質問の量と質に関して、日本人の視点から見ると、個人差はあるものの、全体的にベトナム人は質問が少ないと感じられます。簡単に言えば、よく考えていないため疑問が生まれず、意見を述べることができない状況にあります。これは、ベトナムが思想統一が強い共産国家であるため、考えたり疑問を持ったりする教育に重点が置かれていないことに起因しています。しかし、これに限らず他にもさまざまな理由があるので、それらを考察し、育成の方法を考えたいと思います。
なぜあまり質問しないのか。家庭環境や学校が関係しています。
みなさんの職場で、よく質問し、物事をしっかりと捉えようとする、いわゆる賢い社員はどれほどいますか?平均して見ると日本人社員と比較して、ベトナム人社員はあまり質問してこないように思います。(個人差の強い比較論であり、当てはまらない職場もあると思います。)その理由として、質問する習慣そのものが家庭内または学校で育成されてこなかったからではないかと私は思っています。
私の実家もそうでしたが、ほとんどのベトナムの家庭において、親から子供に対しての会話は断定口調や命令口調が多いように思います。何を食べたいの?、どうしたいの?、どう感じているの?、というような質問はほとんど記憶にありません。一方で、勉強しなさい!、(大学卒業まで)恋愛してはいけない!、がよく言われるセリフで、夢に出てくることもしばしばありました。学校も家庭の延長のようなもので、先生の教えが絶対的で、異議を唱えると変な子供として仲間外れにされます。先生もあえて、子供がどう思うかいちいち聞かない。暗記力があり、従順な子こそ先生たちに好かれ、よい成績を収め、両親の自慢の子供となります。そのため静かで質問の少ない子が多くなります。
世話好きな日本人、あるいは相手を困らせたくない日本人はどんどん手を差し伸ばして、喜んで手助けするわけです。しかし、その過程で、ローカルスタッフは自ら質問して業務改善しなくても、業務指導は日本人がやってくれると気づき、自分で考えてリスクを取るぐらいなら、あえて考えないで日本人の指示のもと、忠実に動けばよいと考えるようになります。主体性が低下する一途になります。
過去でこの話をしているときに、日本人の経営者とのやり取りを思い出しました。彼は、「質問力の欠如は想像力の不足に起因する」と分析していました。どういうことかというと、例えば物事、その歴史や様々な場面での異なる見方を想像できていないからです。つまり、仮説を立てられないために質問ができないということです。言い換えると、経験が不足しているために、物事の次の姿や、物事の前段階、物事の因果関係を理解し、それが成り立つ条件そのものを想像できないのです。
これについては二つのことが言えます。一つは経験値、そしてもう一つはその経験を深掘りする能力です。予測する力が足りていないのは、経験値が少ないために常識が不足していることが原因だと言えます。ただし、経験があるだけでは不十分で、その経験から何を学んだかを仮説として持ち、他人と共有しながら物事の見方を深めるプロセスがなければ、どれだけ経験を積んでも思考そのものはなかなか深まりません。
場数を増やす
過去に働いていた会社の日本人の上司には、振り返ると多くの経験をさせてもらいました。当時は、あまり経験がない状態で急に一人で顧客対応を任され、不満と緊張が入り混じった気持ちで応対していましたが、今ではそれが大きな成長の糧になったと思います。確かにその時の顧客対応では失敗があったものの、自分自身の成長には貴重な学びでした。お客様との面談前には十分に調査を行い、事前にヒアリングをして準備し、分からないことは正直に認めてしっかりと調べて返答することなど、多くのことを学びました。このような経験から、上司には部下に対して能力を超えた任務を与える勇気が必要だと感じます。そうすることで部下も急速に成長するに違いありません。
それだけでなく、やはり社会の仕組みとして最高のサービスがどういうものか理解するには、一般のベトナム人スタッフも経験が必要です。彼らは高級サービスを提供する五つ星ホテルの宿泊や食事を楽しむことは難しく、そのため実際に最高のサービスを体験する機会が少ないのです。自身が最高レベルのサービスを経験しないと、最高水準のサービスクオリティを出せないわけです。このため、会社としては費用がかかるかもしれませんが、優れたレストランやホテルでのサービスを経験させることも大切な任務です。これは航空券が高額なため実現しにくい場合もありますが、日本に行かなくてもベトナムに近いタイやシンガポールで様々なサービスを比較することができ、大いに勉強になるはずです。
