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中国経済4%台成長の見方識者3人が25年を展望

中国政府の内需刺激策やトランプ米大統領の再登板など複数の好悪材料が混じる中で、2025年の中国経済はどう推移するのか。中国経済の識者である久保和貴氏、伊藤秀樹氏、鈴木貴元氏がNNAに寄稿し、25年の中国経済を展望した。3氏ともに25年の成長率は前年比で4%台になるとみている。
■久保和貴氏「内需持ち直しへ」
2025年の中国経済は好材料と悪材料の綱引きとなるものの、内需の持ち直しにより国内総生産(GDP)成長率は4.5~5%の間(4.8%程度)で推移すると予想する。悪材料としては米トランプ政権による関税引き上げが筆頭に挙がる。トランプ氏は対中関税を60%まで引き上げると公約で掲げており、中国の対米輸出への影響は必至だ。ただ、同時に米国側では米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げにより耐久財の需要が回復しつつある。関税を引き上げる一方でモノ全体の需要が回復するため、関税の悪影響はある程度緩和されるだろう。また、これまで中国が進めてきた「出海(海外進出)」もここにきて本領を発揮し、中国から東南アジア諸国連合(ASEAN)などへの原材料や部品の輸出が増え、こちらも関税による直接的な影響を緩和しよう。
内需については既に実施されている耐久財買い替え支援策が引き続き重要な役割を果たす。今年は範囲を日用品や旅行などサービスに拡大して継続するともいわれており、前述の米国による関税引き上げで行き場を失った物品を国内で消化する動きが加速しよう。また、懸念の不動産市場についても、1級都市(沿海部大都市)、2級都市(地方大都市)については販売面積、販売価格ともに上向きの動きが目立ってきた。過去3年程度続いた一本調子の悪化局面は終わり、企業のバランスシート問題、地方政府の財政問題、銀行の不良債権問題、家具や家電の販売不振、雇用悪化や賃金デフレなど、不動産市場悪化に付随する数多くの問題も、今年は緩和の方向に向かうであろう。
中国景気の底入れは海外企業にとって好ましい面も多いが、同時に今年は中国の産業高度化政策「中国製造2025」の最終年に当たる点にも注意したい。既に自動車分野では中国市場における国産ブランドの台頭は否定のしようもないほど明らかで、日系、ドイツ系の自動車メーカーがリストラや工場閉鎖、合併など事業再編を余儀なくされている。航空分野では国産飛行機「C919」が国内線でデビューし、宇宙分野では国産の衛星利用測位システム(GPS)「北斗」が20年から稼働を始めた。中国製造2025は当初のメニュー通りとはいかないまでも、目立った分野で大きな成果を上げてきたことは事実であり、その裏で海外企業はそのシェアを脅かされている。今後中国は半導体、人工知能(AI)、ソフトウエア、ヒト型ロボットなど、最先端分野に資源を集中投下するであろう。海外企業にとっては中国の変化に押し流されてしまうのか、波に乗ってうまく立ち回るのか、思案のしどころとなりそうだ。【岡三証券上海駐在員事務所所長】
■伊藤秀樹氏「“まだら模様”継続」
24年の経済成長率は、政府目標の「5%前後」を確保する見込みながら、その内容には濃淡がみられた。低調な不動産投資に加えて、所得の伸び悩み等を背景に消費活動も力強さを欠いたが、「新質生産力」の旗印のもと政策支援が強化された製造業・インフラ投資は堅調に推移した。また、電子・自動車分野を中心とする輸出の拡大も経済成長に大きく寄与した。
25年も、世界の中で相対的に高い成長率を維持する見込みながら、経済の“まだら模様”は継続する見通し。不動産市場が調整局面から本格的に脱するにはなお時間を要する一方、堅調な製造業投資は、国有・民間企業を問わず幅広い業種で拡大基調にあることを踏まえ、増勢トレンドの継続を予想する。昨年との大きな違いは、第2次トランプ政権発足を踏まえた輸出動向にあろう。現時点で不確定要素は多いが、米国による10~20%の対中追加関税を仮定し、経済成長率を0.2%(pt)程度押し下げると試算する。また、インフラ投資の原資にあたる地方専項債が、地方財政の安定化にも使用されることを踏まえ同投資の増勢は鈍化するとみられ、25年の経済成長率は4.2%となる見通し。
