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大湾区の個人所得税優遇に関する2023年最新規定

2019年に開始された大湾区の個人所得税優遇政策に関し、2022年は関連規定が公布されませんでしたが、このたび2023年6月2日付けで新規定である粤財税[2023]21号が公布されました(旧規定の粤財税[2020]29号は同時に廃止)。

今回の新規定による変更のポイントは、「A類人材という条件を満たすだけでは優遇が受けられなくなる可能性があること」、「これまでの本優遇措置は2023年までの期間限定だったが、今回は期限なしであること」の二点となります。

まもなく申請の受付が再開されるとみられますので、本優遇措置の実施状況と新規定の内容について解説します。

1.大湾区個人所得税優遇政策及び関連規定

対象となる広東省9都市(広州市、深セン市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市)で勤務する高級人材については、2019~2023年度の時限措置として、実質15%の個人所得税率適用が認められています。

この政策においては、特定外国人に対して、納付済み個人所得税のうち課税所得額の15%を超える部分については、相当する補助金を支給する(補助金は非課税所得)ことで、実質課税率15%とする方法が採用されます。

関連規定:

  • 粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策に関する通知(財税[2019]31号)
    財政部、国家税務総局が2019年3月14日付けで公布した通知。
  • 粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策の実施徹底に関する通知」(粤財税[2019]2号)
    広東省財政庁、国家税務総局広東省税務局が2019年6月17日付けで公布した通知。2019年1月1日から1年間施行された。
  • 粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策の継続実施に関する通知」(粤財税[2020]29号)
    広東省財政庁、広東省科学技術庁、広東省人力資源社会保障庁、国家税務総局広東省税務局が2020年12月31日付けで公布した通知。2023年6月2日より廃止された。
  • 粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策の更なる貫徹実施に関する通知(粤財税[2023]21号)広東省財政庁、広東省科学技術庁、広東省人力資源社会保障庁、国家税務総局広東省税務局が2023年6月2日付けで公布した。

 

2.粤財税[2023]21号による変更点

(1)補助金の上限追加

各課税年度の個人所得税補助金は上限が500万元に設定されています。

深セン市は2020年度の申請に対し補助金の上限を設定したことがありますが、今後は9都市とも上限が設定されることとなります。

(2)申請条件の変更

申請条件は「基本条件+付属条件」で構成されていましたが、新規定では付属条件の削除、基本条件4番への補足が行われ、専門分野が限定されました。詳細は以下の通りです。

1)香港・マカオの永久居民、香港入境計画(優秀人材、専門人材、企業家)を取得した香港居民、台湾居民、外国籍人員、国外長期居留権を取得した帰国留学生及び海外華僑

2)珠江デルタ9都市で勤務し、法に従って税金を納めている

3)法律法規、科学研究倫理、科学研究の公正性を遵守している

4)科学技術イノベーション、重点発展産業、哲学社会科学分野に属し、海外の高度人材と緊急不足人材目録の要求を満たす人材

旧規定の付属条件では、広東省「人材優粤カード」、外国人工作許可証(A類)または外国高度人材確認書などを取得した人材が補助金の申請資格があり、専門分野は限定されていませんでしたが、今回これらの内容が削除されたため、外国人工作許可証(A類)を持っていても、指定された専門分野に該当しない場合は、優遇措置の適用対象にならない可能性があります。

(3)指導部門の追加

補助金の申請受理・審査・支払いは、各市の市委人材工作指導委員会の指導のもと行われることが追加されました。

(4)市の実施規定の届出

これまで9都市が現地の実際状況に基づいて人材認定と補助金の支払いに関する弁法を制定していましたが、新規定により、各市の人材認定基準(申請条件)と支給手続きを統一するため、省の関連部門に届出た後に実施が可能となりました。

