国際海運の脱炭素化が進む中、中国造船市場で「次世代船舶」向け技術の引き合いが高まっている。原動機の製販を手がけるジャパンエンジンコーポレーション(兵庫県明石市)は、従来の重油に代わってアンモニア燃料を使う船舶用エンジンを開発し、世界で初めて商用化に成功した。造船各社が環境対応技術を競う局面に入る中で、「アンモニア燃料エンジンは起爆剤になる」と意気込み、中国で商機をうかがう。【上海・日高希南】
「造船マーケットで中国は避けて通れない」。ジャパンエンジンコーポの上海法人、傑洋極発動機(上海)の董事総経理、川崎健司氏はこう語る。
ジャパンエンジンコーポは今月1日、全額出資子会社の傑洋極発動機(上海)の営業を開始した。中国ライセンシー各社へのエンジン技術支援や、部品供給などのアフターサービスを担う拠点としての立ち位置だ。中国では造船業界の好況を背景に、ライセンシーによるエンジンの受注・生産が伸びているという。
実際に、中国の造船市場は世界での存在感を一段と高めている。
中国船舶工業行業協会が10月に発表した中国の2025年1~9月の造船指標によると、完工量、新規受注量、手持ち受注量の3指標全てで世界シェアの過半を握った。新規受注量と手持ち受注量はともに6割を超えた。世界的な船舶需要の堅調さを背景に、中国造船業界の好況が続いている形だ。
市場調査会社の商啓産業研究院が9月に発表した造船業に関するリポートでは、中国の造船業が24年に前年比5.6%増の6,586億元(約14兆4,000億円)の規模だったと報告。今後も右肩上がりに伸び続け、30年には9,133億元となる見通し。20年からは2倍を超える計算だ。
市場の伸びを後押しするのは船舶の「グリーン化」だ。産業調査会社の中研普華産業研究院は中国造船業の中長期見通しについて、「今後はアンモニアや水素など次世代燃料を活用した(二酸化炭素=CO2=を排出しない)『ゼロエミッション船』向けの開発投資が加速する」と指摘。加えて、人工知能(AI)やビッグデータなどを活用して自動航行・遠隔管理といった運航のデジタル化が拡大するほか、デジタル造船技術が普及することで設計から建造までの効率化も進むとみている。
ジャパンエンジンコーポは、上海市で2日開幕した海事展覧会「中国国際海事会展」でアンモニア燃料エンジンを紹介。アンモニアと重油を95:5の割合で併用する二元燃料エンジンで、温室効果ガス(GHG)排出量は90%以上の削減を実現。窒素酸化物(NOx)排出量は重油エンジン比で約半分程度に抑える。今年8月末に世界で初めてアンモニア燃料エンジンの商用化に成功した。
ジャパンエンジンコーポは「中国国際海事会展」でアンモニア燃料エンジンを紹介した。展示模型の大きさは実際の15分の1=4日、上海市
国際海運ではGHG排出量の削減が必至となっている。国際海事機関(IMO)で18年に採択された「GHG削減戦略」では、08年を基準として50年までにGHG排出量を50%以上削減との目標が設定された。中国でも近年、メタノールや液化天然ガス(LNG)を燃料とする次世代船舶の採用が進んでいるものの、「メタノールやLNGのGHG削減率は2割程度にとどまる」(川崎氏)という。
川崎氏はアンモニア燃料エンジンについて、化学品タンカーや自動車運搬船、鉱石運搬船など主要船種での採用が広がるとみる。一方で設備コストが大きく、「高付加価値貨物を扱う大手社が主な対象になる」と説明する。
ジャパンエンジンコーポは、同じく脱炭素化を後押しする水素燃料エンジンの開発も進めている。27年1月の出荷を目指す。
中国では次世代燃料エンジンの引き合いが今後高まっていくとみて、将来的には日本からの輸出やライセンス事業などの形で供給を検討する。模倣リスクに備え、技術部分はブラックボックス化した状態で搬入するなどの対策も進める考えだ。
■デジタル化の波も
海運業界でのデジタル技術の導入が今後進むことを商機とみて動く日本企業もある。