昨年12月の中央経済工作会議では、財政赤字率の拡大や特別国債の増額発行等、積極的な財政出動スタンスが示されており、景気下支えが期待しうる。ただし、注目すべきは、赤字率や債券発行額よりも、国全体の歳出(中央・地方政府の一般公共予算・政府性基金)の拡大幅にある。24年は、地方政府の土地使用権譲渡収入の減少が想定より進んだこと等により、歳出規模は予算案対比で下振れた(24年11月時点)。3月開催の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で示される歳出・歳入の予算案、特に歳出総額や土地使用権譲渡収入を踏まえ、財政支援の強度を確認する必要があろう。予算案の支援強度次第では、上述の成長率予測の上振れも想定しうる。【みずほ銀行(中国)シニアエコノミスト】
■鈴木貴元氏「今年は減速基調」
25年の中国経済は減速が基調になるとみられる。昨年9月末以来の一連の追加経済政策は不動産取引を活発にし、また地方政府の隠れ債務の処理に当面のめどをつけた。資産デフレの懸念や金融不安は緩和している。しかし、2桁の伸びを続ける設備設置投資は過剰生産能力を生んでおり、そこからの過当競争がディスインフレの圧力を生んでいる。企業収益は伸びにくく、賃上げもままならない。設備投資はインフラ投資と並んで景気の下支えをしてきたが、投資の飽和感と厳しい収益見通しで伸びにくく、消費も自動車・家電買い替えの前倒しの一巡や、一点豪華主義の節約消費の根強い状況から伸びは高まりにくい。今年政府は財政赤字比率を引き上げるとしているが、落ち込んだ税収・土地売却収入の穴埋めとなるところが大きく、財政支出を力強く押し上げるものとはなりにくい。24年の成長に大きく寄与した輸出は、トランプ氏再登板で関税をさらに引き上げると宣言している米国のみならず、中国の輸出ラッシュに見舞われた国と貿易摩擦を引き起こしており、一段と加速することは期待しにくい。投資・輸出主導の成長は続きにくいと考えられる。こちらの見通しでは、24年が前年比4.9%の成長となった後、25年は同4.3%と、投資や輸出の飽和感、関税引き上げなどの影響が比較的強く出ると見た。
ただし、政府は5%成長を再び目標に掲げ、景気減速の回避を狙ってこよう。昨今低空経済(低空域を活用した旅客輸送や物流などの経済活動)のための政府部署の設置や、公務員の賃金の思い切った引き上げなどの措置を発表。政府が手本を示し、経済をリードしようとしている。【丸紅中国法人経済調査総監】

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■久保和貴氏「内需持ち直しへ」
2025年の中国経済は好材料と悪材料の綱引きとなるものの、内需の持ち直しにより国内総生産(GDP)成長率は4.5~5%の間(4.8%程度)で推移すると予想する。悪材料としては米トランプ政権による関税引き上げが筆頭に挙がる。トランプ氏は対中関税を60%まで引き上げると公約で掲げており、中国の対米輸出への影響は必至だ。ただ、同時に米国側では米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げにより耐久財の需要が回復しつつある。関税を引き上げる一方でモノ全体の需要が回復するため、関税の悪影響はある程度緩和されるだろう。また、これまで中国が進めてきた「出海(海外進出)」もここにきて本領を発揮し、中国から東南アジア諸国連合(ASEAN)などへの原材料や部品の輸出が増え、こちらも関税による直接的な影響を緩和しよう。
