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博多うどんで香港市場に挑むアジアで攻める西鉄(上)

西日本鉄道(福岡市)がアジアで攻勢を強めている。歴史を誇る国際物流事業、近年力を入れる不動産開発事業やホテル事業に加え、今年4月には傘下の西鉄ストア(福岡県筑紫野市)が、うどん店「博多やりうどん」の海外1号店を香港に出店すると発表。新たな挑戦に踏み出した。西鉄グループのアジア戦略を2回に分けてリポートする。1回目は注目の外食事業を中心に、西鉄ストアの平木貴之執行役員に聞いた。

「博多やりうどん」香港出店決定の経緯などについて語る西鉄ストアの平木執行役員=5日、福岡県筑紫野市(NNA撮影)

——西鉄グループが福岡のうどんブランドの先陣を切って、国内(福岡県内)の店舗数が3店舗にとどまる「博多やりうどん」の海外進出を発表したことにはいささか驚いた。進出決断に至った背景、また1号店の出店地として香港を選んだ理由は。
元々は日本酒輸出の可能性を探るため、アジアで市場調査をする中で、香港で日本酒卸売りや日本酒バーを手がけている企業「清酒事変(サケ・インシデント・トレーディング)」に対し、当社がうどん居酒屋(博多やりうどん)をやっていることを紹介した。すると同社が大変興味を示し、打ち合わせが始まった。実際に現地で会社を設立という話になった段階で、同社の取引先で、今回フランチャイズ(FC)事業の提携先となった「カ羅爾飲食集団(C.L.グループ・キュイジーヌ・カンパニー、カ=上の下にト)」が強い関心を示し、同社の代表が来福。博多やりうどんを試食いただいた。代表は非常に興味を持ち、「香港でうまくいけば中国本土、またタイなど東南アジアでもうまくいくのでは」と持ちかけてきた。結果としてC.L.グループ主導で展開することになった。
C.L.グループはわれわれの創作うどんにも強い興味を示し、日本酒とマッチした居酒屋運営ができる企業だと認め、われわれを選んでくれた。われわれとしても、元々の目的だった日本酒輸出のテストマーケティングができるというメリットがあったため、話はトントン拍子に進んだ。
——開業時期は4月の発表時点では7月ごろとなっていたが。
ずれ込んで8月下旬以降を予定している。

香港進出が決まった「博多やりうどん」の福岡店=5日、福岡市中央区(NNA撮影)

■「本物志向」で逆風に対処
——香港は現在、住民が本土に出かけて買い物や食事を楽しむ「北上消費」が常態化し、香港内の小売・外食業界は苦境に陥っている。FC展開とはいえ、こうした厳しい事業環境に不安はないか。
北上消費の常態化によって香港の飲食業界が厳しいことは承知している。一方で、日本食文化がかなり浸透している香港では、「本物志向」の日本料理店はこうした厳しい環境下でもしっかり生き残っていることが分かった。C.L.グループもサケ・インシデントも、朝から店内でだしを取るというわれわれの手法を「本物以外の何物でもない。これは(香港の店舗でも)しっかり守っていきたい」と言ってくれた。われわれも、逆風下で活路を見いだすとすれば、そこ(本物志向の堅持)しかないと考えている。
——ブランド認知度向上戦略は。
香港側のPR戦略についてはFC契約上、具体的な開示はできないが、恐らくスタート段階では日本酒を前面に押し出すことになるだろう。日本の食文化が根付いている香港では、日本酒をたしなむ人も多い。しかも「獺祭」のような有名ブランドではなく、ある程度こだわりを持って(日本酒の銘柄を)選択するような飲酒文化になっている。運営にかかわってくれるサケ・インシデントは関係者が日本の蔵元を訪れて、その蔵元が生産する酒を理解して仕入れているので、同社が銘柄を選択して提供しているというだけで、ある程度の客が集まってくるという実態はある。居酒屋で本格的なうどんが食べられるといった触れ込みになるのではないか。
——現時点では香港の次の最有力進出先候補国・地域はどこか。
具体的にはまだ答えられないが、香港1号店は九龍地区の尖沙咀に出すので、香港でもう1店ぐらい、今度は香港島で出せないかと考えている。九龍と香港島の両方である程度認知されれば、香港は地域の「ハブ」なので、東南アジアを中心にどこの国・地域に進出するかという戦略を立てていこうという話は(C.L.グループと)している。
■貴重な経験になった「台湾龍虎ハタ」
——西鉄グループは今年に入り、台湾農業部(農業省)とコラボして高級魚「台湾龍虎ハタ」の輸入と福岡での提供を手がけた。手応えはどうだったか。
台湾龍虎ハタの件はプロモーション、価格などで、台湾政府側の協力がかなり手厚かった。モノ(品質)は間違いなく良いモノだし、(西鉄ストアが経営する)スーパーマーケットで扱うにはかなり高級な食材。それをお手頃価格で販売できた上、われわれの技術で総菜化もできたので、非常に良い機会をもらえたというのが、われわれの感想だ。素材(生)より総菜系の方がお客さまの手に取っていただけた感触がある。
——今後もこうしたアジアの農水産物・食材の独自輸入・提供は考えているか。
良い話があれば検討の素材には挙げたいと思う。今回初めてこの手のプロジェクトに取り組んだ結果、物流面、販売面の課題がかなりあることも分かった。今回の台湾龍虎ハタと同じスキームでやるとかなり難しい状態だ。西鉄グループは非常に強い国際物流部門を持つが、商品が福岡の港に入ってからの物流、店舗に届けるまでの「つなぎ」がかなり難しかった。このような、台湾龍虎ハタのプロジェクトを手がけて浮かび上がった課題がクリアになるような商談であれば、一緒にやらせてほしいと思う。(聞き手=福岡支局・安部田和宏)

