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電子書籍、徐々に浸透コロナ禍で読書習慣に変化

タイで電子書籍の利用者が増えている。新型コロナウイルス感染症の流行による外出制限の中、自宅で読書する若者が増えていることが背景にある。電子書籍業界で国内トップのMEBの経営トップは「読書習慣の一層の定着につなげていきたい」と事業拡大に強い意欲を見せる。

「動画ばかり見ていると読解力が育たなくなる」と警鐘を鳴らすMEBの共同創業者のキッティポン氏(左)とラウィウォン氏=2022年12月、バンコク(NNA撮影)

タイ書籍印刷・出版協会(PUBAT)は毎年3月と10月に首都バンコクで大きなイベントホールを使ったブックフェアを開催。毎回150万人前後の人が足を運ぶ。PUBATが来場者を対象に毎回実施している読書スタイルに関する調査結果(複数回答可)によると、「紙の本」を選んだ割合は、19年10月の98%から22年10月の79%と約20ポイント下落した反面、「電子書籍」は同期間に22%から29%に拡大した。
「コロナ禍をきっかけに電子書籍を読み始めた」と話すのは会社員のパーラディーさん(22歳)だ。外出規制で書店にも行けず、21年10月のブックフェアはオンラインでの開催だったため、消極的な理由から電子書籍を利用するようになったという。ところがいざ電子書籍を購入してみると、持ち運びが簡単で、文字のサイズを自由に変更できるなどいろいろな利点があることに気づいた。紙の本は今でも購入しているが、あくまでも本棚に飾るのが目的で、実際に読むのはもっぱら電子書籍の方だ。
外国書籍をよく読むというフリーランサーのパトンさん(25歳)は電子書籍について「紙の本に比べて安いのが魅力」と話す。パトンさんは読みたい本があれば、まずは中古品を探してみて、それでも見つからないときは電子書籍を購入するようにしているという。
PUBATによると、電子書籍の普及もあり、2022年のタイの書籍市場は150億バーツ規模と、前年比20%増となる見通しだ。
■業界トップはMEB
電子書籍業界で国内トップの売り上げを誇るのは地元企業のMEBだ。グーグルの「アンドロイド」やスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」向け「iOS(アイオーエス)」などといったさまざまな基本ソフト(OS)から電子書籍アプリをダウンロードできる。
MEBの共同創設者であるラウィウォン氏とキッティポン氏は、タイで電子書籍が浸透しつつある理由について、コロナ禍による読書スタイルの変化のほかにも「収容スペースの小さいコンドミニアム(分譲マンション)でのライフスタイルに向いているため」と説明した。
タイで需要が拡大している電子書籍だが、まだまだ紙の本と競合するような段階ではなさそうだ。タイで書店チェーン「紀伊國屋書店」を展開するタイ紀伊國屋書店の関係者は「電子書籍は普及してはいるものの、タイではマンガ、児童書、文芸書を中心に紙の書籍も堅調。特に紙のマンガや画集、写真集などについては、コレクターズアイテムとしての人気という面もある」と話す。
■「ライバルはTikTok」
MEBのラウィウォン氏とキッティポン氏は電子書籍の普及のためには「読書習慣の定着が不可欠」との考えだが、中国発動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」などの動画コンテンツを「最大の脅威」として位置づける。高校生のパウィーラーさん(17歳)は「コロナ下で家で過ごす時間が増えたものの、友だちと一緒に動画を見たり、チャットアプリで通話したりして、本はほとんど読めなかった」と後悔する。
MEBの共同創設者の2人は「動画ばかり見ていると、長文を読む力が育たなくなる」とタイの若い人の将来に危機感を募らせており、読書習慣を定着させるには「電子書籍と紙の書籍の垣根を越えて、魅力的なコンテンツを提供できるよう業界全体でさらなる努力が必要」と話す。
人口比で見ても諸外国に比べてタイの書籍市場は成長の余地が大きい。PUBATの幹部を務めるティーラナイ氏によると、21年の日本の書籍市場が2,300億バーツで、タイの18倍以上。タイよりも人口の少ない韓国でも1,700億バーツ規模と、タイの13倍以上だ。
MEBの2人の創業者は今後、書籍の電子化だけでなく、チャット型メッセージアプリの形式で読む小説アプリや朗読音声で本を楽しむ「オーディオブック」などさまざまな新規事業の立ち上げを通じて、読書に関心を持つ層を広げていく考えだ。

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「コロナ禍をきっかけに電子書籍を読み始めた」と話すのは会社員のパーラディーさん(22歳)だ。外出規制で書店にも行けず、21年10月のブックフェアはオンラインでの開催だったため、消極的な理由から電子書籍を利用するようになったという。ところがいざ電子書籍を購入してみると、持ち運びが簡単で、文字のサイズを自由に変更できるなどいろいろな利点があることに気づいた。紙の本は今でも購入しているが、あくまでも本棚に飾るのが目的で、実際に読むのはもっぱら電子書籍の方だ。
外国書籍をよく読むというフリーランサーのパトンさん(25歳)は電子書籍について「紙の本に比べて安いのが魅力」と話す。パトンさんは読みたい本があれば、まずは中古品を探してみて、それでも見つからないときは電子書籍を購入するようにしているという。
PUBATによると、電子書籍の普及もあり、2022年のタイの書籍市場は150億バーツ規模と、前年比20%増となる見通しだ。
■業界トップはMEB
電子書籍業界で国内トップの売り上げを誇るのは地元企業のMEBだ。グーグルの「アンドロイド」やスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」向け「iOS(アイオーエス)」などといったさまざまな基本ソフト(OS)から電子書籍アプリをダウンロードできる。
MEBの共同創設者であるラウィウォン氏とキッティポン氏は、タイで電子書籍が浸透しつつある理由について、コロナ禍による読書スタイルの変化のほかにも「収容スペースの小さいコンドミニアム(分譲マンション)でのライフスタイルに向いているため」と説明した。
タイで需要が拡大している電子書籍だが、まだまだ紙の本と競合するような段階ではなさそうだ。タイで書店チェーン「紀伊國屋書店」を展開するタイ紀伊國屋書店の関係者は「電子書籍は普及してはいるものの、タイではマンガ、児童書、文芸書を中心に紙の書籍も堅調。特に紙のマンガや画集、写真集などについては、コレクターズアイテムとしての人気という面もある」と話す。
■「ライバルはTikTok」
MEBのラウィウォン氏とキッティポン氏は電子書籍の普及のためには「読書習慣の定着が不可欠」との考えだが、中国発動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」などの動画コンテンツを「最大の脅威」として位置づける。高校生のパウィーラーさん(17歳)は「コロナ下で家で過ごす時間が増えたものの、友だちと一緒に動画を見たり、チャットアプリで通話したりして、本はほとんど読めなかった」と後悔する。
MEBの共同創設者の2人は「動画ばかり見ていると、長文を読む力が育たなくなる」とタイの若い人の将来に危機感を募らせており、読書習慣を定着させるには「電子書籍と紙の書籍の垣根を越えて、魅力的なコンテンツを提供できるよう業界全体でさらなる努力が必要」と話す。
人口比で見ても諸外国に比べてタイの書籍市場は成長の余地が大きい。PUBATの幹部を務めるティーラナイ氏によると、21年の日本の書籍市場が2,300億バーツで、タイの18倍以上。タイよりも人口の少ない韓国でも1,700億バーツ規模と、タイの13倍以上だ。
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