今回も関連者間取引による具体的な不正行為を続けて紹介します。
設定は以下の通りです。
●不正行為の舞台は有限責任会社A社。製造業です。
●A社は日本法人100%オーナーであり、B氏はベトナム駐在の法定代表者兼社長の日本人、C氏は副社長のベトナム人。
●社員総会が設置されており、メンバーは4名、B氏はその一員でC氏はメンバーではない。
●「関連者」とは前回まで述べた通りで、自らの親族や会社の関係者、その親族です。
前回に引き続き、「購買・業務委託による単価操作やバックマージン」について掘り下げます。
1、関連者の設計施工会社の利用
・設計施工にかかる契約は、建設許可や防火消防の届け出の対象になるかどうか確かめなければなりませんが、ちょっとした修繕であればこれらの対象にはなりません。必要のない塗装を行い、平米単価或いは時間当たり人件費(マンアワー)を上乗せし、さらに、面積や要した時間を上乗せします。
・完全な架空取引(契約書や発注書、完了書のみで実作業を行わないもの)もありますが、悪質な連中ほど、ある程度の実作業を行い、疑われた時、紛争された時の対策として残しています。
2、関連者の機械メンテナンス会社・建設コンサル会社の利用
・必要のない作業を行ったり、人件費単価や数量を上乗せしたりします。
・完全な架空取引としやすいですが、上記1より大きな金額を送金させることは難しいでしょう。
3、国外との架空取引
・上記2の機械メンテナンス、建設コンサルは、(在越)日系バンク経由で送金できた事例があります。契約書一枚で送金できてしまいます。
・また、国外の関連者の会社から専門家を派遣されたとする派遣契約或いはコンサル契約もあります。これも実際に派遣などしていないのに(在越)日系バンク経由で送金できた事例があります。ただ、税務調査が入った場合、当該専門家の氏名を聞かれ(みなし)個人所得税を追及されるので、これをやられた会社にとっては二重に取られるようなものです。
4、関連者への製造・加工委託
・これが極めつけです。委託する必要のない工程・作業を委託し、単価・数量すべて調整するのです。
・悪質な事例では、A社の人材を使用しながらも受託側の工数として請求し、A社の機械設備を使用しながらも受託側の作業として請求し、ひどいものでは、A社の工場で作業したものを関連者の業務結果として請求します。
・当然、すべて委託すると本社にわかってしまうので、協力工場などとしてうまく情報操作します。
*******************************************************************************
上記の不正行為は、購買担当者がサプライヤーに対して請求額を上乗せするように要求し、その分バックマージン(口銭)を要求するようなケースとは違い、企業間取引として契約書と証憑が揃っていれば一見すると合法的な行為です。
関連者間取引として企業法に定められたように社員総会などで承認を受けていない場合には罰則を受けますし、会社には損害賠償請求権があります。しかし、刑法に規定された犯罪行為そのものではありません。
もちろんどれも会計担当者(会計長)もうまく巻き込まなければできない不正行為ですので、そう簡単には起きないだろうと思われるでしょうが、海外子会社に日本人代表者を置いていて黒字経営が安定している場合には、海外子会社の管理は「ルーチン」となり、日本側オーナー法人とベトナム側会計担当者が直接連絡を取ることもなくなっており、海外子会社の日本人代表者にしてみれば情報操作は簡単です。
海外子会社の管理(ベトナム編)01で書いたようにB氏、C氏が設立した競合会社(同じ製造業)のケースでは、日本側オーナー法人から競合会社の許可を得ているとして会計長を説得しており、節税をするためA社と競合会社の間で取引を行う必要がある、だからA社の人員は競合会社で勤務するときもあれば、機械設備は競合会社に移転させて帳簿上価格のみで精算すればいい或いはA社の資産として変わらず計上すればいい、などと情報操作をしました。
A社の年次会計監査は日本でも有名な大手監査法人の担当者(副社長)でしたが、B氏、C氏をまるまる信じたのでしょう。A社と競合会社の両方の年次会計監査を行いながらも、機械設備や原材料・仕掛品・完成品などのあらゆる資産の所在をB氏、C氏に言われたままとし(実査を行わず)、且つ関連者間取引としては報告をしないというひどい状況でした(4年連続)。
そして、
B氏、C氏の行為はこれらに留まりませんでした。
財務諸表上は売上を少しずつ伸ばしながらも利益をうまく圧縮し、引き合いが増えているので利益率は上がらないなどと方便ばかりを繰り返し海外子会社の管理に慣れていない日本側オーナー法人への情報操作を行いました。具体的には・・・
●年間10億円程度の売上があった大手顧客との取引を不正競合会社への契約に切り替えることに成功しました。A社は年間10億円程度の売上を失い、不正競合会社は年間10億円程度の売上を得ました(1年かけて売上を減らしていきました)。
●新規顧客も獲得しましたが、有償原材料の支払いと完成品の払い込みの回収スパンが6か月もあり、かつ競合会社への支払いも完成品の払い込みより前と定めてA社のキャッシュフローを悪化させました。そしてC氏は、不当に得た利得でA社へ(無断で)貸付を行いました。その金額はA社の資本金の倍に及ぶ金額で高い利息も設定されていました。これも一見すると合法的ですが(社員総会での関連者間取引の承認を得ていないだけ)、日本側オーナーから見れば、A社は既にC氏に対する債務者であり、B氏とC氏の不正行為を追及しようものなら、A社はあっという間に資産凍結され、B氏、C氏の関連者への簿外債務なども責任を負わなければならなくなる・・・というものでした。
*******************************************************************************
では、毎月、毎年の報告はどうあるべきだったのか。
海外子会社の管理はどのようにすればよかったのか。
そもそも、どのように資料を読み込めば、各種の不正行為の兆しを見つけられるのか。
