今回は関連者間取引による具体的な不正行為を紹介します。
設定は以下の通りです。
●不正行為の舞台は有限責任会社A社
●A社は日本法人100%オーナーであり、B氏はベトナム駐在の法定代表者兼社長の日本人、C氏は副社長のベトナム人。
●社員総会が設置されており、メンバーは4名、B氏はその一員でC氏はメンバーではない。
●「関連者」とは前回まで述べた通りで、自らの親族や会社の関係者、その親族です。
****
1. 不動産賃貸借契約の偽装
・C氏の父が使用権・所有権を有する物件を、実際には居住せず使用しないのにB氏或いはC氏が借りているように見せかけ、A社からC氏の父にお金を流すことができます。
・価格は相場に合わない金額で設定されるでしょう。例えば、Thu Duc市の4階建て物件1フロア50平米ほどを月4000ドル程度で貸し出し、C氏の父の個人所得税処理はA社負担とします。そうなるとC氏の父は月1000ドル程度の市場価値の取引を毎月4000ドルで取引できることとなります。
・さらに、この物件を他の者に貸し出すとします。B氏は実際に使用していないので、他の個人に貸し出すことができます。また、本店登記だけして実際には事務所使用しない法人、駐在員事務所登記だけして実際に事務所使用しない駐在員事務所にも貸し出すことができます。つまり、B氏・C氏が設立したA社の競合会社の事務所家賃をA社に支払わせることができます。法人の本店登記と駐在員事務所の登記は、諸官庁の管轄が違うこともあり、このような不正行為が発覚しにくい現状があります。
****
2. レンタカーや資産貸与の偽装
・不動産同様に、動産についても、不正行為をしようとする者の関連者が使用権・所有権を有する物件を、必要もないのに必要であるかのように欺罔してA社に対して貸し出せば、関連者にお金を流すことができます。
・価格も相場の数倍にすることができるでしょう。例えば、一般的な車両をB氏やC氏の通勤用としてA社に貸し出し、相場は月1200ドル程度であるところ、月4800ドルとすることは容易です。B氏やC氏が実際に利用するのであれば、A社の競合会社への出勤や出張に利用したり(競合会社の費用をA社につけたり)、一方でB氏やC氏が実際に利用しないのであれば、別の者に貸し出すことが可能です。
・動産のケースは、日本でもまだ多いのではないでしょうか。そもそも、関連者に該当しない「ただの友人・知人」であればより発覚しにくくなるだけでなく、違法性も低くなってしまいます(それでも会社の利益に反します)。
****
3. 購買・業務委託による単価操作やバックマージン
・これは日本でも頻出課題ですので、筆者が述べる必要もないでしょう。関連者、或いはただの知人・友人の会社に業務を融通し、他社よりも金額が高いのに、または他社よりも条件(品質、納期など)が悪いのに、購買したり業務委託すると、会社との利益相反を問われるということです。
・ましてや、単価を指定したり(操作したり)、担当者あてにバックマージンと見なされる便益が生じれば明らかな不正行為となります。
****
あくまで人によりますが、上記1番、2番を手軽なお金儲けと考えるベトナム人は多くいます。
私たち外国人・外国企業はそのターゲットで、特に日本人はターゲットになってきたと思います。
多少であれば「郷に入っては郷に従え」として理解するとしても、駐在の日本人が加担するようになっていったら、それはもう逸脱しています。
そもそも「郷に入れば・・・」という目線が見下しになるような気もします(下記「余談」参照)。
ベトナムは華やかに発展し、治安もいいですから、多くの日本人が気軽に行き来するようになりました。
しかし、日本で普通に生きていたらわからないお金儲けがありますので、それをいくつかご紹介しておきます(日本でも昔は多かったものです)。
(1) ベトナム人名義で設立した会社の高額販売
・ベトナム人・ベトナム法人にしか実質ライセンスが下りない事業分野(外国人・外国企業がライセンス申請すると数か月どころか年単位で時間がかかったり、デッドロックになるような事業分野)の場合には、ベトナム人が法人設立し、それを外資系に売却するM&A手法が取られてきました。