船舶用電子機器を製販する古野電気(兵庫県西宮市)は、中国国際海事会展で拡張現実(AR)を用いた新型船舶用カメラ「AR-2001」を紹介した。
既存のARナビゲーションシステム「AR-100M」の新たなオプション機能として、360度の映像表示ができるようにした。AIやAR技術を活用した船舶システムの引き合いが世界的に高まる中、市場規模の大きい中国でも拡販を目指す。
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「造船マーケットで中国は避けて通れない」。ジャパンエンジンコーポの上海法人、傑洋極発動機(上海)の董事総経理、川崎健司氏はこう語る。
ジャパンエンジンコーポは今月1日、全額出資子会社の傑洋極発動機(上海)の営業を開始した。中国ライセンシー各社へのエンジン技術支援や、部品供給などのアフターサービスを担う拠点としての立ち位置だ。中国では造船業界の好況を背景に、ライセンシーによるエンジンの受注・生産が伸びているという。
実際に、中国の造船市場は世界での存在感を一段と高めている。
中国船舶工業行業協会が10月に発表した中国の2025年1~9月の造船指標によると、完工量、新規受注量、手持ち受注量の3指標全てで世界シェアの過半を握った。新規受注量と手持ち受注量はともに6割を超えた。世界的な船舶需要の堅調さを背景に、中国造船業界の好況が続いている形だ。
市場調査会社の商啓産業研究院が9月に発表した造船業に関するリポートでは、中国の造船業が24年に前年比5.6%増の6,586億元(約14兆4,000億円)の規模だったと報告。今後も右肩上がりに伸び続け、30年には9,133億元となる見通し。20年からは2倍を超える計算だ。
市場の伸びを後押しするのは船舶の「グリーン化」だ。産業調査会社の中研普華産業研究院は中国造船業の中長期見通しについて、「今後はアンモニアや水素など次世代燃料を活用した(二酸化炭素=CO2=を排出しない)『ゼロエミッション船』向けの開発投資が加速する」と指摘。加えて、人工知能(AI)やビッグデータなどを活用して自動航行・遠隔管理といった運航のデジタル化が拡大するほか、デジタル造船技術が普及することで設計から建造までの効率化も進むとみている。
ジャパンエンジンコーポは、上海市で2日開幕した海事展覧会「中国国際海事会展」でアンモニア燃料エンジンを紹介。アンモニアと重油を95:5の割合で併用する二元燃料エンジンで、温室効果ガス(GHG)排出量は90%以上の削減を実現。窒素酸化物(NOx)排出量は重油エンジン比で約半分程度に抑える。今年8月末に世界で初めてアンモニア燃料エンジンの商用化に成功した。
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川崎氏はアンモニア燃料エンジンについて、化学品タンカーや自動車運搬船、鉱石運搬船など主要船種での採用が広がるとみる。一方で設備コストが大きく、「高付加価値貨物を扱う大手社が主な対象になる」と説明する。
ジャパンエンジンコーポは、同じく脱炭素化を後押しする水素燃料エンジンの開発も進めている。27年1月の出荷を目指す。
中国では次世代燃料エンジンの引き合いが今後高まっていくとみて、将来的には日本からの輸出やライセンス事業などの形で供給を検討する。模倣リスクに備え、技術部分はブラックボックス化した状態で搬入するなどの対策も進める考えだ。
■デジタル化の波も
海運業界でのデジタル技術の導入が今後進むことを商機とみて動く日本企業もある。
船舶用電子機器を製販する古野電気(兵庫県西宮市)は、中国国際海事会展で拡張現実(AR)を用いた新型船舶用カメラ「AR-2001」を紹介した。
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