内需については既に実施されている耐久財買い替え支援策が引き続き重要な役割を果たす。今年は範囲を日用品や旅行などサービスに拡大して継続するともいわれており、前述の米国による関税引き上げで行き場を失った物品を国内で消化する動きが加速しよう。また、懸念の不動産市場についても、1級都市(沿海部大都市)、2級都市(地方大都市)については販売面積、販売価格ともに上向きの動きが目立ってきた。過去3年程度続いた一本調子の悪化局面は終わり、企業のバランスシート問題、地方政府の財政問題、銀行の不良債権問題、家具や家電の販売不振、雇用悪化や賃金デフレなど、不動産市場悪化に付随する数多くの問題も、今年は緩和の方向に向かうであろう。
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■伊藤秀樹氏「“まだら模様”継続」
24年の経済成長率は、政府目標の「5%前後」を確保する見込みながら、その内容には濃淡がみられた。低調な不動産投資に加えて、所得の伸び悩み等を背景に消費活動も力強さを欠いたが、「新質生産力」の旗印のもと政策支援が強化された製造業・インフラ投資は堅調に推移した。また、電子・自動車分野を中心とする輸出の拡大も経済成長に大きく寄与した。
25年も、世界の中で相対的に高い成長率を維持する見込みながら、経済の“まだら模様”は継続する見通し。不動産市場が調整局面から本格的に脱するにはなお時間を要する一方、堅調な製造業投資は、国有・民間企業を問わず幅広い業種で拡大基調にあることを踏まえ、増勢トレンドの継続を予想する。昨年との大きな違いは、第2次トランプ政権発足を踏まえた輸出動向にあろう。現時点で不確定要素は多いが、米国による10~20%の対中追加関税を仮定し、経済成長率を0.2%(pt)程度押し下げると試算する。また、インフラ投資の原資にあたる地方専項債が、地方財政の安定化にも使用されることを踏まえ同投資の増勢は鈍化するとみられ、25年の経済成長率は4.2%となる見通し。
昨年12月の中央経済工作会議では、財政赤字率の拡大や特別国債の増額発行等、積極的な財政出動スタンスが示されており、景気下支えが期待しうる。ただし、注目すべきは、赤字率や債券発行額よりも、国全体の歳出(中央・地方政府の一般公共予算・政府性基金)の拡大幅にある。24年は、地方政府の土地使用権譲渡収入の減少が想定より進んだこと等により、歳出規模は予算案対比で下振れた(24年11月時点)。3月開催の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で示される歳出・歳入の予算案、特に歳出総額や土地使用権譲渡収入を踏まえ、財政支援の強度を確認する必要があろう。予算案の支援強度次第では、上述の成長率予測の上振れも想定しうる。【みずほ銀行(中国)シニアエコノミスト】
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25年の中国経済は減速が基調になるとみられる。昨年9月末以来の一連の追加経済政策は不動産取引を活発にし、また地方政府の隠れ債務の処理に当面のめどをつけた。資産デフレの懸念や金融不安は緩和している。しかし、2桁の伸びを続ける設備設置投資は過剰生産能力を生んでおり、そこからの過当競争がディスインフレの圧力を生んでいる。企業収益は伸びにくく、賃上げもままならない。設備投資はインフラ投資と並んで景気の下支えをしてきたが、投資の飽和感と厳しい収益見通しで伸びにくく、消費も自動車・家電買い替えの前倒しの一巡や、一点豪華主義の節約消費の根強い状況から伸びは高まりにくい。今年政府は財政赤字比率を引き上げるとしているが、落ち込んだ税収・土地売却収入の穴埋めとなるところが大きく、財政支出を力強く押し上げるものとはなりにくい。24年の成長に大きく寄与した輸出は、トランプ氏再登板で関税をさらに引き上げると宣言している米国のみならず、中国の輸出ラッシュに見舞われた国と貿易摩擦を引き起こしており、一段と加速することは期待しにくい。投資・輸出主導の成長は続きにくいと考えられる。こちらの見通しでは、24年が前年比4.9%の成長となった後、25年は同4.3%と、投資や輸出の飽和感、関税引き上げなどの影響が比較的強く出ると見た。
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