・その際、資本金30,000ドルで設立し、30万ドルで売り抜けるということが合法的に簡単にできました。筆者が見た中の一番は6,000ドルで設立し、300万ドルで売り抜けた個人でした(外国人向け懸賞付き電子ゲーム事業:5つ星ホテルに入っている対面プレイを除いたカジノ事業)。今は資本譲渡の額面に当局が口出ししますし、企業価値・株式価値を以前ほど簡単に操作することはできませんが、それでもこれを生業とするベトナムコンサルティング会社など多くあります。「黒」と申しているのではなく「グレー」だということです。
・F社のようなベトナム大手企業もそういったビジネスモデルがあり(しっかり「白」ですが)、数多くの日系大手との合弁会社を有します。
・なお、ベトナム人・ベトナム法人にしか実質ライセンスが下りない事業分野ではないのにそうであるかのように欺罔するのは「黒」でしょう。
(2) ややこしい不動産物件での事業推進と事後処理
・ややこしい不動産物件とは「事件や事故のあった物件」という意味ではなく、一見(少し調査した程度では)普通でも実際はさまざま権利などが絡まっていて一般的な事業推進には不向きな物件という意味です。オーナー不在(オーナーが実在していないかもしれない等)の路面物件、未発表の都市計画候補地の路面物件、土地使用権証明書(いわゆる権利書)がない物件など・・・ベトナム人の借り手がつきにく物件と言えるでしょう。
・この二束三文でも借りにくい物件を外国企業に転貸して儲けるというのが一手となります。ただ、転貸だけであればまっとうな物件を転貸した方が安定しますので、ややこしい不動産物件で儲けようと考えるベトナム人・ベトナム法人は、「希少な路面店舗地」などとして外国企業に魅力的に説明し、合弁会社設立を推奨し、外国企業からできるだけ多くの資本を入れてもらいその資本をうまく流用する手法を取ります。いずれ事業は滞りますが、それまでにいくつかの出口が設定されることとなります(さらにまた別の外国企業を取り込むケースもあります)。とあるベトナムコンサルティング会社はこれで発展しましたが、関わった日本企業はほぼ撤退していると思います。
****
今回はかなり脱線しました。
今回紹介した「1、不動産賃貸借契約の偽装」「2、レンタカーや資産貸与の偽装」「3、購買・業務委託による単価操作やバックマージン」は、既に契約締結し進んでいる場合には、出金をすぐに止められるわけではありません。したがって、発見後にすぐ契約を切るなどと焦るのではなく、初動は専門家を含めてしっかり計画を立てる必要があります。
例えば、ベトナムで刑事事件として立件するのは簡単ではありません(受理されてから多くの捜査協力をこなす必要があります)。立件後もいろいろとあります。
民事事件であれば簡単に進められそうな印象もありますが、賢い不正行為者はそう簡単には進めさせてくれません。契約条項がきっと貸主に一方的に有利になっていることでしょう。借主からの中途解約にかかるペナルティ、貸主が保証金を返却しなくてよい様々な権利など。
タスク、作業量をしっかりと時間軸に沿ってまとめ、相手方の誠意や協力を得られない前提の対策を取らなければなりません。
次回は、上記3番の「購買・業務委託による単価操作やバックマージン」を掘り下げ、B氏・C氏が設立したような不正な競合会社を舞台とした「一見すると合法的な不正行為」を具体的に紹介します。
【余談】
先日、車両で移動中に日本人同士で話していると、後部座席に座っていた顧客先のベトナム人通訳(N3)がベトナム人運転手と大きな声で「日本人はなぜか●●のような店が好きでなぜか●●のような店は好きではない・・・(笑い声)・・・」とベトナム語で話し、うるさかったので、筆者から声量とその内容について注意したところ、「郷に入れば郷に従え」と日本語で言われました。筆者とは初対面の30代半ばくらいの人でした。
長年ベトナムに携わっていますが、たぶん初めて言われたと思います。
「ベトナムは●●だから」とベトナム人代表のようなことを言うベトナム人は、筆者がベトナム語を使わなかった頃に限りなくお会いしましたが、「郷に入れば郷に従え」って・・・びっくりしました。オーバーツーリズムに困っている日本の観光地の方々みたいな感情なんでしょうか?
