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首都北岸で急速に進む開発新都市建設アグン・セダユ(1)

インドネシアの首都ジャカルタ北岸から隣接するバンテン州にまたがる沿岸地域の開発が近年、目覚ましいスピードで進んでいる。総開発面積6,000ヘクタールを計画する新都市プロジェクト「パンタイ・インダ・カプック2(PIK2)」だ。「ザ・ニュー・ジャカルタ・シティー」と称する大規模プロジェクトは、地場不動産開発アグン・セダユ・グループが手がけている。創業家2世代が率いる同グループの経営陣に、開発の進捗(しんちょく)と未来像について聞いた。

PIK2の人工島「ゴルフ・アイランド」の上空写真。写真中央には中華街「パンチョランPIK」にある五重塔が見える(アグン・セダユ・グループ提供)


PIK2は、2002年にアグン・セダユ・グループと財閥サリム・グループが共同で開発を始めたジャカルタ北岸の新都市「パンタイ・インダ・カプック(PIK)」(約800ヘクタール)に続く開発プロジェクトとなる。
両グループは、09年からPIK2の開発に着手し、まずは人工島の「ゴルフ・アイランド」(約303ヘクタール)と「リバーウォーク・アイランド」(現在約100ヘクタール)の建設に取り組んできた。リバーウォーク・アイランドは埋め立て地の拡張が予定されており、将来的に2つの人工島で計600ヘクタールとなる見込みだ。
先行して完成したゴルフ・アイランドには現在、一戸建て住宅クラスター12カ所(約3,000戸)、ショップハウス(ルコ)800戸があるほか、名前の由来となっているゴルフ場もある。また観光・商業施設として、ゴルフ・アイランドのアイコンともいえる中華街を再現した「パンチョランPIK」、ショッピングモール「セントラル・マーケット」などがあり、週末のレジャーで訪れることができることも一つの特徴だ。

「ゴルフ・アイランド」内にある娯楽施設の中で、目をひく中華街「パンチョランPIK」の入り口にある門=10月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

PIK2の人工島「ゴルフ・アイランド」内にある商業施設「セントラル・マーケット」=10月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

ゴルフ・アイランドの隣にあり橋でつながるリバーウォーク・アイランドでは現在も、商業・娯楽施設などの建設が進んでいる。
PIK2の開発は人工島だけにとどまらない。人工島のリバーウォーク・アイランドに架かる長さ800メートルの橋で、バンテン州北岸に渡ると、16年に着工した同州PIK2の第1期開発地(約1,000ヘクタール)につながる。現在、一戸建て住宅やリゾートエリアのほか、商業施設や金融センターを含む中央商業地区(CBD)などを開発中で、住宅クラスターや商業施設の一部はすでに完成している。

アグン・セダユ・グループの創業家一族で、グループの不動産・オフィスマネジメント事業部門の最高経営責任者(CEO)を務めるリチャード・クスマ氏は、NNAの単独インタビューの中で、PIK2のような大規模プロジェクトを進める背景として、シンガポールや米国で学生時代を過ごした経験を挙げ、「先進的な都市の建設が他の国でできて、どうしてインドネシアではできないと言えるだろうか」と語った。
アグン・セダユ・グループは1971年に創業オーナーのスギアント・クスマ氏(リチャード氏の父にあたる)とスサント・クスモ氏(リチャード氏の叔父)の兄弟が共同で設立。これまでに、商業施設ではジャカルタのスディルマン中央商業地区(SCBD)にある「ASHTA District 8」、ジャカルタ北部の「モール・オブ・インドネシア(MOI)」など、住宅クラスターではジャカルタ西部の「グリーン・レイク・シティー」などの開発を手がけてきた。
リチャード氏は、高層アパートやオフィス開発も手がけてきた実績を踏まえて、PIK2には「われわれの全て、未来がここにある」と開発に懸ける思いを語った。

NNAの単独インタビューに応じた、アグン・セダユ・グループ創業一族のリチャード・クスマ氏。創業者スギアント・クスマ氏の次男に当たる=10月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

「ゴルフ・アイランド」内で今年5月にオープンした商業施設「バタビアPIK」。デザインは、オランダ植民地時代に貿易拠点として栄えた「バタビア」をモチーフにした=10月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