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元々は日本酒輸出の可能性を探るため、アジアで市場調査をする中で、香港で日本酒卸売りや日本酒バーを手がけている企業「清酒事変(サケ・インシデント・トレーディング)」に対し、当社がうどん居酒屋(博多やりうどん)をやっていることを紹介した。すると同社が大変興味を示し、打ち合わせが始まった。実際に現地で会社を設立という話になった段階で、同社の取引先で、今回フランチャイズ(FC)事業の提携先となった「カ羅爾飲食集団(C.L.グループ・キュイジーヌ・カンパニー、カ=上の下にト)」が強い関心を示し、同社の代表が来福。博多やりうどんを試食いただいた。代表は非常に興味を持ち、「香港でうまくいけば中国本土、またタイなど東南アジアでもうまくいくのでは」と持ちかけてきた。結果としてC.L.グループ主導で展開することになった。
C.L.グループはわれわれの創作うどんにも強い興味を示し、日本酒とマッチした居酒屋運営ができる企業だと認め、われわれを選んでくれた。われわれとしても、元々の目的だった日本酒輸出のテストマーケティングができるというメリットがあったため、話はトントン拍子に進んだ。
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■「本物志向」で逆風に対処
——香港は現在、住民が本土に出かけて買い物や食事を楽しむ「北上消費」が常態化し、香港内の小売・外食業界は苦境に陥っている。FC展開とはいえ、こうした厳しい事業環境に不安はないか。
北上消費の常態化によって香港の飲食業界が厳しいことは承知している。一方で、日本食文化がかなり浸透している香港では、「本物志向」の日本料理店はこうした厳しい環境下でもしっかり生き残っていることが分かった。C.L.グループもサケ・インシデントも、朝から店内でだしを取るというわれわれの手法を「本物以外の何物でもない。これは(香港の店舗でも)しっかり守っていきたい」と言ってくれた。われわれも、逆風下で活路を見いだすとすれば、そこ(本物志向の堅持)しかないと考えている。
——ブランド認知度向上戦略は。
香港側のPR戦略についてはFC契約上、具体的な開示はできないが、恐らくスタート段階では日本酒を前面に押し出すことになるだろう。日本の食文化が根付いている香港では、日本酒をたしなむ人も多い。しかも「獺祭」のような有名ブランドではなく、ある程度こだわりを持って(日本酒の銘柄を)選択するような飲酒文化になっている。運営にかかわってくれるサケ・インシデントは関係者が日本の蔵元を訪れて、その蔵元が生産する酒を理解して仕入れているので、同社が銘柄を選択して提供しているというだけで、ある程度の客が集まってくるという実態はある。居酒屋で本格的なうどんが食べられるといった触れ込みになるのではないか。
——現時点では香港の次の最有力進出先候補国・地域はどこか。
具体的にはまだ答えられないが、香港1号店は九龍地区の尖沙咀に出すので、香港でもう1店ぐらい、今度は香港島で出せないかと考えている。九龍と香港島の両方である程度認知されれば、香港は地域の「ハブ」なので、東南アジアを中心にどこの国・地域に進出するかという戦略を立てていこうという話は(C.L.グループと)している。
■貴重な経験になった「台湾龍虎ハタ」
——西鉄グループは今年に入り、台湾農業部(農業省)とコラボして高級魚「台湾龍虎ハタ」の輸入と福岡での提供を手がけた。手応えはどうだったか。
台湾龍虎ハタの件はプロモーション、価格などで、台湾政府側の協力がかなり手厚かった。モノ(品質)は間違いなく良いモノだし、(西鉄ストアが経営する)スーパーマーケットで扱うにはかなり高級な食材。それをお手頃価格で販売できた上、われわれの技術で総菜化もできたので、非常に良い機会をもらえたというのが、われわれの感想だ。素材(生)より総菜系の方がお客さまの手に取っていただけた感触がある。
——今後もこうしたアジアの農水産物・食材の独自輸入・提供は考えているか。
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