1.日本
(1) 概要
日本では、株式の発行に関して、授権資本制度が採用されています。授権資本制度の下、会社は、将来発行する予定の株式の数を定款で定めておき、その「授権」の範囲内で会社が取締役会決議等により株式を発行することが認められています。
また、新株発行の方法には、第三者割当、株主割当、公募発行の3つがあります。
第三者割当とは、特定の第三者に対して株式の割り当てを行う方法をいいます。また、株主割当とは、全ての既存株主に対して各自の保有する株式数に応じて株式を割り当てる方法です。そして、公募発行とは、一般の投資家に対して広く出資を募集し、応募者に対して株式を割り当てる方法をいいます。
(2) 公開会社の場合
公開会社の場合、新株発行は取締役会の決議によって行うことができます(会社法201条1項)。ただし、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合(有利発行)には、株主総会の特別決議によらなければなりません(会社法201条1項、199条3項、309条2項5号)。
また、既存株主に新株発行差止請求の機会を与えるために、募集事項を定めたときは、払込期日または払込期間初日の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知しなければなりません(会社法201条3項)。もっとも、金融商品取引法に基づき、払込期日の2週間前までに所定の届け出をする場合は、株主に対する通知公告は不要とされます(同条5項、金融商品取引法4条)。
(3) 非公開会社の場合
非公開会社の場合、新株発行の基本的な方法は、株主割当となります。非公開会社の場合、株主は、配当による経済的利益だけでなく、会社に対する支配権を維持する観点から持ち株比率の維持にも関心を有しているのが通常であると考えられるところ、株主割当ならば、持ち株比率に変動をきたさないからです。
株主割当による発行については、株主総会決議によって行うことができるほか(会社法199条1項)、定款で取締役会決議によって行うことができる旨を定めることも可能です(会社法202条3項)。
他方、第三者割当等、既存株主の持ち株比率に影響を与える方法で新株発行を行う場合には、既存株主の保護のため、株主総会の特別決議によらなければなりません(会社法199条2項、309条2項5号)。
また、公開会社の場合と同様、有利発行の場合にも株主総会特別決議が必要となります。
2.タイ
(1) 概要
タイでは、日本と異なり授権資本制度が採用されていません。そのため、新株発行にあたっては、その都度定款変更が必要となります。
新株発行手続きの具体的内容は、公開会社と非公開会社でそれぞれ異なりますが、いずれも、株主総会の特別決議に基づかなければならず、出席株主が有する議決権の4分の3以上の賛成が必要な点は共通です。
(2) 公開会社について
公開会社は、新株の全部または一部を、既存株主に対し、その持ち株数に応じて割り当てることができ(株主割当)、また、公募や特定の第三者への割り当て(第三者割当)も行うことができます(公開会社法137条)。
また、新株発行にあたっては、株主総会の特別決議が必要です(同法136条)。
(3) 非公開会社について
非公開会社では、株式の公募や第三者割当を行うことはできません(民商法1102条、1222条)。
非公開会社が新株を発行する場合には、まず、株主総会の特別決議を経た上で(同法1220条)、既存株主に対し、保有する株式数の割合に基づく割当てを申し出なければなりません(同法1222条1項)。なお、既存株主が新株を引き受けなかった場合には、これを取締役または他の株主が引き受けることができます(同条3項)。
このように、非公開会社では、原則として新株を既存株主にのみ割り当てることしかできませんが、以下の手順を踏むことで、事実上の第三者割当を実行することは可能であり、実務上も、事業拡大等にあたって第三者からの出資を受けたい場合等に活用されています。
すなわち、株主が事前に新株の割当て受ける権利を放棄することに同意している場合には、既存株主が第三者に対し株式の一部(1株でも可)を譲渡し、当該第三者を株主とすれば、新株発行の際に既存株主は新株の引受を放棄し、当該第三者にのみ新株を引き受けさせることが可能となります。
3.マレーシア
(1) 新株発行の手続
株式発行は原則として株主総会の承認が必要です(会社法75条1項)。取締役は、事前に株主総会決議による承認を得なければ、株式の割当て権限を行使できません。また、株主総会で株式発行の承認が得られた場合、会社は14日以内に会社登記所に通知する義務があります(会社法76条1項)。一方で、既存の株主に対して保有株式の割合に従った株式の割当を申し出る場合には、株主総会の承認は不要です(会社法75条⑵a)。また、発起人に対して株式を割り当てる場合や、財産の取得対価として株式を発行する場合も同様に承認不要とされています(会社法75条⑵c・d)。