海外子会社の代表者らを疑っていることを知られずに弁護士や法務系の担当者で見つけられるものなのか、或いは会計士や税理士などで見つけられるものなのか。
そして、見つけ出したらどうすればいいのか。
初動はどうあるべきで、その後の体制はどのように組むべきなのか。
また、次回以降でお話できればと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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●「関連者」とは前回まで述べた通りで、自らの親族や会社の関係者、その親族です。
前回に引き続き、「購買・業務委託による単価操作やバックマージン」について掘り下げます。
1、関連者の設計施工会社の利用
・設計施工にかかる契約は、建設許可や防火消防の届け出の対象になるかどうか確かめなければなりませんが、ちょっとした修繕であればこれらの対象にはなりません。必要のない塗装を行い、平米単価或いは時間当たり人件費(マンアワー)を上乗せし、さらに、面積や要した時間を上乗せします。
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2、関連者の機械メンテナンス会社・建設コンサル会社の利用
・必要のない作業を行ったり、人件費単価や数量を上乗せしたりします。
・完全な架空取引としやすいですが、上記1より大きな金額を送金させることは難しいでしょう。
3、国外との架空取引
・上記2の機械メンテナンス、建設コンサルは、(在越)日系バンク経由で送金できた事例があります。契約書一枚で送金できてしまいます。
・また、国外の関連者の会社から専門家を派遣されたとする派遣契約或いはコンサル契約もあります。これも実際に派遣などしていないのに(在越)日系バンク経由で送金できた事例があります。ただ、税務調査が入った場合、当該専門家の氏名を聞かれ(みなし)個人所得税を追及されるので、これをやられた会社にとっては二重に取られるようなものです。
4、関連者への製造・加工委託
・これが極めつけです。委託する必要のない工程・作業を委託し、単価・数量すべて調整するのです。
・悪質な事例では、A社の人材を使用しながらも受託側の工数として請求し、A社の機械設備を使用しながらも受託側の作業として請求し、ひどいものでは、A社の工場で作業したものを関連者の業務結果として請求します。
・当然、すべて委託すると本社にわかってしまうので、協力工場などとしてうまく情報操作します。
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上記の不正行為は、購買担当者がサプライヤーに対して請求額を上乗せするように要求し、その分バックマージン(口銭)を要求するようなケースとは違い、企業間取引として契約書と証憑が揃っていれば一見すると合法的な行為です。
関連者間取引として企業法に定められたように社員総会などで承認を受けていない場合には罰則を受けますし、会社には損害賠償請求権があります。しかし、刑法に規定された犯罪行為そのものではありません。
もちろんどれも会計担当者(会計長)もうまく巻き込まなければできない不正行為ですので、そう簡単には起きないだろうと思われるでしょうが、海外子会社に日本人代表者を置いていて黒字経営が安定している場合には、海外子会社の管理は「ルーチン」となり、日本側オーナー法人とベトナム側会計担当者が直接連絡を取ることもなくなっており、海外子会社の日本人代表者にしてみれば情報操作は簡単です。
海外子会社の管理(ベトナム編)01で書いたようにB氏、C氏が設立した競合会社(同じ製造業)のケースでは、日本側オーナー法人から競合会社の許可を得ているとして会計長を説得しており、節税をするためA社と競合会社の間で取引を行う必要がある、だからA社の人員は競合会社で勤務するときもあれば、機械設備は競合会社に移転させて帳簿上価格のみで精算すればいい或いはA社の資産として変わらず計上すればいい、などと情報操作をしました。
A社の年次会計監査は日本でも有名な大手監査法人の担当者(副社長)でしたが、B氏、C氏をまるまる信じたのでしょう。A社と競合会社の両方の年次会計監査を行いながらも、機械設備や原材料・仕掛品・完成品などのあらゆる資産の所在をB氏、C氏に言われたままとし(実査を行わず)、且つ関連者間取引としては報告をしないというひどい状況でした(4年連続)。
そして、
B氏、C氏の行為はこれらに留まりませんでした。
財務諸表上は売上を少しずつ伸ばしながらも利益をうまく圧縮し、引き合いが増えているので利益率は上がらないなどと方便ばかりを繰り返し海外子会社の管理に慣れていない日本側オーナー法人への情報操作を行いました。具体的には・・・
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●新規顧客も獲得しましたが、有償原材料の支払いと完成品の払い込みの回収スパンが6か月もあり、かつ競合会社への支払いも完成品の払い込みより前と定めてA社のキャッシュフローを悪化させました。そしてC氏は、不当に得た利得でA社へ(無断で)貸付を行いました。その金額はA社の資本金の倍に及ぶ金額で高い利息も設定されていました。これも一見すると合法的ですが(社員総会での関連者間取引の承認を得ていないだけ)、日本側オーナーから見れば、A社は既にC氏に対する債務者であり、B氏とC氏の不正行為を追及しようものなら、A社はあっという間に資産凍結され、B氏、C氏の関連者への簿外債務なども責任を負わなければならなくなる・・・というものでした。
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海外子会社の管理はどのようにすればよかったのか。
そもそも、どのように資料を読み込めば、各種の不正行為の兆しを見つけられるのか。
海外子会社の代表者らを疑っていることを知られずに弁護士や法務系の担当者で見つけられるものなのか、或いは会計士や税理士などで見つけられるものなのか。
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