NNAグローバルナビ アジア専門情報ブログ

中国発IPを世界市場へ角川青羽、「現地発」を海外展開

日本発の知的財産(IP)を中国市場へ売り込む動きが盛り上がる中、出版大手KADOKAWAの上海拠点、角川青羽(上海)文化創意は「中国から世界へ」をテーマに、現地で独自IPの開発に注力している。日本IPの翻訳や輸入にとどまらず、中国でゼロから生み出した作品を国内外に展開。自社IPの現地化や、海外各社が持つIPの再解釈もここ上海で手がける。角川青羽は“一方通行ではないコンテンツ展開”を掲げ、世界各地のIPが行き交うハブとして、中国で商機をつかんでいる。【上海・日高希南】
「現地で0から1を生み出すことに最も注力している」。角川青羽の董事長・総経理、吉田さをり氏はこう力を込める。
100%子会社の角川青羽の設立は2018年。もともとKADOKAWAの中国本土進出は08年に広東省広州市から始まり、10年には国営出版社との合弁社を広州に立ち上げた。
KADOKAWAの各海外拠点が翻訳出版や商品化を主業とする中、角川青羽は企画・開発機能を備える拠点として稼働する。中国発のオリジナルIPを創出できる拠点としての立ち位置だ。「中国内のコンテンツの好みに変化が出てきていた」(吉田氏)ことを踏まえ、中国人ユーザーたちの嗜好(しこう)を分析し、多様化する消費者ニーズに応えられる現地拠点として育ててきた。
角川青羽は、中国市場を「最終目的地」ではなく「出発点」と位置付け、中国産IPの海外展開に力を入れる。24年5月より連載をスタートした、重慶市を舞台にした漫画「重慶の森~無職、独身、アラサーの田舎暮らし~(中国語版:小渝之森)」がその代表だ。
KADOKAWAが主催するグローバル漫画賞を受賞し、角川青羽の中国人編集者が現地クリエーターと練り作り上げた中国発完全オリジナル作品の同作は、都会生活から地方に戻る中国人女性を描く。「漫画づくりのノウハウはやはり日本に一日の長がある」(吉田氏)として、日本の漫画制作ノウハウも現地クリエーターの育成に落とし込んだ。
主人公は30歳を目前に北京での仕事を辞め、ふるさと重慶への帰省を選ぶ。都会の喧騒(けんそう)や孤独感から解放され、地元の友人たちとの交流を通じて人生の新たな一歩を踏み出す物語だ。
都市生活の疲れや地方回帰といったテーマが、現代に生きる中国の20~30代女性を中心に共感を呼び、閲覧数はこれまでに3,000万回を超えた。「主人公の決断に勇気をもらった」「地元に帰りたくなった」といった声が交流サイト(SNS)上にあふれ、現地のトレンドや文化を巧みに取り込みながらファン層を形成してきた。
「重慶の森」のマーケティングに向けては「小紅書(レッド)」「微博(ウェイボ)」「抖音(ドウイン)」といった国内の主要SNSを駆使。特に抖音のような動画特化型プラットフォームでは、漫画のコマを単に静止画として動画形式に変換するのではなく、キャラクターや背景に音声と動きをつけたアニメーション動画として制作・投稿し、視聴者の関心を引きつけてきた。こうした動画制作から各SNSフォーマットの特性に合わせたプロモーションも全て自社で賄う。
「重慶の森」の人気は日本での翻訳配信事業も実現させた。KADOKAWAが運営する漫画サイト「カドコミ」に新たに開設された「角川青羽レーベル」には、海外漫画家の作品が日本語翻訳され掲載される。ここに「重慶の森」も掲載中だ。「中国発のオリジナル作品を海外市場へ送り出せる好機だ」と吉田氏は語る。
角川青羽の従業員は少数ながら、漫画家育成、漫画編集、SNS運営、映像企画、翻訳、出版、複数のコンテンツを組みわせる「メディアミックス化」までを一気通貫で担える体制が強みといえる。
■自社コンテンツを現地で再解釈
既存IPを現地市場に合わせて再解釈する取り組みも上海で担う。
KADOKAWAのライトノベル「齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定(中国語版:食草老竜被冠以悪竜之名)」を原作に、中国人漫画家が中国向けに新たにコミカライズ、さらに中国制作のアニメ化も実現。「メディアミックス」でIPの価値を高めてきた。
登場キャラクターの衣装は中華風衣装にアレンジ。ストーリーの中で描かれる「家族観」や「ドラゴン」といった中国で根強い人気を持つ要素が、国内ユーザーに好評を得た。中国の大手動画配信サイトのbilibili(ビリビリ)と海外のプラットフォームにも同作品を配信したことで、国内外のファン層をさらに拡大した。
今年10月には、KADOKAWAの人気IPで小説家の森見登美彦氏の代表作「夜は短し歩けよ乙女」の中国版ミュージカルの再演も控えている。作品初のミュージカル化として中国で制作され、中国人キャストが中国語で演じる。原作の舞台となった日本・京都の風景を再現しながら、演出はミュージカルらしく現地好みの演出に合わせており、23年の初演から人気が高く待望の再演となる。
「日本を含むKADOKAWAグループの各地で開発された現地KADOKAWAのIPが相互に循環するのが、コンテンツ制作の醍醐味(だいごみ)だ」と、吉田氏は強調する。漫画、アニメ、ゲーム、小説といったコンテンツを連動させるメディアミックス戦略を軸に、地域の文化や嗜好を反映した現地発IPが、中国から世界へ、各地で新たな形に生まれ変わって循環する。角川青羽は、そうした国際的なIP循環のハブとして存在感を高めている。

