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各国における配転・出向・転籍に関する法規制

1.日本

(1) 配転に関する規制

配転については、判例上、業務上の必要性と本人の職業上・生活上の不利益の両方の観点を考慮して行われるべきものとされています。

この点、最高裁は、業務上の必要が存しない場合又は業務上の必要が存する場合であっても、他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、配転命令権の行使が権利の濫用となる旨の判断枠組みを示しています(最高裁昭和61年7月14日)。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向命令が有効であるといえるためには、就業規則等で出向命令権が定められていることの他に、配転命令と同様、権利濫用にならないようにしなければなりません。労働契約法14条は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」として、権利濫用について明文規定を設けています。

転籍命令については、単に転籍を命じ得ることを就業規則などで包括的に定めておくだけでは足りず、転籍先企業が明示され、一定期間後の復帰が予定される等、労働者に不利益がないようしておかなければ、命令が無効とされる可能性があります。

2.タイ

(1) 配転に関する規制

タイの法律上、配転に関する見解は一様ではないものの、勤務地の変更や職務の変更の有効性について、①使用者の命令が適法、正当かつ公正であると認められること、②降格ではなく、かつ、賃金、福利厚生が現在のものを下回らないことである場合には、会社は従業員に対する配転を命じることができると、判示した判決があります。
配転命令が違法であると判断されないためには、配転命令がありうることを就業規則に明記・周知しておくことや、雇用契約書にも配転命令があり得ること明記しておくこと、配転の際に労働者の個別の同意を得ておくことなどが考えられます。

(2) 出向・転籍に関する規制

民商法典577条1項は、「使用者は、労働者の同意を得て、その権利を第三者に譲渡することができる。」と規定しています。
出向や転籍命令については、配転命令と同様に、その有効性が問題とならないよう、出向や転籍命令がありうることを就業規則に明記・周知しておくことや、雇用契約書にも配転命令があり得ること明記しておくこと、配転の際に労働者の個別の同意を得ておくことなどが考えられます。

3.マレーシア

(1) 配転に関する規制

配転については、使用者が本来的に当該命令を発する権利を有するものとして、原則として労働者に対して有効に命令を発することができるとされています。ただし、紛争予防のためにも、労働契約書や就業規則において、配転命令に関する条項を明記することが望ましいとされています。

他方、当該配転命令について、不当な目的・理由をもってなされたことが認められる場合には、実質的には降格処分(これにより労働者が退職したような場合には、解雇処分)とみなされ、当該処分において本来的に充足すべき要件が充足しておらず無効とされることがあります。

(2) 出向・転籍に関する規制

異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、原則として労働者の同意が必要となります。

裁判例には、グループ会社のさらに子会社への異動命令の有効性について、①労働契約上、労働者がグループ内の別会社への異動命令を承諾する旨の条項は存在しないこと、②元所属会社と当該グループ会社とが機能的・財政的な統一性を有しているとはいえないこと及び③所属会社と異動先の子会社とでは事業内容が異なっていること等の理由から、当該異動命令は無効である旨を判示しているものがあります。

当該裁判例によれば、グループ会社が所属会社との関係で機能的・財政的な統一性を有している場合又は異動先の事業内容が元所属会社と同一の場合には、当該異動命令が有効と判断される余地も残されてはいます。しかしながら、紛争防止の観点からは、雇用契約中に異動を可能にする条項を盛り込み、さらに異動の際にも改めて労働者の同意を得ることが望ましいと考えられます。

4.ミャンマー

⑴ 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法規制はありません。もっとも、労働及び技術向上法に基づくと、雇用契約書に業務内容や業務実施場所等を明記しなければならない旨が規定されています。そのため、これらを変更するためには、雇用契約書内に、使用者の配転命令により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておく必要があります。

(2) 出向・転籍に関する規制

労働法上、出向や転籍に関する明文上の法規制はありません。しかし、異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となり、労働者の同意なく出向や転籍を行うことは無効と解されます。

5.メキシコ

⑴ 配転に関する規制

連邦労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。もっとも、同法では、業務内容や業務実施場所等を明記しなければならない旨が規定されています(25条)。後の紛争を防止するためには、雇用契約書や就業規則内に、配転により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておくことが望ましいです。

⑵ 出向・転籍に関する規制

出向(現在の使用者との労働契約関係を維持したしたまま、他の使用者の業務に従事させること)については、同法12条による規制を受ける可能性があります。
同法は、労働者派遣について、「自身の労働者を他者の利益のために利用可能とし、または提供すること」と示し、原則禁止としています(12条)。

上記の例外として、派遣された労働者が、派遣先企業の事業目的又は主要な経済活動に含まれる業務を行わない場合で、派遣元企業が労働社会保障省への登録を行っている場合には、派遣することも認められています。また、同一企業グループ間で実施される補完的業務の提供についても、この条件が適用されます(12条、13条、15条)。

現在の使用者との労働契約を維持したまま、他の使用者の業務に従事させることは、「自身の労働者を他者のために提供すること」に該当し、同法の規制を受ける可能性があります。

6.バングラデシュ

(1) 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。もっとも、労働規則第19条(4)では、雇用契約書(Appointment Letter)に、所属や職種を明記しなければならない旨が規定されています。後の紛争を防止するためには、配転の可能性がある場合は、雇用契約書や就業規則内に、配転により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておくことが望ましいです。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向(現在の使用者との労働契約関係を維持したしたまま、他の使用者の業務に従事させること)については、労働者派遣として、労働法3A条が適用される可能性があります。他方、「派遣会社」とは、労働のための契約に基づき、労働者を供給することを事業目的として登録された会社であると定義されており(労働規則第2条(f))、「出向」は想定していないとも解されます。

なお、2013年労働法改正にて、派遣会社の政府への登録が義務付けられ(労働法第3A条(1))、派遣会社によって派遣される労働者は派遣会社の労働者として同法の規定が適用されると定められています(同条(3))。また、2022年の労働規則の改正により、派遣会社を通じて派遣される労働者の賃金は、正社員として同等の業務に従事する(派遣先の)労働者の賃金を下回ってはならず、その基本給は、派遣会社が(派遣先へ)請求する賃金額の50%を下回ってはならないと規定されました(労働規則第16条)。更に、全ての派遣会社は、「労働者社会保障基金」の名称で銀行口座を開設し、積み立てなければならないと定められています(労働規則第17条)。なお、EPZ労働法において、派遣会社に関する規定は存在しません。

転籍(現在の使用者との労働契約関係を終了させ、他の使用者との間で労働契約関係を成立させてそこでの業務に従事させること)について定めた法令はありません。しかし、異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となり、労働者の同意なく転籍を行うことは無効と解されます。

7.フィリピン

(1) 異動・配置転換

フィリピンにおいて、法的には、従業員の異動(Transfer)と配置転換(Reassignment)は同じものとして考えられています。そして、会社による、適法な異動及び配置転換の要件は以下のとおりです。

・勤務を中断することなく、階級や給与が同じ別の職位に移ること
・正当な事業目的のために行われること。異動が差別等に基づいている場合、または十分な理由なく降格等のために行われる場合は、違法となる
・異動が合理的で、従業員にとって不利益でないことを示すこと

(2) 出向

出向とは、従業員が一時的に別の会社で働くことをいいます。フィリピンにおいては、出向元が出向社員の給与や出向に関連するその他の費用を負担することが一般的です。

出向では、出向元との契約が継続しつつ、出向先で勤務することになるため、出向元との契約の継続性が問題なることがあります。判例(Intel Technology Philippines, Inc. v. NLRC G.R. No. 200575, 05 February 2014.)は、この点について、「出向契約等における会社と従業員の関係の継続、または終了は、以下の基準によって判断」するとして、以下の4つの要素を挙げています。

・従業員の選任と採用に対する権限がどちらにあるか
・賃金の支払いをどちらが行うか
・解雇の権限がどちらにあるか
・従業員の行動を管理する会社の権限がどちらにあるか

(3) 人事異動が違法であると判断された場合

配置転換などの人事異動に関して、裁判所は、その異動が合理的で、従業員にとって不利益ではないことを証明する責任が会社にあると判断しています。仮に会社がこの点を証明できなかった場合、その人事異動は退職強要(Constructive Dismissal)であると裁判所によって判断されます。退職強要(Constructive Dismissal)とは、会社が従業員の労働条件を不利なものなどにして、従業員が退職せざるを得ない状況を作り出すことを指します。

会社の人事異動が退職強要に該当した場合、解雇された従業員を同等の職位に復職させるか、復職が不可能な場合は代わりに退職金を支払うことを命じられます。それだけではなく、会社は、違法な解雇に対する損害賠償や弁護士費用に対しても支払いを命じられる可能性があります。

