三菱電機が中国のファクトリーオートメーション(FA)市場の開拓に力を入れる。同社は「サプライチェーン(供給網)の現地完結」との方針を打ち出し、FA製品の現地開発体制を強化。中国政府が「製造業の自動化」を国家戦略に掲げる中、地場企業とタッグを組み成長市場で存在感を高めている。
大型見本市「第8回中国国際輸入博覧会」で、三菱電機は中国企業と開発中のAI外観検査ロボットを展示した=6日、上海市
「中国のFA市場は今後力強く伸びていく」。三菱電機の中国法人、三菱電機(中国)広報宣伝室の駒田彬室長はこう力を込める。
三菱電機は今年4月、中国のFAシステム事業を統括する新会社「三菱電機智能製造科技(中国)集団」を江蘇省蘇州市に設立した。中国FA市場の拡大を見込んだ動きで、現地で企画・開発から生産、販売までを担う拠点としての立ち位置だ。「日本で開発したものを中国で売るのでは現地のスピードに追いつかない」(駒田氏)として、中国でサプライチェーンの確立を進めてきた。
実際に、国内のFA市場は拡大の勢いを強めている。
米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーが今年6月に発表した調査報告によると、中国のFA市場は今年459億米ドル(約7兆円)の規模となる見通し。世界の4割以上を担う計算で、向こう5年の中国FA市場は「飛躍的な成長局面に入る」との見方だ。
成長をけん引するのは部品や製品を個別に生産するプロセスを持つ「離散製造」向けで、半導体や電子機器、自動車といった業種が代表例。2025年は離散製造向けが中国FA市場の75%を占める見通しで、世界平均を5ポイント上回ることになる。
三菱電機智能製造科技(中国)は7月末、中国のロボット新興企業、鹿明科技(蘇州)と産業向けロボットの共同開発で戦略提携を締結した。今月5日に上海市で開幕した大型見本市「第8回中国国際輸入博覧会」(輸入博)では、両社が共同開発を進める「人工知能(AI)外観検査ロボット」を展示。実際の生産ラインに入る形で披露した。
AI外観検査ロボは自走式で、コンベヤーを流れる製品をアームでつかんでカメラに見せ、良品・不良品を判断する仕様。不良品であれば別ラインに移すことができる。3D—LiDAR(高性能センサー)とAIカメラ(撮影した画像をAIが判別するカメラ)を搭載し、製品の形状や外観を高精度に判定できるのが特徴だ。アームは両腕のように2本備え、1本当たり最大25キログラムの製品を扱える。
従来の検査工程では、カメラによる画像認識と製品をつかむロボットは別体だった。産業用パソコンといった大型機器を取り付ける必要があるなど、工場のスペースを大きくとるケースもあったという。両社のロボはAIカメラをロボット本体と一体化したことで、省スペース化を実現した。
鹿明科技との共同開発では今後、三菱製モーターの供給や工場スペースの共有などを視野に入れる。開発スピードを高めつつ、現地企業との追加提携にも意欲を示す。
■国産品が台頭
盛り上がる中国FA市場だが、中国政府の後押しを受けて近年は国産製品の台頭が目立つ。
政府は「第14次5カ年計画(21~25年)」の中で、25年までに一定規模以上の製造業企業の大半がデジタル化を達成するとの目標を掲げてきた。35年までに製造業全体のデジタル化・ネットワーク化を全面普及させる方針で、政府は普及に向けた企業への支援を強化している。
マッキンゼーによると、工場やプラントの制御システムとして広く使われる「分散制御システム(DCS)」の国産化率は現在までに6割を突破。機械をプログラム制御する装置「PLC(プログラマブルロジックコントローラー)」では、小型分野で国産品はシェア2割を握る。産業ソフトウエアの国産比率は今年25%に達するとみられ、23年から10ポイント上がる計算だ。
国産比率が高まる中で、駒田氏は「中国企業と組むのは有効な一手。開発のスピード感は現地企業に学ぶべき部分がある」と強調する。
一方で、課題も浮き彫りになっている。中国の多くの工場がロボットやAI検査装置を導入しているものの、設備間の連携やデータ統合が十分に進んでいない。生産工程ごとに「分断」が起きている状態で、生産ライン全体の効率化にはまだ距離があるといえる。
マッキンゼーはこうした課題を踏まえ、中国の生産現場では今後「個別装置の自動化」から「工場全体のシステム最適化」への移行が進むと指摘した。データの一括管理、各設備間の連携効率の向上が次の成長の鍵となりそうだ。