深堀するチャンスを増やす
経験させるのは良いですが、同じ経験をしても学ぶ人もいれば、あまり考えずに学ばない人もいるでしょう。ですので、上司としては学んだことに対して深掘りするフィードバックの役割はとても大事です。業務上はもちろん必要ですが、それでもなかなか徹底的にできないですし、まして、業務外のことに対してもケアできる人は少ないでしょう。
これは私が考える理想の上司像は、「無言実行」、つまり何も言わず黙々と仕事をし、成果を出すことだと思っていました。しかし、ベトナムの人材育成においては、学んだ経験を語り、分析し、フィードバックするという意味で、「有言実行」の上司こそが非常に機能すると感じます。
部下に仕事を与える際には、明確な道筋を描いて渡し、仕事が終わった後には、何が良かったか、改善すべき点は何かといったフィードバックを行うことが非常に重要です。また、関連がある案件でもない案件でも、自分が上司としてどのように物事を見て、分析し、判断してその仕事を遂行したのかを部下に教える努力が大切だと感じています。
もともと私は話をするのがあまり得意ではありませんでしたが、地元の経営者の友人たちが自分のことを積極的に話しているのを見て、彼らがどれほど自分をアピールし、強く主張しているのかを考えさせられることがよくありました。彼らは「自分がすごい」ということを言いたいのではなく、あえて自分を一つのサンプルとして分析し、教師としても反面教師としても部下を育てることが、彼らの本当の狙いであることがわかりました。
結論
ベトナムにおいて部下を教育することは、日本とは異なる意味で難しいと思います。社会の教育インフラが整っていないことや、経済力が不足しているために、多様な経験を積む機会が少ないことから、上司として部下を育成する負担が大きいと言わざるをえません。しかし、根気よく育成すれば、一定の能力があるスタッフであれば、3年から5年ほどで、業務経験や様々な経験を積むことによって、質問が出てくるようになります。そして、良い質問をしてくる瞬間こそが、我々の人材育成が機能している瞬間だと言えるのではないでしょうか。
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なぜあまり質問しないのか。家庭環境や学校が関係しています。
みなさんの職場で、よく質問し、物事をしっかりと捉えようとする、いわゆる賢い社員はどれほどいますか?平均して見ると日本人社員と比較して、ベトナム人社員はあまり質問してこないように思います。(個人差の強い比較論であり、当てはまらない職場もあると思います。)その理由として、質問する習慣そのものが家庭内または学校で育成されてこなかったからではないかと私は思っています。
私の実家もそうでしたが、ほとんどのベトナムの家庭において、親から子供に対しての会話は断定口調や命令口調が多いように思います。何を食べたいの?、どうしたいの?、どう感じているの?、というような質問はほとんど記憶にありません。一方で、勉強しなさい!、(大学卒業まで)恋愛してはいけない!、がよく言われるセリフで、夢に出てくることもしばしばありました。学校も家庭の延長のようなもので、先生の教えが絶対的で、異議を唱えると変な子供として仲間外れにされます。先生もあえて、子供がどう思うかいちいち聞かない。暗記力があり、従順な子こそ先生たちに好かれ、よい成績を収め、両親の自慢の子供となります。そのため静かで質問の少ない子が多くなります。
世話好きな日本人、あるいは相手を困らせたくない日本人はどんどん手を差し伸ばして、喜んで手助けするわけです。しかし、その過程で、ローカルスタッフは自ら質問して業務改善しなくても、業務指導は日本人がやってくれると気づき、自分で考えてリスクを取るぐらいなら、あえて考えないで日本人の指示のもと、忠実に動けばよいと考えるようになります。主体性が低下する一途になります。
過去でこの話をしているときに、日本人の経営者とのやり取りを思い出しました。彼は、「質問力の欠如は想像力の不足に起因する」と分析していました。どういうことかというと、例えば物事、その歴史や様々な場面での異なる見方を想像できていないからです。つまり、仮説を立てられないために質問ができないということです。言い換えると、経験が不足しているために、物事の次の姿や、物事の前段階、物事の因果関係を理解し、それが成り立つ条件そのものを想像できないのです。
これについては二つのことが言えます。一つは経験値、そしてもう一つはその経験を深掘りする能力です。予測する力が足りていないのは、経験値が少ないために常識が不足していることが原因だと言えます。ただし、経験があるだけでは不十分で、その経験から何を学んだかを仮説として持ち、他人と共有しながら物事の見方を深めるプロセスがなければ、どれだけ経験を積んでも思考そのものはなかなか深まりません。
場数を増やす
過去に働いていた会社の日本人の上司には、振り返ると多くの経験をさせてもらいました。当時は、あまり経験がない状態で急に一人で顧客対応を任され、不満と緊張が入り混じった気持ちで応対していましたが、今ではそれが大きな成長の糧になったと思います。確かにその時の顧客対応では失敗があったものの、自分自身の成長には貴重な学びでした。お客様との面談前には十分に調査を行い、事前にヒアリングをして準備し、分からないことは正直に認めてしっかりと調べて返答することなど、多くのことを学びました。このような経験から、上司には部下に対して能力を超えた任務を与える勇気が必要だと感じます。そうすることで部下も急速に成長するに違いありません。
それだけでなく、やはり社会の仕組みとして最高のサービスがどういうものか理解するには、一般のベトナム人スタッフも経験が必要です。彼らは高級サービスを提供する五つ星ホテルの宿泊や食事を楽しむことは難しく、そのため実際に最高のサービスを体験する機会が少ないのです。自身が最高レベルのサービスを経験しないと、最高水準のサービスクオリティを出せないわけです。このため、会社としては費用がかかるかもしれませんが、優れたレストランやホテルでのサービスを経験させることも大切な任務です。これは航空券が高額なため実現しにくい場合もありますが、日本に行かなくてもベトナムに近いタイやシンガポールで様々なサービスを比較することができ、大いに勉強になるはずです。
深堀するチャンスを増やす
経験させるのは良いですが、同じ経験をしても学ぶ人もいれば、あまり考えずに学ばない人もいるでしょう。ですので、上司としては学んだことに対して深掘りするフィードバックの役割はとても大事です。業務上はもちろん必要ですが、それでもなかなか徹底的にできないですし、まして、業務外のことに対してもケアできる人は少ないでしょう。
これは私が考える理想の上司像は、「無言実行」、つまり何も言わず黙々と仕事をし、成果を出すことだと思っていました。しかし、ベトナムの人材育成においては、学んだ経験を語り、分析し、フィードバックするという意味で、「有言実行」の上司こそが非常に機能すると感じます。
部下に仕事を与える際には、明確な道筋を描いて渡し、仕事が終わった後には、何が良かったか、改善すべき点は何かといったフィードバックを行うことが非常に重要です。また、関連がある案件でもない案件でも、自分が上司としてどのように物事を見て、分析し、判断してその仕事を遂行したのかを部下に教える努力が大切だと感じています。
もともと私は話をするのがあまり得意ではありませんでしたが、地元の経営者の友人たちが自分のことを積極的に話しているのを見て、彼らがどれほど自分をアピールし、強く主張しているのかを考えさせられることがよくありました。彼らは「自分がすごい」ということを言いたいのではなく、あえて自分を一つのサンプルとして分析し、教師としても反面教師としても部下を育てることが、彼らの本当の狙いであることがわかりました。
結論
ベトナムにおいて部下を教育することは、日本とは異なる意味で難しいと思います。社会の教育インフラが整っていないことや、経済力が不足しているために、多様な経験を積む機会が少ないことから、上司として部下を育成する負担が大きいと言わざるをえません。しかし、根気よく育成すれば、一定の能力があるスタッフであれば、3年から5年ほどで、業務経験や様々な経験を積むことによって、質問が出てくるようになります。そして、良い質問をしてくる瞬間こそが、我々の人材育成が機能している瞬間だと言えるのではないでしょうか。"
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