合成樹脂繊維大手の萩原工業(岡山県倉敷市)は、新型コロナウイルス禍からの経済復興が進むアジア、南米などをにらみ海外事業を強化する。生産拠点があるインドネシアで食料品の包材分野に参入するほか、パラグアイで新たに工場を稼働する。現在、20%余りを占める海外部門の売上高を30%以上に伸ばす方針だ。【齋藤眞美】
「海外事業の売上高を全体の3割以上に引き上げたい」と語る浅野社長=6日、倉敷市(NNA撮影)
萩原工業は、日本国内では国産ブルーシートの最大手として知られる。海外では、その材料でもある、平らで細く強度の高いポリエチレン、ポリプロピレン製の糸「フラットヤーン」を使った商材を形を変えて多彩に展開するのが強みだ。1995年に進出したインドネシアでは、フラットヤーンの織物を紙に貼り合わせた包材「ペーパークロス」を使った強度の高い袋を工業用途に生産してきたが、同国の経済成長とともに市場が広がる食品の包材生産に乗り出す。
西ジャワ州カラワンの既存工場にクリーンルームを新設し、食品の包材を取り扱える規格を取得した。現在はセメントや化学原料など向けを中心に月約200万枚を販売しており、用途を広げることで5年後には生産量を現在の1.5倍に引き上げる。
浅野和志社長は「食品産業では、品質管理体制や原料のトレーサビリティー(生産流通履歴)が厳しくなっており、(包材にも)信頼が求められるようになっている」と指摘。世界有数のカカオ生産国であるインドネシアには、欧州の大手チョコレートメーカーが進出しており、カカオの輸送向けなどで需要を見込む。また、インドネシアに地理的に近く、食品メーカーが多いオーストラリアへの輸出にも目を向けるという。
インドネシアの工場で生産するペーパークロスを使った袋のサンプル(萩原工業提供)
インドネシアで生産されるもうひとつの主力商材である、コンクリート補強繊維「バルチップ」はパラグアイに生産拠点を広げる。
バルチップは細い棒状のプラスチック繊維で、コンクリートに混ぜて施工することで建造物の強度を上げる。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)以降の「巣ごもり消費」拡大を受け、電子商取引(EC)大手、米アマゾン・コムがブラジルに設けた倉庫や、車両メーカーの工場向けで引き合いが大幅に増えた。鉄材を使用するより施工期間が短縮でき、酸化による錆やひび割れも防げることが評価され、土間床に採用されている。
コロナ禍に端を発した海上コンテナ不足や物流の混乱で、海外唯一の生産拠点であるインドネシアからの輸出が追いつかず、南米進出を決定。今年8月、ブラジルに隣接するパラグアイに新会社を設立した。新工場を来年1月に稼働し、インドネシアからの移管分を含め年1,200トン生産する。当面はブラジル、将来は周辺国にも出荷を見込む。
■米国での現地生産も視野
日本からの輸出では、鶏舎カーテンや小麦、トウモロコシといった収穫後の穀物を覆う大型の「グレインシート」など、農業・畜産用の大型ブルーシート需要が大きい北米にも力を入れる。現地の小売業界では、フラットヤーンを活用した織物がスーパーマーケットの野菜包装材に採用され、売り上げが伸びてきた。
米国で売り上げが伸びているフラットヤーンを使った野菜包装材=6日、倉敷市(NNA撮影)
日本で生産した輸出品が、安価な中国製や現地ブランドとの比較で選ばれており、「この先は現地で生産するかどうかも検討課題のひとつ。コストを下げれば、シェアを獲得していける」(浅野社長)と意気込む。
一方、2019年に開設したタイ拠点は、自社開発の機械事業を拡充する方針だ。シート状の長尺巻物を巻き出して切断し、再び巻き取るロール加工機械「スリッター」と「リワインダー(巻き直し装置)」の販売台数が周辺国向けを含め100台を超えている。首都バンコクを拠点に、販売の強化に向けて機械のアフターサービスや定期訪問を行うほか、設計部門がある中国・上海や日本と連携し、新たな受注も見込む。
コロナ禍を経た前期(21年10月期)は、全売上高のうちアジア部門(11.3%)を含む海外の売上高が23.7%を占めた。浅野社長は「コロナ前には3割弱だったが、今後は3割以上に拡大したい。海外拠点をいろいろつくっていく」と話す。
世界的に環境対策の必要性が叫ばれる中、「プラスチックには逆風もあるが、最初のものづくりから設計すれば、リサイクルにも可能性が出てくる」(浅野社長)。日本では耐用年数を過ぎれば廃棄処分となっていたブルーシートを回収し、再びブルーシートとして再生する「水平リサイクル」を、21年に国内で初めて実現した。海外展開する商材でも新たな道を探る方針だ。