「ベトナムの日本人はベトナム法にも日本法にも従って活動しているし、あなたはベトナム人代表じゃないからあなたの知らないベトナムがあるし、今のベトナムとこれからのベトナムは違うので、自らの考えが唯一であるかのような発言は仕事の中では気を付けたほうがいい」とアドバイスしましたが、彼女はしばらく意固地になっていました。
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●社員総会が設置されており、メンバーは4名、B氏はその一員でC氏はメンバーではない。
●「関連者」とは前回まで述べた通りで、自らの親族や会社の関係者、その親族です。
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1. 不動産賃貸借契約の偽装
・C氏の父が使用権・所有権を有する物件を、実際には居住せず使用しないのにB氏或いはC氏が借りているように見せかけ、A社からC氏の父にお金を流すことができます。
・価格は相場に合わない金額で設定されるでしょう。例えば、Thu Duc市の4階建て物件1フロア50平米ほどを月4000ドル程度で貸し出し、C氏の父の個人所得税処理はA社負担とします。そうなるとC氏の父は月1000ドル程度の市場価値の取引を毎月4000ドルで取引できることとなります。
・さらに、この物件を他の者に貸し出すとします。B氏は実際に使用していないので、他の個人に貸し出すことができます。また、本店登記だけして実際には事務所使用しない法人、駐在員事務所登記だけして実際に事務所使用しない駐在員事務所にも貸し出すことができます。つまり、B氏・C氏が設立したA社の競合会社の事務所家賃をA社に支払わせることができます。法人の本店登記と駐在員事務所の登記は、諸官庁の管轄が違うこともあり、このような不正行為が発覚しにくい現状があります。
****
2. レンタカーや資産貸与の偽装
・不動産同様に、動産についても、不正行為をしようとする者の関連者が使用権・所有権を有する物件を、必要もないのに必要であるかのように欺罔してA社に対して貸し出せば、関連者にお金を流すことができます。
・価格も相場の数倍にすることができるでしょう。例えば、一般的な車両をB氏やC氏の通勤用としてA社に貸し出し、相場は月1200ドル程度であるところ、月4800ドルとすることは容易です。B氏やC氏が実際に利用するのであれば、A社の競合会社への出勤や出張に利用したり(競合会社の費用をA社につけたり)、一方でB氏やC氏が実際に利用しないのであれば、別の者に貸し出すことが可能です。
・動産のケースは、日本でもまだ多いのではないでしょうか。そもそも、関連者に該当しない「ただの友人・知人」であればより発覚しにくくなるだけでなく、違法性も低くなってしまいます(それでも会社の利益に反します)。
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3. 購買・業務委託による単価操作やバックマージン
・これは日本でも頻出課題ですので、筆者が述べる必要もないでしょう。関連者、或いはただの知人・友人の会社に業務を融通し、他社よりも金額が高いのに、または他社よりも条件(品質、納期など)が悪いのに、購買したり業務委託すると、会社との利益相反を問われるということです。
・ましてや、単価を指定したり(操作したり)、担当者あてにバックマージンと見なされる便益が生じれば明らかな不正行為となります。
****
あくまで人によりますが、上記1番、2番を手軽なお金儲けと考えるベトナム人は多くいます。
私たち外国人・外国企業はそのターゲットで、特に日本人はターゲットになってきたと思います。
多少であれば「郷に入っては郷に従え」として理解するとしても、駐在の日本人が加担するようになっていったら、それはもう逸脱しています。
そもそも「郷に入れば・・・」という目線が見下しになるような気もします(下記「余談」参照)。
ベトナムは華やかに発展し、治安もいいですから、多くの日本人が気軽に行き来するようになりました。
しかし、日本で普通に生きていたらわからないお金儲けがありますので、それをいくつかご紹介しておきます(日本でも昔は多かったものです)。
(1) ベトナム人名義で設立した会社の高額販売
・ベトナム人・ベトナム法人にしか実質ライセンスが下りない事業分野(外国人・外国企業がライセンス申請すると数か月どころか年単位で時間がかかったり、デッドロックになるような事業分野)の場合には、ベトナム人が法人設立し、それを外資系に売却するM&A手法が取られてきました。