object(WP_Post)#9819 (24) {
  ["ID"]=>
  int(29056)
  ["post_author"]=>
  string(1) "3"
  ["post_date"]=>
  string(19) "2025-09-30 00:00:00"
  ["post_date_gmt"]=>
  string(19) "2025-09-29 15:00:00"
  ["post_content"]=>
  string(6678) "日本発の知的財産(IP)を中国市場へ売り込む動きが盛り上がる中、出版大手KADOKAWAの上海拠点、角川青羽(上海)文化創意は「中国から世界へ」をテーマに、現地で独自IPの開発に注力している。日本IPの翻訳や輸入にとどまらず、中国でゼロから生み出した作品を国内外に展開。自社IPの現地化や、海外各社が持つIPの再解釈もここ上海で手がける。角川青羽は“一方通行ではないコンテンツ展開”を掲げ、世界各地のIPが行き交うハブとして、中国で商機をつかんでいる。【上海・日高希南】
「現地で0から1を生み出すことに最も注力している」。角川青羽の董事長・総経理、吉田さをり氏はこう力を込める。
100%子会社の角川青羽の設立は2018年。もともとKADOKAWAの中国本土進出は08年に広東省広州市から始まり、10年には国営出版社との合弁社を広州に立ち上げた。
KADOKAWAの各海外拠点が翻訳出版や商品化を主業とする中、角川青羽は企画・開発機能を備える拠点として稼働する。中国発のオリジナルIPを創出できる拠点としての立ち位置だ。「中国内のコンテンツの好みに変化が出てきていた」(吉田氏)ことを踏まえ、中国人ユーザーたちの嗜好(しこう)を分析し、多様化する消費者ニーズに応えられる現地拠点として育ててきた。
角川青羽は、中国市場を「最終目的地」ではなく「出発点」と位置付け、中国産IPの海外展開に力を入れる。24年5月より連載をスタートした、重慶市を舞台にした漫画「重慶の森~無職、独身、アラサーの田舎暮らし~(中国語版:小渝之森)」がその代表だ。
KADOKAWAが主催するグローバル漫画賞を受賞し、角川青羽の中国人編集者が現地クリエーターと練り作り上げた中国発完全オリジナル作品の同作は、都会生活から地方に戻る中国人女性を描く。「漫画づくりのノウハウはやはり日本に一日の長がある」(吉田氏)として、日本の漫画制作ノウハウも現地クリエーターの育成に落とし込んだ。
主人公は30歳を目前に北京での仕事を辞め、ふるさと重慶への帰省を選ぶ。都会の喧騒(けんそう)や孤独感から解放され、地元の友人たちとの交流を通じて人生の新たな一歩を踏み出す物語だ。
都市生活の疲れや地方回帰といったテーマが、現代に生きる中国の20~30代女性を中心に共感を呼び、閲覧数はこれまでに3,000万回を超えた。「主人公の決断に勇気をもらった」「地元に帰りたくなった」といった声が交流サイト(SNS)上にあふれ、現地のトレンドや文化を巧みに取り込みながらファン層を形成してきた。
「重慶の森」のマーケティングに向けては「小紅書(レッド)」「微博(ウェイボ)」「抖音(ドウイン)」といった国内の主要SNSを駆使。特に抖音のような動画特化型プラットフォームでは、漫画のコマを単に静止画として動画形式に変換するのではなく、キャラクターや背景に音声と動きをつけたアニメーション動画として制作・投稿し、視聴者の関心を引きつけてきた。こうした動画制作から各SNSフォーマットの特性に合わせたプロモーションも全て自社で賄う。
「重慶の森」の人気は日本での翻訳配信事業も実現させた。KADOKAWAが運営する漫画サイト「カドコミ」に新たに開設された「角川青羽レーベル」には、海外漫画家の作品が日本語翻訳され掲載される。ここに「重慶の森」も掲載中だ。「中国発のオリジナル作品を海外市場へ送り出せる好機だ」と吉田氏は語る。
角川青羽の従業員は少数ながら、漫画家育成、漫画編集、SNS運営、映像企画、翻訳、出版、複数のコンテンツを組みわせる「メディアミックス化」までを一気通貫で担える体制が強みといえる。
