ベトナムで半導体産業や半導体を組み込んだ先端技術産業が勃興しつつある。ビングループ傘下の新興企業ビンロボティクスはヒューマノイド(ヒト型ロボット)を開発し、製造現場やサービス業での実用を目指す。中部ダナン市では、市の政策支援を受けて半導体の設計や後工程で外資の投資が拡大しており、新興企業も育ちつつある。官民挙げて技術立国への飛躍を目指すベトナムの半導体産業に、東京エレクトロン(東京都港区)やディスコ(同大田区)など日系企業も熱い関心を寄せている。【坂部哲生】
開会式に登場したヒト型ロボット=7日、ハノイ市
緑の照明が反射するステージに、ゆっくりとヒト型ロボットが歩み出た。7日から首都ハノイで開催された半導体見本市「SEMIエキスポ・ベトナム2025」の開幕式での一コマだ。大型スクリーンを背に、ヒト型ロボットは腕を上げてジェスチャーを見せ、会場の視線を集めた。
ロボットは地場複合企業ビングループ傘下で、2024年設立のビンロボティクスが開発した。ベトナム初となるヒト型ロボットで、司会者の問いかけに流ちょうな英語で自己紹介し、歩行や手ぶりなどの基本動作を備えていた。同社は設立から8カ月で5機の試作機を完成させたという。
8日のセミナーで登壇した同社のゴ・クオック・フン最高経営責任者(CEO)は、「少子高齢化による労働力不足や若年層の製造業離れが進む中、ヒューマノイドは近い将来、社会に不可欠な存在になる」と強調。「ヒト型であるからこそ、既存の人間の作業環境に適応できる」と述べた。
展示エリアでは、同じビングループ傘下のビンモーションのヒューマノイドも人気を集めた。ビンロボティクスのロボットと並んで展示され、来場者が撮影したり、動作に見入ったりした。ビンモーションのヒト型ロボットは英語で「何歳ですか」と問われると、「9カ月です」と答え、「私は試作品の第1号」と返して周囲を沸かせた。
ビングループのスタッフによると、ビンロボティクスのモデルは工場での作業支援など産業用向けに、物体の持ち上げや搬送、組み立てといった動作に対応できる設計だ。ビンモーションのモデルは受け付けや案内などのサービス分野での活用を想定しており、今後は産業向けも手がけていくという。
来場者の質問に答えるビンモーションのヒト型ロボット=7日、ハノイ市
■ダナン、新たな集積地に
会場では、マーベル・テクノロジーズやシノプシスなどの半導体設計大手が拠点を構える中部ダナン市が、地方省市として唯一ブースを出展。配達ロボットやドローン(小型無人機)などの製品を披露し、半導体産業の新たな集積地としての存在感をアピールした。
地場チュンナム・グループ傘下で電子機器の受託製造(EMS)を手がけるチュンナムEMSのムッシン・ジャスリ取締役は、ダナン市の魅力を「半導体企業の誘致に向け、人材育成やインフラ整備、投資優遇策、国際協力に力を入れている点だ」と語る。首都ハノイや南部ホーチミン市に比べ、人件費の低さも魅力という。ダナン市には、地場IT最大手のFPTグループが先端パッケージング工場とテスト工場を建設する計画だ。
もっとも、製造拠点としての集積はまだ途上だ。ジャスリ氏によると、ダナン市内のEMS企業は同社を含め2社のみで、電子部品の基盤となるプリント基板(PCB)メーカーは進出していない。中国に拠点を置くPCBメーカーの多くは移転先としてベトナム北部やタイに集中し、ダナン市は需要を取り込めていない状況だ。
ダナン市は地方省市として唯一ブースを出展した=7日、ハノイ市
■VSAPラボ、研究開発から試作まで
今年1月に開園したばかりのダナン第2ソフトウエアパークに入居し、先端パッケージングの研究開発(R&D)を進める地場企業VSAPラボは自前のブースを構えた。同社の広報兼事業開発ディレクター、レ・ホアン・フック氏は「当社はベトナムで初めて、先端パッケージングの研究開発と試作を一体で行うラボ(実験室)を備えた企業」と胸を張る。
展示パネルには、25~30年の技術ロードマップ(行程表)が描かれていた。26年に建屋が完成し、同年6月に初製品を出荷予定という。ラボには前工程から後工程までの設備を備え、パッケージング技術の開発を進める。29年までに独自の技術を段階的に展開し、最終段階ではチップを積層して高密度化を図る2.5D・3Dパッケージングを実用化する構想だ。30年以降には前工程への進出も視野に入れる。
資金は政府系エンゼル投資家や民間からの投資で、創業メンバーには日本、台湾、韓国、米国で活躍してきた海外在住ベトナム人技術者が名を連ねる。フック氏は「当社は技術移転ではなく、民間企業として自ら技術を開発していく」と強調した。
VSAPラボは単独でブースを構えた=7日、ハノイ市
■東京エレクトロン「進出を検討」
SEMIエキスポにはベトナムの半導体需要の拡大を見据え、日系企業も出展した。東京エレクトロンのシンガポール法人、東京エレクトロン・シンガポールで営業統括を担当する芹澤洋太氏はベトナムについて、「前工程の工場(ファブ)の建設を進めているインドと同様に可能性のある国」とし、「今後、駐在事務所や現地法人の設立も検討していく」と話した。
鹿島の現地合弁会社インドチャイナ・カジマ・デベロップメントや精密加工装置および加工ツールメーカーのディスコの現地法人ディスコ・ハイテック・ベトナムも、それぞれブースを構えた。
