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日系企業に商機、参入相次ぐタイでペット市場が拡大中(下)

タイでペット市場が拡大している。所得向上や少子化の進展などを背景に、今後も市場の成長が続くとみられ、タイのペット市場への注目度も高まっている。元々、日本の製品やサービスに対する信頼性が高いタイ。日本市場で培った高品質でユニークな商品・サービスを訴求することで、新たな存在感を示す企業も増えつつある。

ジェトロ・バンコク事務所が2月28日まで実施した『ジャパン・モール』ではネコ用爪とぎなどが好評だった(サンコー提供)

大手電子商取引(EC)サイトを中心とした日本製品の販売促進事業「ジャパン・モール2022」(2022年10月~23年2月)を展開する日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は、3回目となった今回、従来の化粧品や日用品に加え、ペット用シャンプーや爪とぎ、おもちゃなどのペット商品を初めてラインアップに加えた。
同事業を担当したジェトロ・バンコク事務所の宮口莉央ディレクターは、「新型コロナウイルス感染症の影響で、タイでペットケア需要が拡大したことに注目し、今回新たな分野として追加した」と説明。ペット用シャンプーやネコ用の爪とぎ、おもちゃなどを取り扱ったが、特にデザインが好評だった爪とぎやネコ用おもちゃ(ネコじゃらし)が好調だったという。
今回のジャパン・モールに出品したサンコー(和歌山県海南市)の林佑光子氏は、タイのペット市場について、「東南アジアでもトップクラスで盛りあがっており、ペット用品を販売する身としては一目置いている市場。昨年はタイの展示会にも出展した。非常に多くの来場者がおり、タイのペット市場が拡大していることを肌身で感じた」と話した。
同社は今回、ペット用キャリーの中でペットがすべりにくく、キャリーの底面の汚れを防ぐ「おくだけ吸着キャリー用マット」を出品。林氏は「今回のキャリー用マットの販売はまずまずといったところ。国によってそれぞれの文化があるので、喜ばれる商品を選定するのは非常に難しく、今は模索している段階だ。タイへの進出は未知数だが、どこまで消費者に認知してもらえるかがこれからの課題になる」と話した。
ジェトロ・バンコク事務所の宮口氏も、ペット用品は今回が初めての取り扱いだったことから、まだまだ商品を知ってもらう段階だったと評価。今後、タイの消費者にジャパン・モールでペットケア用品を取り扱っていることを認知してもらい、日本製ペット用品を広く知ってもらう機会を提供したいと話し、次回以降のジャパン・モールでの取り扱いに意欲を示した。
■日系ペットサロンがタイ進出

ソプラ銀座は経験豊富な日本人トリマーによる質の高いサービスで差別化を図っている=タイ・バンコク(同社提供)

