植物由来の原材料を使って肉や魚そっくりの味を作り出す「プラントベースフード(植物由来食品)」が、シンガポールの食卓に浸透しつつある。環境意識や健康志向の高まりを受け、現地の新興企業がチキンナゲットやシューマイなどさまざまな商品を開発している。ぷりぷりの食感を再現した代替エビで市場開拓に乗り出す日系企業も出てきた。【Nixon Tan】
植物由来の原材料で作った代替エビ入りバーガー。日系ブランド「シュリンピー」が開発した(NNA撮影)
矢野経済研究所によると、植物由来食品を含む代替タンパク質の世界市場規模は、2035年に約4兆9,000億円と、22年の約6,400億円から7倍超に膨らむ見通しだ。既に一定規模の市場が形成されている欧米に加え、健康志向が高まるアジアで開発技術が飛躍的に高まることから拡大が期待されている。
動物性の食べ物を徹底して排除するビーガンやベジタリアンのスタイルとは異なり、植物由来食品は食の選択肢の一つとして認識されている。シンガポールの民間総合病院、マウント・エリザベス・ホスピタルのダイアン・セト管理栄養士によると、植物由来食品を選ぶ人は、厳格なビーガンから、肉や魚をときどき取り入れるフレキシタリアン(柔軟なベジタリアン)まで幅広い。「特にフレキシタリアンの食習慣は、多様な食文化が混在する東南アジアとの親和性が高い。そのおかげで、一般消費者にとって植物由来食品が身近なものになっている」と話す。
■政府も資金や規制面で支援
東南アジアの中ではシンガポールが研究開発(R&D)や規制面で先を行く。都市国家のシンガポールは農業がほぼ存在せず、食料自給率(カロリーベース)は10%未満。政府は食料安全保障の観点から30年までに自給率を30%に引き上げる国家戦略を掲げ、代替食品の一つである植物由来食品のR&Dを推進する。省庁横断のプログラム「フードイノベート」では、革新的な食品を開発・製造する企業に対し、研究インフラや資金、規制面で支援を提供している。
周辺国を見ると、農業国タイも植物由来食品に対する国内外からの投資を積極的に誘致。マレーシアはハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)認証を取得した植物由来食品の国内販売と輸出を促進している。
シンガポールのスーパーの一角に並ぶ肉不使用のナゲット(NNA撮影)
■新興企業が積極展開
民間企業ではスタートアップの取り組みが目立つ。植物由来の代替鶏肉ブランド「TiNDLE」を展開するシンガポールのネクスト・ゲン・フーズは、22年にシリーズA(事業を開始した段階での本格的な資金調達)ラウンドで1億米ドル(約151億円)の調達を完了。同社の商品は、米国や欧州、マレーシア、アラブ首長国連邦(UAE)など各国で流通している。
地元メディアによると、政府系投資会社テマセクの完全子会社ヌラーサ(Nurasa)は、商品取引や物流を手がけるドイツ企業クレマー(Cremer)との合弁を通じ、西部トゥアスでシューマイやカモのジャーキーなど年間1,300トンの植物性タンパク質を生産している。
鶏肉や牛肉の代替肉が植物由来食品の主流である中、魚介で市場開拓に乗り出す日系企業もある。イビデン物産(岐阜県本巣市)傘下の代替エビブランド、シュリンピー(Shrimpea)は、こんにゃく芋やエンドウ豆を原料にエビの味とぷりぷりの食感を再現した。初の海外進出先にシンガポールを選び、現地のビーガン向けレストランに卸している。
シュリンピーで営業・マーケティング責任者を務めるケナード・シュー氏は「食は未来へ向けて徐々に植物性へと移行していくべきだ。この考えから当社は、ベジタリアンだけでなく一般の消費者にもアピールできる食品として代替エビを開発した」と力を込める。
現在はギョーザやシューマイの販売を計画中で、ホテルや飲食店、流通業者との提携関係を強化している。
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■政府も資金や規制面で支援
東南アジアの中ではシンガポールが研究開発(R&D)や規制面で先を行く。都市国家のシンガポールは農業がほぼ存在せず、食料自給率(カロリーベース)は10%未満。政府は食料安全保障の観点から30年までに自給率を30%に引き上げる国家戦略を掲げ、代替食品の一つである植物由来食品のR&Dを推進する。省庁横断のプログラム「フードイノベート」では、革新的な食品を開発・製造する企業に対し、研究インフラや資金、規制面で支援を提供している。
周辺国を見ると、農業国タイも植物由来食品に対する国内外からの投資を積極的に誘致。マレーシアはハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)認証を取得した植物由来食品の国内販売と輸出を促進している。
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■新興企業が積極展開
民間企業ではスタートアップの取り組みが目立つ。植物由来の代替鶏肉ブランド「TiNDLE」を展開するシンガポールのネクスト・ゲン・フーズは、22年にシリーズA(事業を開始した段階での本格的な資金調達)ラウンドで1億米ドル(約151億円)の調達を完了。同社の商品は、米国や欧州、マレーシア、アラブ首長国連邦(UAE)など各国で流通している。
地元メディアによると、政府系投資会社テマセクの完全子会社ヌラーサ(Nurasa)は、商品取引や物流を手がけるドイツ企業クレマー(Cremer)との合弁を通じ、西部トゥアスでシューマイやカモのジャーキーなど年間1,300トンの植物性タンパク質を生産している。
鶏肉や牛肉の代替肉が植物由来食品の主流である中、魚介で市場開拓に乗り出す日系企業もある。イビデン物産(岐阜県本巣市)傘下の代替エビブランド、シュリンピー(Shrimpea)は、こんにゃく芋やエンドウ豆を原料にエビの味とぷりぷりの食感を再現した。初の海外進出先にシンガポールを選び、現地のビーガン向けレストランに卸している。
シュリンピーで営業・マーケティング責任者を務めるケナード・シュー氏は「食は未来へ向けて徐々に植物性へと移行していくべきだ。この考えから当社は、ベジタリアンだけでなく一般の消費者にもアピールできる食品として代替エビを開発した」と力を込める。
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