■創業以来の無借金経営で実績重ねる
PIK2プロジェクトのような大規模開発を可能にしたこれまでのアグン・セダユ・グループの経営について、リチャード氏は「売り上げを立てて、開発を行う、無借金経営を原則にしてきた」と明かした。また、リチャード氏自身が「大手不動産会社の中では珍しく、創業家による同族経営会社だった」と認めるように、同グループは創業以来、長い間、上場企業を持ってこなかった。
ただ、PIK2エリアの土地取得を含めて開発を戦略的かつスムーズに行うため、アグン・セダユ・グループは21年に、傘下でPIK地域の不動産事業を手がけるムルティ・アルサ・プラタマ(MAP)を通じて、缶詰製造などを手がけていた上場企業プラタマ・アバデ・ヌサ・インダストリの株式88%を取得した。同社は不動産部門に事業を拡大し、今年の株主総会では、同社の社名をパンタイ・インダ・カプック・ドゥア(PANI)に変更した。
開発地の取得については、開発計画地に土地を持つ5社を買収する資金獲得を目的として、22年に新株予約権無償割当(ライツイシュー)を実施。同年に762ヘクタールを取得した。今年9月の株主総会では、PANIの2回目のライツイシュー実施が承認された。ライツイシューによる資金調達を経て、7社の買収や投資に9兆5,000億ルピアを充てる計画だ。これらを通じて、年末までにさらに838ヘクタールの土地を取得する予定で、PANIの保有する土地面積は計1,600ヘクタールとなる見通し。
アグン・セダユ・グループは、一部子会社の株式を公開することで戦略的な用地確保を加速させており、PANIは、今後も積極的な土地の取得を進めていく方針だという。
■1~9月の不動産販売は1.7兆ルピア
アグン・セダユ・グループは、グループ全体でのPIK2プロジェクトへの総投資額は公表していない。ただ上場企業のPANIが公開した情報から、その業績の一部を把握することができる。

PANIによれば、1~9月の不動産販売額は1兆7,460億ルピア(約169億円)。同社の通年目標の2兆1,350億ルピアの82%の水準に達した。販売額の内訳は、ショップハウス(店舗・事務所)が全体の45%(7,870億ルピア)を占めて、商業区画が38%、住宅販売が16%と続いた。
PANIの23年1~9月期決算は売上高が1兆6,199億ルピア、純利益は2,546億ルピアで、前年同期比でそれぞれ12倍、29倍に増えた。

「ゴルフ・アイランド」内にある戸建て住宅クラスター「メロディー」=10月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

「ゴルフ・アイランド」内に建ち並ぶショップハウス(ルコ)=10月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)
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PIK2は、2002年にアグン・セダユ・グループと財閥サリム・グループが共同で開発を始めたジャカルタ北岸の新都市「パンタイ・インダ・カプック(PIK)」(約800ヘクタール)に続く開発プロジェクトとなる。
両グループは、09年からPIK2の開発に着手し、まずは人工島の「ゴルフ・アイランド」(約303ヘクタール)と「リバーウォーク・アイランド」(現在約100ヘクタール)の建設に取り組んできた。リバーウォーク・アイランドは埋め立て地の拡張が予定されており、将来的に2つの人工島で計600ヘクタールとなる見込みだ。
先行して完成したゴルフ・アイランドには現在、一戸建て住宅クラスター12カ所(約3,000戸)、ショップハウス(ルコ)800戸があるほか、名前の由来となっているゴルフ場もある。また観光・商業施設として、ゴルフ・アイランドのアイコンともいえる中華街を再現した「パンチョランPIK」、ショッピングモール「セントラル・マーケット」などがあり、週末のレジャーで訪れることができることも一つの特徴だ。
[caption id="attachment_16737" align="aligncenter" width="620"]「ゴルフ・アイランド」内にある娯楽施設の中で、目をひく中華街「パンチョランPIK」の入り口にある門=10月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)[/caption]
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ゴルフ・アイランドの隣にあり橋でつながるリバーウォーク・アイランドでは現在も、商業・娯楽施設などの建設が進んでいる。
PIK2の開発は人工島だけにとどまらない。人工島のリバーウォーク・アイランドに架かる長さ800メートルの橋で、バンテン州北岸に渡ると、16年に着工した同州PIK2の第1期開発地(約1,000ヘクタール)につながる。現在、一戸建て住宅やリゾートエリアのほか、商業施設や金融センターを含む中央商業地区(CBD)などを開発中で、住宅クラスターや商業施設の一部はすでに完成している。

