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みずほ、「関税の影響注視」加藤頭取、アジア脱炭素を支援

みずほ銀行の加藤勝彦頭取は24日、ベトナム南部ホーチミン市でNNAの単独インタビューに応じた。トランプ米政権がベトナムに対して打ち出した46%の相互関税について「大きなインパクトだ」と語り、影響を見極める考えを示した。トランプ氏の大統領就任以降、世界の気候変動対応に逆風が吹いているが、「アジアの脱炭素への取り組みはしっかりやっていく」としてトランジションファイナンス(移行金融、低炭素社会へ円滑に移行するための投融資)に今後も力を入れる方針を強調した。

ベトナム事業拡大への意欲を語るみずほ銀行の加藤頭取=24日、ホーチミン市

主なやりとりは次の通り。
——米国によるベトナムへの相互関税をどうみるか。
他のアジアの国も影響を受けるが、ベトナムの46%は高い。ベトナムは近年、対米輸出を増やしてきたこともあり、非常に深刻に捉えている。グループのシンクタンク、みずほリサーチ&テクノロジーズは46%の関税が課された場合、ベトナムの国内総生産(GDP)を3.2%押し下げると試算している。
悩ましいのは、このまま46%の税率が適用されるのかどうなのかを判断するのが非常に難しいことだ。まずは(9日に発表された上乗せ部分発動の)停止期間である90日間に政府間交渉を見ながら対応していくが、大きなインパクトがあるとは考えているので影響を注視したい。
——進出日系企業にはどのような影響を与えるか。
東南アジアの日系企業による米国への直接の輸出は、実はそれほど多くない。各社のグループ全体のサプライチェーン(供給網)に与える影響を踏まえた上で、ベトナムでどういう影響が出てくるかを見ていく。
ベトナムからの対米輸出が減ったとしても、相互関税がより低い第三国のグループ企業からの出荷が増える場合もあり得る。中国により高い税率が課されることで、ベトナムからの輸出が増える可能性もあり、相互関税が一概にマイナスに働くとは言い切れない。各業種、各社ごとに丁寧に分析する必要がある。
——みずほフィナンシャルグループ(FG)は3月に、脱炭素を目指す金融機関の国際枠組み「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から脱退した。
脱炭素に向けた取り組みが動き出し、各地域に合ったアプローチを取る中で、みずほの脱炭素の移行計画や加盟の意義などを総合的に考え、脱退する判断をした。炭素中立(カーボンニュートラル)の世界を目指すという方針に変わりはない。
アジアのトランジションは引き続きしっかりやっていく。シンガポール支店にサステナブルビジネス部から人員を派遣しており、各国での連携や情報提供をしている。
2024年より、東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要金融機関が脱炭素に向けた金融のあり方を提言する「アジア・トランジション・ファイナンス・スタディーグループ(ATFSG)」の事務局メンバーを務めている。
アジアの国々も、気候温暖化による水害、電力不足といった課題もある中でカーボンニュートラルに取り組んでいるという状況は変わっていない。
■M&A支援、ベトコム銀と協力
——ベトナム北部では23年夏に電力不足が顕在化した。13~15年にハノイ支店長を務めた経験を踏まえて、現在のベトナムをどうみるか。
1人当たりGDPの増加に伴って、輸出型から内需を目的とした外国企業の投資が今後も増えるだろう。
だからこそ、インフラ整備は重要だ。電力もそうだし、ハノイとホーチミン市の二大マーケットを結ぶ鉄道や高速道路といった交通インフラの整備も必要だろう。
——政府が推進する南北高速鉄道やニントゥアン原子力発電所の建設を支援する可能性はあるか。
一概には言えないが、重要性は認識している。(11年に15%を出資した)パートナーであるベトコムバンクと連携しながら検討していくことになるのではないか。
——ベトコムバンクとの提携関係はどう評価するか。
大変うまくいっている。資本提携後にベトコムバンクの時価総額は円建てで10倍に成長し、みずほ銀のハノイ支店とホーチミン支店の融資残高も2.5倍に伸びた。
みずほの法人顧客の従業員に対する職域営業の紹介や協調融資(シンジケートローン)、信用補完といった営業面での連携でウィンウィンの関係を築けている。ベトコムバンクに対して社内規定のノウハウを累計900回にわたり提供しており、こういった技術支援は感謝されている。
日系企業の進出の目的が内需中心に変化する中で、現地にネットワークを持つ地場企業に対する合併・買収(M&A)のニーズが増えている。ベトコムバンクの取引先企業とのマッチングや、ベトコムバンク証券との連携などで協業を拡大する余地はまだ大きい。
——21年に7.5%を出資した電子決済サービス最大手「MoMo(モモ)」の運営会社との連携はどうか。
MoMoの登録ユーザーは3,000万人以上で、テクノロジーに強い。24年夏には日本アニメ「名探偵コナン」のイベントマーケティングを通じて、日系企業の販売促進活動を支援した。こういった連携に加え、ベトコムバンクとMoMoによる協業も検討を進めており、両社による新商品を近く発表する予定だ。

■まずは既存4カ国に専念
——アジアではベトナム以外にフィリピン、インドネシア、インドの地場企業に出資している。今後の展開は。
出資先企業との連携強化や成長支援に努めつつ、将来の中核領域とするのに必要な知見を獲得していきたい。その先は、またいろいろ考えていきたい。
——成長市場のベトナムに他の金融機関も関心を高めている。どのように差別化していくか。
やはりM&Aの支援だ。みずほ銀としてベトナムの証券会社やファンドなど170社と守秘義務契約を結んで情報提供を受けており、常に400件程度の案件情報を保有しお客さまに情報提供している、投資が成約している実績もある。これだけの規模でベトナムへの投資促進活動ができているのは、みずほだけではないか。(聞き手・渡邉哲也)
<プロフィル>
加藤勝彦(かとう・まさひこ) 1965年5月生まれ、59歳。慶應義塾大学商学部卒、88年富士銀行入行。2013年にみずほ銀行ハノイ支店長。ソウル支店長、名古屋営業部長などを経て21年に副頭取、22年4月に頭取に就任した。海外駐在はシンガポール、香港、ベトナム、韓国に計15年にわたる。