ブルーシートに使われるフラットヤーンを生産する倉敷市の工場(萩原工業提供)
<企業紹介>
■萩原工業
明治時代からの畳・ゴザ問屋を出発点に1962年に創業し、今年は60周年。2021年10月期の売上高は277億500万円。海外13カ国に生産・販売拠点を保有し、従業員数はグループ全体で1,370人、本社単体では474人。
「作業着のまま『上海へ行ってきます』と日本から出かける社員もおり、『国(の差)』を意識しない文化がある」(浅野社長)。「外国人に安い賃金で働いてもらうという発想はない」とし、日本人と海外拠点の優秀な現地人社員とのグループ内人材交流を重視するという。
object(WP_Post)#9817 (24) {
["ID"]=>
int(6538)
["post_author"]=>
string(1) "3"
["post_date"]=>
string(19) "2022-09-20 00:00:00"
["post_date_gmt"]=>
string(19) "2022-09-19 15:00:00"
["post_content"]=>
string(7861) "合成樹脂繊維大手の萩原工業(岡山県倉敷市)は、新型コロナウイルス禍からの経済復興が進むアジア、南米などをにらみ海外事業を強化する。生産拠点があるインドネシアで食料品の包材分野に参入するほか、パラグアイで新たに工場を稼働する。現在、20%余りを占める海外部門の売上高を30%以上に伸ばす方針だ。【齋藤眞美】[caption id="attachment_6539" align="aligncenter" width="620"]「海外事業の売上高を全体の3割以上に引き上げたい」と語る浅野社長=6日、倉敷市(NNA撮影)[/caption]
萩原工業は、日本国内では国産ブルーシートの最大手として知られる。海外では、その材料でもある、平らで細く強度の高いポリエチレン、ポリプロピレン製の糸「フラットヤーン」を使った商材を形を変えて多彩に展開するのが強みだ。1995年に進出したインドネシアでは、フラットヤーンの織物を紙に貼り合わせた包材「ペーパークロス」を使った強度の高い袋を工業用途に生産してきたが、同国の経済成長とともに市場が広がる食品の包材生産に乗り出す。
西ジャワ州カラワンの既存工場にクリーンルームを新設し、食品の包材を取り扱える規格を取得した。現在はセメントや化学原料など向けを中心に月約200万枚を販売しており、用途を広げることで5年後には生産量を現在の1.5倍に引き上げる。
浅野和志社長は「食品産業では、品質管理体制や原料のトレーサビリティー(生産流通履歴)が厳しくなっており、(包材にも)信頼が求められるようになっている」と指摘。世界有数のカカオ生産国であるインドネシアには、欧州の大手チョコレートメーカーが進出しており、カカオの輸送向けなどで需要を見込む。また、インドネシアに地理的に近く、食品メーカーが多いオーストラリアへの輸出にも目を向けるという。[caption id="attachment_6540" align="aligncenter" width="620"]インドネシアの工場で生産するペーパークロスを使った袋のサンプル(萩原工業提供)[/caption]
インドネシアで生産されるもうひとつの主力商材である、コンクリート補強繊維「バルチップ」はパラグアイに生産拠点を広げる。
バルチップは細い棒状のプラスチック繊維で、コンクリートに混ぜて施工することで建造物の強度を上げる。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)以降の「巣ごもり消費」拡大を受け、電子商取引(EC)大手、米アマゾン・コムがブラジルに設けた倉庫や、車両メーカーの工場向けで引き合いが大幅に増えた。鉄材を使用するより施工期間が短縮でき、酸化による錆やひび割れも防げることが評価され、土間床に採用されている。
コロナ禍に端を発した海上コンテナ不足や物流の混乱で、海外唯一の生産拠点であるインドネシアからの輸出が追いつかず、南米進出を決定。今年8月、ブラジルに隣接するパラグアイに新会社を設立した。新工場を来年1月に稼働し、インドネシアからの移管分を含め年1,200トン生産する。当面はブラジル、将来は周辺国にも出荷を見込む。
■米国での現地生産も視野
日本からの輸出では、鶏舎カーテンや小麦、トウモロコシといった収穫後の穀物を覆う大型の「グレインシート」など、農業・畜産用の大型ブルーシート需要が大きい北米にも力を入れる。現地の小売業界では、フラットヤーンを活用した織物がスーパーマーケットの野菜包装材に採用され、売り上げが伸びてきた。[caption id="attachment_6541" align="aligncenter" width="620"]米国で売り上げが伸びているフラットヤーンを使った野菜包装材=6日、倉敷市(NNA撮影)[/caption]