タイのペット関連サービスの需要拡大を受けて、日本とシンガポールでペットサロンを運営するソプラ銀座(東京都中央区)が、タイに進出した。首都バンコクのトンロー地区にある2階建ての一軒家を店舗に改装し、昨年12月20日に営業を開始。シャンプーやトリミング、スパ、ドッグラン、ペットホテルなどのサービスを提供している。同社の須田哲崇社長によると、現在の利用者は、日本人駐在員家庭とタイ人の富裕層向けが半分ずつぐらいだという。
初の海外店舗としてシンガポールに出店したのが10年前の12年。当時はシンガポールと同時に出店に向けた市場調査を行ったのがタイだった。ただし、ペットを飼っている家庭はまだまだ少なく、所得水準も含め、タイへの出店は難しいと判断した。須田氏は、「当時に比べて、ようやくペット産業の市場としてのポテンシャルが整ってきた。ただし、まだまだ黎明(れいめい)期の段階」と評価する。
バンコクには、日系、地場を合わせて複数のペットサロンがあるが、ソプラ銀座が訴求するのは、トリミングなどでしっかりした技術を持った日本人トリマーと、日本製のケア製品を使った日本と同様のスパメニューだ。タイにもトリミング技術を教える専門学校はあるが、授業時間は30時間ほど。犬種や毛質、個体の性格に合わせたトリミング技術を、2年間にわたって専門的に学んだ日本人トリマーとの技術の差は歴然だと説明する。また、ケア用品についても、日本製とそれ以外では仕上がりに大きな差があるという。
開業から2カ月余り。利用者からは進出前の想定以上の高評価を得ているという。現在は日本人のトリマー1人、タイ人のアシスタント5人体制だが、7月をめどに日本で専門技術を学んだタイ人トリマーを追加する方針だ。イヌとネコのそれぞれのペットホテルも用意しており、4月のタイ正月(ソンクラーン)を前に需要が増えるとみている。
現時点で2号店以降の出店は検討していないが、日本製のペット用ケア用品やお菓子、おもちゃといった物販を拡大する方針だ。
■不動産開発にも波及
ペットを飼う家庭の増加は不動産開発にも影響を与えている。バンコクでコンドミニアム(分譲マンション)や分譲一戸建て住宅事業を展開する関電不動産開発(大阪市北区)の担当者は、「これまでペットフレンドリーなコンドミニアムが少なかったこともあり、特にコンドミニアムでペットフレンドリーを広告で打ち出しているプロジェクトが増えている印象だ。タイのペット業界も盛り上がってきていると聞いており、今後ますますそうした物件が増えるとみている」と説明した。
同社がバンコク東部で開発を進めている分譲一戸建て住宅事業「エアリー・クルンテープクリタ」にもペットと遊べる350平方メートルほどの「ペットパーク」を用意した。担当者は、「一戸建て住宅プロジェクトでは、バンコクからの住み替え需要をある程度想定している。バンコク都心部とは異なる暮らしの提案として、子どもがのびのびと遊べたり、学んだりできるスペースの確保を意識した。タイではペットとの時間を子どもとの時間と同様に捉える人が増えており、ペットと遊べる空間を提供している」と説明した。

関電不動産開発による分譲一戸建て住宅事業「エアリー・クルンテープクリタ」内に設けられた「ペットパーク」=タイ・バンコク(同社提供)

タイのペット市場は今後もさらに拡大していくとみられる。タイ国立マヒドン経営大学院(CMMU)は、関連企業が重視すべき戦略として、◇商品・サービスの個別化◇アクセスの良さ◇信頼性◇ソーシャル・インフルエンス——を挙げている。ペット文化で先行する日本ならではの高い品質やユニークなアイデアがタイで受け入れられる可能性は十分にありそうだ。