駒田氏は、製造業のトレンドは「多品種少量生産」に移っていると説明する。少数の製品を大量生産する方式から、顧客やメーカーの細かな要望に合わせた柔軟な生産体制への転換が進む中、「AIが自律的に学習・更新することで、製品、生産工程ごとの分断をなくし、幅広い用途に対応するFA製品開発を目指している」と話す。
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実際に、国内のFA市場は拡大の勢いを強めている。
米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーが今年6月に発表した調査報告によると、中国のFA市場は今年459億米ドル(約7兆円)の規模となる見通し。世界の4割以上を担う計算で、向こう5年の中国FA市場は「飛躍的な成長局面に入る」との見方だ。
成長をけん引するのは部品や製品を個別に生産するプロセスを持つ「離散製造」向けで、半導体や電子機器、自動車といった業種が代表例。2025年は離散製造向けが中国FA市場の75%を占める見通しで、世界平均を5ポイント上回ることになる。
三菱電機智能製造科技(中国)は7月末、中国のロボット新興企業、鹿明科技(蘇州)と産業向けロボットの共同開発で戦略提携を締結した。今月5日に上海市で開幕した大型見本市「第8回中国国際輸入博覧会」(輸入博)では、両社が共同開発を進める「人工知能(AI)外観検査ロボット」を展示。実際の生産ラインに入る形で披露した。
AI外観検査ロボは自走式で、コンベヤーを流れる製品をアームでつかんでカメラに見せ、良品・不良品を判断する仕様。不良品であれば別ラインに移すことができる。3D—LiDAR(高性能センサー)とAIカメラ(撮影した画像をAIが判別するカメラ)を搭載し、製品の形状や外観を高精度に判定できるのが特徴だ。アームは両腕のように2本備え、1本当たり最大25キログラムの製品を扱える。
従来の検査工程では、カメラによる画像認識と製品をつかむロボットは別体だった。産業用パソコンといった大型機器を取り付ける必要があるなど、工場のスペースを大きくとるケースもあったという。両社のロボはAIカメラをロボット本体と一体化したことで、省スペース化を実現した。
鹿明科技との共同開発では今後、三菱製モーターの供給や工場スペースの共有などを視野に入れる。開発スピードを高めつつ、現地企業との追加提携にも意欲を示す。
■国産品が台頭
盛り上がる中国FA市場だが、中国政府の後押しを受けて近年は国産製品の台頭が目立つ。
政府は「第14次5カ年計画(21~25年)」の中で、25年までに一定規模以上の製造業企業の大半がデジタル化を達成するとの目標を掲げてきた。35年までに製造業全体のデジタル化・ネットワーク化を全面普及させる方針で、政府は普及に向けた企業への支援を強化している。
マッキンゼーによると、工場やプラントの制御システムとして広く使われる「分散制御システム(DCS)」の国産化率は現在までに6割を突破。機械をプログラム制御する装置「PLC(プログラマブルロジックコントローラー)」では、小型分野で国産品はシェア2割を握る。産業ソフトウエアの国産比率は今年25%に達するとみられ、23年から10ポイント上がる計算だ。
国産比率が高まる中で、駒田氏は「中国企業と組むのは有効な一手。開発のスピード感は現地企業に学ぶべき部分がある」と強調する。
一方で、課題も浮き彫りになっている。中国の多くの工場がロボットやAI検査装置を導入しているものの、設備間の連携やデータ統合が十分に進んでいない。生産工程ごとに「分断」が起きている状態で、生産ライン全体の効率化にはまだ距離があるといえる。
マッキンゼーはこうした課題を踏まえ、中国の生産現場では今後「個別装置の自動化」から「工場全体のシステム最適化」への移行が進むと指摘した。データの一括管理、各設備間の連携効率の向上が次の成長の鍵となりそうだ。
駒田氏は、製造業のトレンドは「多品種少量生産」に移っていると説明する。少数の製品を大量生産する方式から、顧客やメーカーの細かな要望に合わせた柔軟な生産体制への転換が進む中、「AIが自律的に学習・更新することで、製品、生産工程ごとの分断をなくし、幅広い用途に対応するFA製品開発を目指している」と話す。"
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