8.ベトナム

(1) 配置転換ができる場合

使用者は、以下4つのいずれかの場合に限り、従業員を一時的に他の職種や業務に就かせることができます。

・自然災害、火災、危険な伝染病による予期せぬ困難
・労働災害または職業性疾病の予防措置および改善措置の実施
・電気や水道の不通
・業務上および生産上の要求(就業規則に規定する必要があります)

配置転換は、従業員の健康状態や性別の適性を考慮して決定されなければなりません。

(2) 配置転換期間および配置転換通知期間

配置転換日数:1年間に最大で60日。
配置転換日数が60日を超える場合、使用者は労働者から書面による同意を得なければなりません。また、労働者は、配置転換日数60日を超える場合、配置転換を拒否することができます。

事前の配置転換通知:3営業日以上前。
配置転換通知には、配置転換期間を記載する必要があります。

⑶ 給与および補償

配置転換後の職位/職務/業務における新給与
・新給与は、配置転換先の職位/職務/業務に基づくものとします。ただし、旧給与の85%以上の額とし、最低賃金を下回らないものとします。
・新給与が旧給与を下回る場合、30営業日は旧給与が維持されます。

1年間の累積労働日数が60日を超える配置転換を拒否し、休業を余儀なくされた従業員に対して使用者が支払う補償金
使用者は従業員に対して、休業手当を支払う必要があります(労働法第99条)。

9.インド

⑴ 配転に関する規制

労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。労働者を配転する使用者の権利は、雇用契約や就業規則に定められた条件から生じると考えられます。裁判所は、使用者による配転の決定が誠実な管理上の理由と業務の緊急性からなされたものである限り、不当なものとは判断しないと考えられています。

⑵ 出向・転籍に関する規制

労働法上、出向・転籍を規制する明文上の法令はありません。異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、新たな雇用主の下での雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となります。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

⑴ 配転に関する規制

労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)第12条は、労働者の経験と学歴資格に鑑みて雇用契約で合意した仕事と根本的に異なる仕事を労働者に割り当てることを原則として禁止し、労働者が書面で合意した場合には転配は可能ではあるが、そのために転居を余儀なくされる等のときは、転居や家賃等のあらゆる経費を使用者が負担しなければならないと規定しています。なお、例外的に根本的に異なる仕事への配転が認められるのは、事故防止又は労働者が生じさせた損害の修復のために必要と考えられるもので、年間90日を超えない期間に留まります(連邦労働法施行規則第13条第1項)。

(2) 出向・転籍に関する規制

出向・転籍については、連邦労働法に規定はありません。雇用契約終了後に労働者は他の使用者と雇用契約を締結できる(連邦労働法第49条)ので、労働者が同意すれば、雇用期間の満了または法定解除事由である双方の書面による合意(第42条第1項)若しくは約定の通知期間を経た解除(同条第3項)または労働者に帰責事由のない解雇(施行規則第27条第1項c号)による雇用契約の終了後に、転籍させることは可能です。他方、使用者には雇用する外国人労働者の就労許可の取得義務があり(連邦労働法第6条第1項)、労働者が元の使用者との雇用契約に基づく労働許可のままで、他の使用者の下で稼働することは原則としてできないため、アラブ首長国内での出向は困難です。ただし、元の使用者で稼働しつつ、他の使用者でも稼働するダブルワークの形態や、本土の使用者の下で働く労働者がフリーゾーン内で稼働する一時的な労働許可をとる等、複数の使用者の下で雇用されることが可能となる場合もあります。

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1.日本

(1) 配転に関する規制 配転については、判例上、業務上の必要性と本人の職業上・生活上の不利益の両方の観点を考慮して行われるべきものとされています。 この点、最高裁は、業務上の必要が存しない場合又は業務上の必要が存する場合であっても、他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、配転命令権の行使が権利の濫用となる旨の判断枠組みを示しています(最高裁昭和61年7月14日)。 (2) 出向・転籍に関する規制 出向命令が有効であるといえるためには、就業規則等で出向命令権が定められていることの他に、配転命令と同様、権利濫用にならないようにしなければなりません。労働契約法14条は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」として、権利濫用について明文規定を設けています。 転籍命令については、単に転籍を命じ得ることを就業規則などで包括的に定めておくだけでは足りず、転籍先企業が明示され、一定期間後の復帰が予定される等、労働者に不利益がないようしておかなければ、命令が無効とされる可能性があります。

2.タイ

(1) 配転に関する規制 タイの法律上、配転に関する見解は一様ではないものの、勤務地の変更や職務の変更の有効性について、①使用者の命令が適法、正当かつ公正であると認められること、②降格ではなく、かつ、賃金、福利厚生が現在のものを下回らないことである場合には、会社は従業員に対する配転を命じることができると、判示した判決があります。 配転命令が違法であると判断されないためには、配転命令がありうることを就業規則に明記・周知しておくことや、雇用契約書にも配転命令があり得ること明記しておくこと、配転の際に労働者の個別の同意を得ておくことなどが考えられます。 (2) 出向・転籍に関する規制 民商法典577条1項は、「使用者は、労働者の同意を得て、その権利を第三者に譲渡することができる。」と規定しています。 出向や転籍命令については、配転命令と同様に、その有効性が問題とならないよう、出向や転籍命令がありうることを就業規則に明記・周知しておくことや、雇用契約書にも配転命令があり得ること明記しておくこと、配転の際に労働者の個別の同意を得ておくことなどが考えられます。

3.マレーシア

(1) 配転に関する規制 配転については、使用者が本来的に当該命令を発する権利を有するものとして、原則として労働者に対して有効に命令を発することができるとされています。ただし、紛争予防のためにも、労働契約書や就業規則において、配転命令に関する条項を明記することが望ましいとされています。 他方、当該配転命令について、不当な目的・理由をもってなされたことが認められる場合には、実質的には降格処分(これにより労働者が退職したような場合には、解雇処分)とみなされ、当該処分において本来的に充足すべき要件が充足しておらず無効とされることがあります。 (2) 出向・転籍に関する規制 異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、原則として労働者の同意が必要となります。 裁判例には、グループ会社のさらに子会社への異動命令の有効性について、①労働契約上、労働者がグループ内の別会社への異動命令を承諾する旨の条項は存在しないこと、②元所属会社と当該グループ会社とが機能的・財政的な統一性を有しているとはいえないこと及び③所属会社と異動先の子会社とでは事業内容が異なっていること等の理由から、当該異動命令は無効である旨を判示しているものがあります。 当該裁判例によれば、グループ会社が所属会社との関係で機能的・財政的な統一性を有している場合又は異動先の事業内容が元所属会社と同一の場合には、当該異動命令が有効と判断される余地も残されてはいます。しかしながら、紛争防止の観点からは、雇用契約中に異動を可能にする条項を盛り込み、さらに異動の際にも改めて労働者の同意を得ることが望ましいと考えられます。

4.ミャンマー

⑴ 配転に関する規制 労働法上、配転を規制する明文上の法規制はありません。もっとも、労働及び技術向上法に基づくと、雇用契約書に業務内容や業務実施場所等を明記しなければならない旨が規定されています。そのため、これらを変更するためには、雇用契約書内に、使用者の配転命令により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておく必要があります。 (2) 出向・転籍に関する規制 労働法上、出向や転籍に関する明文上の法規制はありません。しかし、異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となり、労働者の同意なく出向や転籍を行うことは無効と解されます。

5.メキシコ

⑴ 配転に関する規制 連邦労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。もっとも、同法では、業務内容や業務実施場所等を明記しなければならない旨が規定されています(25条)。後の紛争を防止するためには、雇用契約書や就業規則内に、配転により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておくことが望ましいです。 ⑵ 出向・転籍に関する規制 出向(現在の使用者との労働契約関係を維持したしたまま、他の使用者の業務に従事させること)については、同法12条による規制を受ける可能性があります。 同法は、労働者派遣について、「自身の労働者を他者の利益のために利用可能とし、または提供すること」と示し、原則禁止としています(12条)。 上記の例外として、派遣された労働者が、派遣先企業の事業目的又は主要な経済活動に含まれる業務を行わない場合で、派遣元企業が労働社会保障省への登録を行っている場合には、派遣することも認められています。また、同一企業グループ間で実施される補完的業務の提供についても、この条件が適用されます(12条、13条、15条)。 現在の使用者との労働契約を維持したまま、他の使用者の業務に従事させることは、「自身の労働者を他者のために提供すること」に該当し、同法の規制を受ける可能性があります。

6.バングラデシュ

(1) 配転に関する規制 労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。もっとも、労働規則第19条(4)では、雇用契約書(Appointment Letter)に、所属や職種を明記しなければならない旨が規定されています。後の紛争を防止するためには、配転の可能性がある場合は、雇用契約書や就業規則内に、配転により就業場所や業務内容に変更がありうる旨を記載しておくことが望ましいです。 (2) 出向・転籍に関する規制 出向(現在の使用者との労働契約関係を維持したしたまま、他の使用者の業務に従事させること)については、労働者派遣として、労働法3A条が適用される可能性があります。他方、「派遣会社」とは、労働のための契約に基づき、労働者を供給することを事業目的として登録された会社であると定義されており(労働規則第2条(f))、「出向」は想定していないとも解されます。 なお、2013年労働法改正にて、派遣会社の政府への登録が義務付けられ(労働法第3A条(1))、派遣会社によって派遣される労働者は派遣会社の労働者として同法の規定が適用されると定められています(同条(3))。また、2022年の労働規則の改正により、派遣会社を通じて派遣される労働者の賃金は、正社員として同等の業務に従事する(派遣先の)労働者の賃金を下回ってはならず、その基本給は、派遣会社が(派遣先へ)請求する賃金額の50%を下回ってはならないと規定されました(労働規則第16条)。更に、全ての派遣会社は、「労働者社会保障基金」の名称で銀行口座を開設し、積み立てなければならないと定められています(労働規則第17条)。なお、EPZ労働法において、派遣会社に関する規定は存在しません。 転籍(現在の使用者との労働契約関係を終了させ、他の使用者との間で労働契約関係を成立させてそこでの業務に従事させること)について定めた法令はありません。しかし、異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となり、労働者の同意なく転籍を行うことは無効と解されます。

7.フィリピン

(1) 異動・配置転換 フィリピンにおいて、法的には、従業員の異動(Transfer)と配置転換(Reassignment)は同じものとして考えられています。そして、会社による、適法な異動及び配置転換の要件は以下のとおりです。 ・勤務を中断することなく、階級や給与が同じ別の職位に移ること ・正当な事業目的のために行われること。異動が差別等に基づいている場合、または十分な理由なく降格等のために行われる場合は、違法となる ・異動が合理的で、従業員にとって不利益でないことを示すこと (2) 出向 出向とは、従業員が一時的に別の会社で働くことをいいます。フィリピンにおいては、出向元が出向社員の給与や出向に関連するその他の費用を負担することが一般的です。 出向では、出向元との契約が継続しつつ、出向先で勤務することになるため、出向元との契約の継続性が問題なることがあります。判例(Intel Technology Philippines, Inc. v. NLRC G.R. No. 200575, 05 February 2014.)は、この点について、「出向契約等における会社と従業員の関係の継続、または終了は、以下の基準によって判断」するとして、以下の4つの要素を挙げています。 ・従業員の選任と採用に対する権限がどちらにあるか ・賃金の支払いをどちらが行うか ・解雇の権限がどちらにあるか ・従業員の行動を管理する会社の権限がどちらにあるか (3) 人事異動が違法であると判断された場合 配置転換などの人事異動に関して、裁判所は、その異動が合理的で、従業員にとって不利益ではないことを証明する責任が会社にあると判断しています。仮に会社がこの点を証明できなかった場合、その人事異動は退職強要(Constructive Dismissal)であると裁判所によって判断されます。退職強要(Constructive Dismissal)とは、会社が従業員の労働条件を不利なものなどにして、従業員が退職せざるを得ない状況を作り出すことを指します。 会社の人事異動が退職強要に該当した場合、解雇された従業員を同等の職位に復職させるか、復職が不可能な場合は代わりに退職金を支払うことを命じられます。それだけではなく、会社は、違法な解雇に対する損害賠償や弁護士費用に対しても支払いを命じられる可能性があります。

8.ベトナム

(1) 配置転換ができる場合 使用者は、以下4つのいずれかの場合に限り、従業員を一時的に他の職種や業務に就かせることができます。 ・自然災害、火災、危険な伝染病による予期せぬ困難 ・労働災害または職業性疾病の予防措置および改善措置の実施 ・電気や水道の不通 ・業務上および生産上の要求(就業規則に規定する必要があります) 配置転換は、従業員の健康状態や性別の適性を考慮して決定されなければなりません。 (2) 配置転換期間および配置転換通知期間 配置転換日数:1年間に最大で60日。 配置転換日数が60日を超える場合、使用者は労働者から書面による同意を得なければなりません。また、労働者は、配置転換日数60日を超える場合、配置転換を拒否することができます。 事前の配置転換通知:3営業日以上前。 配置転換通知には、配置転換期間を記載する必要があります。 ⑶ 給与および補償 配置転換後の職位/職務/業務における新給与 ・新給与は、配置転換先の職位/職務/業務に基づくものとします。ただし、旧給与の85%以上の額とし、最低賃金を下回らないものとします。 ・新給与が旧給与を下回る場合、30営業日は旧給与が維持されます。 1年間の累積労働日数が60日を超える配置転換を拒否し、休業を余儀なくされた従業員に対して使用者が支払う補償金 使用者は従業員に対して、休業手当を支払う必要があります(労働法第99条)。

9.インド

⑴ 配転に関する規制 労働法上、配転を規制する明文上の法令はありません。労働者を配転する使用者の権利は、雇用契約や就業規則に定められた条件から生じると考えられます。裁判所は、使用者による配転の決定が誠実な管理上の理由と業務の緊急性からなされたものである限り、不当なものとは判断しないと考えられています。 ⑵ 出向・転籍に関する規制 労働法上、出向・転籍を規制する明文上の法令はありません。異なる使用者の下で労働者を就労させるためには、新たな雇用主の下での雇用契約書を締結し直す必要があるため、労働者の同意が必要となります。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

⑴ 配転に関する規制 労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)第12条は、労働者の経験と学歴資格に鑑みて雇用契約で合意した仕事と根本的に異なる仕事を労働者に割り当てることを原則として禁止し、労働者が書面で合意した場合には転配は可能ではあるが、そのために転居を余儀なくされる等のときは、転居や家賃等のあらゆる経費を使用者が負担しなければならないと規定しています。なお、例外的に根本的に異なる仕事への配転が認められるのは、事故防止又は労働者が生じさせた損害の修復のために必要と考えられるもので、年間90日を超えない期間に留まります(連邦労働法施行規則第13条第1項)。 (2) 出向・転籍に関する規制 出向・転籍については、連邦労働法に規定はありません。雇用契約終了後に労働者は他の使用者と雇用契約を締結できる(連邦労働法第49条)ので、労働者が同意すれば、雇用期間の満了または法定解除事由である双方の書面による合意(第42条第1項)若しくは約定の通知期間を経た解除(同条第3項)または労働者に帰責事由のない解雇(施行規則第27条第1項c号)による雇用契約の終了後に、転籍させることは可能です。他方、使用者には雇用する外国人労働者の就労許可の取得義務があり(連邦労働法第6条第1項)、労働者が元の使用者との雇用契約に基づく労働許可のままで、他の使用者の下で稼働することは原則としてできないため、アラブ首長国内での出向は困難です。ただし、元の使用者で稼働しつつ、他の使用者でも稼働するダブルワークの形態や、本土の使用者の下で働く労働者がフリーゾーン内で稼働する一時的な労働許可をとる等、複数の使用者の下で雇用されることが可能となる場合もあります。" ["post_title"]=> string(63) "各国における配転・出向・転籍に関する法規制" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(189) "%e5%90%84%e5%9b%bd%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e9%85%8d%e8%bb%a2%e3%83%bb%e5%87%ba%e5%90%91%e3%83%bb%e8%bb%a2%e7%b1%8d%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e6%b3%95%e8%a6%8f%e5%88%b6" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-08-02 11:33:33" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-08-02 02:33:33" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=21405" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
 TNY国際法律事務所
ティエヌワイコクサイホウリツジムショ TNY国際法律事務所
世界11か国13拠点で日系企業の進出及び進出後のサポート

世界11か国13拠点(東京、大阪、佐賀、ミャンマー、タイ、マレーシア、メキシコ、エストニア、フィリピン、イスラエル、バングラデシュ、ベトナム、イギリス)で日系企業の進出及び進出後のサポートを行っている。具体的には、法規制調査、会社設立、合弁契約書及び雇用契約書等の各種契約書の作成、M&A、紛争解決、商標登記等の知財等各種法務サービスを提供している。

堤雄史(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)、永田貴久(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)

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