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FDI失速、開発は内資頼みに難路のプラボウォ政権1年(1)

インドネシアのプラボウォ政権が発足してから20日で1年になる。2045年に先進国入りを目指すビジョン「黄金のインドネシア2045」達成に向けた政策にまい進しているが、内実を見ると内政、外交ともに多くの難題に直面。経済面では8%成長を掲げて改革に着手したが、ここに来て海外直接投資(FDI)が落ち込み、国内直接投資(DDI)が主導になりつつある。FDIの誘致を図りつつ、新政権下で始動した政府系投資ファンドを成長エンジンとしたい考えだが、規制緩和など長年の課題が残ったままで成長軌道を描けるかどうかは不透明だ。

BPIダナンタラ正式始動の式典におけるプラボウォ大統領(中央)ら。ジョコ・ウィドド前大統領(右隣)も参加した=2月24日、インドネシア・ジャカルタ(大統領府提供)

「今年の目標を達成できている」
ロサン投資・下流化相は、17日の最新の投資実現額の発表で胸を張った。1~9月の実績は前年同期比13.7%増の1,434兆3,000億ルピア(約12兆9,500億円)で、200万人近い雇用が創出されたと報告。このうち下流化(高付加価値化)関連が58.1%増の431兆4,000億ルピアと高成長を記録したとアピールした。
ただ、1~9月実績の内訳を見ると、DDIが30.1%増の789兆7,000億ルピアと大きく伸びた一方、FDIは1.5%減の644兆6,000億ルピアに落ち込んだ。昨年までは、新型コロナウイルス禍が始まった2020年を除けば、外資企業による投資がインドネシア企業を上回っていたが、今年に入って逆転している。


国・地域別のFDIはシンガポールが126億米ドル(約1兆9,000億円)で最大。これに◇香港=73億米ドル◇中国=54億米ドル◇マレーシア=27億米ドル◇日本=23億米ドル——が続いた。
第3四半期(7~9月)の実績は、総額が13.9%増の491兆4,000億ルピア。内訳はDDIが40.5%増の279兆4,000億ルピアだったのに対し、FDIは8.9%減の212兆ルピアと2四半期連続でマイナスを記録した。
■専門家「大統領外遊も投資促さず」
政府側は、FDIの減少の主因について「地政学的な緊張の高まり」と捉えている。その典型例が、トランプ米大統領が4月に全ての輸入品に一律10%の基本関税を課すと発表し、8月には各国に対する追加関税を発動したことだ。
プラボウォ大統領は就任以来、積極的な外交を展開しており、1月には中国やロシアなど主要新興国で構成されるBRICSに加盟。グローバルサウス(新興・途上国)各国に貿易拡大・投資促進を促しつつ、7月にはトランプ氏と関税交渉で合意し、欧州連合(EU)との包括的経済連携協定(IEU—CEPA)発効に向けためどもつけた。
ただ、これらの動きは、外資誘致面での逆風をはね返すほどの成果にはまだつながっていない。シンクタンクであるインドネシア経済金融開発研究所(INDEF)のリザ研究員はNNAに対し、「FDIの減少は、外遊でも外資企業の投資を促せていないことの表れ」と指摘した。

経済改革センター(CORE)のモハマド・ファイサル理事長は「下流化でもニッケル関連などでのFDIが鈍化している」との見方を示す。1~9月のニッケル産業への投資総額は136兆1,000億ルピア。政府はニッケル加工から電気自動車(EV)バッテリーまでの国内サプライチェーン(供給網)構築をうたい、ここ数年は中国企業による投資が進んできた。しかし今年に入り、韓国のLGグループなどが巨額事業からの撤退を表明するなど必ずしも順調とはいえない。
一方、ロサン投資・下流化相はDDIがFDIを上回った現状を、「国内企業の投資活動はブレが少なく安定しているからだ」と説明。インドネシアのニッケル資源の存在感にも触れながら、「政府はEV産業のエコシステムを積極的に支えている」とも主張した。