以前は、各市が条件を設定しており、人材認定基準や補助金の支払いプロセスが統一されていませんでした。例えば、「広州市、東莞市、恵州市、江門市」の4都市は、原則通りA類だけを対象とするのに対し、「深セン市、佛山市、中山市、珠海市、肇慶市」の5都市は、A類人材だけでなく、B類人材も対象としていました。また、各市が申請要領を公布するため、補助金の交付時期にズレがありますが、概ね夏に申請を受け付けていました。今後、補助金の交付時期も統一される可能性があります。

(5)実施期間

旧規定の粤財税[2020]29号では、優遇措置の実施期間は2020年1月1日~2023年12月31日までの4年間と設定されていましたが、新規定には有効期限の記載がありません。

新規定は2023年6月2日から施行されていますが、近いうちに9都市が新規定に基づき申請案内などを公布するとみられます。

例えば、広州市では財政局が「粤港澳大湾区個人所得税優遇政策財政補助管理弁法の実施に関する広州市の通知(穂財規字[2021]1号)」に対して、2023年改訂案を6月25日に公開し、2023年6月26日~2023年7月5日の期間に意見募集を行いました。2023年改訂案の付属文書には、補助金申請の適用対象である境外高度人材目録、境外緊急不足人材目録、及び申請書類のひな形が含まれます。

2021年と2022年度分の申請受理をお待ちの皆様は、所在都市の申請案内などの公布状況にご注意いただき、申請手続の変更にご留意ください。

 

粤財税[2023]21号の原文
https://www.cnbayarea.org.cn/policy/policy%20release/policies/content/post_1074079.html

広州市財政局による穂財規字[2021]1号の2023年改訂案の原文
https://www.gz.gov.cn/hdjlpt/yjzj/answer/29261#feedback

 

以上

 

水野商務諮詢(広州)有限公司
〒510620 広州市天河北路233号 中信広場38楼 3806D室
TEL (86) 20-3877-1275/3877-2350

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今回の新規定による変更のポイントは、「A類人材という条件を満たすだけでは優遇が受けられなくなる可能性があること」、「これまでの本優遇措置は2023年までの期間限定だったが、今回は期限なしであること」の二点となります。

まもなく申請の受付が再開されるとみられますので、本優遇措置の実施状況と新規定の内容について解説します。

1.大湾区個人所得税優遇政策及び関連規定

対象となる広東省9都市(広州市、深セン市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市)で勤務する高級人材については、2019~2023年度の時限措置として、実質15%の個人所得税率適用が認められています。 この政策においては、特定外国人に対して、納付済み個人所得税のうち課税所得額の15%を超える部分については、相当する補助金を支給する(補助金は非課税所得)ことで、実質課税率15%とする方法が採用されます。 関連規定:
  • 粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策に関する通知(財税[2019]31号) 財政部、国家税務総局が2019年3月14日付けで公布した通知。
  • 粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策の実施徹底に関する通知」(粤財税[2019]2号) 広東省財政庁、国家税務総局広東省税務局が2019年6月17日付けで公布した通知。2019年1月1日から1年間施行された。
  • 粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策の継続実施に関する通知」(粤財税[2020]29号) 広東省財政庁、広東省科学技術庁、広東省人力資源社会保障庁、国家税務総局広東省税務局が2020年12月31日付けで公布した通知。2023年6月2日より廃止された。
  • 粤港澳大湾区の個人所得税優遇政策の更なる貫徹実施に関する通知(粤財税[2023]21号)広東省財政庁、広東省科学技術庁、広東省人力資源社会保障庁、国家税務総局広東省税務局が2023年6月2日付けで公布した。
 

2.粤財税[2023]21号による変更点

(1)補助金の上限追加 各課税年度の個人所得税補助金は上限が500万元に設定されています。 深セン市は2020年度の申請に対し補助金の上限を設定したことがありますが、今後は9都市とも上限が設定されることとなります。 (2)申請条件の変更 申請条件は「基本条件+付属条件」で構成されていましたが、新規定では付属条件の削除、基本条件4番への補足が行われ、専門分野が限定されました。詳細は以下の通りです。 1)香港・マカオの永久居民、香港入境計画(優秀人材、専門人材、企業家)を取得した香港居民、台湾居民、外国籍人員、国外長期居留権を取得した帰国留学生及び海外華僑 2)珠江デルタ9都市で勤務し、法に従って税金を納めている 3)法律法規、科学研究倫理、科学研究の公正性を遵守している 4)科学技術イノベーション、重点発展産業、哲学社会科学分野に属し、海外の高度人材と緊急不足人材目録の要求を満たす人材 旧規定の付属条件では、広東省「人材優粤カード」、外国人工作許可証(A類)または外国高度人材確認書などを取得した人材が補助金の申請資格があり、専門分野は限定されていませんでしたが、今回これらの内容が削除されたため、外国人工作許可証(A類)を持っていても、指定された専門分野に該当しない場合は、優遇措置の適用対象にならない可能性があります。 (3)指導部門の追加 補助金の申請受理・審査・支払いは、各市の市委人材工作指導委員会の指導のもと行われることが追加されました。 (4)市の実施規定の届出 これまで9都市が現地の実際状況に基づいて人材認定と補助金の支払いに関する弁法を制定していましたが、新規定により、各市の人材認定基準(申請条件)と支給手続きを統一するため、省の関連部門に届出た後に実施が可能となりました。 以前は、各市が条件を設定しており、人材認定基準や補助金の支払いプロセスが統一されていませんでした。例えば、「広州市、東莞市、恵州市、江門市」の4都市は、原則通りA類だけを対象とするのに対し、「深セン市、佛山市、中山市、珠海市、肇慶市」の5都市は、A類人材だけでなく、B類人材も対象としていました。また、各市が申請要領を公布するため、補助金の交付時期にズレがありますが、概ね夏に申請を受け付けていました。今後、補助金の交付時期も統一される可能性があります。 (5)実施期間 旧規定の粤財税[2020]29号では、優遇措置の実施期間は2020年1月1日~2023年12月31日までの4年間と設定されていましたが、新規定には有効期限の記載がありません。 新規定は2023年6月2日から施行されていますが、近いうちに9都市が新規定に基づき申請案内などを公布するとみられます。 例えば、広州市では財政局が「粤港澳大湾区個人所得税優遇政策財政補助管理弁法の実施に関する広州市の通知(穂財規字[2021]1号)」に対して、2023年改訂案を6月25日に公開し、2023年6月26日~2023年7月5日の期間に意見募集を行いました。2023年改訂案の付属文書には、補助金申請の適用対象である境外高度人材目録、境外緊急不足人材目録、及び申請書類のひな形が含まれます。 2021年と2022年度分の申請受理をお待ちの皆様は、所在都市の申請案内などの公布状況にご注意いただき、申請手続の変更にご留意ください。   粤財税[2023]21号の原文 https://www.cnbayarea.org.cn/policy/policy%20release/policies/content/post_1074079.html 広州市財政局による穂財規字[2021]1号の2023年改訂案の原文 https://www.gz.gov.cn/hdjlpt/yjzj/answer/29261#feedback   以上   水野商務諮詢(広州)有限公司 〒510620 広州市天河北路233号 中信広場38楼 3806D室 TEL (86) 20-3877-1275/3877-2350" ["post_title"]=> string(64) "大湾区の個人所得税優遇に関する2023年最新規定" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(184) "%e5%a4%a7%e6%b9%be%e5%8c%ba%e3%81%ae%e5%80%8b%e4%ba%ba%e6%89%80%e5%be%97%e7%a8%8e%e5%84%aa%e9%81%87%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b2023%e5%b9%b4%e6%9c%80%e6%96%b0%e8%a6%8f%e5%ae%9a" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2023-08-21 00:43:21" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2023-08-20 15:43:21" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=15074" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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