(2) 手続上の瑕疵がある場合の株式発行の有効性等
手続に違反して株式が発行された場合、発行は無効となり、既に払込が行われていれば払込金の返還が必要です(会社法75条⑷)。また、違反に関与した取締役は、会社および株式引受人に対して生じた損害を賠償する義務を負います(会社法75条⑸)。ただし、会社、株主、債権者などの利害関係者は、裁判所に株式発行の有効性に関する申立てを行うことができ、裁判所は正当性や公平性を考慮して株式発行を有効とする命令を出すことが可能です(会社法108条)。
(3) 既存株主の株式引受権
既存株主の株式引受権について、会社法は既存株主の保護規定を設けています。新たに発行される株式の割当ては、まず既存株主に対し、保有割合に従って行わなければなりません(会社法85条⑴)。会社は、期限を定めて株式割当の申出通知を行い、株主が期限内に回答しなかった場合、取締役は最適な形で第三者に株式を割り当てることができます(会社法85条⑵⑶)。ただし、定款でこの規定の適用を排除することができます(会社法85条⑴)。
4.ミャンマー
⑴ 株式の発行
取締役会は、定款、本法及びその他の適用法に従い、任意の時期及び割当先に、取締役会が適切と考える条件及び数の株式を発行することができます(会社法63条(a))。株式は、会社の定款に従い、全部払込済又は部分的払込済で発行することができます。株式が部分的払込済で発行された場合、発行条件において、残額部分について請求が行われる時期を特定する必要があり、株主はかかる支払請求に応じて払込みを行う義務を負います(同条(b))。会社は、取締役が株式の追加発行による増資の決定をした場合、各株主が保有する既存株式数に応じて、種類に関係なく引き受けの申込みを行う義務を負う旨を定款で定めることができます(同条(c))。
(2) 株式の発行の対価
株式を発行する際の対価は、取締役会が定めたいかなる形式もとることができます(会社法64条(a))。 株式の発行の対価が現金以外である場合、取締役会は、
(i) 対価を特定可能な程度に詳細に記録し
(ii)株式発行の対価の妥当な現金価値を決定し、当該現在価値及びその算定の根拠を記録し、かつ、 (iii) 以下の意見を決議する必要があります。
(aa)株式発行の対価及び条件は、会社及び既存のすべての株主にとって公正でかつ合理的であること
(bb)当該対価の現金価値は、株式発行において充当される金額以上でなければならないこと
5.メキシコ
⑴ 新株発行について
新株発行を行うためには、株主総会の特別総会での決議が必要となります(会社法182条)。特別総会では、資本金の4分の3以上の株式を有する株主が出席したうえ、資本金の2分の1以上の株主による賛成が必要となります(190条)。
また、メキシコの会社法上、株式の有利発行は認められておらず、額面金額を下回る金額での発行は禁じられています(115条)。そのため、株式のプレミアム(売却価額と額面価額との差)、その他過去の出資の資本計上の結果、または利益剰余金や評価制引当金の資本組み入れとともに、株式の価値が完全に充足され、かつ、特別総会の決議に従って株主に交付される株式のみが発行済み株式となります(182条)。
なお、メキシコ会社法上、出資の履行については、金銭出資のほか、現物による出資や会社に対する役務の提供での出資も認められています(141条、114条)。出資の履行がなされない場合、一定の手続を経て株主となる権利は消滅します(118条、120条、121条)。
⑵ 株式発行の際の規制について
前述のようにメキシコの会社法上、株式の有利発行は認められていません(115条)。
また、定款に定めることによって複数の種類株式を発行することは可能ですが、配当がない株式の発行はできません(112条)。
更に、会社は、既存株式の払込みが完了するまでは、新たに株式を発行することができません(133条)。
⑶ 既存株主の株式引受権
新規の株式発行について、既存株主は、発行される株式を、自身の有する株式数に応じて引き受ける優先権を持ちます。当該権利は、資本増加に関する株主総会における合意が経済省の電子システムに掲載されてから15日以内に行使されなければなりません(132条)。
6.バングラデシュ
(1) 追加の株式発行
バングラデシュの株式発行は、授権資本額の範囲内の場合、既存株主への割当増資(会社法155条1項)、または第三者割当(155条2項)によって行われます。
既存株主への割当増資の場合、新株発行を行う会社は、取締役会決議を行ったうえで、既存株主に対して割当株式数、新株発行の申込期限(当該通知日から15日目以降の日でなければならない)を通知します。かかる通知に対して、株主が申込期限内に申し込みを行った場合には、当該株主は、新株引受けの申込日において払込みを行い、当該新株の割当てを受けることができます。申込期限内に申し込みが行われない場合には、当該株主は、新株の引受けを辞退したものとみなされます(155条1項)。第三者割当(155条2項)の場合は、重要事項を取締役会で決議して行います。