■今年も成長率5%前後
ロサン氏はプラボウォ政権が2月に設立した政府系投資会社ダヤ・アナガタ・ヌサンタラ投資運用庁(BPIダナンタラ)の最高経営責任者(CEO)を兼任し、国営企業の再編と戦略分野への投資を担う立場にもある。
BPIダナンタラは、国営企業の持ち株会社として受け取った配当金を原資として、政府系投資ファンドとして各産業に資金を投じる。プラボウォ政権は任期満了を迎える29年までに国内総生産(GDP)成長率を8%に引き上げる目標を掲げるが、その成長戦略を支える中心的な役割を担う、「政治と経済(の命運)を1つに賭けた」(シンガポールのシンクタンクISEASユソフ・イシャク研究所の客員シニアフェロー、マックス・レーン氏)存在だ。
しかし、経済専門家は8%成長について、「高過ぎる目標」だと口をそろえる。残り4年で「(インドネシア経済の潜在成長率とされる)6%に達すれば非常に良い」(COREのモハマド理事長)。今年1~6月の実績は5%未満で、通年でも5%台に乗れば上々とされる。
INDEFのリザ研究員は、「規制(自由化)や法的確実性の確保といった長年の課題が解消されず、投資環境が整っていない」と懸念する。ベトナムやタイなどと比べて競争力が弱く、外資企業がインドネシア投資に二の足を踏む状況が長期化する恐れもあるという。
プラボウォ政権は、ジョコ・ウィドド前政権が掲げた、45年までに先進国入りを目指す「黄金のインドネシア」の達成に向けて成長加速を急ぐ。同年は独立100周年にあたり、「儀式的な意味合いが強い目標」(インドネシア大学経済社会研究所=LPEM=のリフキー研究員)ではあるが、若い労働力が豊富なうちに高成長を遂げなければならないという焦りが背景にあるのも事実だ。

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国・地域別のFDIはシンガポールが126億米ドル(約1兆9,000億円)で最大。これに◇香港=73億米ドル◇中国=54億米ドル◇マレーシア=27億米ドル◇日本=23億米ドル——が続いた。
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■専門家「大統領外遊も投資促さず」
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プラボウォ大統領は就任以来、積極的な外交を展開しており、1月には中国やロシアなど主要新興国で構成されるBRICSに加盟。グローバルサウス(新興・途上国)各国に貿易拡大・投資促進を促しつつ、7月にはトランプ氏と関税交渉で合意し、欧州連合(EU)との包括的経済連携協定(IEU—CEPA)発効に向けためどもつけた。
ただ、これらの動きは、外資誘致面での逆風をはね返すほどの成果にはまだつながっていない。シンクタンクであるインドネシア経済金融開発研究所(INDEF)のリザ研究員はNNAに対し、「FDIの減少は、外遊でも外資企業の投資を促せていないことの表れ」と指摘した。

経済改革センター(CORE)のモハマド・ファイサル理事長は「下流化でもニッケル関連などでのFDIが鈍化している」との見方を示す。1~9月のニッケル産業への投資総額は136兆1,000億ルピア。政府はニッケル加工から電気自動車(EV)バッテリーまでの国内サプライチェーン(供給網)構築をうたい、ここ数年は中国企業による投資が進んできた。しかし今年に入り、韓国のLGグループなどが巨額事業からの撤退を表明するなど必ずしも順調とはいえない。
一方、ロサン投資・下流化相はDDIがFDIを上回った現状を、「国内企業の投資活動はブレが少なく安定しているからだ」と説明。インドネシアのニッケル資源の存在感にも触れながら、「政府はEV産業のエコシステムを積極的に支えている」とも主張した。

■今年も成長率5%前後
ロサン氏はプラボウォ政権が2月に設立した政府系投資会社ダヤ・アナガタ・ヌサンタラ投資運用庁(BPIダナンタラ)の最高経営責任者(CEO)を兼任し、国営企業の再編と戦略分野への投資を担う立場にもある。
BPIダナンタラは、国営企業の持ち株会社として受け取った配当金を原資として、政府系投資ファンドとして各産業に資金を投じる。プラボウォ政権は任期満了を迎える29年までに国内総生産(GDP)成長率を8%に引き上げる目標を掲げるが、その成長戦略を支える中心的な役割を担う、「政治と経済(の命運)を1つに賭けた」(シンガポールのシンクタンクISEASユソフ・イシャク研究所の客員シニアフェロー、マックス・レーン氏)存在だ。
しかし、経済専門家は8%成長について、「高過ぎる目標」だと口をそろえる。残り4年で「(インドネシア経済の潜在成長率とされる)6%に達すれば非常に良い」(COREのモハマド理事長)。今年1~6月の実績は5%未満で、通年でも5%台に乗れば上々とされる。
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