・その際、資本金30,000ドルで設立し、30万ドルで売り抜けるということが合法的に簡単にできました。筆者が見た中の一番は6,000ドルで設立し、300万ドルで売り抜けた個人でした(外国人向け懸賞付き電子ゲーム事業:5つ星ホテルに入っている対面プレイを除いたカジノ事業)。今は資本譲渡の額面に当局が口出ししますし、企業価値・株式価値を以前ほど簡単に操作することはできませんが、それでもこれを生業とするベトナムコンサルティング会社など多くあります。「黒」と申しているのではなく「グレー」だということです。
・F社のようなベトナム大手企業もそういったビジネスモデルがあり(しっかり「白」ですが)、数多くの日系大手との合弁会社を有します。
・なお、ベトナム人・ベトナム法人にしか実質ライセンスが下りない事業分野ではないのにそうであるかのように欺罔するのは「黒」でしょう。
(2) ややこしい不動産物件での事業推進と事後処理
・ややこしい不動産物件とは「事件や事故のあった物件」という意味ではなく、一見(少し調査した程度では)普通でも実際はさまざま権利などが絡まっていて一般的な事業推進には不向きな物件という意味です。オーナー不在(オーナーが実在していないかもしれない等)の路面物件、未発表の都市計画候補地の路面物件、土地使用権証明書(いわゆる権利書)がない物件など・・・ベトナム人の借り手がつきにく物件と言えるでしょう。
・この二束三文でも借りにくい物件を外国企業に転貸して儲けるというのが一手となります。ただ、転貸だけであればまっとうな物件を転貸した方が安定しますので、ややこしい不動産物件で儲けようと考えるベトナム人・ベトナム法人は、「希少な路面店舗地」などとして外国企業に魅力的に説明し、合弁会社設立を推奨し、外国企業からできるだけ多くの資本を入れてもらいその資本をうまく流用する手法を取ります。いずれ事業は滞りますが、それまでにいくつかの出口が設定されることとなります(さらにまた別の外国企業を取り込むケースもあります)。とあるベトナムコンサルティング会社はこれで発展しましたが、関わった日本企業はほぼ撤退していると思います。
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今回はかなり脱線しました。
今回紹介した「1、不動産賃貸借契約の偽装」「2、レンタカーや資産貸与の偽装」「3、購買・業務委託による単価操作やバックマージン」は、既に契約締結し進んでいる場合には、出金をすぐに止められるわけではありません。したがって、発見後にすぐ契約を切るなどと焦るのではなく、初動は専門家を含めてしっかり計画を立てる必要があります。
例えば、ベトナムで刑事事件として立件するのは簡単ではありません(受理されてから多くの捜査協力をこなす必要があります)。立件後もいろいろとあります。
民事事件であれば簡単に進められそうな印象もありますが、賢い不正行為者はそう簡単には進めさせてくれません。契約条項がきっと貸主に一方的に有利になっていることでしょう。借主からの中途解約にかかるペナルティ、貸主が保証金を返却しなくてよい様々な権利など。
タスク、作業量をしっかりと時間軸に沿ってまとめ、相手方の誠意や協力を得られない前提の対策を取らなければなりません。
次回は、上記3番の「購買・業務委託による単価操作やバックマージン」を掘り下げ、B氏・C氏が設立したような不正な競合会社を舞台とした「一見すると合法的な不正行為」を具体的に紹介します。
【余談】
先日、車両で移動中に日本人同士で話していると、後部座席に座っていた顧客先のベトナム人通訳(N3)がベトナム人運転手と大きな声で「日本人はなぜか●●のような店が好きでなぜか●●のような店は好きではない・・・(笑い声)・・・」とベトナム語で話し、うるさかったので、筆者から声量とその内容について注意したところ、「郷に入れば郷に従え」と日本語で言われました。筆者とは初対面の30代半ばくらいの人でした。
長年ベトナムに携わっていますが、たぶん初めて言われたと思います。
「ベトナムは●●だから」とベトナム人代表のようなことを言うベトナム人は、筆者がベトナム語を使わなかった頃に限りなくお会いしましたが、「郷に入れば郷に従え」って・・・びっくりしました。オーバーツーリズムに困っている日本の観光地の方々みたいな感情なんでしょうか?
「ベトナムの日本人はベトナム法にも日本法にも従って活動しているし、あなたはベトナム人代表じゃないからあなたの知らないベトナムがあるし、今のベトナムとこれからのベトナムは違うので、自らの考えが唯一であるかのような発言は仕事の中では気を付けたほうがいい」とアドバイスしましたが、彼女はしばらく意固地になっていました。"
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