■自社コンテンツを現地で再解釈
既存IPを現地市場に合わせて再解釈する取り組みも上海で担う。
KADOKAWAのライトノベル「齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定(中国語版:食草老竜被冠以悪竜之名)」を原作に、中国人漫画家が中国向けに新たにコミカライズ、さらに中国制作のアニメ化も実現。「メディアミックス」でIPの価値を高めてきた。
登場キャラクターの衣装は中華風衣装にアレンジ。ストーリーの中で描かれる「家族観」や「ドラゴン」といった中国で根強い人気を持つ要素が、国内ユーザーに好評を得た。中国の大手動画配信サイトのbilibili(ビリビリ)と海外のプラットフォームにも同作品を配信したことで、国内外のファン層をさらに拡大した。
今年10月には、KADOKAWAの人気IPで小説家の森見登美彦氏の代表作「夜は短し歩けよ乙女」の中国版ミュージカルの再演も控えている。作品初のミュージカル化として中国で制作され、中国人キャストが中国語で演じる。原作の舞台となった日本・京都の風景を再現しながら、演出はミュージカルらしく現地好みの演出に合わせており、23年の初演から人気が高く待望の再演となる。
「日本を含むKADOKAWAグループの各地で開発された現地KADOKAWAのIPが相互に循環するのが、コンテンツ制作の醍醐味(だいごみ)だ」と、吉田氏は強調する。漫画、アニメ、ゲーム、小説といったコンテンツを連動させるメディアミックス戦略を軸に、地域の文化や嗜好を反映した現地発IPが、中国から世界へ、各地で新たな形に生まれ変わって循環する。角川青羽は、そうした国際的なIP循環のハブとして存在感を高めている。" ["post_title"]=> string(78) "中国発IPを世界市場へ角川青羽、「現地発」を海外展開" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e7%99%ba%ef%bd%89%ef%bd%90%e3%82%92%e4%b8%96%e7%95%8c%e5%b8%82%e5%a0%b4%e3%81%b8%e8%a7%92%e5%b7%9d%e9%9d%92%e7%be%bd%e3%80%81%e3%80%8c%e7%8f%be%e5%9c%b0%e7%99%ba%e3%80%8d%e3%82%92" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2025-09-30 04:00:02" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2025-09-29 19:00:02" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=29056" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
 NNA
エヌエヌエー NNA
アジアの経済ニュース・ビジネス情報 - NNA ASIA

アジア経済の詳細やビジネスに直結する新着ニュースを掲載。
現地の最新動向を一目で把握できます。
法律、会計、労務などの特集も多数掲載しています。

【東京本社】
105-7209 東京都港区東新橋1丁目7番1号汐留メディアタワー9階
Tel:81-3-6218-4330
Fax:81-3-6218-4337
E-mail:sales_jp@nna.asia
HP:https://www.nna.jp/

国・地域別
中国情報
内容別
ビジネス全般人事労務

コメントを書く

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

※がついている欄は必須項目です。

コメント※:

お名前:

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください