台湾に進出する際、銀行口座の開設は事業運営の基盤を整えるうえで欠かせないステップです。しかし、法人・支店・駐在員事務所といった進出形態ごとに要件が異なり、さらに近年はマネーロンダリング防止(AML: Anti-Money Laundering)およびテロ資金供与対策(CFT: Countering the Financing of Terrorism)の強化により、口座開設のハードルは高まっています。本稿では、台湾で口座を開設する際の基本条件、銀行選びのポイント、外資規制に基づく留意点を整理します。
1.口座開設の基本条件
台湾に現地法人を設立する場合は、まず資本金払込のために「仮口座」を開設し、資本金を送金します。その後、会計士による資本金検証を経て、商業登記完了後に「正式口座」へ転換する流れが一般的です。
支店の場合も同様に口座開設が必要となります。
一方、駐在員事務所(代表人辦事處)は法人格を持たないため、営業収入を得ることはできません。ただし、条件付きで銀行口座の開設は可能であり、用途は本社からの送金による運営経費の管理に限定されます。第三者からの台幣入金や営業取引に用いることはできません。したがって、売上を伴う事業を行う場合には、法人や支店の設立が不可欠です。
2.銀行選びのポイント
台湾には多数の金融機関が存在し、事業の内容や利便性に応じて適切な銀行を選ぶ必要があります。
【ローカル銀行(台湾系)】
代表的な大手銀行:
・中国信託商業銀行(CTBC Bank)
・玉山銀行(E.SUN Bank)
・台新銀行(Taishin Bank)
・兆豐國際商業銀行(Mega International Commercial Bank)
・國泰世華商業銀行(Cathay United Bank)
これらは台湾全土に幅広い支店網を持ち、コンビニATMや外貨対応ATMが整備されているため、日常利用の利便性が非常に高い点が特徴です。給与振込や小口決済の利便性を重視する場合に適しています。
【日系銀行】
・みずほ銀行:台北・台中・高雄に支店を展開
・MUFG(三菱UFJ銀行):台北・高雄に支店を展開
・SMBC(三井住友銀行):台北に支店を展開
邦銀の場合、日本本社との既存取引があれば口座開設までの審査が比較的早いケースが多く、資本金送金や日本との資金移動の利便性も高いといえます。
3.外資規制と口座開設の留意点
台湾では特定業種(金融、通信、出版、農業など)に外資規制が設けられており、これに関連して口座開設時にも厳格な審査が行われます。
銀行が確認する主な事項は以下の通りです。
・投資形態・出資比率の確認
・中央主管官庁の許認可取得の有無
・最終受益者(UBO: Ultimate Beneficial Owner)の特定
・送金の目的や正当性(資本金、運営費、配当送金等)
特に近年は、AML(マネーロンダリング防止)/CFT(テロ資金供与対策)の強化により、UBO情報の提出や送金証明の添付が求められ、銀行ごと・支店ごとに要件が細かく異なるケースも見られます。
【KYC(Know Your Customer:顧客確認)について】
銀行実務において口座開設時の重要なキーワードがKYCです。KYCとは、銀行が顧客の身元・事業内容・株主構成などを確認する本人確認プロセスを指します。これはAML/CFT対応の第一歩であり、不正利用やマネーロンダリングを防止するために不可欠です。実務的には、登記簿謄本や株主リスト、代表者の身分証明書類などを提出し、取引の正当性を説明することが求められます。
まとめ
台湾での銀行口座開設は、事業運営を支えるインフラとして極めて重要ですが、AML/CFTの強化により年々ハードルが高くなっています。また、口座開設要件は銀行や支店によって異なるため、十分な事前準備が欠かせません。
まずは日本でお取引のある邦銀3行(みずほ・MUFG・SMBC)の台湾拠点に相談するのが確実です。ローカル銀行での口座開設を希望される場合も、必要書類や制約条件(例:駐在員事務所口座の入金制限)を把握し、会計士・銀行担当者と連携しながら進めることをお勧めします。
台湾での事業開始をスムーズにするため、早めに情報収集を行い、信頼できる金融機関との関係を構築していきましょう。
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台湾に現地法人を設立する場合は、まず資本金払込のために「仮口座」を開設し、資本金を送金します。その後、会計士による資本金検証を経て、商業登記完了後に「正式口座」へ転換する流れが一般的です。
支店の場合も同様に口座開設が必要となります。
一方、駐在員事務所(代表人辦事處)は法人格を持たないため、営業収入を得ることはできません。ただし、条件付きで銀行口座の開設は可能であり、用途は本社からの送金による運営経費の管理に限定されます。第三者からの台幣入金や営業取引に用いることはできません。したがって、売上を伴う事業を行う場合には、法人や支店の設立が不可欠です。
2.銀行選びのポイント
台湾には多数の金融機関が存在し、事業の内容や利便性に応じて適切な銀行を選ぶ必要があります。
【ローカル銀行(台湾系)】
代表的な大手銀行:
・中国信託商業銀行(CTBC Bank)
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これらは台湾全土に幅広い支店網を持ち、コンビニATMや外貨対応ATMが整備されているため、日常利用の利便性が非常に高い点が特徴です。給与振込や小口決済の利便性を重視する場合に適しています。
【日系銀行】
・みずほ銀行:台北・台中・高雄に支店を展開
・MUFG(三菱UFJ銀行):台北・高雄に支店を展開
・SMBC(三井住友銀行):台北に支店を展開
邦銀の場合、日本本社との既存取引があれば口座開設までの審査が比較的早いケースが多く、資本金送金や日本との資金移動の利便性も高いといえます。
3.外資規制と口座開設の留意点
台湾では特定業種(金融、通信、出版、農業など)に外資規制が設けられており、これに関連して口座開設時にも厳格な審査が行われます。
銀行が確認する主な事項は以下の通りです。
・投資形態・出資比率の確認
・中央主管官庁の許認可取得の有無
・最終受益者(UBO: Ultimate Beneficial Owner)の特定
・送金の目的や正当性(資本金、運営費、配当送金等)
特に近年は、AML(マネーロンダリング防止)/CFT(テロ資金供与対策)の強化により、UBO情報の提出や送金証明の添付が求められ、銀行ごと・支店ごとに要件が細かく異なるケースも見られます。
【KYC(Know Your Customer:顧客確認)について】
銀行実務において口座開設時の重要なキーワードがKYCです。KYCとは、銀行が顧客の身元・事業内容・株主構成などを確認する本人確認プロセスを指します。これはAML/CFT対応の第一歩であり、不正利用やマネーロンダリングを防止するために不可欠です。実務的には、登記簿謄本や株主リスト、代表者の身分証明書類などを提出し、取引の正当性を説明することが求められます。
まとめ
台湾での銀行口座開設は、事業運営を支えるインフラとして極めて重要ですが、AML/CFTの強化により年々ハードルが高くなっています。また、口座開設要件は銀行や支店によって異なるため、十分な事前準備が欠かせません。
まずは日本でお取引のある邦銀3行(みずほ・MUFG・SMBC)の台湾拠点に相談するのが確実です。ローカル銀行での口座開設を希望される場合も、必要書類や制約条件(例:駐在員事務所口座の入金制限)を把握し、会計士・銀行担当者と連携しながら進めることをお勧めします。
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