授権資本額を超えた増資の場合は、株主総会の承認が必要となります(53条2項)。
(2) 登記所への通知および株式証書の発行
会社が株式の割当てを決議した場合、60日以内に商業登記所に以下の内容を通知します(151条1項)。
① 割当の利益、割当に含まれる株式の数および額面価格、割当先の氏名、住所、国籍等、株式の払込み済みまたは未払いおよび支払予定の金額(該当する場合)
② 割り当てられた株式が現金以外で払込みされた場合、
(a) 割当先が権利を有することについて合意した株式割当証、
(b) 売買またはサービス契約もしくは割当がなされたことに関するその他の事項について、規定に従って印紙を貼付し検証された合意書の写し
③ ②の割当株式の数および額面価格
④ ②の株式割当について、不動産の譲渡により払込みがなされる場合の不動産の売買証書
新株発行を行った会社は、株式の割当後90日以内に株式証書を発行します(158条1項)。
7.フィリピン
(1) 新株発行に関わる主な規制
フィリピンでは、新株発行は主に会社法で規制されています。
新株発行をするには、①取締役会の過半数、および②総株式(株主数ではない)の3分の2以上の賛成が必要です。なお、通常は議決権のない株式を保有する株主でも、この決議では決議に参加することができます。
また、資本金の変更には証券取引委員会(SEC)の事前承認が必要であり、場合によってはフィリピン競争委員会(Philippine Competition Commission)の承認も必要となります。さらに、株式発行に伴い定款の変更も必要となるため、定款変更の手続も行う必要があります。
(2) 新株発行に関わる主な規制
上記のとおり、新株発行にはSECの承認と定款変更の手続が必要となります。これらの手続はオンラインで行うことができます。この手続は、必要書類の作成等の作業を踏まえると、数か月かかると考えられます。
おおまかなステップは以下のとおりです。
① 申請書のオンライン提出
② SECによる事前承認(場合によっては補正する必要があります)
③ 申請料の支払い
④ 必要書類の原本の提出
⑤ 再審査
⑥ 承認に関する証明書の発行
(3) 必要書類
必要書類は以下のとおりです。
ⅰ) 株式発行に関する証明書(取締役の過半数が署名し、株主総会の議長および秘書役が署名した書類)
ⅱ) 財務役の宣誓書
ⅲ) 金額の支払いを証明するもの。
ⅳ) 株主名簿
ⅴ) 改訂した定款
ⅵ) 会社内紛争が未決でないことを証明書(秘書役が作成する)
ⅶ) 株主の先買権放棄に関する証明書(秘書役が作成する)
ⅷ) 取締役証明書(取締役の過半数および会社秘書が署名する)
ⅸ) SECによる監査要件を遵守するための宣誓書。
ⅹ) その他必要となる書類
8.ベトナム
(1) ベトナムの企業法制における企業形態
ベトナムの一般的な企業法制の下では、複数の企業形態があり、それぞれ異なる特性、組織構造を有しています。外国人、外国企業がベトナムで事業を立ち上げる際には、通常、有限責任会社(会社所有者である社員の人数によって、1人社員有限責任会社か2人以上社員有限責任会社があります。)または株式会社のいずれかの企業形態が選択されます。そこで、以下、これらの企業形態に関連する情報のみをご紹介します。
なお、株式の発行が認められているのは株式会社のみであり、有限責任会社では株式の発行が認められていません。したがって、会社が資金を調達して増資するためには、対応する企業形態の規定に応じた手続を行う必要があります。
(2) 有限責任会社の増資手続
① 1人社員有限責任会社の場合
1人社員有限責任会社とは、その名称のとおり、個人または組織1名だけの社員(会社所有者)を有する会社です。1人社員有限責任会社の場合、以下のいずれかの方法によって増資して資本を調達することができます。
i) 単独所有者が追加出資する方法
ii) 他の個人または組織から資本を調達する方法
この方法によると、企業は、その企業形態を2人以上社員有限責任会社または株式会社のいずれかに組織変更する必要があります。
② 2人以上社員有限責任会社の場合
以下のいずれかの方法によって増資して資本を調達することが可能です。
i) 現社員の出資比率に応じて拠出資本を増額する方法
増資額は、現在の出資比率に応じて現社員が出資しますが、追加出資する権利は、他の社員又は第三者に譲渡することができます。現社員が別途合意した場合を除き、増資分が全額出資されない場合、出資比率に応じて他の社員が出資しなければなりません。
ii) 他の個人または組織から資本を調達する方法
現社員の決定が承認された場合にのみ実施されます。
(3) 株式会社の増資手続
株式会社の場合、以下のいずれかの方法で、株式の数や種類を増やすことによって資金を調達することができます。
