1965年の建国後、シンガポールは政府主導のインフラ開発、外資誘致、輸出促進という国家主導型開発を軸に、驚異的なスピードで経済成長を遂げた。建国60年とNNAシンガポール法人設立30年を記念する本企画は、政府関係者や専門家らへのインタビューを通じて都市国家の現在と未来を展望する。初回はシンガポール経済開発庁(EDB)のクラレンス・チュア日本・韓国地域局長に、イノベーションを推進するシンガポールの産業政策の重点を聞いた。
——現在の主要産業は。
シンガポールは世界の先進製造業で極めて重要なハブであり、半導体、バイオ医薬品、メドテック(医療技術)、精密機器、航空宇宙などの分野に強みを持つ。半導体は世界生産の約10%を占める。航空宇宙産業では130社超が拠点を構え、世界のMRO(整備・修理・運用)市場の10%に寄与している。
シンガポール経済開発庁(EDB)のクラレンス・チュア日本・韓国地域局長(EDB提供)
われわれはサービス産業も育成しており、シンガポールはアジアの地域統括本部の立地先として最も選ばれている。研究開発(R&D)拠点も多い。サプライチェーン(供給網)の管理に適した立地にあるだけでなく、サステナビリティー(持続可能性)や人工知能(AI)といった成長分野での機会が豊富なことがその理由だろう。
——政府として特にどの分野に投資を集中しているか。
新たな成長エンジンであるAIだ。2023年12月に「国家AI戦略2.0(NAIS2.0)」が発表されて以来、50社を超える先進的な企業がAIのセンター・オブ・エクセレンスをシンガポールに設置した。
経済全体へのAI導入を加速させるため、政府としても技術基盤の強化や人材の育成、エコシステムの構築を急いでいる。一例を挙げると、シンガポール政府はグーグル・クラウドと「AIトレイルブレイザーズ」という取り組みを実施した。84の組織がグーグル・クラウドの生成AIツールを無料で使い、AIソリューションを試作・テスト・導入するのを支援する内容で、コンテナ船事業会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)は社内の業務負荷軽減を目的にチャットボットを作成した。
また昨年は政府のAI活用促進機関、AIシンガポール(AISG)とソニーリサーチが覚書を締結し、東南アジア諸言語向けの大規模言語モデルの高度化に取り組んでいる。

——サステナビリティーの中核となる脱炭素化では、どんな取り組みを進めているか。
多角的なアプローチを採用している。低炭素技術への投資やクリーンなエネルギー源への移行に加え、温室効果ガスの排出削減と資源効率の向上に寄与する革新的ソリューションを導入する企業に、「排出に関する資源効率化助成金(REG(E))」を通じて資金援助を提供している。
国内の温室効果ガス排出量は、石油化学部門が占める割合が大きい。そこでEDBは、国内の工業用地の80%超を管理する政府系の工業団地運営機関JTCコーポレーションとともに、エネルギー・化学産業の一大拠点である西部ジュロン島で操業する企業の脱炭素化の取り組みを支えている。
世界的なクリーンエネルギーへの移行に伴い、シンガポールは企業の脱炭素化を支援している。同時に、アジアを含む消費者の需要にけん引され、スペシャリティケミカルやサステナブル素材で新たな機会が生まれている。ジュロン島には三井化学、住友化学、クラレを含む100社以上のグローバル企業が拠点を構えている。
——近年のシンガポールは、イノベーションのエコシステムの構築に力を入れている。
シンガポールには強固なR&D基盤と活気あるイノベーション・エコシステムが存在する。4,500超のアーリーステージ企業と、220超のインキュベーターやアクセラレーターがあり、産業のイノベーションと商業化が進められている。
多様な文化的背景を持つ消費者が暮らすシンガポールは、日本企業がアジアの消費者向け製品を開発する上で理想的なテストベッド(実証試験ができる環境)といえる。ポッカは新製品のR&Dと市場テストを行い、キッコーマンはプラントベースのミールキットの製品開発と試験販売を実施した。

※クラレンス・チュア氏のインタビュー後半は、7日に掲載予定です。
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——現在の主要産業は。
シンガポールは世界の先進製造業で極めて重要なハブであり、半導体、バイオ医薬品、メドテック(医療技術)、精密機器、航空宇宙などの分野に強みを持つ。半導体は世界生産の約10%を占める。航空宇宙産業では130社超が拠点を構え、世界のMRO(整備・修理・運用)市場の10%に寄与している。[caption id="attachment_29771" align="aligncenter" width="620"]
シンガポール経済開発庁(EDB)のクラレンス・チュア日本・韓国地域局長(EDB提供)[/caption]
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——政府として特にどの分野に投資を集中しているか。
新たな成長エンジンであるAIだ。2023年12月に「国家AI戦略2.0(NAIS2.0)」が発表されて以来、50社を超える先進的な企業がAIのセンター・オブ・エクセレンスをシンガポールに設置した。
経済全体へのAI導入を加速させるため、政府としても技術基盤の強化や人材の育成、エコシステムの構築を急いでいる。一例を挙げると、シンガポール政府はグーグル・クラウドと「AIトレイルブレイザーズ」という取り組みを実施した。84の組織がグーグル・クラウドの生成AIツールを無料で使い、AIソリューションを試作・テスト・導入するのを支援する内容で、コンテナ船事業会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)は社内の業務負荷軽減を目的にチャットボットを作成した。
また昨年は政府のAI活用促進機関、AIシンガポール(AISG)とソニーリサーチが覚書を締結し、東南アジア諸言語向けの大規模言語モデルの高度化に取り組んでいる。

——サステナビリティーの中核となる脱炭素化では、どんな取り組みを進めているか。
多角的なアプローチを採用している。低炭素技術への投資やクリーンなエネルギー源への移行に加え、温室効果ガスの排出削減と資源効率の向上に寄与する革新的ソリューションを導入する企業に、「排出に関する資源効率化助成金(REG(E))」を通じて資金援助を提供している。
国内の温室効果ガス排出量は、石油化学部門が占める割合が大きい。そこでEDBは、国内の工業用地の80%超を管理する政府系の工業団地運営機関JTCコーポレーションとともに、エネルギー・化学産業の一大拠点である西部ジュロン島で操業する企業の脱炭素化の取り組みを支えている。
世界的なクリーンエネルギーへの移行に伴い、シンガポールは企業の脱炭素化を支援している。同時に、アジアを含む消費者の需要にけん引され、スペシャリティケミカルやサステナブル素材で新たな機会が生まれている。ジュロン島には三井化学、住友化学、クラレを含む100社以上のグローバル企業が拠点を構えている。
——近年のシンガポールは、イノベーションのエコシステムの構築に力を入れている。
シンガポールには強固なR&D基盤と活気あるイノベーション・エコシステムが存在する。4,500超のアーリーステージ企業と、220超のインキュベーターやアクセラレーターがあり、産業のイノベーションと商業化が進められている。
多様な文化的背景を持つ消費者が暮らすシンガポールは、日本企業がアジアの消費者向け製品を開発する上で理想的なテストベッド(実証試験ができる環境)といえる。ポッカは新製品のR&Dと市場テストを行い、キッコーマンはプラントベースのミールキットの製品開発と試験販売を実施した。

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