アグン・セダユ・グループの創業家一族で、グループの不動産・オフィスマネジメント事業部門の最高経営責任者(CEO)を務めるリチャード・クスマ氏は、NNAの単独インタビューの中で、PIK2のような大規模プロジェクトを進める背景として、シンガポールや米国で学生時代を過ごした経験を挙げ、「先進的な都市の建設が他の国でできて、どうしてインドネシアではできないと言えるだろうか」と語った。
アグン・セダユ・グループは1971年に創業オーナーのスギアント・クスマ氏(リチャード氏の父にあたる)とスサント・クスモ氏(リチャード氏の叔父)の兄弟が共同で設立。これまでに、商業施設ではジャカルタのスディルマン中央商業地区(SCBD)にある「ASHTA District 8」、ジャカルタ北部の「モール・オブ・インドネシア(MOI)」など、住宅クラスターではジャカルタ西部の「グリーン・レイク・シティー」などの開発を手がけてきた。
リチャード氏は、高層アパートやオフィス開発も手がけてきた実績を踏まえて、PIK2には「われわれの全て、未来がここにある」と開発に懸ける思いを語った。
[caption id="attachment_16741" align="aligncenter" width="620"]NNAの単独インタビューに応じた、アグン・セダユ・グループ創業一族のリチャード・クスマ氏。創業者スギアント・クスマ氏の次男に当たる=10月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)[/caption]
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■創業以来の無借金経営で実績重ねる
PIK2プロジェクトのような大規模開発を可能にしたこれまでのアグン・セダユ・グループの経営について、リチャード氏は「売り上げを立てて、開発を行う、無借金経営を原則にしてきた」と明かした。また、リチャード氏自身が「大手不動産会社の中では珍しく、創業家による同族経営会社だった」と認めるように、同グループは創業以来、長い間、上場企業を持ってこなかった。
ただ、PIK2エリアの土地取得を含めて開発を戦略的かつスムーズに行うため、アグン・セダユ・グループは21年に、傘下でPIK地域の不動産事業を手がけるムルティ・アルサ・プラタマ(MAP)を通じて、缶詰製造などを手がけていた上場企業プラタマ・アバデ・ヌサ・インダストリの株式88%を取得した。同社は不動産部門に事業を拡大し、今年の株主総会では、同社の社名をパンタイ・インダ・カプック・ドゥア(PANI)に変更した。
開発地の取得については、開発計画地に土地を持つ5社を買収する資金獲得を目的として、22年に新株予約権無償割当(ライツイシュー)を実施。同年に762ヘクタールを取得した。今年9月の株主総会では、PANIの2回目のライツイシュー実施が承認された。ライツイシューによる資金調達を経て、7社の買収や投資に9兆5,000億ルピアを充てる計画だ。これらを通じて、年末までにさらに838ヘクタールの土地を取得する予定で、PANIの保有する土地面積は計1,600ヘクタールとなる見通し。
アグン・セダユ・グループは、一部子会社の株式を公開することで戦略的な用地確保を加速させており、PANIは、今後も積極的な土地の取得を進めていく方針だという。
■1~9月の不動産販売は1.7兆ルピア
アグン・セダユ・グループは、グループ全体でのPIK2プロジェクトへの総投資額は公表していない。ただ上場企業のPANIが公開した情報から、その業績の一部を把握することができる。

PANIによれば、1~9月の不動産販売額は1兆7,460億ルピア(約169億円)。同社の通年目標の2兆1,350億ルピアの82%の水準に達した。販売額の内訳は、ショップハウス(店舗・事務所)が全体の45%(7,870億ルピア)を占めて、商業区画が38%、住宅販売が16%と続いた。
PANIの23年1~9月期決算は売上高が1兆6,199億ルピア、純利益は2,546億ルピアで、前年同期比でそれぞれ12倍、29倍に増えた。
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