i) 既存株主への株式提供
ii) 第三者割当増資
iii) 株式の公募
具体的には、i) 既存株主への株式提供を行うために、株式会社は、株式引受期限の15日前までに、全ての既存株主に書面で通知する必要があります。既存株主は、株式を購入する権利を他人に譲渡することができます。株主総会で別段の合意がない限り、取締役会は残りの株式を、既存株主に最初に提示した条件よりも有利でない条件で、他の株主やその他の第三者に売却することができます。
また、ii) の第三者割当増資を行うためには、マスメディアを通じて行わないこと、100名未満の投資家(プロの証券投資家を除く、またはプロの証券投資家のみを対象とする)に提供されること、という2つの条件を満たす必要があります。具体的には、株式会社が第三者割当増資に関する合意がない限り、株主は、既存株主に提示した条件よりも有利でない条件で、残りの株式を第る決定書を発行し、既存株主がi)の新株優先引受権を享受することが必要です。株主総会で別の三者に売却することができます。なお、第三者が外国人投資家である場合には、株式の買取りについて所轄官庁の投資認可を取得する手続きが必要となります。
公開会社(上場会社および非上場会社を含む)および株式発行の第三の選択肢(株式の公募)は複雑であるため、これらの事項については本ニュースレターの内容から除外しています。これらの詳細については、証券法をご参照ください。
9.インド
会社が既存の株式の保有者に対して、持ち株比率に応じて株式を割り当てる場合は、取締役会の決議により決定することができます(会社法63条1項、179条3項)。インドでは定款にて授権資本枠が設定されるため、授権資本枠を超える増資を行う場合は、増資に先立って授権資本枠を変更(拡大)する手続を行わなければなりません。授権資本枠の変更には、定款変更を伴うため、株主総会特別決議が必要となります(会社法61条、14条)。
株式の価格については、外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 1999)の価格ガイドライン(pricing guideline)に基づく価格規制が適用されます。ガイドラインに基づいた基準価格以上の価格で株式が発行される必要があります。
資本金着金後の手続として、インド準備銀行(RBI)へ届け出が必要となります。資本金着金後、30日以内にRBIへ届出なければなりません。資本金着金後、60日以内に株式の割り当てを行わなければならず、割当後30日以内に登記局(ROC)へ届出を行う必要があります。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
公開株式会社(Public Joint Stock Company)では、新株発行は、発行する株式の数と価格を明らかにして、株主総会の特別決議により承認されなければなりません(会社法(2021年連邦令第32号)第196条1項、3項)。発行株式は、原則、原株式の額面価値と同額でなければなりませんが、特別決議及び監督当局(Securities and Commodities Authority)の承認を受けた場合に限り、株式の市場価値が額面価値を上回るときにはプレミアムを上乗せして、下回る場合には割引して、発行することが可能です(第198条1項)。株主は新株予約権を有し(第199条1項)、新株割当は原株式の割当の規則に則って行われ(第200条1項)、取締役会は当局が認容した新株予約権発行の概要を2紙の地元新聞に広告掲載します(第200条2項)。新株は、予約権を行使した株主に対しその保有株式数に応じて割当され(201条1項)、次にその保有数を超えて申込をした株主に配分され、残余は監督当局が定めた条件に基づき公募されます(第201条2項)。
非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、株式公募の規定を除き、公開株式会社に関する会社法の規定が、証券商品庁を経済省と読み替えて、適用されます(会社法第267条)が、会社法第195条乃至200条の増資に関する規定については、新株発行にかかる取締役会の同意と株主総会の特別決議により原株式の各面価値と同額での株式発行をすることに読み替えられ(2024年経済省令第137号第34条第1項)、会作法第198条のプレミアム発行については、それまでの会社の業績及び株式の簿価を考慮した株主総会の特別決議並びにプレミアムの計算に関する会計監査人の資料を提出した上での経済省の承認を受けた場合に行うことができると読み替える(同省令第35条)とされます。
上記は本土で設立された株式会社について適用され、フリーゾーンで設立された会社については、新株発行は各フリーゾーンの規則によって規定されます。
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(1) 概要
日本では、株式の発行に関して、授権資本制度が採用されています。授権資本制度の下、会社は、将来発行する予定の株式の数を定款で定めておき、その「授権」の範囲内で会社が取締役会決議等により株式を発行することが認められています。
また、新株発行の方法には、第三者割当、株主割当、公募発行の3つがあります。
第三者割当とは、特定の第三者に対して株式の割り当てを行う方法をいいます。また、株主割当とは、全ての既存株主に対して各自の保有する株式数に応じて株式を割り当てる方法です。そして、公募発行とは、一般の投資家に対して広く出資を募集し、応募者に対して株式を割り当てる方法をいいます。
(2) 公開会社の場合
公開会社の場合、新株発行は取締役会の決議によって行うことができます(会社法201条1項)。ただし、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合(有利発行)には、株主総会の特別決議によらなければなりません(会社法201条1項、199条3項、309条2項5号)。
また、既存株主に新株発行差止請求の機会を与えるために、募集事項を定めたときは、払込期日または払込期間初日の2週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知しなければなりません(会社法201条3項)。もっとも、金融商品取引法に基づき、払込期日の2週間前までに所定の届け出をする場合は、株主に対する通知公告は不要とされます(同条5項、金融商品取引法4条)。
(3) 非公開会社の場合
非公開会社の場合、新株発行の基本的な方法は、株主割当となります。非公開会社の場合、株主は、配当による経済的利益だけでなく、会社に対する支配権を維持する観点から持ち株比率の維持にも関心を有しているのが通常であると考えられるところ、株主割当ならば、持ち株比率に変動をきたさないからです。
株主割当による発行については、株主総会決議によって行うことができるほか(会社法199条1項)、定款で取締役会決議によって行うことができる旨を定めることも可能です(会社法202条3項)。
他方、第三者割当等、既存株主の持ち株比率に影響を与える方法で新株発行を行う場合には、既存株主の保護のため、株主総会の特別決議によらなければなりません(会社法199条2項、309条2項5号)。
また、公開会社の場合と同様、有利発行の場合にも株主総会特別決議が必要となります。
2.タイ
(1) 概要
タイでは、日本と異なり授権資本制度が採用されていません。そのため、新株発行にあたっては、その都度定款変更が必要となります。
新株発行手続きの具体的内容は、公開会社と非公開会社でそれぞれ異なりますが、いずれも、株主総会の特別決議に基づかなければならず、出席株主が有する議決権の4分の3以上の賛成が必要な点は共通です。
(2) 公開会社について
公開会社は、新株の全部または一部を、既存株主に対し、その持ち株数に応じて割り当てることができ(株主割当)、また、公募や特定の第三者への割り当て(第三者割当)も行うことができます(公開会社法137条)。
また、新株発行にあたっては、株主総会の特別決議が必要です(同法136条)。
(3) 非公開会社について
非公開会社では、株式の公募や第三者割当を行うことはできません(民商法1102条、1222条)。
非公開会社が新株を発行する場合には、まず、株主総会の特別決議を経た上で(同法1220条)、既存株主に対し、保有する株式数の割合に基づく割当てを申し出なければなりません(同法1222条1項)。なお、既存株主が新株を引き受けなかった場合には、これを取締役または他の株主が引き受けることができます(同条3項)。
このように、非公開会社では、原則として新株を既存株主にのみ割り当てることしかできませんが、以下の手順を踏むことで、事実上の第三者割当を実行することは可能であり、実務上も、事業拡大等にあたって第三者からの出資を受けたい場合等に活用されています。
すなわち、株主が事前に新株の割当て受ける権利を放棄することに同意している場合には、既存株主が第三者に対し株式の一部(1株でも可)を譲渡し、当該第三者を株主とすれば、新株発行の際に既存株主は新株の引受を放棄し、当該第三者にのみ新株を引き受けさせることが可能となります。
3.マレーシア
(1) 新株発行の手続
株式発行は原則として株主総会の承認が必要です(会社法75条1項)。取締役は、事前に株主総会決議による承認を得なければ、株式の割当て権限を行使できません。また、株主総会で株式発行の承認が得られた場合、会社は14日以内に会社登記所に通知する義務があります(会社法76条1項)。一方で、既存の株主に対して保有株式の割合に従った株式の割当を申し出る場合には、株主総会の承認は不要です(会社法75条⑵a)。また、発起人に対して株式を割り当てる場合や、財産の取得対価として株式を発行する場合も同様に承認不要とされています(会社法75条⑵c・d)。
(2) 手続上の瑕疵がある場合の株式発行の有効性等
手続に違反して株式が発行された場合、発行は無効となり、既に払込が行われていれば払込金の返還が必要です(会社法75条⑷)。また、違反に関与した取締役は、会社および株式引受人に対して生じた損害を賠償する義務を負います(会社法75条⑸)。ただし、会社、株主、債権者などの利害関係者は、裁判所に株式発行の有効性に関する申立てを行うことができ、裁判所は正当性や公平性を考慮して株式発行を有効とする命令を出すことが可能です(会社法108条)。
(3) 既存株主の株式引受権
既存株主の株式引受権について、会社法は既存株主の保護規定を設けています。新たに発行される株式の割当ては、まず既存株主に対し、保有割合に従って行わなければなりません(会社法85条⑴)。会社は、期限を定めて株式割当の申出通知を行い、株主が期限内に回答しなかった場合、取締役は最適な形で第三者に株式を割り当てることができます(会社法85条⑵⑶)。ただし、定款でこの規定の適用を排除することができます(会社法85条⑴)。
4.ミャンマー
⑴ 株式の発行
取締役会は、定款、本法及びその他の適用法に従い、任意の時期及び割当先に、取締役会が適切と考える条件及び数の株式を発行することができます(会社法63条(a))。株式は、会社の定款に従い、全部払込済又は部分的払込済で発行することができます。株式が部分的払込済で発行された場合、発行条件において、残額部分について請求が行われる時期を特定する必要があり、株主はかかる支払請求に応じて払込みを行う義務を負います(同条(b))。会社は、取締役が株式の追加発行による増資の決定をした場合、各株主が保有する既存株式数に応じて、種類に関係なく引き受けの申込みを行う義務を負う旨を定款で定めることができます(同条(c))。
(2) 株式の発行の対価
株式を発行する際の対価は、取締役会が定めたいかなる形式もとることができます(会社法64条(a))。 株式の発行の対価が現金以外である場合、取締役会は、
(i) 対価を特定可能な程度に詳細に記録し
(ii)株式発行の対価の妥当な現金価値を決定し、当該現在価値及びその算定の根拠を記録し、かつ、 (iii) 以下の意見を決議する必要があります。
(aa)株式発行の対価及び条件は、会社及び既存のすべての株主にとって公正でかつ合理的であること
(bb)当該対価の現金価値は、株式発行において充当される金額以上でなければならないこと
5.メキシコ
⑴ 新株発行について
新株発行を行うためには、株主総会の特別総会での決議が必要となります(会社法182条)。特別総会では、資本金の4分の3以上の株式を有する株主が出席したうえ、資本金の2分の1以上の株主による賛成が必要となります(190条)。
また、メキシコの会社法上、株式の有利発行は認められておらず、額面金額を下回る金額での発行は禁じられています(115条)。そのため、株式のプレミアム(売却価額と額面価額との差)、その他過去の出資の資本計上の結果、または利益剰余金や評価制引当金の資本組み入れとともに、株式の価値が完全に充足され、かつ、特別総会の決議に従って株主に交付される株式のみが発行済み株式となります(182条)。
なお、メキシコ会社法上、出資の履行については、金銭出資のほか、現物による出資や会社に対する役務の提供での出資も認められています(141条、114条)。出資の履行がなされない場合、一定の手続を経て株主となる権利は消滅します(118条、120条、121条)。
⑵ 株式発行の際の規制について
前述のようにメキシコの会社法上、株式の有利発行は認められていません(115条)。
また、定款に定めることによって複数の種類株式を発行することは可能ですが、配当がない株式の発行はできません(112条)。
更に、会社は、既存株式の払込みが完了するまでは、新たに株式を発行することができません(133条)。
⑶ 既存株主の株式引受権
新規の株式発行について、既存株主は、発行される株式を、自身の有する株式数に応じて引き受ける優先権を持ちます。当該権利は、資本増加に関する株主総会における合意が経済省の電子システムに掲載されてから15日以内に行使されなければなりません(132条)。
6.バングラデシュ
(1) 追加の株式発行
バングラデシュの株式発行は、授権資本額の範囲内の場合、既存株主への割当増資(会社法155条1項)、または第三者割当(155条2項)によって行われます。
既存株主への割当増資の場合、新株発行を行う会社は、取締役会決議を行ったうえで、既存株主に対して割当株式数、新株発行の申込期限(当該通知日から15日目以降の日でなければならない)を通知します。かかる通知に対して、株主が申込期限内に申し込みを行った場合には、当該株主は、新株引受けの申込日において払込みを行い、当該新株の割当てを受けることができます。申込期限内に申し込みが行われない場合には、当該株主は、新株の引受けを辞退したものとみなされます(155条1項)。第三者割当(155条2項)の場合は、重要事項を取締役会で決議して行います。
授権資本額を超えた増資の場合は、株主総会の承認が必要となります(53条2項)。
(2) 登記所への通知および株式証書の発行
会社が株式の割当てを決議した場合、60日以内に商業登記所に以下の内容を通知します(151条1項)。
① 割当の利益、割当に含まれる株式の数および額面価格、割当先の氏名、住所、国籍等、株式の払込み済みまたは未払いおよび支払予定の金額(該当する場合)
② 割り当てられた株式が現金以外で払込みされた場合、
(a) 割当先が権利を有することについて合意した株式割当証、
(b) 売買またはサービス契約もしくは割当がなされたことに関するその他の事項について、規定に従って印紙を貼付し検証された合意書の写し
③ ②の割当株式の数および額面価格
④ ②の株式割当について、不動産の譲渡により払込みがなされる場合の不動産の売買証書
新株発行を行った会社は、株式の割当後90日以内に株式証書を発行します(158条1項)。
7.フィリピン
(1) 新株発行に関わる主な規制
フィリピンでは、新株発行は主に会社法で規制されています。
新株発行をするには、①取締役会の過半数、および②総株式(株主数ではない)の3分の2以上の賛成が必要です。なお、通常は議決権のない株式を保有する株主でも、この決議では決議に参加することができます。
また、資本金の変更には証券取引委員会(SEC)の事前承認が必要であり、場合によってはフィリピン競争委員会(Philippine Competition Commission)の承認も必要となります。さらに、株式発行に伴い定款の変更も必要となるため、定款変更の手続も行う必要があります。
(2) 新株発行に関わる主な規制
上記のとおり、新株発行にはSECの承認と定款変更の手続が必要となります。これらの手続はオンラインで行うことができます。この手続は、必要書類の作成等の作業を踏まえると、数か月かかると考えられます。
おおまかなステップは以下のとおりです。
① 申請書のオンライン提出
② SECによる事前承認(場合によっては補正する必要があります)
③ 申請料の支払い
④ 必要書類の原本の提出
⑤ 再審査
⑥ 承認に関する証明書の発行
(3) 必要書類
必要書類は以下のとおりです。
ⅰ) 株式発行に関する証明書(取締役の過半数が署名し、株主総会の議長および秘書役が署名した書類)
ⅱ) 財務役の宣誓書
ⅲ) 金額の支払いを証明するもの。
ⅳ) 株主名簿
ⅴ) 改訂した定款
ⅵ) 会社内紛争が未決でないことを証明書(秘書役が作成する)
ⅶ) 株主の先買権放棄に関する証明書(秘書役が作成する)
ⅷ) 取締役証明書(取締役の過半数および会社秘書が署名する)
ⅸ) SECによる監査要件を遵守するための宣誓書。
ⅹ) その他必要となる書類
8.ベトナム
(1) ベトナムの企業法制における企業形態
ベトナムの一般的な企業法制の下では、複数の企業形態があり、それぞれ異なる特性、組織構造を有しています。外国人、外国企業がベトナムで事業を立ち上げる際には、通常、有限責任会社(会社所有者である社員の人数によって、1人社員有限責任会社か2人以上社員有限責任会社があります。)または株式会社のいずれかの企業形態が選択されます。そこで、以下、これらの企業形態に関連する情報のみをご紹介します。
なお、株式の発行が認められているのは株式会社のみであり、有限責任会社では株式の発行が認められていません。したがって、会社が資金を調達して増資するためには、対応する企業形態の規定に応じた手続を行う必要があります。
(2) 有限責任会社の増資手続
① 1人社員有限責任会社の場合
1人社員有限責任会社とは、その名称のとおり、個人または組織1名だけの社員(会社所有者)を有する会社です。1人社員有限責任会社の場合、以下のいずれかの方法によって増資して資本を調達することができます。
i) 単独所有者が追加出資する方法
ii) 他の個人または組織から資本を調達する方法
この方法によると、企業は、その企業形態を2人以上社員有限責任会社または株式会社のいずれかに組織変更する必要があります。
② 2人以上社員有限責任会社の場合
以下のいずれかの方法によって増資して資本を調達することが可能です。
i) 現社員の出資比率に応じて拠出資本を増額する方法
増資額は、現在の出資比率に応じて現社員が出資しますが、追加出資する権利は、他の社員又は第三者に譲渡することができます。現社員が別途合意した場合を除き、増資分が全額出資されない場合、出資比率に応じて他の社員が出資しなければなりません。
ii) 他の個人または組織から資本を調達する方法
現社員の決定が承認された場合にのみ実施されます。
(3) 株式会社の増資手続
