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BYD、タイの新工場を完工EV市場は減速、逆風の中の船出

中国の電気自動車(EV)最大手の比亜迪(BYD)は4日、タイ東部ラヨーン県で生産工場の完成式典を開催した。起工から16カ月目での完工で、BYDが中国国内以外でEVの本格的な生産拠点を設けるのはタイが初めて。一方、タイ国内のEV市場は足元では減速しており、逆風の中の船出となった。

バッテリーパックの装着を見守るスタッフ=4日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)

工場は、東部3県(チョンブリ、ラヨーン、チャチュンサオ)の経済特区(SEZ)「東部経済回廊(EEC)」内の工業団地「WHAラヨーン36インダストリアル・エステート」に建設した。
式典にはBYDの王伝福董事長のほか、タイ側からピムパッタラー工業相やタイ投資委員会(BOI)のナリット長官らが出席。中国本土からも約200人の報道関係者が訪れた。
工場の敷地面積は94万8,000平方メートル。総投資額は350億バーツ(約1,543億円)を見込んでおり、生産能力は最大15万台を予定している。第一期の投資額は179億バーツだった。
工場はプレス、溶接、塗装、組み立ての4つの工程からなる本格的なもので、国内外のメディアには組立工場を公開した。
工場内では、小型車「ドルフィン(中国名:海豚)」とスポーツタイプ多目的車(SUV)のEV「ATTO3(アットスリー、中国名:元プラス)」のパイロット生産を始めていた。パイロット生産では品質の確認や製造ラインのスタッフの教育に力を入れており、10分に1台のペースで生産。本格的な生産が始まれば2分に1台のペースへと速度を上げていくという。今後、セダン「シール(中国名:海豹)」とSUV「海獅(シーライオン)7」も生産する予定という。
工場ではEVのほか、プラグインハイブリッド車(PHV) の生産も手がける。バッテリーパックとトランスミッションも製造する。将来的には1万人分の雇用を創出する予定だ。

式典にはピムパッタラー工業相やBOIのナリット長官らが出席した=4日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)

BYDアジア太平洋オートセールス部門の劉学亮(りゅう・がくりょう)ゼネラルマネジャーはBYDの強みとして、独自構造のリチウムイオン電池「ブレードバッテリー」のほか、それを搭載するEV専用プラットフォームの第3世代品「e-Platform 3.0」といった高い技術力を挙げた。工場関係者によると、EV専用プラットフォームも別棟で生産しているという。現在タイ全土に115のショールームを抱えるなど、販売網の整備も進んでいる。
■足元では販売は減速
WHAラヨーン36はマプタット港から25キロメートルの地点に位置し、レムチャバン港からも31キロの位置にある。将来的に東南アジア諸国連合(ASEAN)域内への輸出拠点としても機能することが期待されている。
ただ、足元ではタイ国内のEV販売が減速している。タイのバッテリー式EV(BEV)の新規登録台数(バスやトラック含む)は、5月単月で前年同月比3%減の5,564台、1~5月では前年同月比29%増の3万2,231台だが、昨年ほどの勢いはない。当初は10万~13万台と予測されたEV市場だが、前年並みの7万6,000台にとどまるという悲観的な見方も出ている。BYDは6月にドルフィンの販売価格を最大16万バーツ引き下げると発表するなど、タイ国内ではすでにEVの価格競争が始まった。

ボディーに部品を装着するスタッフ=4日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)

BYDはタイで2022年に導入されたEV奨励策「EV3.0」に申請しており、補助金の支給や輸入関税の引き下げなどの支援を受ける代わりに24年には過去2年間にタイで輸入・販売した数と同じ台数のEVを生産することが義務付けられている。24年は輸入車台数と生産台数の割合は1対1だが、25年には1対1.5となる。
BYDはタイで22年は371台、23年には3万467台の車両を輸入販売した。EV3.0のルールに沿えば、BYDは年内に少なくとも3万台以上の車両を生産しなければならない。
一方で、生産ノルマを達成しても過剰生産を招き、安値競争にさらに拍車がかかる恐れがある。
タイ法人、BYDオート(タイランド)の柯育浜(ベンソン・クー)ゼネラルマネジャーは今年のタイ工場での生産目標に関するNNAの質問に対し、「市場の需要次第」と明言を避けた。
野村総合研究所(NRI)タイの山本肇プリンシパルはNNAに対し、「BYDのタイ工場の今年の生産台数は2万台以下にとどまるとの見方もある。タイ工場の本格生産の開始時期がいつになるか注目していきたい」と述べた。

式典に展示されたBYDの車両=4日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)
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工場はプレス、溶接、塗装、組み立ての4つの工程からなる本格的なもので、国内外のメディアには組立工場を公開した。
工場内では、小型車「ドルフィン(中国名:海豚)」とスポーツタイプ多目的車(SUV)のEV「ATTO3(アットスリー、中国名:元プラス)」のパイロット生産を始めていた。パイロット生産では品質の確認や製造ラインのスタッフの教育に力を入れており、10分に1台のペースで生産。本格的な生産が始まれば2分に1台のペースへと速度を上げていくという。今後、セダン「シール(中国名:海豹)」とSUV「海獅(シーライオン)7」も生産する予定という。
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■足元では販売は減速
WHAラヨーン36はマプタット港から25キロメートルの地点に位置し、レムチャバン港からも31キロの位置にある。将来的に東南アジア諸国連合(ASEAN)域内への輸出拠点としても機能することが期待されている。
ただ、足元ではタイ国内のEV販売が減速している。タイのバッテリー式EV(BEV)の新規登録台数(バスやトラック含む)は、5月単月で前年同月比3%減の5,564台、1~5月では前年同月比29%増の3万2,231台だが、昨年ほどの勢いはない。当初は10万~13万台と予測されたEV市場だが、前年並みの7万6,000台にとどまるという悲観的な見方も出ている。BYDは6月にドルフィンの販売価格を最大16万バーツ引き下げると発表するなど、タイ国内ではすでにEVの価格競争が始まった。
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BYDはタイで2022年に導入されたEV奨励策「EV3.0」に申請しており、補助金の支給や輸入関税の引き下げなどの支援を受ける代わりに24年には過去2年間にタイで輸入・販売した数と同じ台数のEVを生産することが義務付けられている。24年は輸入車台数と生産台数の割合は1対1だが、25年には1対1.5となる。
BYDはタイで22年は371台、23年には3万467台の車両を輸入販売した。EV3.0のルールに沿えば、BYDは年内に少なくとも3万台以上の車両を生産しなければならない。
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