料・装置を取りまとめて納入できるのが強みだ。
長瀬は前工程から後工程まで幅広い商材を扱い、特定の工程だけでなく、その工程の前後で使う材料の情報を提供できる。半導体メーカーが材料メーカーから製品を直接調達すると、その材料中心の情報しか入手できない。長瀬から調達すれば、他に何が必要かなど、特定の工程の前後も情報を得ることができる。
特にインドは半導体産業が立ち上がる段階で、業界事情に精通した国内人材が少ない。例えば、半導体メーカーが利益を上げるに当たり、材料・装置1つずつを安く調達するより、歩留まり(良品率)をいかに上げるかの方が大事だ。長瀬は半導体メーカーに対し、そうした業界の知見を丁寧に伝えるつもりだ。
長瀬は実際、納入の見通しが立ち始めている。グジャラート州サナンドの後工程関連向けではナガセケムテックス製の材料、同州ドレラの前工程関連向けでは製造プロセス装置(日系メーカー製)の正式注文を待っている。
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■「日の丸チームの旗振り役に」
インドは現在、国内で使う半導体のほぼ全量を輸入に頼る。この消費量が国内生産に順次置き換わる際、材料・装置で高い世界シェアを誇る日本各社にとって大きな商機だ。インド政府は、7,600億ルピー(約1兆3,000億円)の予算を計上した「半導体・ディスプレー製造エコシステム開発プログラム」など、巨額の補助金を準備。半導体の国内生産の開始・推進に力を入れる。
インド半導体産業は、関連インフラや製造人材の不足など課題は多い。ただ、課題が多いからこそ、長瀬の化学品の知見と取りまとめ力を生かせる場面は多い。
長瀬のインドCEO、大岐氏はNNAの取材に対し、「中国は過去20年で半導体産業が大きく育ち、米国が脅威に感じる程になった。インドも約20年またはもっと早く、それなりの規模になるのではないか」と言及。「半導体産業は日本の材料・装置がないと立ち上がらない。当社は、日の丸チームの旗振り役としてインド半導体産業の成長に貢献したい」と話した。
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トヨタ自動車やNTTが出資するラピダスが北海道で建設中の半導体工場を巡り、長瀬は本州から北海道に材料輸送を手配する取りまとめ業者の1社に選ばれている。
北海道はインドと同様、材料メーカーが道内に集積していないため、半導体工場で必要な材料は本州から北海道に運ぶ必要がある。また、半導体関連の物流に関し、北海道は課題が多い。北海道と本州を結ぶ青函トンネルは、危険物や高圧ガス、毒劇物を輸送する際に制限がある。
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どんな材料がどれぐらいの量、必要か。その材料の輸送方法はどうするか、容器は何を使うか。長瀬はこうした北海道での知見や取りまとめ力を生かし、「インドでも物流時のさまざまな負荷や不具合、不便さに向き合う」(ナガセインディアの沼田佳朗マネージング・ディレクター)。インド企業から需要がある化学品リサイクルについても対応を検討する。
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