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同事業を担当したジェトロ・バンコク事務所の宮口莉央ディレクターは、「新型コロナウイルス感染症の影響で、タイでペットケア需要が拡大したことに注目し、今回新たな分野として追加した」と説明。ペット用シャンプーやネコ用の爪とぎ、おもちゃなどを取り扱ったが、特にデザインが好評だった爪とぎやネコ用おもちゃ(ネコじゃらし)が好調だったという。
今回のジャパン・モールに出品したサンコー(和歌山県海南市)の林佑光子氏は、タイのペット市場について、「東南アジアでもトップクラスで盛りあがっており、ペット用品を販売する身としては一目置いている市場。昨年はタイの展示会にも出展した。非常に多くの来場者がおり、タイのペット市場が拡大していることを肌身で感じた」と話した。
同社は今回、ペット用キャリーの中でペットがすべりにくく、キャリーの底面の汚れを防ぐ「おくだけ吸着キャリー用マット」を出品。林氏は「今回のキャリー用マットの販売はまずまずといったところ。国によってそれぞれの文化があるので、喜ばれる商品を選定するのは非常に難しく、今は模索している段階だ。タイへの進出は未知数だが、どこまで消費者に認知してもらえるかがこれからの課題になる」と話した。
ジェトロ・バンコク事務所の宮口氏も、ペット用品は今回が初めての取り扱いだったことから、まだまだ商品を知ってもらう段階だったと評価。今後、タイの消費者にジャパン・モールでペットケア用品を取り扱っていることを認知してもらい、日本製ペット用品を広く知ってもらう機会を提供したいと話し、次回以降のジャパン・モールでの取り扱いに意欲を示した。
■日系ペットサロンがタイ進出
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タイのペット関連サービスの需要拡大を受けて、日本とシンガポールでペットサロンを運営するソプラ銀座(東京都中央区)が、タイに進出した。首都バンコクのトンロー地区にある2階建ての一軒家を店舗に改装し、昨年12月20日に営業を開始。シャンプーやトリミング、スパ、ドッグラン、ペットホテルなどのサービスを提供している。同社の須田哲崇社長によると、現在の利用者は、日本人駐在員家庭とタイ人の富裕層向けが半分ずつぐらいだという。
初の海外店舗としてシンガポールに出店したのが10年前の12年。当時はシンガポールと同時に出店に向けた市場調査を行ったのがタイだった。ただし、ペットを飼っている家庭はまだまだ少なく、所得水準も含め、タイへの出店は難しいと判断した。須田氏は、「当時に比べて、ようやくペット産業の市場としてのポテンシャルが整ってきた。ただし、まだまだ黎明(れいめい)期の段階」と評価する。
バンコクには、日系、地場を合わせて複数のペットサロンがあるが、ソプラ銀座が訴求するのは、トリミングなどでしっかりした技術を持った日本人トリマーと、日本製のケア製品を使った日本と同様のスパメニューだ。タイにもトリミング技術を教える専門学校はあるが、授業時間は30時間ほど。犬種や毛質、個体の性格に合わせたトリミング技術を、2年間にわたって専門的に学んだ日本人トリマーとの技術の差は歴然だと説明する。また、ケア用品についても、日本製とそれ以外では仕上がりに大きな差があるという。
開業から2カ月余り。利用者からは進出前の想定以上の高評価を得ているという。現在は日本人のトリマー1人、タイ人のアシスタント5人体制だが、7月をめどに日本で専門技術を学んだタイ人トリマーを追加する方針だ。イヌとネコのそれぞれのペットホテルも用意しており、4月のタイ正月(ソンクラーン)を前に需要が増えるとみている。
現時点で2号店以降の出店は検討していないが、日本製のペット用ケア用品やお菓子、おもちゃといった物販を拡大する方針だ。
■不動産開発にも波及
ペットを飼う家庭の増加は不動産開発にも影響を与えている。バンコクでコンドミニアム(分譲マンション)や分譲一戸建て住宅事業を展開する関電不動産開発(大阪市北区)の担当者は、「これまでペットフレンドリーなコンドミニアムが少なかったこともあり、特にコンドミニアムでペットフレンドリーを広告で打ち出しているプロジェクトが増えている印象だ。タイのペット業界も盛り上がってきていると聞いており、今後ますますそうした物件が増えるとみている」と説明した。
同社がバンコク東部で開発を進めている分譲一戸建て住宅事業「エアリー・クルンテープクリタ」にもペットと遊べる350平方メートルほどの「ペットパーク」を用意した。担当者は、「一戸建て住宅プロジェクトでは、バンコクからの住み替え需要をある程度想定している。バンコク都心部とは異なる暮らしの提案として、子どもがのびのびと遊べたり、学んだりできるスペースの確保を意識した。タイではペットとの時間を子どもとの時間と同様に捉える人が増えており、ペットと遊べる空間を提供している」と説明した。[caption id="attachment_12062" align="aligncenter" width="620"]関電不動産開発による分譲一戸建て住宅事業「エアリー・クルンテープクリタ」内に設けられた「ペットパーク」=タイ・バンコク(同社提供)[/caption]
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