第327回
大塚さん:みらい先生、ご無沙汰しております。
みらい:お久しぶりですね。中国の子会社に出向されて、もう5年程たちますね。
大塚さん:はい。実は4年ほど前に、国内親会社からストックオプションを付与されていまして、今回は権利行使して、取得した株式を売却しようと考えています。この課税関係について教えて頂けますか?ちなみに私は日本の親会社で役員の資格は有していません。
みらい: わかりました。ストックオプションは税務上、「税制適格」か「税制非適格」に区別され、その取り扱いが異なります。どちらに該当するかは、その内容によるのですが、付与された時にどのような契約内容であったか覚えていますか?
大塚さん:契約内容までは覚えていないのですが、経理担当からは「税制適格」に該当すると聞いています。
みらい:「税制適格」のストックオプションであれば、株式に係る譲渡益のうちストックオプションの付与から権利行使までの利益(権利行使益)に相当する部分については、日中租税協定第15条第1項に規定する「給料、賃金その他これらに類する報酬」に該当するため、日本国内における勤務期間がなければ、日本に課税権がなく、日本で課税関係が生じません。一方、権利行使後に生じた利益(譲渡益)については、国内源泉とされるので、日中租税協定第13条第4項の規定が適用されて日本において課税され、恒久的施設を有しない非居住者の株式等の譲渡に係る国内源泉所得として申告分離課税の対象になります。ちなみに「税制非適格」のストックオプションの権利行使益については「税制適格」のストックオプションと同様に日本国内における勤務期間がなければ日本において課税されず、譲渡益についても国内源泉所得に該当しないため、日本において課税はされません。
大塚さん:私のような中国勤務の従業員(日本の非居住者)が、中国赴任中に株式を譲渡した場合であっても「税制適格」ストックオプションだと日本で税金がかかるのでしょうか?
みらい: はい。海外で勤務している従業員(日本の非居住者)であっても、日本法人が付与した税制適格ストックオプションを権利行使して取得した株式を売却した場合には、国内源泉所得として譲渡益に対し15.315%の税率による申告分離課税が行われます。日本と中国との間には「日中租税協定」が結ばれていて、「付与時」から「権利行使時」までの間に「日本での勤務期間」に相当する部分があれば、日本で課税の対象となりますが、大塚さんのように国内における勤務期間がなく日本国内に恒久的施設を有していない場合は課税されません。
大塚さん: なるほど。譲渡益全てに対して日本で税金がかかるのではなく、付与から権利行使までの期間については、日本で勤務した期間があればその期間に対応する部分について課税の対象になるということですね。
みらい: はいそうです。ただし、譲渡した株式が不動産関連の会社(主要な財産が不動産である法人)のものである場合等、特殊なケースでは取り扱いが異なります。また、売却した翌年の3月15日までに確定申告することになるので注意が必要です。なお、中国の課税については、現地でよく確認して下さいね。
大塚さん:みらい先生、ありがとうございました。
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大塚さん:みらい先生、ご無沙汰しております。
みらい:お久しぶりですね。中国の子会社に出向されて、もう5年程たちますね。
大塚さん:はい。実は4年ほど前に、国内親会社からストックオプションを付与されていまして、今回は権利行使して、取得した株式を売却しようと考えています。この課税関係について教えて頂けますか?ちなみに私は日本の親会社で役員の資格は有していません。
みらい: わかりました。ストックオプションは税務上、「税制適格」か「税制非適格」に区別され、その取り扱いが異なります。どちらに該当するかは、その内容によるのですが、付与された時にどのような契約内容であったか覚えていますか?
大塚さん:契約内容までは覚えていないのですが、経理担当からは「税制適格」に該当すると聞いています。
みらい:「税制適格」のストックオプションであれば、株式に係る譲渡益のうちストックオプションの付与から権利行使までの利益(権利行使益)に相当する部分については、日中租税協定第15条第1項に規定する「給料、賃金その他これらに類する報酬」に該当するため、日本国内における勤務期間がなければ、日本に課税権がなく、日本で課税関係が生じません。一方、権利行使後に生じた利益(譲渡益)については、国内源泉とされるので、日中租税協定第13条第4項の規定が適用されて日本において課税され、恒久的施設を有しない非居住者の株式等の譲渡に係る国内源泉所得として申告分離課税の対象になります。ちなみに「税制非適格」のストックオプションの権利行使益については「税制適格」のストックオプションと同様に日本国内における勤務期間がなければ日本において課税されず、譲渡益についても国内源泉所得に該当しないため、日本において課税はされません。
大塚さん:私のような中国勤務の従業員(日本の非居住者)が、中国赴任中に株式を譲渡した場合であっても「税制適格」ストックオプションだと日本で税金がかかるのでしょうか?
みらい: はい。海外で勤務している従業員(日本の非居住者)であっても、日本法人が付与した税制適格ストックオプションを権利行使して取得した株式を売却した場合には、国内源泉所得として譲渡益に対し15.315%の税率による申告分離課税が行われます。日本と中国との間には「日中租税協定」が結ばれていて、「付与時」から「権利行使時」までの間に「日本での勤務期間」に相当する部分があれば、日本で課税の対象となりますが、大塚さんのように国内における勤務期間がなく日本国内に恒久的施設を有していない場合は課税されません。
大塚さん: なるほど。譲渡益全てに対して日本で税金がかかるのではなく、付与から権利行使までの期間については、日本で勤務した期間があればその期間に対応する部分について課税の対象になるということですね。
みらい: はいそうです。ただし、譲渡した株式が不動産関連の会社(主要な財産が不動産である法人)のものである場合等、特殊なケースでは取り扱いが異なります。また、売却した翌年の3月15日までに確定申告することになるので注意が必要です。なお、中国の課税については、現地でよく確認して下さいね。
大塚さん:みらい先生、ありがとうございました。"
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