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——進出日系企業にはどのような影響を与えるか。
東南アジアの日系企業による米国への直接の輸出は、実はそれほど多くない。各社のグループ全体のサプライチェーン(供給網)に与える影響を踏まえた上で、ベトナムでどういう影響が出てくるかを見ていく。
ベトナムからの対米輸出が減ったとしても、相互関税がより低い第三国のグループ企業からの出荷が増える場合もあり得る。中国により高い税率が課されることで、ベトナムからの輸出が増える可能性もあり、相互関税が一概にマイナスに働くとは言い切れない。各業種、各社ごとに丁寧に分析する必要がある。
——みずほフィナンシャルグループ(FG)は3月に、脱炭素を目指す金融機関の国際枠組み「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から脱退した。
脱炭素に向けた取り組みが動き出し、各地域に合ったアプローチを取る中で、みずほの脱炭素の移行計画や加盟の意義などを総合的に考え、脱退する判断をした。炭素中立(カーボンニュートラル)の世界を目指すという方針に変わりはない。
アジアのトランジションは引き続きしっかりやっていく。シンガポール支店にサステナブルビジネス部から人員を派遣しており、各国での連携や情報提供をしている。
2024年より、東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要金融機関が脱炭素に向けた金融のあり方を提言する「アジア・トランジション・ファイナンス・スタディーグループ(ATFSG)」の事務局メンバーを務めている。
アジアの国々も、気候温暖化による水害、電力不足といった課題もある中でカーボンニュートラルに取り組んでいるという状況は変わっていない。
■M&A支援、ベトコム銀と協力
——ベトナム北部では23年夏に電力不足が顕在化した。13~15年にハノイ支店長を務めた経験を踏まえて、現在のベトナムをどうみるか。
1人当たりGDPの増加に伴って、輸出型から内需を目的とした外国企業の投資が今後も増えるだろう。
だからこそ、インフラ整備は重要だ。電力もそうだし、ハノイとホーチミン市の二大マーケットを結ぶ鉄道や高速道路といった交通インフラの整備も必要だろう。
——政府が推進する南北高速鉄道やニントゥアン原子力発電所の建設を支援する可能性はあるか。
一概には言えないが、重要性は認識している。(11年に15%を出資した)パートナーであるベトコムバンクと連携しながら検討していくことになるのではないか。
——ベトコムバンクとの提携関係はどう評価するか。
大変うまくいっている。資本提携後にベトコムバンクの時価総額は円建てで10倍に成長し、みずほ銀のハノイ支店とホーチミン支店の融資残高も2.5倍に伸びた。
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日系企業の進出の目的が内需中心に変化する中で、現地にネットワークを持つ地場企業に対する合併・買収(M&A)のニーズが増えている。ベトコムバンクの取引先企業とのマッチングや、ベトコムバンク証券との連携などで協業を拡大する余地はまだ大きい。
——21年に7.5%を出資した電子決済サービス最大手「MoMo(モモ)」の運営会社との連携はどうか。
MoMoの登録ユーザーは3,000万人以上で、テクノロジーに強い。24年夏には日本アニメ「名探偵コナン」のイベントマーケティングを通じて、日系企業の販売促進活動を支援した。こういった連携に加え、ベトコムバンクとMoMoによる協業も検討を進めており、両社による新商品を近く発表する予定だ。

■まずは既存4カ国に専念
——アジアではベトナム以外にフィリピン、インドネシア、インドの地場企業に出資している。今後の展開は。
出資先企業との連携強化や成長支援に努めつつ、将来の中核領域とするのに必要な知見を獲得していきたい。その先は、またいろいろ考えていきたい。
——成長市場のベトナムに他の金融機関も関心を高めている。どのように差別化していくか。
やはりM&Aの支援だ。みずほ銀としてベトナムの証券会社やファンドなど170社と守秘義務契約を結んで情報提供を受けており、常に400件程度の案件情報を保有しお客さまに情報提供している、投資が成約している実績もある。これだけの規模でベトナムへの投資促進活動ができているのは、みずほだけではないか。(聞き手・渡邉哲也)
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加藤勝彦(かとう・まさひこ) 1965年5月生まれ、59歳。慶應義塾大学商学部卒、88年富士銀行入行。2013年にみずほ銀行ハノイ支店長。ソウル支店長、名古屋営業部長などを経て21年に副頭取、22年4月に頭取に就任した。海外駐在はシンガポール、香港、ベトナム、韓国に計15年にわたる。" ["post_title"]=> string(81) "みずほ、「関税の影響注視」加藤頭取、アジア脱炭素を支援" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e3%81%bf%e3%81%9a%e3%81%bb%e3%80%81%e3%80%8c%e9%96%a2%e7%a8%8e%e3%81%ae%e5%bd%b1%e9%9f%bf%e6%b3%a8%e8%a6%96%e3%80%8d%e5%8a%a0%e8%97%a4%e9%a0%ad%e5%8f%96%e3%80%81%e3%82%a2%e3%82%b8%e3%82%a2%e8%84%b1" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2025-04-29 04:00:03" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2025-04-28 19:00:03" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=26085" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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