会場となったビンパレス=7日、ハノイ市
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開会式に登場したヒト型ロボット=7日、ハノイ市[/caption]
緑の照明が反射するステージに、ゆっくりとヒト型ロボットが歩み出た。7日から首都ハノイで開催された半導体見本市「SEMIエキスポ・ベトナム2025」の開幕式での一コマだ。大型スクリーンを背に、ヒト型ロボットは腕を上げてジェスチャーを見せ、会場の視線を集めた。
ロボットは地場複合企業ビングループ傘下で、2024年設立のビンロボティクスが開発した。ベトナム初となるヒト型ロボットで、司会者の問いかけに流ちょうな英語で自己紹介し、歩行や手ぶりなどの基本動作を備えていた。同社は設立から8カ月で5機の試作機を完成させたという。
8日のセミナーで登壇した同社のゴ・クオック・フン最高経営責任者(CEO)は、「少子高齢化による労働力不足や若年層の製造業離れが進む中、ヒューマノイドは近い将来、社会に不可欠な存在になる」と強調。「ヒト型であるからこそ、既存の人間の作業環境に適応できる」と述べた。
展示エリアでは、同じビングループ傘下のビンモーションのヒューマノイドも人気を集めた。ビンロボティクスのロボットと並んで展示され、来場者が撮影したり、動作に見入ったりした。ビンモーションのヒト型ロボットは英語で「何歳ですか」と問われると、「9カ月です」と答え、「私は試作品の第1号」と返して周囲を沸かせた。
ビングループのスタッフによると、ビンロボティクスのモデルは工場での作業支援など産業用向けに、物体の持ち上げや搬送、組み立てといった動作に対応できる設計だ。ビンモーションのモデルは受け付けや案内などのサービス分野での活用を想定しており、今後は産業向けも手がけていくという。
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来場者の質問に答えるビンモーションのヒト型ロボット=7日、ハノイ市[/caption]
■ダナン、新たな集積地に
会場では、マーベル・テクノロジーズやシノプシスなどの半導体設計大手が拠点を構える中部ダナン市が、地方省市として唯一ブースを出展。配達ロボットやドローン(小型無人機)などの製品を披露し、半導体産業の新たな集積地としての存在感をアピールした。
地場チュンナム・グループ傘下で電子機器の受託製造(EMS)を手がけるチュンナムEMSのムッシン・ジャスリ取締役は、ダナン市の魅力を「半導体企業の誘致に向け、人材育成やインフラ整備、投資優遇策、国際協力に力を入れている点だ」と語る。首都ハノイや南部ホーチミン市に比べ、人件費の低さも魅力という。ダナン市には、地場IT最大手のFPTグループが先端パッケージング工場とテスト工場を建設する計画だ。
もっとも、製造拠点としての集積はまだ途上だ。ジャスリ氏によると、ダナン市内のEMS企業は同社を含め2社のみで、電子部品の基盤となるプリント基板(PCB)メーカーは進出していない。中国に拠点を置くPCBメーカーの多くは移転先としてベトナム北部やタイに集中し、ダナン市は需要を取り込めていない状況だ。
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■VSAPラボ、研究開発から試作まで
今年1月に開園したばかりのダナン第2ソフトウエアパークに入居し、先端パッケージングの研究開発(R&D)を進める地場企業VSAPラボは自前のブースを構えた。同社の広報兼事業開発ディレクター、レ・ホアン・フック氏は「当社はベトナムで初めて、先端パッケージングの研究開発と試作を一体で行うラボ(実験室)を備えた企業」と胸を張る。
展示パネルには、25~30年の技術ロードマップ(行程表)が描かれていた。26年に建屋が完成し、同年6月に初製品を出荷予定という。ラボには前工程から後工程までの設備を備え、パッケージング技術の開発を進める。29年までに独自の技術を段階的に展開し、最終段階ではチップを積層して高密度化を図る2.5D・3Dパッケージングを実用化する構想だ。30年以降には前工程への進出も視野に入れる。
資金は政府系エンゼル投資家や民間からの投資で、創業メンバーには日本、台湾、韓国、米国で活躍してきた海外在住ベトナム人技術者が名を連ねる。フック氏は「当社は技術移転ではなく、民間企業として自ら技術を開発していく」と強調した。
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■東京エレクトロン「進出を検討」
SEMIエキスポにはベトナムの半導体需要の拡大を見据え、日系企業も出展した。東京エレクトロンのシンガポール法人、東京エレクトロン・シンガポールで営業統括を担当する芹澤洋太氏はベトナムについて、「前工程の工場(ファブ)の建設を進めているインドと同様に可能性のある国」とし、「今後、駐在事務所や現地法人の設立も検討していく」と話した。
鹿島の現地合弁会社インドチャイナ・カジマ・デベロップメントや精密加工装置および加工ツールメーカーのディスコの現地法人ディスコ・ハイテック・ベトナムも、それぞれブースを構えた。
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