株式会社の場合、以下のいずれかの方法で、株式の数や種類を増やすことによって資金を調達することができます。
i) 既存株主への株式提供
ii) 第三者割当増資
iii) 株式の公募
具体的には、i) 既存株主への株式提供を行うために、株式会社は、株式引受期限の15日前までに、全ての既存株主に書面で通知する必要があります。既存株主は、株式を購入する権利を他人に譲渡することができます。株主総会で別段の合意がない限り、取締役会は残りの株式を、既存株主に最初に提示した条件よりも有利でない条件で、他の株主やその他の第三者に売却することができます。
また、ii) の第三者割当増資を行うためには、マスメディアを通じて行わないこと、100名未満の投資家(プロの証券投資家を除く、またはプロの証券投資家のみを対象とする)に提供されること、という2つの条件を満たす必要があります。具体的には、株式会社が第三者割当増資に関する合意がない限り、株主は、既存株主に提示した条件よりも有利でない条件で、残りの株式を第る決定書を発行し、既存株主がi)の新株優先引受権を享受することが必要です。株主総会で別の三者に売却することができます。なお、第三者が外国人投資家である場合には、株式の買取りについて所轄官庁の投資認可を取得する手続きが必要となります。
公開会社(上場会社および非上場会社を含む)および株式発行の第三の選択肢(株式の公募)は複雑であるため、これらの事項については本ニュースレターの内容から除外しています。これらの詳細については、証券法をご参照ください。
9.インド
会社が既存の株式の保有者に対して、持ち株比率に応じて株式を割り当てる場合は、取締役会の決議により決定することができます(会社法63条1項、179条3項)。インドでは定款にて授権資本枠が設定されるため、授権資本枠を超える増資を行う場合は、増資に先立って授権資本枠を変更(拡大)する手続を行わなければなりません。授権資本枠の変更には、定款変更を伴うため、株主総会特別決議が必要となります(会社法61条、14条)。
株式の価格については、外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 1999)の価格ガイドライン(pricing guideline)に基づく価格規制が適用されます。ガイドラインに基づいた基準価格以上の価格で株式が発行される必要があります。
資本金着金後の手続として、インド準備銀行(RBI)へ届け出が必要となります。資本金着金後、30日以内にRBIへ届出なければなりません。資本金着金後、60日以内に株式の割り当てを行わなければならず、割当後30日以内に登記局(ROC)へ届出を行う必要があります。
10.アラブ首長国連邦(ドバイ)
公開株式会社(Public Joint Stock Company)では、新株発行は、発行する株式の数と価格を明らかにして、株主総会の特別決議により承認されなければなりません(会社法(2021年連邦令第32号)第196条1項、3項)。発行株式は、原則、原株式の額面価値と同額でなければなりませんが、特別決議及び監督当局(Securities and Commodities Authority)の承認を受けた場合に限り、株式の市場価値が額面価値を上回るときにはプレミアムを上乗せして、下回る場合には割引して、発行することが可能です(第198条1項)。株主は新株予約権を有し(第199条1項)、新株割当は原株式の割当の規則に則って行われ(第200条1項)、取締役会は当局が認容した新株予約権発行の概要を2紙の地元新聞に広告掲載します(第200条2項)。新株は、予約権を行使した株主に対しその保有株式数に応じて割当され(201条1項)、次にその保有数を超えて申込をした株主に配分され、残余は監督当局が定めた条件に基づき公募されます(第201条2項)。
非公開株式会社(Private Joint Stock Company)については、株式公募の規定を除き、公開株式会社に関する会社法の規定が、証券商品庁を経済省と読み替えて、適用されます(会社法第267条)が、会社法第195条乃至200条の増資に関する規定については、新株発行にかかる取締役会の同意と株主総会の特別決議により原株式の各面価値と同額での株式発行をすることに読み替えられ(2024年経済省令第137号第34条第1項)、会作法第198条のプレミアム発行については、それまでの会社の業績及び株式の簿価を考慮した株主総会の特別決議並びにプレミアムの計算に関する会計監査人の資料を提出した上での経済省の承認を受けた場合に行うことができると読み替える(同省令第35条)とされます。
上記は本土で設立された株式会社について適用され、フリーゾーンで設立された会社については、新株発行は各フリーゾーンの規則によって規定されます。"
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