日本で生産した輸出品が、安価な中国製や現地ブランドとの比較で選ばれており、「この先は現地で生産するかどうかも検討課題のひとつ。コストを下げれば、シェアを獲得していける」(浅野社長)と意気込む。
一方、2019年に開設したタイ拠点は、自社開発の機械事業を拡充する方針だ。シート状の長尺巻物を巻き出して切断し、再び巻き取るロール加工機械「スリッター」と「リワインダー(巻き直し装置)」の販売台数が周辺国向けを含め100台を超えている。首都バンコクを拠点に、販売の強化に向けて機械のアフターサービスや定期訪問を行うほか、設計部門がある中国・上海や日本と連携し、新たな受注も見込む。
コロナ禍を経た前期(21年10月期)は、全売上高のうちアジア部門(11.3%)を含む海外の売上高が23.7%を占めた。浅野社長は「コロナ前には3割弱だったが、今後は3割以上に拡大したい。海外拠点をいろいろつくっていく」と話す。
世界的に環境対策の必要性が叫ばれる中、「プラスチックには逆風もあるが、最初のものづくりから設計すれば、リサイクルにも可能性が出てくる」(浅野社長)。日本では耐用年数を過ぎれば廃棄処分となっていたブルーシートを回収し、再びブルーシートとして再生する「水平リサイクル」を、21年に国内で初めて実現した。海外展開する商材でも新たな道を探る方針だ。[caption id="attachment_6542" align="aligncenter" width="620"]ブルーシートに使われるフラットヤーンを生産する倉敷市の工場(萩原工業提供)[/caption]
<企業紹介>
■萩原工業
明治時代からの畳・ゴザ問屋を出発点に1962年に創業し、今年は60周年。2021年10月期の売上高は277億500万円。海外13カ国に生産・販売拠点を保有し、従業員数はグループ全体で1,370人、本社単体では474人。
「作業着のまま『上海へ行ってきます』と日本から出かける社員もおり、『国(の差)』を意識しない文化がある」(浅野社長)。「外国人に安い賃金で働いてもらうという発想はない」とし、日本人と海外拠点の優秀な現地人社員とのグループ内人材交流を重視するという。"
["post_title"]=>
string(81) "萩原工業、食品用包材に参入海外事業強化、南米には新工場"
["post_excerpt"]=>
string(0) ""
["post_status"]=>
string(7) "publish"
["comment_status"]=>
string(4) "open"
["ping_status"]=>
string(4) "open"
["post_password"]=>
string(0) ""
["post_name"]=>
string(198) "%e8%90%a9%e5%8e%9f%e5%b7%a5%e6%a5%ad%e3%80%81%e9%a3%9f%e5%93%81%e7%94%a8%e5%8c%85%e6%9d%90%e3%81%ab%e5%8f%82%e5%85%a5%e6%b5%b7%e5%a4%96%e4%ba%8b%e6%a5%ad%e5%bc%b7%e5%8c%96%e3%80%81%e5%8d%97%e7%b1%b3"
["to_ping"]=>
string(0) ""
["pinged"]=>
string(0) ""
["post_modified"]=>
string(19) "2022-09-20 04:00:04"
["post_modified_gmt"]=>
string(19) "2022-09-19 19:00:04"
["post_content_filtered"]=>
string(0) ""
["post_parent"]=>
int(0)
["guid"]=>
string(33) "https://nnaglobalnavi.com/?p=6538"
["menu_order"]=>
int(0)
["post_type"]=>
string(4) "post"
["post_mime_type"]=>
string(0) ""
["comment_count"]=>
string(1) "0"
["filter"]=>
string(3) "raw"
}
- 国・地域別
-
インドネシア情報
- 内容別
-
ビジネス全般人事労務